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SCEJ、「PlayStation C.A.M.P!」インタビュー
これまでにないゲームを作り出す人材を発掘する
新クリエイター発掘支援プログラム

10月1日~31日 作品募集

「PlayStation C.A.M.P!」は、Creator、Audition、Mash up、Projectの頭文字を取ったもの。意味合いとしては「クリエイターをオーディションによって発掘し、様々な才能やアイデアやセンスを融合し、新しい“何か”を生み出すProject」となっている
 株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメントの国内ビジネスを担当するソニー・コンピュータエンタテインメントジャパン (SCEJ) は、クリエイター発掘支援プログラム「PlayStation C.A.M.P!」を実施する。すでにホームページが開設されているが、10月1日から31日までの期間に作品が募集され、その後書類選考を経て面接が行なわれ、合格者が決定する。合格者は、SCEJとの間で業務委託契約を締結し、用意された各地のオフィスで開発準備を始めることとなる。

 「PlayStation C.A.M.P!」というとまだ馴染みがないのだが、その前身はSCEJが長らく行なってきた「ゲームやろうぜ!」だ。1995年から1999年までの5年間実施され、その後2006年に1度行なわれている。

 プレイステーションというプラットフォームの誕生はハードウェア的にも大きな転換点を迎えていた時期で、表現的にも3Dグラフィックスが身近になりつつある時代だった。それゆえに“新しいゲーム”の登場が待たれていたわけだが、ちょうどその時代の要求に会う形で実施されることになったのが「ゲームやろうぜ!」だった。SCEJという、それまでのゲーム業界の流れとは違ったところから生まれた新しい会社故の発想であったともいえるだろう。

 「ゲームやろうぜ!」の出身者の活躍はめざましいものがあり、大ヒットを記録し今もそのフランチャイズが展開中の「どこでもいっしょ」をはじめ、サイコロを使ったアクションパズル「XI[sai](サイ)」、そしてパーツを組み合わせることで車や飛行機など様々なモデルを作り自由に遊ぶことができるクリエイティブなゲーム性で話題となった「パネキット」など多数のソフトが登場し、プラットフォームの活性化に繋がっている。

 さらに2006年に開催された時の受賞者は、錯視を利用したアクションパズル「無限回廊」や、女性向けに作られたファッションライフ・サポートツール「MyStylist(マイスタイリスト)」、8bit風のグラフィックスも衝撃的だった「勇者のくせになまいきだ。」など主にPSPプラットフォームを中心に注目作を送り出している。

【「PS C.A.M.P!」の前身となる「ゲームやろうぜ!」の受賞作】
「XI[sai](サイ)」
プレイステーション用ソフト、1998年発売
「どこでもいっしょ」
プレイステーション用ソフト、1999年発売
「Let's ブラボーミュージック」
プレイステーション 2用ソフト、2002年発売
【2006年の「ゲームやろうぜ!」の合格者が参加した「無限回廊」】
「ゲームやろうぜ」は1995年から1999年まで5年にわたり開催されたが、その後しばらくは実施されなかった。2006年に復活することになるがその時合格したメンバーが制作に参加したのがこの「無限回廊」。人間の目の錯覚を上手くゲーム化したアクションパズル。これまでにはないパズルとして好評を博した

 以前ある発表会で当時のCEOを務めていた久夛良木健氏は「新しいタイプのゲームといえばプレイステーションプラットフォームだったが、今では現われなくなっている。今後はそういった新しいソフトも作っていかなければならない」といった現状を嘆く発言も聞かれた。それを受けて開催された2006年の「ゲームやろうぜ!」、そしてその発展系ともいえるのが今回開催される「PlayStation C.A.M.P!」ともいえる。

 今回は「PlayStation C.A.M.P!」を進めているJAPANスタジオ・エクスターナルプロダクション部の北川竜大氏、2006年の「ゲームやろうぜ!」で合格し「MyStylist」を作り上げた荒木令奈氏と、「勇者のくせになまいきだ。」でキャラクタデザインなどを手がけた小林陽明氏にお話を伺った。

今回インタビューに応じてくれた「PlayStation C.A.M.P!」を担当する北川竜大氏 (左) 、「ゲームやろうぜ!」に合格し「MyStylist」を作り上げた荒木令奈氏 (中央)、同じく合格して「勇者のくせになまいきだ。」を手がけた小林陽明氏



■ あくまで“企画”ではなく“人材”のオーディション

インタビューでは、「ゲームやろうぜ!」の時に荒木令奈氏、小林陽明氏が提出した作品も見せていただいた
―― 本日は「PlayStation C.A.M.P!(以下PS C.A.M.P!)」の概要や仕組みについて、経験者の皆様から総合的なお話をうかがいたいと思います。まずは北川さんにおうかがいしますが「PS C.A.M.P!」とはどういったものですか?

