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ゲーム制作のアイデア、シナリオ制作のアプローチから見る「GEARS OF WAR」
北米ファンに賞賛されたゲームはいかにして生まれたか

3月5~9日開催

会場:Moscone Convention Center

 今年のGame Developers Choice AwardsのBEST GAMEを受賞した「GEARS OF WAR」は、GDC2007で様々な講演の題材に選ばれていた。本稿ではLead Designerを務めるCliff Bleszinski氏 (通称、CliffyB氏) による「GEARS OF WAR」の制作の過程と、Susan O'Connor氏によるシナリオ制作の手法についてお伝えしたい。

 O'Connor氏のセッションはどちらかと言えばゲーム全般に共通する制作手法であるが、1つの作品を生み出すために要素を集中していくCliffyB氏と、ゲームにおけるストーリーテリングの「鉄則」を語るO'Connor氏のそれぞれのスタンスは非常に興味深いものがあった。


■ ロックコンサートでのスタッフの動きがきっかけとして生まれたカバーシステム

Epic Games でLead Designerを務めるCliff Bleszinski氏
本作の大きな特徴であるカバーシステム。ステージの構成もこれを全体に作られている
 「Designing GEARS OF WAR: Iteration Wins」というテーマで、「GEARS OF WAR」の制作過程を語ったのは、Epic GamesでLead Designerを務めるCliff Bleszinski氏だ。17才から関わってきたCliffyB氏はこれまで「Jazz Jackrabbit」や「Unreal Tournament」といった作品を手がけたきた。

 「GEARS OF WAR」は「Unreal Warfare」エンジンを使用して作った作品を前身としている。開発スタッフは、これに乗り物を使う要素や、テリトリーコントロール要素を入れて……といったさまざまなアイデアを盛り込んだ作品だった。

 そこから更に発展したゲームを作るべく、スタッフ達は悩みながら様々なアイデアを出していった。そこでしゃがんで敵の攻撃をされる「カバーシステム」の原型のアイデアが出てきた。そのほかにも、素早く、戦略的なアクションゲームにしたい、兵士達のモラルを表現したい。プレーヤーがうまく戦えなくては味方が総崩れに、反対に英雄的な行動をしたらボーナスがあるようなシステムも面白いのでは? こういった要素が徐々に形になっていった。

 ゲームを形にしていくために積極的にブレーンストーミングが行なわれた。デザインをドキュメント化し、みんなが同じゴールを目指せるようにして、そのアイデアがゲームで実際にどう楽しめるかテストプログラムを作って意見を検討した。だめな場合はまたブレーンストーミングからやり直し、何度もこの行程を繰り返した。

 立ち止まって正確に攻撃をしていくようなゲームにしよう。そのため、走っている時は視界が狭くなり、銃が当たりづらくなる。エイリアンは出さないようにしよう。地下を舞台にもするが安易にマグマは使わないようにしよう。未来の話だがレーザーガンは使わないようにしよう……等々様々な細かい部分を決定していった。こういったアイデアを検討するのに役立ったビデオキャプチャープログラムである。もちろんメールも重要だった。しかし、何よりも大事なのは顔を合わせて会話することだった。

 「GEARS OF WAR」を象徴する障害物に隠れながら戦うカバーシステムはロックコンサートから生まれた。ここではスタッフ達が会場で目立たないように黒い服を着て、体をかがめて素早く様々な作業をしている。CliffyB氏はこれだ! と感じ、「Roadie Runだ!」と主張したが、細かく説明するまでスタッフの理解は得られなかったという。

 「映画のような体験ができるゲーム、いわゆるゲームらしいゲームではないものを遊んでみたい」という方向性から、コンサートスタッフの動きをヒントにユーザーに遅れて着いてくるカメラ。それは、CNNの中継カメラのような臨場感のあるカメラワークで、プレーヤーの後ろをまるで戦場カメラマンが追いかけているかのように少し遅れてカメラがついてくる。ハンディカメラのようにカメラはぶれ、フォーカスも一瞬遅れる。

 それでいながら銃撃シーンの時は1人称でも、3人称でもない銃を構えたキャラクタがアップになるセカンドパーソンになる。これは奇しくも「バイオハザード4」と同じようなアプローチになった。3人称視点を採用することでキャラクタの状態や、カバーの状態、周囲の動きや戦場の雰囲気を表現できるようになった。

