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会場:ベルサール神田
■ オンラインゲームとコミュニティサービスを同列に扱った希有なカンファレンス「OGC2008」
AOGC時代から数えると今回で4回目となるが、日本におけるオンラインゲーム市場の停滞、また、母体であるソフトバンクグループがオンラインコンテンツからモバイルに大きく事業の主軸を移したことなどから、会期が2日から1日へと一気に半減された。この関係で、関係者にとっては日程を確保しやすくなった反面、1セッション45分、休憩15分という窮屈なタイムスケジュールになってしまい、参加者同士が雑談を交わすゆとりも余裕も持てなかったことは次回への反省点だろう。 OGC2008では、いくつもの着想を得られたが、ここではオンラインゲームとコミュニティサービスの直接対決の第1ラウンドはコミュニティサービスの圧勝だったという点と、ゲームとコミュニティサービスの境界線がなくなりつつあること、その是非について述べておきたい。 オンラインゲームとコミュニティサービス。OGC2008は、この近いようで立ち位置の異なる2つのテーマを同列に並べることで、どのようなカンファレンスとなるかが注目されたが、蓋を開けてみれば、ゲームメディアとしては残念ながらというべきなのか、表層的にはコミュニティサービスの圧倒的なパワーを見せつけられる結果となった。 なかでも今回象徴的だったのは、午前中に立て続けに行なわれた2本の基調講演の温度差だろう。最初の基調講演を務めたコーエー代表取締役社長松原健二氏は、元オンラインゲーム担当執行役員、現代表取締役社長、そして唯一の過去4回のカンファレンスのすべてに登壇している常連講師という3つの立場から、「(次世代ゲーム機の売れ行き推移が)予測とは違っていた」、「MMOのようなヘビーなコンテンツはなかなか出てこない」、「(コミュニティサービスが)横をスッと駆け抜けて追い抜いていった」と、現状に対する違和感の表明に終始した。 その後も、自社タイトルの現状報告とその自己評価に多くの時間を費やし、大手ゲームメーカーの代表取締役社長という絶好のポジションにありながら、自社の新サービスを引き合いに出す形で具体的なオンラインエンターテインメントのビジョンを示すことができなかったのが残念だった。 これに対し、2本目の基調講演を担当したニワンゴ代表取締役の杉本誠司氏は、動画コミュニケーションサイト「ニコニコ動画」が途中中断を含む昨年1年間の間に、日本国内のすべてのオンラインゲームを圧倒するユーザー数を集めたこと(無料会員数600万人、有料会員19万2,000人、モバイル会員登録者数119万人)をデータで示し、さらにすでに北米最大の動画サイトYou Tubeをあらゆる側面で上回っていることを報告した。
その上で、「ニコニコ動画」が現在進行形で推進しているさまざまな新サービス(ニコニコ生放送、ニコニコ市場、電光掲示板、ニコ割ゲーム、ニコニコ映画祭、ニコスクリプト)をまさに怒濤の勢いで披露。「ニコニコ動画」の未来について、既存の動画配信ビジネスが向かう明日ではなく、「明後日(あさって)のほうに向かうのではないか」と、実に技ありの表現で明日のビジョンを示してくれた。
■ コミュニティはゲームにあらず、されど盛況。UCC全盛時代のゲームメーカーの立ち回り方はどうあるべきか
しかもそれを膨大な数のユーザーが支え、日夜何万、何十万という数のUCCタネあるいはUCCそのものがサーバー上にアップロードされ、楽しさの旋回運動を続けていく。このスキームはちょっとやそっとの工夫では太刀打ちできない勢いがある。その他のセッションも含めての感想だが、オンラインゲームメーカーはこの数年、多少お行儀が良すぎたのではないかという気がする。また、RMTや不正対策、その法整備の不備に苦泥しすぎた印象も強い。 ただ、だからといって、ゲームクリエイターの立場は狭まりつつあるのかというと、まったくそうではなく、むしろ今後ますます重要性を増していく存在になっていくと思う。この点は次の着眼点にも繋がってくるのだが、コミュニティサービスはあくまでインフラであり、どこまで進化してもゲームそのものにはなりえない。今回のOGC2008のもうひとつの捉え方として、ゲームとコミュニティサービスの境界線がいつのまにかほとんど溶けてなくなっていたことが挙げられる。つまり、ゲームをコアとしたデジタルエンターテインメントの概念が、どんどん拡大解釈されていっている印象を受けた。これは表現が難しいが、個人的に非常に危険な兆候だと思う。 