北川竜大氏(以下、北川氏) 前身は1995年から弊社では「ゲームやろうぜ!」というクリエイター発掘支援プログラム……新しい才能を見つけるためにオーディションを行ない、経験者・未経験者含めて“新しいなにかを作ってくれるクリエイター”を見つけだしてくるプロジェクト、というのをずっとやっていました。いったん休止していたんですが、2006年に復活させました。

 「PS C.A.M.P!」に名前を変えたのは、今のプレイステーション……PSPやPS3ともに、ゲームが大事な柱ではあるんですけど“ゲームに収まりきらないさまざまな可能性”があり、それを活かさない手はないだろうということで「PS C.A.M.P!」と名前を変えて「プレイステーション・フォーマットを楽しくしてくれる人、大募集!」と掲げてオーデションを行ない、合格した方に色々な作品を作ってもらおうというプログラムになっています。

―― いったん休止したものを、2006年に復活させた意味合いは?

北川氏 いったん止まっていたのは、PS2になって開発難易度の高さや規模が大きくなったというのもあって、未経験者がやるのは難しい面があったんです。2006年で復活させたのは、PSPやPS3のPLAYSTATION Networkといった“アイデアで勝負できる土壌”が揃ってきたことがありまして、より可能性を広げるという意味で再開しました。

―― 「誰もが」というとおかしいですけど、手助けすればアイデアを生かせる環境ができてきた。ゲームに限らずアイデアを持っている人は色々おられると思いますが「どうやって応募したらいいかわからない」という方も少なくないのではないでしょうか? アイデアはあるけど、何ページもあるような企画書をかかなきゃいけない、プログラムを出さなきゃいけない、作品を何枚そろえなければいけないと考えて、尻込みしてしまうかもしれない。そういった応募するために必要なものは、どれくらい必要なんですか?

北川氏 よく聞かれる質問なんですが……実は応募のフォーマットを決める方がこちらも楽なんですが、逆に「そのフォーマットに収めなきゃいけない」ということを考える人も結構いるので、ちょっと難しいなぁと思ってるんですね。

 今の形では「応募作品は自由」としているんですけど、1点考えていただきたいのは、今回のオーディションはあくまで“企画”ではなく“人材”のオーディション。人材……僕たちがこの人と一緒に仕事をしたい、作ったものを見てみたいというアピールをしていただければ、と思います。これに関しては、当然クリエイターとして見出したいと思っていますので、自分の持っているセンスやアイデアをアピールしていただけるなら、形は問わない。逆にしばられず、自分を一番よく見せられる形で応募していただければと思います。

―― 小林陽明さんと荒木令奈さんが応募されたときは、どういったものを提出されたんですか?

小林陽明氏(以下、小林氏) 僕は絵を何枚かと、FLASHで作った2分くらいのムービー、意味やコンセプトなどをまとめた文章を送ったくらいですね。

―― FLASHの内容は、どのようなものだったんですか?

小林氏 ここに絵があるんですけど、野菜のキャラクタみたいなのをいっぱいゴチャゴチャと入れて。キャラクタをデザインしたいというのがあったので、内容はたいしたものじゃないんですよ。わりとシンプルで、「こういう色合いの世界みたいなのが好きです」という“自己アピール”的なものをまとめてみました。

―― 採用されたときに理由などの説明は受けましたか?

小林氏 後々聞いたような気がしなくもないんですけど (一同笑)、そのときは言ってくれなくて。合格通知がきて、2回くらい面接にいった感じですね。

―― それまでは、何か仕事はされていたんですか?

