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会場:台北世界貿易中心
入場料:大人150台湾ドル(約450円) 台湾の市場規模は約150億台湾ドル(約450億円)と言われている。日本のゲーム産業全体の十数分の一、オンラインゲーム産業の約半分程度だが、メーカー自体は日本のそれと比べても遜色のない数がひしめいている。つまり、それだけ個々のメーカーのビジネス規模は小さい。それにも関わらず、海外展開を抜きにしてはビジネスは考えられない。結果として、政府や団体といった結びつきの力を非常に重視する仕組みが出来上がっている。それだけに台湾ゲーム産業の顔役となる遊技産業振興会の会長に期待されることは多いわけである。 新たな会長に就任したのは、台湾では珍しい独立系のデベロッパーであるXPECの総経理を務める許金竜氏。新聞社の政治部や経済部の元記者というゲームメーカーのトップとしては珍しいキャリアを持っている。XPECは大学時代の友人が創業し、出資者のひとりという形で間接的に関わってきたが、2004年に一念発起して新聞社を退社してXPEC専業となり、総経理として人員の獲得や予算の獲得に尽力。わずか4年で、日本や欧米、そして中国からのビジネスを受注し、台湾を代表するデベロッパーとして認知されるようになった。
総経理としては若く、ゲーム業界でのキャリアも浅いが、その分、過去のしがらみに囚われずに、新しい価値観で自由に行動できるという点では、大きな“チェンジ”を期待させてくれる人材である。XPECには毎年取材を行なっており、許氏とも親しい間柄だが、今回は改めて遊技産業振興会の会長として取材に応じていただいた。 ■ 新会長の任務は、政府への働きかけ、中国進出、海外展開の3つ
許氏: ありがとうございます。前会長の王さんは、2期連続して会長を務められました。会長の再選は2期までという規定があったため、今回新たな会長を選ぶことになったのです。私は立候補しました。他にも候補者は業界から出ましたが、メンバーによる投票で私が選ばれました。 編: 遊技産業振興会の会長としてどういったことを行ないたいですか? 許氏: 立候補した時点で明確にやりたいことは決めていました。任期はそれほど長くはないので、3つのポイントに焦点を絞ってゲーム業界をよくするために進めていくつもりです。 1つは政府機関などに働きかけ、ゲーム業界のためになる政策や法案を生み出していくことです。特にゲーム開発、開発環境にプラスになる政策を実現できるようにしていきたいです。 2つめは台湾が制作・開発したゲームを中国市場でもっと立場がよくなるように、運営、展開がしやすくなるようにすることです。現在、台湾と中国の関係は穏やかです。この好機にお互いの関係の発展を目指したいと思います。 3つめは台湾のゲームを中国だけでなく、世界の隅々まで広げていけるような環境作りです。日本はもちろん、アメリカ、ヨーロッパなどですね。世界の方々に受け入れていただける、喜んでもらえるゲーム作りを目指していきます。 編: 許さんは現在の台湾ゲーム産業をどのように評価していますか。 許氏: ここ2~3年のオンラインゲームの開発状況に関しては目を見張るものがあると思っています。もう少しすると、皆さんにも台湾の変化が感じられるようになると思います。その勢いに関しては自信を持っています。 ここ数年、台湾のオンラインゲーム業界は成長し、成熟してきました。今後、台湾発のコンテンツが出てきます。それらの作品は韓国以上のクオリティを持っているものが出てくると期待しています。台湾と中国の関係も進展しているので、中国市場でもう一押しでき、認めてもらえれば収益が上がるだけでなく、世界での評価ももっと変わっていくと思っています。 台湾メーカーはビジネスパートナーとしての「フレンドリー」さも魅力なのではないかと思っています。オンラインゲームデベロッパーとしては韓国が一歩先を行っていますが、韓国のメーカーは、一度評価が高くなると非常に高額なライセンス費用を要求することがあり、アジアのバイヤーが躊躇するという現状があります。台湾メーカーはお互い堅実に商売をしていきたい、という傾向があります。 また、個人的な見解ですが、韓国の方とのビジネスは文化的気質で少しやりづらい、と感じている方もいるのかなと思っています。比較をすると台湾の人の方が開放的でビジネスの話を進めやすいと思います。 編: その一方で、台湾メーカーが克服すべき課題は何だと考えていますか。 許氏: 現状ではまだ台湾オリジナルのタイトルが市場にあまり出ていません。これは台湾メーカーがゲーム開発にあまり予算を割いていないからです。予算や投資が行なわれるようになれば、現在よりもっと多くの世界に通用するタイトルが必ず出てくれると信じています。