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会場:Moscone Convention Center Game Developers Conference(GDC)2008、開催の3日目である2月20日、当日のカリキュラムが終わった後に、「Game Developers Choice Awards」が開催された。このイベントはIGDA(国際ゲーム開発者協会)メンバーのゲーム開発者達の投票によって、昨年発売されたゲームを表彰するものだ。AudioやGame Designなど様々な部門が設定され、北米の開発者が最も注目した作品が選ばれる。
毎年開催される「Choice Awards」はGDCを訪れた開発者達の“お祭り”といった雰囲気を持っており、ノミネートされた作品が紹介されると会場から大きな歓声が上がる。賞を受賞するとさらに大きく盛り上がり、参加しているだけでも非常に楽しい雰囲気を持っている。このイベントの模様と北米開発者達のタイトルへの込めた想いを探っていきたいと思う。
■ 「Portal」、「FLOW」など斬新なタイトルが多数ノミネート、一方で日本のタイトルは減少
「BEST DEBUT GAME(デビューゲーム)」は「CRACK DOWN(ライオットアクト)」である。シリーズや続編をのぞく作品に贈られる賞ということだ。シリーズ作品が多く出ている中の賞で、PS3に配信されている進化をテーマにした「FLOW」やこちらもダウンロード配信されたアートな雰囲気を持ったシューティング「EVERYDAY SHOOTER」といった作品がノミネートされていた。「FLOW」は「BEST DOWNLOADABLE GAME」を受賞している。 受賞作の合間にゲームの発展に貢献した人物に贈られる「PAIONEER AWARD」として、“ビデオゲームの父”と言われるRALPH BAER氏が表彰された。RALPH氏はテレビに任意のオブジェクトを写し出し制御する「BROWNBOX」という機械を開発、その後世界初の家庭用ゲーム機である「ODYSSEY」が誕生するのだ。RALPH氏の名前が呼ばれると会場中の人々が立ち上がり、RALPH氏に拍手が贈られた。RALPH氏はそれに応えるように、自分が生み出したゲームという文化を発展させる開発者達に向かって感謝の言葉を語った。 昨年宮本茂氏が受賞した、全てのゲーム製作者と、ゲーマーに影響を与えた作品を作り出したとする人物に与えられる賞「Lifetime achievement」は今年は「シヴィライゼーション」シリーズや、「レールロードタイクーン」などを手がけたSid Meier氏に贈られた。Sid 氏は自身の経験を振り返りつつ、「ゲーム業界を今日の規模にまで発展させた全ての人の努力に感謝します」とコメントした。 「BEST AUDIO」、「BEST VISUAL ARTS」、「BEST WRITING(ストーリー)」の全9部門中の3部門を「BIOSHOCK」が受賞した。「CALL OF DUTY 4」や「GOD OF WAR II」、広大な宇宙を舞台としたアクションRPG「Mass Effect」といった作品も各部門にノミネートされたが、「BIOSHOCK」には及ばなかった。発売時期なども関係しているかもしれないが、やはり「BIOSHOCK」のプレーヤーをゲームにのめり込ませる優れた演出が大きな理由だろう。 今回ノミネートされたXbox 360やPS3のヒットタイトルに見られる特徴は、「ストーリーに密接に関係したインタラクティブな演出」である。ムービーシーンなどでプレーヤーとゲームキャラクタが乖離するのではなく、プレーヤーはコントローラを握りながら危機に直面し、自分の機転で突破するという、映画の主人公になったかのような活躍を、自分の手で作り出せる。「映画的」というのは使い古されたゲームの宣伝文句だが、今回ノミネートされたタイトルのいくつかはインタラクティブに世界に没入し、ヒーローやヒロインと深く“一体化”できることを実現している。この感触からは欧米開発者の「ゲーム開発の蓄積と手法の開眼」を感じることができる。 特に「BIOSHOCK」は突然破壊されたユートピアに迷い込んでから、ジェットコースターのようなスピードで事態が展開していく。その中でプレーヤーはやがて、“自分の意志”で事件を解明していくために努力をしている事に気づかされる。現在の世界とは別な進化を遂げた世界、数々の魅力的なキャラクタなどデザインのセンスが光る作品であるが、ストーリーと自分のプレイが時を経るごとに重なり、結びついていく本作のゲーム性があるからこそ、多くのゲーム開発者が本作を受賞作に選んだのだ。 一方でノミネートされる日本のタイトルの少なさが気になる。「BEST HANDHELD GAME」で「ゼルダの伝説 夢幻の砂時計」が受賞したものの、それ以外ノミネートされた作品は携帯機の「魂斗羅 Dual Spirits」と、Wiiの「スーパーマリオギャラクシー」のみだった。一昨年は「ワンダと巨像」が最優秀賞を受賞し、昨年も「大神」や「Final Fantasy XII」、「Wii Sports」など多数のタイトルがノミネートされていた状況から考えると、寂しいと言わざるを得ない。 ここにはこの1~2年でのXbox 360やPS3でゲームをするゲーム人口の開きが大きく影響をしているように感じられる。欧米と日本ではハードの販売台数で3倍近くの開きがある。欧米では「BIOSHOCK」や「CALL OF DUTY 4」など売り上げで100万本を突破するタイトルが次々と出ているのに対し、日本ではそういったタイトルはない。 かつて“次世代“と呼ばれたハードの普及台数、ソフトの販売本数が全く違い、日本は欧米と全く違う市場を形成しているのが現状だ。「アイドルマスター」が北米で販売されていたらノミネート作品には挙がったかもしれないが、それでも欧米の「HD志向」という点から見れば大きく出遅れているのが現状だ。今後日本市場の変化や、出てくるゲームに注目したい。 次々と「BIOSHOCK」が受賞作として読み上げられ、最優秀賞である「Game of THE YEAR」もこのまま……と思われたが、受賞したのは「Portal」であった。「Portal」は開発チームが壇上に上がり、喜びの言葉を語った。メンバーの1人はゲームの最後のネタを“俳句”にして読み上げ、会場の爆笑を誘った。 北米の開発者が「Portal」を「Game of THE YEAR」に選んだのは、「Portal」が受賞したもう一つの賞「INOVATION(革新性) AWARD」にあると思う。「Portal」は“カジュアルゲーム”に近い間口の広さと、深いゲーム性を持ったパズルゲームだ。壁に入り口と出口の次元の穴を開け、空間を結びつけるというゲームでしか実現できないユニークなルールと、全ての物体が重力に従うという厳密で現実的なルール、このふたつをいかに組み合わせてマップを進んでいくかを要求される。 「Portal」のマップは徐々に難易度を上げてくる。どのようにすればゴールにたどり着けるか試行錯誤し、コツをつかむと声を上げたくなるような達成感を味わうことができる。この楽しさは「物を撃つ」というFPSというジャンルの可能性を大きく広げるものである。「BIOSHOCK」はその優れた演出とストーリーテリング、世界観によってFPSというジャンルの未来像を提示した、北米の開発者はそこではなく、“FPSというジャンルの枠を広げた”「Portal」をより強く推薦した、ということなのだろう。
今回の「Choice Awards」は日本と方向性の違う進化の道を進みつつある北米ならではの視点、というものを感じさせられた。北米市場のXbox 360、PS3の好調さはこの流れをさらに加速させていくように思える。今回のGDCでは日米でのはっきりとした市場の変化を感じ取ることができる。ここから世界のゲーム市場を牽引する日米の開発者、そしてゲームファン達がどのような変化を導き出していくのか、注目したいところだ。
□Game Developers Conference(英語)のホームページ (2008年2月21日) [Reported by 勝田哲也]
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