小林氏 同じ職場に毎日行くような仕事はやったことがなくて。ずっと音楽をやっていたんです。ビクター・エンタテインメントと契約してCDを出したりしてました。あんまりうまくいかなくて。ちょうど子供が生まれる時期だったので「仕事、探したほうがいいかなぁ」と。それで「ゲームやろうぜ!」の募集が行なわれているのを見つけた感じですね。

荒木令奈氏(以下、荒木氏) 私はもともと「MyStylist」の前身のような企画が頭にあったので、それをPDFにまとめて提出しました。

―― もともとSCEJにおられたそうですが、当時はどういったお仕事を?

荒木氏 SCEはソフトとハードにそれぞれ部門がわかれているんですが、ハード部門のデザインチームみたいなところにいました。

―― ハードウェアそのもののデザイン?

荒木氏 ハードウェアは別にプロダクト・デザイナーがいるんです。主にグラフィックス……パッケージ、ポスター、アクセサリなどのデザインもやるといった感じでした。

―― 社内で (「ゲームやろうぜ!」に応募を) 出すっていうのは“挑戦”じゃないですか?

荒木氏 秘密で出しました (笑)。上司は凄くびっくりしてましたね。

北川氏 秘密のわりに、返信用アドレスはうちの会社のアドレスだったけど (笑)。

―― はじめに「ゲームやろうぜ!」と話を聞いていたときは、やはり「ゲームのアイデアを出したら、それを一緒に作ってくれるんだ」というイメージがあったのですが、むしろクリエイター個人をアピールしてもらいたいということでしょうか?

北川氏 そうですね。こういうと語弊があるかもしれませんが、応募作品でそのまま製品化というのは実際問題として難しいと思うんです。正直、ソフト制作を行なうJAPAN スタジオのなかでも、色々と企画の制作をスタートさせてはダメになりというのが当然あるんですね。

 そういった中で会社のなかにいると視野が限られてしまうところを、“外の風”というか、社内にない視点を持った人たちを集めて、それをプレイステーションというフォーマットのなかで活かせるような形にしたいな、というのが大きな考えとしてありました。

 人材募集であり、なおかつこうやって……小林陽明くんなんかはグラフィックスの作品で応募してきたときに、この作品のようなタッチということで「勇者のくせになまいきだ。」のキャラクタデザインに就いもらうことにしました。企画制作を担当したアクワイアさんからは「ドット調のキャラクタで」という要望があり、「ピッタリなんじゃないの?」って。そういう意味でいうと、これがデザイナーで入ってもらうことになったキッカケでもあります。

 荒木さんなんかは「ゲームじゃないけど、できてるよね」っていうのがあって。彼女自身これを作りたいという熱意があり、男にはどうしても持てない視点でもあった。「MyStylist」は応募作品が作品化された例で、そういった意味では作品化される可能性はもちろんありつつ、けれども基本は“人材募集”という感じです。

―― これまでたくさん応募があったと思いますが、面白いエピソードはありますか?

北川氏 言えるものから言えないものまで色々あるんですが。「某ロボットもののゲームが作りたいです」みたいな応募があって「それは権利を持ってる他社さんに……」というのもあれば、本当に紙っぺら1枚に「ここが山で、川で、こういうところを舞台にしたRPGです」という哲学的なものまで、色々あります。小説みたいな物語を書いていらっしゃるかたもいますし、フォーマットを設けてなかったからこそ、かなり色々なものがきますね。

【荒木令奈氏】
いつも仕事をしているデスクでの荒木氏。ゆったりとした環境だ 「MyStylist」を手がけているためか、机にはファッション雑誌なども置かれている 「ゲームやろうぜ!」に提出された企画書。「一般的に、女の子はゲームよりファッションに興味があります」というこれまでのゲーム会社的には衝撃の文句ではじまる
2007年にPSP用ソフトとして発売された「MyStylist」。PSP用カメラに対応しており、自分の持つ服を登録していくことで、毎日のコーディネートをサポートしてくれる。ファッションにあまり興味のない男性にとっては思いつきにくいソフトであり、女性目線の行き届いたソフトとして社内でも注目を集めたという


■ 自由に企画を考えていい時間を得られるのが一番大きい

―― 小林さんが採用された例を聞くと、「勇者のくせになまいきだ。」の制作中であったというタイミングもあったように感じます。(合格するかどうかは)“タイミング”などもあるのでしょうか?

