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BBA、オンラインゲーム&コミュニティサービスカンファレンスを開催
「ニコ動」パワーが炸裂。ゲームとSNSの境界線消失の現実にメーカーはどう向き合うのか?

3月14日開催

会場:ベルサール神田

 有限責任中間法人ブロードバンド推進協議会(BBA)は、3月14日、オンラインゲームとコミュニティサービスをテーマにしたカンファレンス「オンラインゲーム&コミュニティサービスカンファレンス」を開催した。本稿では取り急ぎ、2本の基調講演を中心にカンファレンスの模様をお伝えしたい。個々のレポートについては別稿で詳しくお伝えしていく予定だ。


■ オンラインゲームとコミュニティサービスを同列に扱った希有なカンファレンス「OGC2008」

オープニングの挨拶を行なったIGDA日本代表の新清士氏。新氏は「わずか4年しか経っていない」と切り出し、この4年間のオンラインサービスの劇的な変容ぶりを活写してみせた
基調講演を務めたコーエー代表取締役社長松原健二氏。オンラインゲーム市場に対し、市場規模の客観的なデータの計測方法の確立やオープンIDの採用などのいくつかの提言を行なったが、ビジョンに欠けていたのが残念だ
日米欧3地域のプラットフォーム販売台数。日本市場を評して「高性能据え置き機は市場として成立していない」と言い切り、「言い過ぎですね」と訂正する一幕も。以前松原氏は300万台をクリティカルマスとしたが、それに満たない現状は何よりも誤算だったようだ
 OGC2008は、BBAが毎年この時期に行なってきたアジアオンラインゲームカンファレンス(AOGC)が変容したものである。対象をアジアに限定せず、またオンラインゲームと同じ土俵で近年急成長を遂げつつあるコミュニティサービスをテーマに含め、オンラインゲームとコミュニティサービスという新しい切り口で再出発を果たした。

 AOGC時代から数えると今回で4回目となるが、日本におけるオンラインゲーム市場の停滞、また、母体であるソフトバンクグループがオンラインコンテンツからモバイルに大きく事業の主軸を移したことなどから、会期が2日から1日へと一気に半減された。この関係で、関係者にとっては日程を確保しやすくなった反面、1セッション45分、休憩15分という窮屈なタイムスケジュールになってしまい、参加者同士が雑談を交わすゆとりも余裕も持てなかったことは次回への反省点だろう。

 OGC2008では、いくつもの着想を得られたが、ここではオンラインゲームとコミュニティサービスの直接対決の第1ラウンドはコミュニティサービスの圧勝だったという点と、ゲームとコミュニティサービスの境界線がなくなりつつあること、その是非について述べておきたい。

 オンラインゲームとコミュニティサービス。OGC2008は、この近いようで立ち位置の異なる2つのテーマを同列に並べることで、どのようなカンファレンスとなるかが注目されたが、蓋を開けてみれば、ゲームメディアとしては残念ながらというべきなのか、表層的にはコミュニティサービスの圧倒的なパワーを見せつけられる結果となった。

 なかでも今回象徴的だったのは、午前中に立て続けに行なわれた2本の基調講演の温度差だろう。最初の基調講演を務めたコーエー代表取締役社長松原健二氏は、元オンラインゲーム担当執行役員、現代表取締役社長、そして唯一の過去4回のカンファレンスのすべてに登壇している常連講師という3つの立場から、「(次世代ゲーム機の売れ行き推移が)予測とは違っていた」、「MMOのようなヘビーなコンテンツはなかなか出てこない」、「(コミュニティサービスが)横をスッと駆け抜けて追い抜いていった」と、現状に対する違和感の表明に終始した。

 その後も、自社タイトルの現状報告とその自己評価に多くの時間を費やし、大手ゲームメーカーの代表取締役社長という絶好のポジションにありながら、自社の新サービスを引き合いに出す形で具体的なオンラインエンターテインメントのビジョンを示すことができなかったのが残念だった。

 これに対し、2本目の基調講演を担当したニワンゴ代表取締役の杉本誠司氏は、動画コミュニケーションサイト「ニコニコ動画」が途中中断を含む昨年1年間の間に、日本国内のすべてのオンラインゲームを圧倒するユーザー数を集めたこと(無料会員数600万人、有料会員19万2,000人、モバイル会員登録者数119万人)をデータで示し、さらにすでに北米最大の動画サイトYou Tubeをあらゆる側面で上回っていることを報告した。

 その上で、「ニコニコ動画」が現在進行形で推進しているさまざまな新サービス(ニコニコ生放送、ニコニコ市場、電光掲示板、ニコ割ゲーム、ニコニコ映画祭、ニコスクリプト)をまさに怒濤の勢いで披露。「ニコニコ動画」の未来について、既存の動画配信ビジネスが向かう明日ではなく、「明後日(あさって)のほうに向かうのではないか」と、実に技ありの表現で明日のビジョンを示してくれた。

