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会場:幕張メッセ
第1部の公演が始まり和田洋一氏が登壇するやいなや「日本のゲーム産業はもはやトップではない」という言葉からスタート。この台詞は和田氏だけではなく多くのゲーム会社の経営トップが口にして久しい。しかしここからなかなか具体的にもう一歩歩を進めた発言がないのもまた事実。和田氏は「欧米市場が成長し、日本ユーザーと指向が違うと言うが、ハリウッド映画が親しまれているようにゲームも売れているものは売れている。指向が違うというのは言い訳にならない」と厳しく指摘。さらに「制作コストが上がったというが、それは世界のどこでも同じ。日本のメーカーは財務状況が健全だから、資金調達も困難ではないと思う」とこちらも否定。 では原因はどこにあるのかといえば、和田氏は「日本のものを作る力、進歩の速度」を世界が上回ったからだという。そして、この遅れを取り戻す事はまだ十分にできると語った。 和田氏はこのものを作る力の減退についてゲーム業界だけでなく、日本全体の産業構造に及ぶと指摘。1980年代に日本が影響力を誇っていた時代にコンシューマハードといえば日本でスペックを固めるのにソフトメーカーとハードメーカーのやりとりがあったという。もちろんハードだけではダメで、ソフトウェアの供給という面でも重要な側面を持っていた。この時代、海外ではPCコミュニティが活発で独自の進化を続けていた。 1990年代後半から2000年代に移り家電業界が世界市場で後退局面に入りそれに合わせる形でコンシューマハードメーカーの基盤も若干衰え、Xboxの登場など次世代機にシフトする中でハブが海外に流出。さらにテレビや映画業界といった他業種とコミュニケーションを取らなかったため業界がクローズドなものとなってしまった。教育に無頓着だったところも失敗だったと説明。「我々も誇り高いので、叩き上げでなければゲームは作れないと考えていた」と振り返った。 こういった複合的な状況が重なる事でアクティブなコミュニティが衰退した。これが現在のゲーム業界の後退局面の原因だと和田氏は分析した。欧米ではMOD文化がミドルウェアに影響を及ぼし、それがさらなる技術的向上に繋がるという良い循環ができあがっていると和田氏は続けた。結論としては、日本のゲーム業界の閉鎖性が問題であるとしている。 和田氏は「ゲーム産業をネットワーク構造にする」と提言。しかし様々な問題がここにはある。たとえば会社というレイヤーではどの部分をオープンにするべきかと個人のレベルで知識などの共有などは別問題となる。これを一緒に考えてしまう傾向があり問題を複雑化してしまっている。さらに心理的な抵抗もある。どうしてもゲーム業界はオリジナルにこだわるため、「オリジナルではない、クリエイティブではない」となってしまう。何を共有するのか? 独創性の必要なところと効率性が求められるところは評価基軸が違うと指摘。世界観などの構築は独創性が重要だが、描画エンジンなどは効率性が重要となる。こういった点でも様々な側面を切り分けて考えなければ混乱してしまう。ここで思考停止してしまうと全てがクローズドに向かいかねないというわけだ。 著作権の問題にしても同じで、デジタルコンテンツの流通促進の問題点となっているが、知識基盤とビジネス基盤で切り分けて考えなければならず、現状では一緒に考えてしまっているため議論が混乱しているのではないかと和田氏は語った。知識面ではオープンにしていかなければならないが、ビジネス面では別問題である。 心理的な問題点という点では、他人を入れる事で実務的困難がつきまとう。これは社内で開発チームが違うだけで発生しうることで、インターフェイスの共通化は非常に難しいという。和田氏はこの部分を以下にノウハウをためて素早く乗り越えるかが勝負だとしている。
とにかく、危機を認識するところから始まり、見て見ぬふりができない問題ではないと指摘。「タイミングが来たら解決する問題ではない」と行動する事が大切だと説き、CEDECの活用や教育関係者との交流、さらにはSCEのCAMP、マイクロソフトのXNA、任天堂のゲームセミナーなども活用していかなければならないと語る和田氏。最後に「我々には時間がない。構造変革にさえ取り組めば、日本の能力は高いと思う」とコメントし締めくくった。