北川氏 それはないですね。時期その他の外的要因が合否を左右することはありません。小林くんの場合は、まずデザイナーとして絶対値があったわけです。それとは全然別個で、ゲームやろうぜ! DigitalMeisterという、コンテンツにスポットを当てた募集も行なっている中で、アクワイアさんと企画を立ち上げようとしていたんですが、そこでうちのプロデューサーの山本が、企画とデザインの方向性が合致する組み合わせとして、「あっ!」と思いつきまして。ここぞとばかりにアクワイアさんと小林くんをお見合いさせたという感じですね。

―― 要は「勇者のくせになまいきだ。」のために採用したわけじゃない、ということですよね。

北川氏 それはもうまったく。違いますね。

―― 合格通知がきて、初めて「勇者のくせになまいきだ。」の企画を見たとき、どのように感じられましたか?

小林氏 感じる時間もなかったというか。「明後日に打ち合わせにいくから、それまでに絵など見せられる資料があったら用意して」と。「PS3のゲームだよ」と聞いてて、いったらPSPで出るし (一同笑)。そもそも、どういうデザインでいくか、ということがまだはっきりと決まっていたわけじゃなくて、ドット絵で攻めたいという方向性だけが決まっていた状態だったんです。ゲームのグラフィックデザインは初めてでしたし、内容も把握しきれていないところもあったんですけど、話して理解していくうちに掴めてきましたね。「こういうゲームだからそのゲーム用に描いて……」といった受け仕事ではなく、一緒にあれこれ相談しながら進められたのがすごく良かったです。

北川氏 うちの山本は、かなり直感タイプなもので。「これだ!」と思って小林くんに話を持って行ったんですよ。

小林氏 それで何度かやりとりしているうちに「やってみましょう」ということになりました。

―― 自分が「ゲームやろうぜ!」に採用されて、採用後のご自分の姿は「期待どおり」の結果となりましたか?

小林氏 最初、何が始まるのかもわからない状態でしたけど、ちょうど荒木さんとも……最初に会ったときかな? 「MyStylist」の話を聞いたりとか。逆に、何でも出来る可能性があるんだなと期待を膨らませていました。

―― 逆に荒木さんは、もう「これをやるぜ!」みたいな感じですよね?

荒木氏 そうです。もう、「MyStylist」に夢中でしたね。小林さんとか、初めて会った数人で「こういうの作りたいと思っているんです」みたいな話をして。「じゃぁ、こんなのどうだろう」とか意見を聞いたりもしましたね。

小林氏 (荒木さんに)初めて会ったとき、いきなりSCEの名刺を渡されるし (一同笑) そのとき一緒にいた人も自分で会社を経営している人なんですけど、その会社名で名刺を渡してきて。「あっ、合格者は(自分)ひとりしか (この会議に) きてないんだ?」と思ったくらいです。

―― 基本的には「SCEに入社して制作を行なう」というわけではないんですね?

北川氏 ないですね。契約としてはフリーのクリエイターになります。先ほど話も出ていましたが、なかなか日々の仕事……たとえば会社のなかにいて企画を立ち上げようと思って、それだけを考える時間をとるのは難しいんですね。当然、なにか他の業務をやりながら、色々暖めて徐々に固めてというのもありますし、企画に専念ということになると、それはそれでプレッシャーに感じるようなこともあるんですけど。

 「PlayStation C.A.M.P!」では、自由に企画を考えていい時間を取ることができるというのが一番大きいのかなと思うんですよ。「作りたいものを作るために考える時間」をポンと渡される。それも1カ月とかじゃないですからね。1年間とか。その間、当然ギャランティは払わせていただきますし。そういう形で「じっくり考えて、自分たちの納得いくものを」実現できるかどうかは別ですけど、そういうことができるのは大きいかなと思います。

―― とはいえフリーだと「プレイステーションのプラットフォームだけにとどまらない」というところがあるわけじゃないですか。例えば「MyStylist」が完成して、次はどうするのか。そのあたりは、もう「羽ばたいていただいて、他所の企画をやってもらっても構わない」ということですか?