【オンラインゲームCROSS BORDER】
松原氏の講演は、数多くのデータを駆使し、帰納的に結論を導くお馴染みのアプローチ。あえて苦言を呈せば、数字に囚われ過ぎている印象も強い。意外な収穫としては、コーエーのオンラインタイトルのユーザー数が公開された。「信長の野望 ONLINE」は登録者数30万人、課金者数5.5万人。「大航海時代 ONLINE」は登録者数25.5万人、課金者数2.7万人。「真・三國無双 ONLINE」はパブリッシャーではないため非公開。「三國志 ONLINE」は登録者数12.5万人、課金者数2万人。同接者数は不明だが、10万人超の課金者を抱えている計算になる

【ニコニコ動画について】
杉本氏の講演で驚いたのは貴重なマーケティングデータを惜しげもなく公開しているところだ。そのデータが示す実績は圧倒的であり、極めて膨大な数のユーザーに支えられていることを示している。中でも有料会員がすでに19万人もいることに驚きだ。講演の最後には著作権侵害コンテンツの対策についても触れられたが、こうした違法コンテンツに頼らずとも十分にやっていけるスキームが実は整っている


■ コミュニティはゲームにあらず、されど盛況。UCC全盛時代のゲームメーカーの立ち回り方はどうあるべきか

ニワンゴ代表取締役杉本誠司氏。「ユーザーからウザいと思われているようですが」と、時折ユーザーらしい発言が飛び出し、立ち位置からして非常にユニークな会社だ
「ニコニコ動画」は「動画ビジネスの明後日を行く」。他社とは違うサービスを継続していく意思表示だが、ニコスクリプトの機能などは、他社ではまず真似できない独創的なインタラクティブサービスだ
 もちろん、上記の感想は、オンラインゲーム市場は我々ゲームメディアにとって既知の分野であり、コミュニティサービスの多くが未知の分野であったため、受け取った情報の新鮮味が違うと言うこともある。しかし、それを踏まえても、コミュニティが絡む形でのエンターテインメントに対する、マーケットイン的な取り組み方の違いは歴然としている。ユーザー視点でもの作りを行ない、それを原寸大で実装すれば、楽しいものができあがるのは当然のことだ。

 しかもそれを膨大な数のユーザーが支え、日夜何万、何十万という数のUCCタネあるいはUCCそのものがサーバー上にアップロードされ、楽しさの旋回運動を続けていく。このスキームはちょっとやそっとの工夫では太刀打ちできない勢いがある。その他のセッションも含めての感想だが、オンラインゲームメーカーはこの数年、多少お行儀が良すぎたのではないかという気がする。また、RMTや不正対策、その法整備の不備に苦泥しすぎた印象も強い。

 ただ、だからといって、ゲームクリエイターの立場は狭まりつつあるのかというと、まったくそうではなく、むしろ今後ますます重要性を増していく存在になっていくと思う。この点は次の着眼点にも繋がってくるのだが、コミュニティサービスはあくまでインフラであり、どこまで進化してもゲームそのものにはなりえない。今回のOGC2008のもうひとつの捉え方として、ゲームとコミュニティサービスの境界線がいつのまにかほとんど溶けてなくなっていたことが挙げられる。つまり、ゲームをコアとしたデジタルエンターテインメントの概念が、どんどん拡大解釈されていっている印象を受けた。これは表現が難しいが、個人的に非常に危険な兆候だと思う。

 特に「ニコニコ動画」の登場は、消費者のデジタルエンターテインメントコンテンツ(ここでは動画がそれにあたる)への向き合い方を決定的に変化させ、広義でのオンラインエンターテインメントに革命を起こしたサービスだと言えるが、あくまでエンドユーザーに向けたインフラの提供であり、イノベーティブではあっても、それそのものにゲーム的なクリエイティビティはない。この点については、ユーザーに完全に委ねてしまっており、ここが本質的にゲームと異なる部分だ。

 冒頭でも触れたように、オンラインゲームとコミュニティサービスはそもそも立脚点が異なる。ゲームは、娯楽のひとつとして余暇を楽しく過ごすための存在であり、その楽しませ方のアプローチのひとつにオンラインというインフラを利用したオンラインゲームが存在する。これに対しコミュニティサービスは、人と人をオンライン上で結びつけ、コミュニケーションを円滑に進めるための仲介役に過ぎない。仲介役だけでは人を喜ばせることはできないのだ。

 何が言いたいのかというと、日本においてOGCでのコミュニティサービス陣営の活発さ、UCCのカオス的な楽しさ、圧倒的な勢いの良さ、ユーザーの食いつきの良さ、進化に対する貪欲さをもって、一足飛びにもはやオンラインゲームのような、プロダクトアウト的な恐竜のようなコンテンツは不要だという論調になることを恐れている。

 たとえば、ゲームとコミュニティの垣根を取り払った好例として、識者の間でWill Wright氏のここ数年のGDCでのセッションと、彼の集大成的なシミュレーションゲーム「SPORE」がよく取り上げられるが、都合の良い部分だけを扱われている側面が強い。