課題としては、制作を強化させるための環境作りですね。 編: 台湾オリジナルタイトルが少ないというのはまさにそのとおりだと思いますが、台湾からオリジナルタイトルが出てこないという原因は、開発資金が少ないというだけなのでしょうか? 許氏: そうですね。「数の少なさ」も問題でしょうね。欧米などへ売り込む場合、ラインナップが充実していればそこから選別してもらえます。台湾のオリジナルタイトルの少なさは、資金の少なさと関係して、人材も少ないという問題があります。 ゲーム開発の経験者が少ない、そして新人がゲーム開発現場に入ってこないという問題があります。さらに国際的にどんなゲームが通じるか、ゲーム開発に国際的センスを持っている人材が足りないと感じています。 これらに資金不足の問題が関係してくるのです。ゲームはヒットすると大きなビジネスが展開できます。しかしどのようなゲームがいいのか、どういうゲームを作ればいいかの研究が投資関係でできていません。結果としてゲーム開発のために投資をしようとする人が、他の業界に比べて少ないのです。これは保守的な状況といえます。資金を正しく投入するノウハウにかけているのです。 法律に関しても遅れを感じています。1つのプロジェクトに対して企業が協力したり、投資者を募るLLC(Limited Liability Company:有限責任会社)といわれる法律が台湾にはないのです。このためプロジェクトごとの軽快な資金運用ができていないのが現状です。加えて関税など、税金面の優遇でもまだ台湾は整備されていません。 たとえば日米ではお互いにゲームなどの製品を売買するときに関税がかからない条約を結んでいます。しかし台湾はまだそういったつながりがないため、海外でのゲーム販売にも税金がかけられてしまいます。こういった問題は政府に働きかけ改善していきたいと思っています。こういった問題がクリアできれば、台湾はもっともっとすばらしいゲーム大国になれると思っています。 編: そこまでが許さんの役割と言うわけですか。 許氏: そうですね、まずこちらの方で意見を整えて、政府に働きかけようと思っています。
■ 台湾に不足する要素、来るべき中国展開への抱負について
許氏: 私は台湾のゲーム業界で仕事をしていて、ジャーナリストやアナリストの不足を痛感していました。例えば台湾のゲーム業界では年間収支のレポートはあるのですが、四半期ごとの発表資料はありません。それはアナリストたちの注目度がまだ低いからです。こういった部分を整備できれば投資家たちの興味も引けると思います。ゲーム業界全体がわかりにくいというイメージになっているのです。 編: なるほど。私も台湾の株式市場に関してひとつわからないことがあります。昨年後半から世界同時株安、世界的な不況の中、日本のゲームメーカーも例外なく大きく株価を下げましたが、台湾のゲームメーカーの株価は上がっています。許さんがおっしゃるように、ゲーム産業が得体の知れない業界という評価を受けているとすれば株価は上がらないはずではないのですか? この台湾ゲーム業界の好調さはどこに理由があるのでしょうか。 許氏: 今回の株価の上昇は単純に年間の報告が予想より多く、他の業績を下げた業界と異なっていたため注目されたにすぎません。台湾のアナリスト、ジャーナリストに不足しているのは「将来的にどうなるのか、どうすればいいのか」と言う視点です。未来がどう変わるか、変えていくためにはどうすればいいかを予測する人が少ない。現に、台湾のアナリストは、ゲームメーカーが来年の売り上げは何パーセント増すか、という予測もできません。 編: そうした現状に対して、遊技産業界の会長である許さんはどのように働きかけていくのでしょうか。 許氏: このために証券会社、メディア業界に働きかけていかなくてはいけません。もうひとつがやはり政府への働きかけです。政府がオンラインゲーム業界を重視することで、改めて証券会社やメディアにも波及していくのです。例えば台湾には半官半民のリサーチ機関があるのですが、こちらにさらに詳細なゲーム業界のリポートを作ってもらう。 ジャーナリストの育成も必要ですね。今回は、他業界に回るはずのお金が株安で宙に浮いており、それがゲーム業界に投入されたため株価が上がりましたが、好調な会社はどんなタイトルを出すか、と言う面で資金を投入されたわけではありません。どんな期待ができるか、また現在はゲームを出していなくても、近い将来に可能性を秘めているメーカーに資金を投入するなど、もっと当たり前の株価の動きができるようになってほしいです。 編: 米国ではGame Developers Conference、日本でもCEDEC(CESAデベロッパーズカンファレンス)というゲーム開発者に向けたカンファレンスが定期的に開催されています。