北川氏 それに関しては、このプロジェクトはクリエイター発掘支援であって“囲い込み”ではないと思っているんです。これは公言していることなんですけど、新しい才能が出てきて、面白いものを考えてくれればいいんです。うちがギャラを払っているときに他所のことをやられても困るので、まずはうちで活躍していただくということなのですが (笑)。

 実際クリエイターとして実績を積んで、色々なところからオファーがくるようになれば、それはそれでいいと思っているんです。羽ばたいていっていただければ。面白いものを作ってゲーム業界が盛り上がれば、結果的にはうちのフォーマットにも還元されることなので。最終的にはプレイステーションの得になるのかなという感じです。ただ、他所の仕事をしたときも「僕は『PlayStation C.A.M.P!』の出身です」とだけ言ってくれれば。それは忘れないでね、チェックしてるよ? みたいな (笑)。

―― 応募者に対して何か必要条件みたいなものは?

北川氏 あくまでもクリエイターとして……経験・未経験関係なく募集していますというのは、言ってしまえば「なるべく“SCEのいち社員”として考えていると思いつかないであろうこと」を、僕たちは見たいんですね。そんなことを考えている人に会いたいし、新しいアイデアを考える人と一緒に仕事をしたいし、その人が作ったものを見てみたいし、遊んでみたい。

 そういう意味でいうと、僕たちが望むものを考えるんじゃなくて、人が「これが面白い!」というものを考えて欲しいですね。そして何より自分自身が面白いと思うもの。それに僕たちが憧れるというか、共感させられる、遊んでみたくなるようなものを見せてもらいたいなぁと思いますね。

―― 「ゲームやろうぜ!」に応募されて、クリエイターとしての幅は広がりましたか? 小林さんは「特にゲームが作りたい」というわけではなかったんですよね?

小林氏 ゲームを作るということで、クリエイターとしての幅は物凄く広がりました。もともと1人でやっていて、大勢で物を作りたいというのがあったから「ゲームを作るのはすごくいいなぁ」と思ってて。20歳過ぎからゲームを全然やってなかったんですけど、その前はすごく好きだったので、そこに戻るのはいいなぁという気持ちもあって。ひとりで作るのに限界を感じていた、というのは正直ありました。人と分業で「ここを自分がやる」となったとき、物凄くやりやすいです。ひとつに集中できるというのは、幅が狭くなったように感じるけど、実は器用貧乏にならなくて済む。

―― 「ゲームやろうぜ!」で選ばれた経験を踏まえて、今後の目標などは?

小林氏 ものを作るのが好きだから……今はゲームを作っていますけど。もともと絵でも「絵本」とか描いてみたいなと思っていたんですよ。色々絵本を読んでいると、その気持ちも変わってきて「それはもっと歳をとって、エゴをなくしてからすることだな」みたいになっていって。今はしばらくゲーム業界でなにか面白いものを作れれば。ちょっと漠然としているんですけど、面白いものを作りたいという気持ちは変わりません。あと、面白いものを作るなかでも「自分にしかないものを生かせれば」って。それができていれば、すごく幸せでいられると思います。

【小林陽明氏】
いつも作業を行なっているデスクでの小林陽明氏。スッキリした机が印象的。こちらも広々としたスペースが与えられている 小林氏は現在制作中の「勇者のくせになまいきだ or2」のグラフィックスデータを表示して見せてくれた 小林氏が「ゲームやろうぜ!」に提出した書類は、グラフィックスとその世界観を解説した簡単な文章、そしてFlashのアニメーションだったとか
8bit風のグラフィックスがまずは目を引く「勇者のくせになまいきだ。」。だが、ひとつの世界を作り上げていくという点で奥深いゲームシステムとなっており、ヒットを記録。ピリリと小粒な毒も効いており、楽しめる。10月16日にはシリーズ2作目となる「勇者のくせになまいきだ or2」が発売される予定となっている。小林氏はこちらにもグラフィックスデザイナーとして参加している


―― 荒木さんはクリエイター出身ではありませんが、選ばれた感想はいかがですか?

荒木氏 もう単純に嬉しい。もともとデザインの仕事をしていて、デザインのことしかやってなかったんですね。なにかのプロジェクトに関わるときも、デザインの角度からしか見られなかったのが、今回プランナーとして「MyStylist」をやったので、色々なことを知ることができました。作品が「こうやってできていくんだ」というのが全部見えたので、いい経験になりました。

―― 今後の目標は? ある意味、夢が叶ったわけですよね?

