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CEDEC2008現地レポート

「METAL GEAR SOLID 4」関連セッションレポート その1
戸島サウンドディレクターが明かす“戦場ストリーム”とは何か!?

9月9日~9月11日開催

会場:昭和女子大学



 米国西海岸で年に1度開催される世界最大規模のゲーム開発者向けカンファレンスGDC(Game Developers Conference)では、毎年、旬のタイトルが入れ替わる。開発者のニーズに合わせて、1タイトルで多い場合は5つも6つものセッションが開催される。GDC 2008では、「Halo 3」が旬のタイトルとしてもっとも多いセッションが組まれた。CEDEC 2007では、セガの「バーチャファイター V」、カプコンの「ロストプラネット」あたりだろうか。

 ただ、CEDECの場合、日程もセッション数も限られているため、1タイトルで複数のセッションが開かれること自体が希だが、CEDEC 2008では、なんと3つものセッションが開催されたタイトルがある。2008年6月12日に発売され、プレイステーション 3史上もっとも大きなヒットを記録したKONAMIの「METAL GEAR SOLID 4(以下、MGS4)」である。

 「MGS4」は、発売前は非常に厳しい情報規制を行なっていたが、発売後は一転して大量の情報を開示するようになった。発売後のその旺盛なサービス精神には驚かされるばかりだが、CEDECの講演ではそれに輪をかけて多くの情報が公開され、再び大いに驚かされた。

 メジャータイトルの開発情報がCEDECで公開されるのは、決して珍しいことではなくなってきたが、自他共に認める次世代機のフラッグシップタイトルが発売わずか3カ月で公開されるケースは今回が初ではないだろうか。欲を言えば、開発トップである小島秀夫氏が参加しなかったのは残念なところではあるが、今年のCEDECのレギュラーセッションのハイライトは「MGS4」で異論のないところだろう。

 「MGS4」は、次世代機のパワーをフルに活かしたグラフィックスと、リアルタイム5.1chサラウンドによるサウンドが技術的な側面における大きな特徴となっている。本稿では、まずは「MGS4」のサウンド関連の秘密が明らかにされた「『MGS4』サウンド制作という戦場からの帰還報告」の内容をお伝えしたい。


■ 「MGS4」のサウンドシステムが初公開、圧縮データ使用は「今後の課題」

「MGS4」サウンドディレクター戸島壮太郎氏。朝まで語りたい、伝えたいことがいっぱいあると、強い熱意で講演を行なってくれた
小島監督直伝のサウンドチームのサウンド制作哲学は「どれだけ感情を揺さぶれるか」。非常に高い目標が掲げられている
初公開された「MGS4」のサウンドドライバの機能の一部。非常に贅沢なスペックとなっている
「中東にいるスネークさん」と戸島氏が呼びかけ、スネークによる実演のような形で各種デモが行なわれた
 「MGS4」関連セッションのトップバッターは、「MGS4」サウンドディレクター戸島壮太郎氏による「『MGS4』サウンド制作という戦場からの帰還報告」である。5.1チャンネルサラウンド環境が整えられた80年館オーロラホールで実施され、実機を使ったデモンストレーションがふんだんに行なわれ、極めて贅沢なセッションとなった。

 セッションは、スピーカー不在のまま「MGS4」オープニングシーンの再生がスタート。5.1chの迫力の音場でオープニングシーンが展開されるなか、脇の暗がりから歩み出てきたスタッフが、「ちょっと待ってください」とムービーを止めさせ、スタッフロールのひとつを指さし、「皆さん、ここ注目してください。これが僕の名前なんです」とユニークな方法で自己紹介した。

 戸島氏は、「MGS2」のMA(マルチオーディオ)を手がけたのが「MGS」シリーズの最初の仕事で、最初にやったロールは、タンカー編のオセロットのシーンだったという。その後、「MGS3」でもサウンドを担当し、「MGS4」ではサウンドディレクターとして同作のサウンド全体を統括。「サウンドデザイナーとしては新米です」と挨拶した。

 戸島氏は、サウンドの最終目的は「どれだけ感情を揺さぶれるか?」だと切り出した。「MGS4」監督の小島秀夫氏の考えとして、「サウンドはどれだけ人々の感情を揺さぶれるかが勝負。どれだけびっくりするか、泣けるか、最後に感動できるか、サウンドのすべてはそのためのアプローチ」だと定義づけた。この時点で、小島プロダクションのサウンドチームがきわめて映画的な発想で音作りをしているかがわかる。

 サウンドチームのこだわりとしては、クリエイティブとミキシングの2つを挙げた。クリエイティブとはオリジナリティのことであり、いかに無いものを作るかという物作りの基本を大切にしているという。もうひとつはミキシング。これがしっかりすることで、1シーン内で使える音数が増やせ、聞かせたい音を明確に伝えることが可能になる。戸島氏は、このミキシング技術は、空間表現や演出力向上などの点において、強力な武器になることを強調した。

 続いて「MGS4」のサウンドドライバの概要が公開された。出力は128out、メインメモリのサウンド領域は24MB(ワークエリアを含む)、リアルタイム5.1chサラウンド出力と、基本スペックだけ見ても圧倒的である。なお、サウンドデータは、リニアPCMの採用は一部に留まり、大多数は圧縮されたオリジナルADPCMが使用されている。「ここは今後の課題」(戸島氏)と悔しそうな口ぶりだった。

 ユニークな機能として紹介されたのが距離遅延処理。ある程度ターゲットが離れないと効果がでないのでわかりにくいというが、距離に応じて音の到達スピードを可変にしている。距離に応じて音量、音質だけでなく到達スピードまで変えるというこだわりを見せているわけだ。なお、リアルタイム5.1chサウンドについては、ゲームのサラウンドはリアの音が増えすぎるという特性を考慮に入れて、リアの音を抑え気味にしているという。いずれも言われないとなかなか気づかない要素だ。