台湾ではまだそうした取り組みがありませんよね。 許氏: おっしゃるとおり、台湾はその面でも遅れています。何人かはアメリカや日本でのカンファレンスに参加していますが、台湾でのカンファレンスはありません。講演者を招致するなど、私の任期中に考えていきたいと思います。 編: 昨年のアメリカ大統領選は、前半は政策論争が戦われましたが、後半は経済の立て直しをどうしていくかがクローズアップされました。ゲーム業界も世界的な不況の波にさらされており、ここ台湾においても経済対策を抜きに考えることはできないと思います。許さんは会長として不況に対してどのように取り組んでいきますか。 許氏: 現在、台湾のゲーム業界は中国への展開に制限が加えられています。まずこの制限を今年中に撤廃していきたいと思います。中国への道を広げることで、ビジネスが広がるだけでなく、台湾メーカーが窓口になることで日本や欧米のメーカーも中国で展開できるようになるかもしれません。 編: オンラインゲームは中国のパブリッシャーと提携すれば現在でもビジネスをすることは可能ですが、コンシューマゲームはまったく販売できませんよね。許さんのいう制限の撤廃とは、コンシューマゲーム市場も含んでいるのですか? 許氏: コンシューマゲームの制限は中国当局の政策に関わる部分なので、私たちではどうにもできないところがあります。ただしこの制限も必ずゆるんでくると思います。いつになるか確約はできませんが、私も可能な限り協力していきたいと思います。 編: 先日のフォーラムでも、台湾メーカーは口々に中国への展開を語っていました。XPECもそうですよね。しかし、現状はどこも成功していません。今年制限が撤廃されて自由化されたと仮定して、台湾メーカーはすでに中国市場で勝てるコンテンツを持っていると考えていいのでしょうか。 許氏: 少なくとも数社は来るべき中国展開のためにずっと力をためています。会社ごとにアプローチは異なりますが、弊社(XPEC)の準備は万端です。本当に近い未来何らかのニュースでお伝えできると思います。 編: 日本のメーカーも中国には期待しています。しかし日本では中国のユーザーが何を求めているかわからないところがあります。すでに中国展開をしている会社のトップとして、中国人が好むゲームの傾向を教えてください。 許氏: ゲームは文化の1つです。異文化間では摩擦が生じます。受け入れてもらうためには時間が必要なのです。中国に受けいられる、と言うことだけを考えるのではなく、哲学的な視点も加えて中国のプレーヤーたちの心の奥底にある多少のわだかまりを理解し、異文化の隔たりを越え、友好的な雰囲気を作り出していくのが大事なのではないでしょうか。 個人的には2つのやり方があると思います。ここ数年、日本の“オタク文化”は日本国内のみならず世界で注目されていますが、日本国内ですらこの文化が大きなマーケットになるまで長い時間が必要でした。このいきさつを分析し、ふまえて中国市場に応用できないかを考えてみる。もう1つは当たり前のことですが、中国のユーザーが何が好きか。中国ユーザーの好みに適したものを提供していくことだと思います。
■ XPECは中国市場とWEBゲームを重視
許氏: 弊社は北京や上海、蘇州などにすでに拠点を持っています。このため現地で実際に働いている若者たちから市場のニーズにあった要素を満たす方向性でゲーム開発を行なっています。 編: 2006年に取材させていただいた時に「Blue Cat」というコンテンツを準備しているということでしたが、現在はどうですか。 許氏: 「Blue Cat」は上海の拠点で手がけているのですが、中国の電気量販店“国美電気”でテナント展開しています。またIPTVのコンテンツとして「Blue Cat」のキャラクタを使って展開していこうと思っています。 もともと「Blue Cat」はアニメーション番組ですが、XPECはこのキャラクタを使ったゲームを展開しています。IPTVでもリモコンで操作することができる教育要素を持ったゲームを展開していく予定です。 「Blue Cat」は主に知育型ゲームとして中国で展開しています。携帯型のゲームハードといくつかのカセットを作り、さまざまなゲームを販売しています。オンラインゲームも計画していますが、まだ実際には動いていません。開発は少しだけ遅れていますが、「Blue Cat」のライセンスは10年間なので心配はしていません。 編: このほかにどんな中国展開のコンテンツを予定していますか。 許氏: XPECとしてはWEBゲームをすでに展開しています。以前ゲームショウや韓国のG-Starでもお見せしましたが、「Canaan」というWEBゲームを展開していて非常に好評です。