|
会場:グランドプリンスホテル赤坂
■ 「ロストプラネット」PC版の開発ロードマップとGames for Windows対応経緯
セッションの内容は、2007年7月にカプコンより発売されたPC版「ロストプラネット」のGames for Windows承認の内幕を披露するというもの。先述したようにGames for Windowsは、マイクロソフトが推進するPCゲームのゲームプラットフォーム化戦略であり、Xbox 360やプレイステーション 3といったゲーム専用機と同様のサーティフィケーション(メーカーによるクオリティチェック)のプロセスを設けており、それを発売前にクリアしなければ、Games for Windowsのロゴを付けて販売することができない。 ところが、単一のメーカーがPCゲームを一個のゲームプラットフォームとして展開するという試みは、20年以上ものPCゲームの歴史においてまったく前例がないため、どのゲームメーカーもノウハウがない。そこで今回、いち早く参入を果たしたカプコンが自社の経験を披露することもあって、会場には多くのゲームメーカー関係者が詰めかけた。ディテクター、プロデューサー、あるいは経営者クラスのスタッフの姿も見受けられ、Games for Windowsに対する興味の高さを伺わせた。 秋山氏は、まずPC版プロジェクトのキックオフから完成までのロードマップを紹介。PC版のキックオフは、Xbox 360版完成直後の2006年11月。Games for Windowsが実稼働を始めたばかりであり、サードパーティー用にドキュメントの和訳が同時並行して進められている状況だったという。 開発が本格スタートしたのは、開発チームが休暇を終えた2007年1月頃。まずはPCへの移植に際して必要な作業を洗い出したところ、もともと「ロストプラネット」は、開発基盤であるMTフレームワーク自体がマルチプラットフォーム対応しているため、大がかりな仕様変更は必要なかったという。「ロストプラネット」がPCへの移植に際し、必要となった項目は以下の通りとなる。
・オンラインサービスをXbox LIVEからSteamへ変更 上記の作業よりむしろ、Games for Windows対応のノウハウを修得するための調査に時間が掛かったということで、マイクロソフトにプレ提出をしたのが2007年の4月。サーティフィケーションのプロセスを経て、5月にマスター版を提出、5月末にGames for Windows承認という流れになる。 また、PC版において、カプコン側の大きなチャレンジとして発表と同時に大きな話題となったのがDirectX 10対応である。マイクロソフトが提供するゲーム向けAPIの最新バージョンであるDirectX 10は、Windows Vistaのみに提供されており、DirectX 10対応はWindows Vista対応を意味することになる。DirectX 10は、まだ実装事例が限られているため、開発工程を短縮化させるもっとも有効なソリューションはGames for Windowsの承認を受けるということになる。三段論法的な結論として、Games for Windowsに対応した理由は、DirectX 10採用のためというのが実態のようだ。 ちなみにGames for Windowsでは、Windows Vistaへの対応やCEROレーティングの取得といった必須項目に加えて、ショウケースとしていくつかの機能の実装を“推奨”している。具体的には、DirectX 10対応、マルチコア対応、64bit対応の3項目で、「ロストプラネット」PC版では、DirectX 10とマルチコアに対応している。 64bitネイティブ対応については、コストに見合うだけの性能の向上が見込めないことと、32bitモードとのデータ互換性の問題、そして64bit版Windows Vistaの最大のメリットであるTB(テラバイト)クラスの膨大な量のメモリ領域を、そもそも「ロストプラネット」が必要としていないことなどから採用を見送ったという。 DirectX 10対応の内容については、レビュー等でたびたび触れてきているのでここでは割愛するが、伊集院氏は、「ロストプラネット」PC版の発売当初、DirectX 10対応ビデオカードのドライバが熟成されていなかったため、DirectX 9よりDirectX 10のほうがパフォーマンスが低下していたが、最新ドライバでは20%程度のパフォーマンスの向上を実現したことを報告し、パフォーマンス向上のために「DirectX 10に対応するメリットはあるのではないか」と結論づけた。
マルチコア対応については、もともとXbox 360がマルチコアマシンであり、また開発基盤であるMTフレームワークそのものもマルチコアに対応しているため、PC版のマルチコア対応にあたって特別な処理は必要なかったという。伊集院氏は、開発者へのアドバイスとして、移植に際し、後付でマルチスレッドを想定して開発しても、運用上の不具合が避けられないため、あらかじめマルチコアを想定した設計にすることが望ましいとコメント。また、使用するコア数についても、5コア以降は2チップになり、パフォーマンスの向上も緩やかになるため、「4コアあたりがもっとも性能とコストの効率が良いと思う」と述べた。
■ やはりWindows Vista対応に落とし穴が。カプコンは新たな試練にどう対応したのか
一部を紹介すると、「インストール中に、デスクトップにショートカットアイコンを作成してしまう(Windows Vistaではショートカットをデスクトップにおいてはならない。ゲームエクスプローラに一元化)」、「Windows XP上でゲームを起動できない(デバイスドライバの不備への対応不足)」、「ファイルがサインされていない(実行ファイルはデジタル署名が必須)」、「ファイルに適切なサマリーが含まれていない(製品名、社名等の埋め込み情報の未記入)」、「インストールプロセス中、権限の移行が二度発生してしまう(ユーザーアカウントコントロールに対する配慮不足)」などが紹介された。これらの多くは、Windows Vistaで新たに盛り込まれたセキュリティ機能に抵触したことに起因したトラブルであり、Windows Vistaに対応することのハードルの高さを伺わせる。 ちなみに、同作のオンラインサービスは、Games for Windows -LIVEではなく、Steamが採用されている。Steam絡みの問題の報告については契約絡みで公開されなかったが、秋山氏によれば、実際にはSteam絡みで多数の指摘を受けたという。Games for Windowsは、オンライン機能としてGames for Windows - LIVEの対応を必須とはしていないが、自社、あるいはサードパーティー製のサービスを利用する場合は、多少の指摘は覚悟しなければならないようだ。 なお、カプコンが「ロストプラネット」PC版にあたって、あえてSteamを採用した理由については、カプコンの販売スケジュールによる判断の一環ということで、Games for Windows - LIVEが機能的に見合わなかったというわけでなく、単純にGames for Windows - LIVEのライブラリの提供が間に合わなかったということのようだ。 秋山氏は最後に「小ネタ集」と称して、Games for Windowsが提供するサービスについていくつかのノウハウを披露した。まず、ゲームエクスプローラの基本スコアについては、最低点が基本スコアとして提示される実状を報告し、「ゲームのボトルネックを見て決めるべきでは」と意見を述べ、PCのゲームのパフォーマンスの指標としてはあまり参考にならないことを報告。
また、パッチについては、別途ベリフィケーションは必要にならないという実態も報告された。これは、メーカーにとってはプロセスが省けてありがたい反面、パッケージ発売前の承認が形骸化する危険性を孕んでいる。CEROのレーティング等でも同様の問題点が指摘されており、オンラインアップデートによるコンテンツの追加が常態化している昨今、ゲームコンテンツの適切な提供という点で今後業界全体で解決していくべき課題といえそうだ。
Character Wayne by (C)Lee Byung Hun/BH Entertainment CO., LTD,
□マイクロソフトのホームページ (2007年9月7日) [Reported by 中村聖司]
また、弊誌に掲載された写真、文章の転載、使用に関しましては一切お断わりいたします ウォッチ編集部内GAME Watch担当game-watch@impress.co.jp Copyright (c) 2006 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved. |
|