 カバーシステムをより重視していく流れの中、それを使うためのステージデザインなどもより明確になってきた。壁に隠れるか、ただ歩くかといった判定も行なわせ、コンバットテストを繰り返すことでより明確なイメージを持たせた。

 カバーシステムの面白さは、実は古典的な2Dゲームに通じるものがある。敵の攻撃を避け、次の障害物へ移動するタイミングを計る。単純なアクションゲームの駆け引きを再現することで、カバーシステムを中心とした独特のゲーム性を生み出すことができた。

「Unreal Warfare」エンジンを使用して作った作品を前身として、さまざまなアイデアが詰め込まれた 「GEARS OF WAR」のプロトタイプのイメージ ブレーンストーミングでアイデアを出し合う。「いつも兎の格好で会議に出ている」というのはCliffyB氏のジョーク
カバーシステムのテストプログラム。こういった様々な実験を繰り返しシステムを煮詰めていった カバーシステムは、2Dゲームと同じような駆け引きの楽しさをもたらした コントロールに関しては縦のアクションをできるだけ入れないようにした


■ 武器やマルチプレイに込められたスタッフのこだわり

 この他にも「GEARS OF WAR」は様々な点にこだわっている。本作の主人公はマリオのような超人的なジャンプはしない。この作品は3Dグラフィックスのゲームでありながらあえて垂直方向での遊びを制限し、水平方向での駆け引きにフォーカスを当てている。

 また、武器にもこだわった。「ランボー3」で主人公が弓を使うシーンがお気に入りなCliffyB氏は本作にも弓形武器を入れようとするがリソースが膨大になると言われた。そこでクロスボウ型にして、他の武器との相違点を減らし、攻撃の爆発で新しいゲーム性を生み出させた。

 また、敵の攻撃に「手榴弾」をもたせ、これをひときわ目立つようにデザインした。この武器の威力を大きくし、更に遠くから投げつけられるのが見えるようにした。プレーヤーの注意を喚起させることで、伝統的な戦争映画の1シーンのような緊張感のある駆け引きをもたせることに成功した。また、レーザーガンではなく、拡散式のショットガンのようなエフェクトのエネルギー武器を使うことでもユニークなゲーム性を追加できた。

 マルチプレイのデザインでは「カウンターストライク」のようにある程度チーム同士でぶつかるポイントを設定し、直進してから壁に隠れてゆっくり横に移動していく、といったようにカバーシステムの面白さも追加した。より映画的な活躍シーンを持たせることにチャレンジした。特にCliffyB氏は「GRIDLOCK」のマップがお気に入りだという。

 「GEARS OF WAR」は味方が“傷つく”というシチュエーションが入っている。攻撃されてもプレーヤーは即死するわけでなく、仲間の援護を得ることで復活することができる。倒れた仲間を助けようとして、自らを危険にさらすような、場面も生まれる。攻撃されても復活ができるという戦い方はより激しい攻防戦を生むが、CliffyB氏は「少し便利すぎてしまった」と振り返る。復活ができるためぎりぎりの戦いの駆け引き、という部分が薄くなってしまったという。

 「GEARS OF WAR」は300万本以上のセールスを記録し、今年のGame Developers Choice AwardsのBEST GAMEを受賞した。「心血を込めて作った作品をみんなが受け入れてくれたことはとてもうれしい」というCliffyB氏のコメントに、会場からは拍手と歓声が上がった。  カバーシステムでは2Dゲームの駆け引きを再現する。美しい新しいグラフィックスの表現、演出と、シンプルなゲーム性。ゲームの本質とはどこにあるのか、技術が進むことでゲームはどう進化しているのか、これからも様々なクリエーターが作品の中にアイデアを盛り込んでいくだろう。

CliffyB氏がこだわったという弓形兵器。実際はクロスボウタイプになる プレーヤーの恐怖の対象となる手榴弾 マルチプレイにおける工夫。マップでは、敵の位置を把握する勘と経験が必要となる