特に「ニコニコ動画」の登場は、消費者のデジタルエンターテインメントコンテンツ(ここでは動画がそれにあたる)への向き合い方を決定的に変化させ、広義でのオンラインエンターテインメントに革命を起こしたサービスだと言えるが、あくまでエンドユーザーに向けたインフラの提供であり、イノベーティブではあっても、それそのものにゲーム的なクリエイティビティはない。この点については、ユーザーに完全に委ねてしまっており、ここが本質的にゲームと異なる部分だ。 冒頭でも触れたように、オンラインゲームとコミュニティサービスはそもそも立脚点が異なる。ゲームは、娯楽のひとつとして余暇を楽しく過ごすための存在であり、その楽しませ方のアプローチのひとつにオンラインというインフラを利用したオンラインゲームが存在する。これに対しコミュニティサービスは、人と人をオンライン上で結びつけ、コミュニケーションを円滑に進めるための仲介役に過ぎない。仲介役だけでは人を喜ばせることはできないのだ。 何が言いたいのかというと、日本においてOGCでのコミュニティサービス陣営の活発さ、UCCのカオス的な楽しさ、圧倒的な勢いの良さ、ユーザーの食いつきの良さ、進化に対する貪欲さをもって、一足飛びにもはやオンラインゲームのような、プロダクトアウト的な恐竜のようなコンテンツは不要だという論調になることを恐れている。 たとえば、ゲームとコミュニティの垣根を取り払った好例として、識者の間でWill Wright氏のここ数年のGDCでのセッションと、彼の集大成的なシミュレーションゲーム「SPORE」がよく取り上げられるが、都合の良い部分だけを扱われている側面が強い。 確かにWill Wright氏は、「クリエイターが用意した濃厚なストーリーや精巧な世界よりも、プレーヤー自身の体験の方がおもしろい」ということを言いだした時代の先駆者であり、実際、「SPORE」にはYou Tubeボタンがあり、これを押せばたちどころに自身がクリエイトしたプロシージャル(自動生成)コンテンツを動画にして、パブリックスペースに公開することができる。「ゆえに、時代はUCCであり、ボトムアップでなければならない」というわけだ。 しかし、Will Wright氏が「SPORE」で実践したパラダイムシフトは、UCCの重要性と楽しさだけではなく、大規模化、高コスト化が進む産業構造をふまえ、バリエーションが必要だが制作が大変な部分、たとえば個性的なキャラクタ、オブジェクト、乗り物などを、パラメータとスクリプトによって表現すれば、開発工程を減らしたいメーカーと、自由にキャラクタを作りたいユーザーの双方がWinWinの関係を作ることができるというゲーム開発の構造改革を狙っていた。そしてそれを「SPORE」で見事に結実させた。 さらに、ここが重要なところだが、Will Wright氏は、ゲームクリエイターに対してクリエイティビティを放棄して、ユーザーにコンテンツ生成を丸投げすべきとは一度も言っていない。むしろWill Wright氏は、プロトタイプの作成とテストプレイの重要性を説き、革新的なゲームを作ることを何よりも熱く主張している。「SPORE」のゲームデザインは、ユーザーではなくあくまでWill Wright氏が生み出したものだ。エンターテインメント産業におけるクリエイティビティの重要性は、まったく変わらず維持されているといっていいし、むしろ日本にこそ「SPORE」的な創造性のあるコンテンツが生まれるべきだ。 話が多少脇道にそれてしまったが、結論として、OGC2008では、オンラインゲームとコミュニティサービスは、オンラインエンターテインメントという同じ土俵で競い合うライバルというべき存在として位置づけられることが明確となった。ゲームメーカーの経営者、特にオンラインゲームパブリッシャーのトップはこれを脅威として捉え、これを質的、量的に上回れるような対策を練るべきだが、そうしたコミュニティサービスがいくら盛況を博しても、コミュニティサービスはあくまでインフラでありゲームではなく、創造性とクオリティの高いゲームコンテンツは今後も求め続けられるということだ。
昨年、日本のオンラインゲーム市場は全体として見ると低迷を続けた1年となったが、今年はどうなるのか。残念ながらOGCでそれを垣間見ることは叶わなかったが、ぜひとも次世代を感じさせ、また濃厚なクリエイティビティを感じさせるオンラインゲームが登場することを願いたい。
□ブロードバンド推進協議会のホームページ (2008年3月14日) [Reported by 中村聖司]
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