 確かにWill Wright氏は、「クリエイターが用意した濃厚なストーリーや精巧な世界よりも、プレーヤー自身の体験の方がおもしろい」ということを言いだした時代の先駆者であり、実際、「SPORE」にはYou Tubeボタンがあり、これを押せばたちどころに自身がクリエイトしたプロシージャル(自動生成)コンテンツを動画にして、パブリックスペースに公開することができる。「ゆえに、時代はUCCであり、ボトムアップでなければならない」というわけだ。

 しかし、Will Wright氏が「SPORE」で実践したパラダイムシフトは、UCCの重要性と楽しさだけではなく、大規模化、高コスト化が進む産業構造をふまえ、バリエーションが必要だが制作が大変な部分、たとえば個性的なキャラクタ、オブジェクト、乗り物などを、パラメータとスクリプトによって表現すれば、開発工程を減らしたいメーカーと、自由にキャラクタを作りたいユーザーの双方がWinWinの関係を作ることができるというゲーム開発の構造改革を狙っていた。そしてそれを「SPORE」で見事に結実させた。

 さらに、ここが重要なところだが、Will Wright氏は、ゲームクリエイターに対してクリエイティビティを放棄して、ユーザーにコンテンツ生成を丸投げすべきとは一度も言っていない。むしろWill Wright氏は、プロトタイプの作成とテストプレイの重要性を説き、革新的なゲームを作ることを何よりも熱く主張している。「SPORE」のゲームデザインは、ユーザーではなくあくまでWill Wright氏が生み出したものだ。エンターテインメント産業におけるクリエイティビティの重要性は、まったく変わらず維持されているといっていいし、むしろ日本にこそ「SPORE」的な創造性のあるコンテンツが生まれるべきだ。

 話が多少脇道にそれてしまったが、結論として、OGC2008では、オンラインゲームとコミュニティサービスは、オンラインエンターテインメントという同じ土俵で競い合うライバルというべき存在として位置づけられることが明確となった。ゲームメーカーの経営者、特にオンラインゲームパブリッシャーのトップはこれを脅威として捉え、これを質的、量的に上回れるような対策を練るべきだが、そうしたコミュニティサービスがいくら盛況を博しても、コミュニティサービスはあくまでインフラでありゲームではなく、創造性とクオリティの高いゲームコンテンツは今後も求め続けられるということだ。

 昨年、日本のオンラインゲーム市場は全体として見ると低迷を続けた1年となったが、今年はどうなるのか。残念ながらOGCでそれを垣間見ることは叶わなかったが、ぜひとも次世代を感じさせ、また濃厚なクリエイティビティを感じさせるオンラインゲームが登場することを願いたい。

【会場の模様】
スポンサーブースでは、「BigWorld」エンジンをデモしていたソリッドワークスのほか、エンターブレインやビットキャッシュ、コロムビアミュージックエンターテインメントなどが出展していた


【Xbox Live 5th サービスの変遷と進化】
マイクロソフト ホーム&エンターテインメント事業本部XNAグループ部長田代昭博氏は、Xbox Liveの5周年を振り返った後、GDCでメインテーマとなった「Xbox LIVE Community Games」の概略をを紹介した。概略だけだったため、質疑応答ではXNA関連に質問が集中したが、MS側でもまだレギュレーションが固まっていない模様。夏頃には策定される見込み。ちなみにユーザーに提供されるコミュニティサービス「XNA Creators Club Onlineクリエイターズクラブオンラインは、日本、北米、欧州といった具合に、複数のボードが用意されるという。日本ではもちろん日本語でコミュニケーションが行なえるようだ

【Yahoo! Japanオープン化とゲームビジネスへの取り組みについて】
ヤフー パートナーソリューション本部ビジネス開発部部長鈴木勇二氏からは、インターネットサービス最大手「Yahoo!」の新たな取り組みが発表された。Yahoo!もまたソーシャルメディア化およびオープン化を推進していく。同時にパソコン中心から携帯電話やカーナビ、ゲーム専用機にも対応し、さらにYahoo!ゲームのゲームポータルとしての機能も強化していく。後半はややスポンサーセッション的で、パートナーを集めるためのアピールに終始していたのがもったいなかった

□ブロードバンド推進協議会のホームページ
http://www.bba.or.jp/
□「OGC2008」のホームページ
http://www.bba.or.jp/ogc/2008/
□関連情報
【2007年2月21日】BBA、アジアオンラインゲームカンファレンス2007を開催
コミュニティ、RMT、不正行為など、様々な運営リスクに正面から向き合う年に
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20070222/aogc_01.htm
【2007年2月】アジアオンラインゲームカンファレンス(AOGC)2007 記事リンク集
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20070226/aogclink.htm
【2008年2月21日】Game Developers Conference 2008現地レポート Microsoft基調講演 MicrosoftはXbox LIVE上にゲーム民主国家を建国する
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20080221/mskn.htm

(2008年3月14日)

[Reported by 中村聖司]



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