ここチョッキンの最大の話題といえば株価暴落による景気の後退だが、ゲーム業界の受ける影響についてである。これについては3氏ともほぼ一致しており「悲観的ではない」としている。辻本氏は「ゲームは安価で長時間、多人数で楽しめる。ハードが普及すれば業界は成長する」とし、和田氏も「あまり影響はない。需要は落ちない産業。楽ではないがチャンスはある」としている。 次に質問として出されたのが「ゲーム業界は中心的産業として期待されている。グローバル化とは?」という和田氏の講演にも繋がる内容。和田氏は「スクウェア・エニックスの名前を認知してもらえること。現在は (山登りでたとえれば) 1合目から2合目。まだまだ」と厳しい返答。一方、辻本氏は「3合目くらいでしょうか。欧米でも評価されているし、大ヒットではないがヒットはしている」としながらも「グローバル化に向けて開発なども意識して作っている。しかし経営サイドがそこまで覚悟しているかと言えば難しい。全社的に意識していく」と発言。 鵜之澤氏はバンダイがキャラタゲームを得意としている点を挙げ「『ゲゲゲの鬼太郎』をいくら頑張ってもダメ。テレビで放映しているかどうかにかかってくる」とした。ちなみに「ソウルキャリバー4」は欧米で200万本を超えるヒットでアジアを含めた日本での販売本数は1割程度で逆転しているという。最終的には、「最初から欧米を取るつもりで作らなければならない」とコメントした。これに対して辻本氏も「海外で売ろうとしたら制作に10億円つぎ込む覚悟が経営陣にあるのか」と経営陣側の覚悟を促す発言も見られた。 辻本氏は日本で好調だった「モンスターハンターポータブル」シリーズについて「そのまま持って行っても売れない。欧米で売れるよう調整する」とコメント。和田氏は「世界がターゲットとなるよう作っている。しかし海外の事が大してわかっていないのに海外むけといって作ると失敗する。海外の映画でよくある変な日本人が登場するような者で滑稽でやりたくない。ただ、インターフェイスは世界標準を意識するべき。ここで独自性を追求するのはナンセンス」と答えた。 様々な発言の中で面白かったのは「『ファイナルファンタジー』シリーズはいかがですか?」という問いに「あれはひとつのジャンル」と答えたところ。これに辻本氏が反応。「『バイオハザード』もホラーアドベンチャーで、他社も似たようなものを作るがひとつのジャンル」といった発言を残している。ジャンルとなるほどの突き抜けた独自性が必要といえるだろう。 このほかでは和田氏が海外の方向性と日本の指向に言及した発言が面白かった。「海外の指向としてはリアルなものをどう表現するかが基本としてある。この方向性に対してハードの進化はリニアに向かっている。しかし日本は記号化するところから入っているので、技術の進化と方向性が違う場合もあって複雑日本の得意な土俵を進化させる事も大切」としている。 問題意識としては辻本氏が「クリエイターが足らない」と発言したがこれは根が深い問題だ。カプコンでは海外のクリエイターと協力して制作する道を選んでいるという。また鵜之澤氏は「プレイステーション 2の時に、プレイステーションの続編を作り、楽をしすぎたのではないか。海外はPCの進化でゲームのエンジンも進化していたが、その5~6年の間、日本ではプレイステーション 2のエンジンで技術革新が止っていた」と技術開発の停滞を反省する弁も出ている。そして「頭ではわかっているが、認められない」といった発言がでて、問題に向き合う難しさのようなものも感じられた。 将来の展望としてはカプコンの辻本氏は「ゲームコンテンツの付加価値を高め、ここ2~3年でグローバルで5位くらいを目指したい」とコメント。鵜之澤氏は「2~3年ではゲームを作っている内に経ってしまう。体制を作り上げラインを進めていきたい。その中で結果の出るタイトルもあると思う。任天堂のように好きなものを作り自信を持って海外に持って行く。ハイエンドを対象としたものとは別にキャラクタやWiiなどのコンテンツでグループとして独自性を出したい」と続けた。
和田氏は「他の業界との垣根が無くなり、国境もなくなる。ネットワーク化され、その中でハブになろうとするのであれば大きくなるしか選択肢はない。本数的にもだが、精神的な支柱になるようなあたらしいものの提案ができるか」とコメントして締めくくった
□東京ゲームショウ2008のホームページ http://tgs.cesa.or.jp/ □「TGSフォーラム」のページ http://expo.nikkeibp.co.jp/tgs/2008/business/forum.html □関連情報 【10月9日】「東京ゲームショウ2008」開幕。一部試遊台は4時間待ちのところも http://game.watch.impress.co.jp/docs/20081009/tgs08.htm (2008年10月**日) [Reported by 船津稔]
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