現在オープンβテストでユーザー数をまだ把握していないのですが、予想を数倍超える反響があります。私たちも驚いています。もう少しお待ちいただければユーザー数なども発表できると思います。 編: 今年のTaipei Game ShowではWEBゲームに特化したコーナーも作られていました。XPECさんはすでにこの分野でビジネスを展開されているわけですが、WEBゲームの将来性をどのように考えていますか。 許氏: 現在サービスされているWEBゲームの多くがシミュレーションゲームです。それは技術的な制限が生み出している方向性かなと感じます。私自身はWEBゲームはもっともっと発展し、一般のMMORPGでできることも可能になってくると思いますし、発展できると考えています。 編: なるほど。ワールドワイドでWEBゲームはどのくらいの産業になり、その中でXPECさんはどのようなポジションを占めたいと考えていますか。 許氏: 弊社はこのWEBゲームというジャンルにおいてファーストブランドになりたいと考えています。WEBゲームは現在技術的な問題に直面していますが、表現的には一般のMMORPGに匹敵し、それでいながら動作が非常に軽いという方向を目指しています。XPECとしてはWEBゲームの注力を柱のひとつとして力を入れていきたいと思っています。 編: 今後はどのようなタイトルを開発していきたいですか。 許氏: 現在細かいところは秘密ですが、技術的な突破を目指して制作しているプロジェクトがあります。もうひとつの方向性が日本や欧米と密接に連携をして進めているものです。 現在制作しているのが、ハリウッドで制作されている映画と同名のゲームで、PS3、Xbox 360、Wii、PS2での発売を予定しています。欧米メーカーとの共同開発という形ですね。コンソールゲームとしては日本の大手メーカーと携帯機向けタイトルを制作中です。こちらは今年末か来年の頭に発売する予定です。 もう1つ年末くらいには発表する予定で日本のメーカーとオンラインRPGを制作しています。日本の大手メーカーです。今年もXPECはオンラインコンシューマとも積極的にゲーム開発を進めていく予定です。 編: ちなみに、一般論として許さんが注目しているゲームハードは何ですか。 許氏: 一概に特定のハードを挙げることはできないと思います。国ごとやエリアで期待できるハードは大きく異なっているからです。たとえばニンテンドーDSは世界中で売れ、1億台を越えるのではないかという勢いですが、DSのソフトを販売しているゲームメーカーが儲かっているかというと全然別の話です。 据え置き型ではWiiはゲーム業界の勢力図を大きく覆したゲームハードです。Xbox 360やPS3も家族向けのゲームを出していましたが、Wii一色になってしまいました。一方、PCゲームに関しては、日本では一時期成長したもののぱたりと止まってしまいましたが、欧米では今なお成長市場です。ただ、ハードの選択を誤ってもゲームの完成度が高ければ他のハードで必ず成功するのではないかと考えています。 編: 日本ではiPhoneへの注目が高まっていますが、iPhoneに関してはいかがですか。 許氏: iPhoneは世界的に広がっているハードなので、成功するためには今まで以上の国際的な視野が必要なのではないかと思います。iPhoneの市場で注目するのは、昔売れたゲームがiPhoneで爆発的にヒットするのか、少人数のスタジオでの省コストのゲームが売れるのかですね。現在弊社はまだリサーチの段階ですね。 編: XPECは今年どのようなビジネスを展開していきますか。 許氏: まず中国で展開しているWEBゲームを全世界に展開していきたいです。次に日本や欧米といった地域でも何らかの結果を出していきたいです。これ以外は2009年度に出す映画と同名のゲームタイトルと、その他の開発タイトルで開発のマンパワーはいっぱいいっぱいというのが現状なので、気を引き締めて制作に努めていきたいと思っています。日本の皆さんには日本のメーカーと共同開発中のMMORPGを2009年末に発表する予定です。どうぞご期待ください。 編: 最後に日本のユーザーへのメッセージをお願いします。 許氏: 私たちは今年日本を含めた世界中にWEBゲームを展開したいと思っています。ダウンロード、インストール不要でありながら一般のMMORPGに劣らない魅力を持ったゲームを日本のユーザー、そして業界の皆さんにみていただきたいと思います。
編: 私も期待しております。がんばってください。ありがとうございました。 (2009年2月19日) [Reported by 中村聖司]
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