■ プレーヤーはいかにしてヒーローになりきるか? ゲームにおけるスマートなストーリーの語り口

シナリオライターSusan O'Connor氏。表情豊かなスピーチで、とても楽しい雰囲気のセッションとなった
プレーヤーとキャラクタをつなぐ「mirror neurons」。この独特のセンスが面白い
 「Writing For The Hero with a Thousand Faces - Storytelling Challenges and Gears of War」というタイトルで、ヒーローを描くためのストーリーの制作方法を提示したのは、シナリオライターSusan O'Connor氏だ。彼女は、Susan O'Connor Writing Studioを設立し、Activision,、Atari,、Epic Games、Microsoftなど多数のデベロッパーの作品に参加し、RPGやMMO、RTSなど様々なジャンルのシナリオを担当している。

 O'Connor氏はヒーローを描くためのストーリーには3つのポイントがあると語る。1つは「mirror neurons」。「mirror neurons」とは、1人の不死身のヒーローに、300万人のプレーヤーを“繋げる”神経のことだ。プレーヤーは、ゲームをプレイしている時は英雄になりきる。英雄になりきるには英雄の「感情」がキーとなり、プレーヤーの感情をシンクロさせる足がかりとなる。

 ゲームのストーリーとデザインはプレーヤーと化身である英雄が同じ事を感じるようにしていかなくてはいけない。ストーリーにはゲームプレイを増幅させてくれる働きと、逆にゲームプレイを離してしまう要素がある。英雄が繋がっていると感じられれば、ストーリーはゲームプレイに感情を込めさせることができ、大きく増幅させることができる。

 2つ目が「back stage」。映画的手法を持ったゲームはプレーヤーにストーリーを押しつけ、結果としてプレーヤーをゲームから疎外してしまう危険性がある。製作者はストーリーを語りたい。しかしその手法が強引だとゲームをつまらなくしてしまうかもしれない。この問題を解決するには、ゲームプレイを「Front stage」として設定し、ストーリーを語るのをはあくまで「back stage」だと割り切ることだ。

 ストーリーを直接話すゲーム内でのウェイトはあくまで小さく、背景としてそれを実行する。例えるならそれは、飛行機の通信士のような語り方だ。ゲームプレイの背後で語られる、主張しすぎないストーリーテリング。ゲームストーリーはフライにおける“パン粉”のようなものだ。ゲームプレイという本体を飾る衣のような存在でいい。

 ゲームの要素は全てストーリーを語るためにある。ゲームのデザインはよりストーリーを語ることを助けてくれる。しかし、ストーリーそのものは「back stage」でいい。ストーリーはゲームプレイと共に進行することで、より自然に組み上げられていく。そのようにストーリーテリングを調整していくことは可能だ。

 3つ目が「through line」だ。プレーヤーの心の中に何を残すか? 主張しすぎないためにストーリーはシンプルにする必要がある。しかしだからといって、ちぐはぐなイベントの連続だけで描かれるストーリーは短絡的になってしまう。良いストーリーはもっともっと論理的であるべきだ。through line、一本の明確なストーリーラインがあれば、プレーヤーをより自然に物語の主人公に導くことが可能だ。

 一方でthrough lineが露骨になりすぎると、自由度に欠けていると感じさせ、プレーヤー自身がストーリーを進めているという感覚にブレーキをかけかねない。ここで「mirror neurons」によるプレーヤーと主人公のシンクロ、「back stage」によって語られるストーリーが重要になってくる。ストーリーは力を持たせたまま、明確に、かつ自然にユーザーに提示できる。

 これを実行するためには細かいチェックリストを制作し、思いつきをいつでも録音できるボイスレコーダーを常に手元に置いておくといい。そして何より、ストーリーをスムースに演出させるためのミーティングも積極的に行なう。ストーリーを語るのはチーム全体の努力であることもきちんと認識しておくことが重要だ。

 ボディイランゲージを交えて、そしてユニークなスライドを使って話すO'Connor氏のセッションはとても楽しかった。ストーリーを語るセンスがセッションそのものにも行き届いていたと感じた。

楽しくゲームを遊ぶ子供達にどうストーリーを語りかけるか ストーリーの語り方は飛行機の通信士のようにすべきだ プレーヤーの感情をいかにゲームキャラクタに結びつけるか

□Game Developers Conference(英語)のホームページ
http://www.gdconf.com/
□Game Developers Conference(日本語)のホームページ
http://japan.gdconf.com/
□関連情報
【3月7日】サンフランシスコにてGame Developers Conference 2007が開催
史上最大規模での開催。任天堂とSCEのキーノートに期待
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20070306/gdc2007.htm

(2007年3月11日)

[Reported by 勝田哲也]



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