北川氏 同時に、苦しい思いもいっぱいしつつ (笑)。

荒木氏 そうですね。次も……許されるなら、やっぱり自分が欲しいと思えるようなものを作りたいな、っていうのがあります。もともと自分自身がゲームをそんなにしないもので、やりたいという衝動にかられるものが少ないんですね。自分のような人とか周りの友人が「やりたい」と思えるようなものができたらいいなと思います。

―― PSPは入れ物で「そこで好きなことができたらいいな」ということですね。別にPS3でもいいんですけど。

北川氏 こういうことを考えるのは、ゲーム会社にいたら「考えづらい」と思うんですよ。マーケティング的な思考で「今はツールもいいんじゃないの?」みたいなことはあったりすると思うんですけど、彼女なんかはそもそもゲームをほとんどやっていなくて。「MyStylist」なんかだと、PSPを使ってモヤモヤ妄想していたものが「形にできるかも?」っていうところからきてる。

 ゲーム業界に長くいる僕とかから見ても「あぁ!」みたいな部分があるんですね。そういうのが、こういったオーディションを通して“外の人”というか、ゲーム業界以外からも人を呼んでくる大きな意義なのかなと思います。当然、今集ってる人たちと話したとき、僕の方がゲーム制作に関しては経験があるので……もちろん経験者もいらっしゃるんですけど、このふたりも含めて、彼らが知らないことはいっぱいある。でも、僕がゲーム業界に長くいるために考えなくなっていたような視点、考え方というのを一杯持ってる。僕のほうも、運営側として刺激を受けますね。

―― しかし、人材募集で「なんでもいい」といわれても難しいですね。

北川氏 むしろ「こんな人が欲しい」とハッキリしてたほうが、やりやすいだろうなとは思うんですよね。ただ、うちの社風でもあると思うんですけど「こうしろ」といわれるのが嫌いな人が多いですよ。「自由にやれよ」みたいなのが多くて。自由すぎて色々困ることもあるんですけど。「やりたいなら、自分でアイデア出してやりなさい」とか。そういうところが根っこにあるので、こういうプロジェクトが立ち上がるのかなぁ、というところはあります。

―― 「Xi[sai]」はもちろん、「どこでもいっしょ」や「パネキット」まで確かになかなかゲームに結びつきにくかったアイデアがゲーム化されています。いずれもユーザーから大きく支持されたものが多く、そういう発想の方が入ることの影響力を感じさせます。

北川氏 このふたりは個人で応募してきてますし、会社やチームで応募してきてる人もいます。そこで出会って新たなチームができたり、ということも起きているんですよね。さきほど別のビルで今回の撮影をしていたときに奥で打ち合わせをしていたのが、そういう“純粋に応募してきた人たちのみ”で、さらに個人とチームが集って、東京ゲームショウに出展しようとおおわらわしていた所なんですよ (笑)。そういった出会いも含めて、より新しい何かが生まれるのかなと。まぁ、僕たちはそのお手伝いをできるだけするのが理念、という感じですね。

―― 本日はありがとうございました。


 「企画」を募集するオーディションは多いが、SCEJの「PlayStation C.A.M.P!」の中心にあるのはあくまでもクリエイター自身となる。そして合格すれば、作りたいと思えるモノを作るために必要な“時間”がプレゼントされるという意味では、クリエイターにとってこれほど贅沢な募集企画もない。このほかの企画募集とは違った視点がSCEJらしい試みと言えるだろう。最後に募集の概要を記しておくので参照していただきたい。

    【応募資格】
     18 歳以上で性別・国籍不問 (未成年者は親の同意が必要)。経験不問。学生、社会人、ゲーム制作経験の有無、個人、グループ、法人などについて問われない。ただし日本在住であること。

    【応募方法】
    公式サイトからのアップロード

    【作品受付期間】
    2008年10月1日~31日 (必着)

    【選考期間】
    一次審査(書類選考):2008年11月1日~末日
    二次審査(面接):2008年12月初旬~
    三次審査(面接):2009年3月初旬~

□ソニー・コンピュータエンタテインメントのホームページ
http://www.scei.co.jp/
□プレイステーションのホームページ
http://www.jp.playstation.com/
□「PlayStation C.A.M.P!」のページ
http://www.playstationcamp.com/
□関連情報
【7月25日】SCEJ、クリエイター発掘支援プログラム
「PlayStation C.A.M.P!」活動開始
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20080725/pscamp.htm

(2008年9月26日)

[Reported by 船津稔 / 豊臣孝和]



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