 サウンドデータの格納先は、プレイステーション 3専用タイトルということで、Blu-ray、HDD、メモリとあらゆるリソースを使用する。分け方は、Blu-rayがリアルタイムデモサウンドを担当し、HDDが音楽系と環境音系、そしてメモリ上で射撃音等のサウンドエフェクトとなる。プレイ中、数回に分けて行なわれるHDDインストール作業では、サウンドデータも一緒に格納されていたわけだ。


■ 戦場にさらなるリアリティをもたらす“戦場ストリーム”

「MGS4」のサウンドストリームイメージ。Blu-rayとHDDにそれぞれ異なるサウンドデータを持ち、それぞれ別のパートを担当させている
戦場効果音のディテール。戦場の効果音が3つのパートにわかれている。ユニークなポイントがこの戦場ストリームだ
 さて、今回のセッションで驚かされたことは2点ある。ひとつ目は、近景戦場音、遠景戦場音(環境音)に加えて、“戦場ストリーム”という3つ目のトラックが存在していたこと。そしてもうひとつは、戦場におけるサウンドトラック(音楽)の扱い方である。

 まず、戦場ストリームから見ていくと、これは指摘されるまでまったく気がつかなかった。どういうことかというと、「MGS4」の戦場を構成する環境音が、近距離のストリームと、遠距離のストリームに加え、いわば“中距離”に相当する3つ目のストリームが存在し、近距離、遠距離のストリームと同様に、条件に合わせて動的に変化しながら鳴っていたのだ。

 戸島氏は「成分的には中距離の銃声、跳弾、敵兵の音声、たまにでっかい賑やかしなど。オンメモリの音(近影戦場音)と一緒やんと思われるかもしれないが、真逆の成分を集めています。音数、リズム、残響感、リアリティなど、オンメモリでは鳴らしにくい音を集めて作ったストリームです」と説明。

 デモでは、各ストリームを個別に鳴らしてその違いを実証してくれた。当然のことながらストリームサウンドなので、目の前の風景と音はまったくリンクしておらず、跳弾や爆発音など、かなり“強い”音が多い。しかし、3つのストリームがすべて合わさることで、近距離、遠距離の2つでは出せない重厚感のある戦場音の表現に成功している。

 戦場ストリームの目的は、「不足成分の補完」だという。ベストなのはメモリ上にすべて用意することだが、毎回詰め込みきれないため、次善の策としてHDDストリームとして、最終工程で追加したという。開発期間、コスト、マンパワーにある程度の余裕がないと真似できることではないが、「MGS4」の戦場の空気感をどのように再現していたのかがよくわかるエピソードだ。

 なお、個々の環境音の作り方については極意として「音を小さく作る」とした。音数が膨大になったため、個々の波形をつぶさず、それでいてしっかりダイナミクスを使うために音声基準を最初から小さく作り、なおかつ波形をつぶす低音の使用ルールを厳格に定めたという。その結果は、「明瞭な分離 ダイナミクス! (^-^)」(原文ママ)ということで、戸島氏としても結果に非常に満足しているという。

 そして2つ目の驚きとしては、戦場音楽の扱いである。「MGS4」では、ゲーム音楽の再生にマルチチャンネルを採用し、4chの音楽を最大4曲(16ch)まで同時再生可能になっている。これにより、状況に応じて危険、回避、警戒といった変化に動的に対応している。 1トラック目は危険曲、2トラック目は回避曲、3トラック目は警戒曲、4トラック目は戦場ストリームだ。

 驚いたのはその変化のさせ方である。単純に再生する曲を入れ替えるのではなく、各パートのボリュームを変え、自然な切り替えを実現している。このボリュームを上下させるアプローチは、「MGS4」のサウンドシステム全体に採用されており、音楽再生時は環境音のボリュームが落とされる。ipodの再生時はヘッドフォンで聴いている感覚を表現するために環境音をゼロにし、オンメモリのサウンドエフェクトや戦場ストリームのパートのボリュームも下げるなど、ダイナミックな変化をつけている。

 セッションの最後に戸島氏は、デモを交えながらリアルタイムデモの良さを強調した。 「MGS」シリーズはリアルタイムデモが特に多いゲームであるだけに、その良さをもっと多くの人に理解してもらいたいという気持ちも強いようだ。

 戸島氏はリアルタイムデモの良さとして「時間軸が自然」であることを挙げた。「時間軸というもうひとつの新しいリアリティがこれからのテーマになっていくのではないか」と、「MGS」シリーズのサウンドディレクターらしい未来予測で講演を締めくくった。

【音楽用HDDSTREAM仕様】
「MGS4」の音楽ストリームの仕様解説。4トラックを同時再生可能な仕様になっており、曲を切り替えるのではなく、ボリュームを変えることで、自然な変化とメリハリをつけることに成功している

【Pro Tools】
セッションの後半ではPro Toolsによる、各キャラクタの音声のデモが行なわれた。左上のデモ画面に見える兵士たちひとりひとりに個別に音声が割り当てられており、Pro Toolsではその発声のタイミングを指定している。ものすごく手間のかかる作業だ

□CESAのホームページ
http://www.cesa.or.jp/
□「CEDEC 2008」の公式ページ
http://cedec.cesa.or.jp/
□関連情報
CESA、「CESA DEVELOPERS CONFERENCE 2008」を開催
10周年の節目を迎えたCEDEC、松原CESA副会長が今後10年を語る
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20080909/cedec_01.htm

(2008年9月10日)

[Reported by 中村聖司]



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