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会場:ベルサール神田
松原氏の今年の講演は、比較的淡々とした内容で、自社に絡む情報に関しては皆無といっていいほどだった。特にゲーム開発、あるいは運営に関して新しい方向性を示すキーワードが聞けなかったのは残念だった。この曖昧さが何を意味するのかは不透明だが、コーエーのオンラインゲーム事業における一種の迷いのようなものを感じさせた。 ■ 昨年とは打って変わってWiiを高く評価。PS3についてはヘテロ型マルチコアのCellを懸念材料に
まずXbox 360は、国内累計販売台数25万台、世界1,040万台というデータを引き合いに出し、松原氏は、世界と日本の市場規模は1対4であり、これに当てはめれば日本でも250万台程度売れていなければおかしいが、少なくとも世界規模では確実にシェアを獲得したゲームプラットフォームであると評価。 周辺環境としてはXbox Liveサービスの定着、そしてXNAやカプコンのMTフレームワークといった開発環境の整備に着目し、「やろうと思えば高校生ぐらいからゲーム開発できる環境が整いつつある」と評価した。 プレイステーション 3に関しては、国内販売台数を60万台と推計。3月末までに300万台というSCEのロードマップを引き合いに出しながら、本格的に立ち上がってくるのは今年の後半頃ではないかと予測。 松原氏はエンジニア出身らしく、Cellがヘテロ型マルチコア(異種CPUの混合)アーキテクチャであることに着目し、CPU最大手のインテルがホモ型マルチコア(同種CPUの混合)の道を選択したことをふまえた上で、「今後はホモ対ヘテロの競争になる。開発者がどちらを選択するかによって厳しい戦いになることもある」と、昨年とは一転して、PS3に対して慎重な見方を示した。 最後のWiiについては、2カ月で140万台、3月末までに世界で600万台という数字を示し、「私も欲しいのですが、土曜の朝に並ぶ気力がわかなくてまだ手に入れられていない」という微妙な表現でその圧倒的な勢いと人気ぶりを強調した。 松原氏が評価したのは、WiiチャンネルとWii Connect24の2つのオンライン機能。Wiiチャンネルについてはゲーム外でのチャレンジを、Wii Connect24については豆電球1つ分という省電力状態での常時接続環境を最大限に評価。その上で、すでにプリペイドカードを利用した決済手段も備えていることから、MMORPGを含めたオンラインゲームの可能性もあるのではないかと期待を寄せた。
アジアの事情については、韓国、中国共に安定成長を維持し、韓国と中国を合わせた市場規模を2,500億円と見積もった。韓国については、昨年11月のG★の視察から、本格MMORPGの減少が進む一方で、ビジネスモデルとゲーム内容の多様化が図られていると報告。加えて、韓国で「真・三國無双BB」の反応が良いことについて触れ、韓国展開への確かな手応えを覚えた一方で、会場には「『無双』によく似たゲームも散見され、競合も多い」と苦笑いした。
■ 松原氏が提唱する新しいビジネスモデル「パーソナライズド・エンジン」とは何か?
さて、松原氏は、現在オンラインゲームがBtoB(企業間取引)とBtoC(企業と消費者の取引)を主体に展開していることに触れ、今後は新しい形のBtoB、そして顧客同士が取引を行なうCtoCも考えられるのではないかとした。新しい形のBtoBとは、ゲーム内広告事業とパーソナライズド・エンジン。CtoCとは、顧客が制作したコンテンツの売買、わかりやすい例では「Second Life」のような例を指す。 中でも松原氏らしいビジネスモデルがパーソナライズド・エンジンだ。これは松原氏の造語とのことで、明確に定義された言葉ではない。基本的な考え方としては、オンラインゲーム運営で蓄積された各種データから特性を抽出し、ゲーム外のサービスと連携させていくという一種のデータマイニングエンジンだ。 松原氏は、「あくまで技術ドリブンの課題であり、私の妄想に過ぎません」ということだが、具体的な活用法として広告エンジンやコミュニティマッチングに活用できると期待を寄せた。実際、大学等一部の研究機関では、研究が行なわれており、今後の技術的発展が確実視されている分野だ。 松原氏によれば、オンラインゲームのプレイによって積み重ねられるデータは、密度が非常に濃いという。きちんとマイニングすれば、そのユーザーがどういう嗜好を持ち、どのコミュニティと関わりを持っているかが把握できるという。確かに、オンラインゲームは娯楽であり、決められたルール内で勝手気ままにプレイしているため、ナマの部分が出やすいのは間違いないだろう。 ただ、それをどう扱うかというのは慎重に考えるべき課題であり、単に技術の進化で解決する話ではない。たとえば、その情報を第三者に売る、あるいはそれをトリガーにゲーム内広告を取るということは難しいだろうし、ユーザーが認めないだろう。しかし、コミュニティマッチングのために、サーチ機能の延長線上のサービスとしてユーザーがそのデータを扱えたり、ユーザーの嗜好にマッチした形で自律性AIが自動生成され、「なぜかプレーヤーの好みを全部把握しているNPCと共に冒険ができる」という話だったら、それを望むユーザーも多いのではないか。
松原氏の「ビジネスモデルとしての可能性」という扱いには、若干引っかかるものを感じたが、日々増え続けるサーバー上のデータに対して有益な特性だけを抽出し、オンラインゲーム運営に役立てるというアプローチは、オンラインゲームの新しい未来を感じさせてくれる。エンドユーザーのひとりとしてその建設的な発展に期待したいところだ。
□ブロードバンド推進協議会のホームページ (2006年2月24日) [Reported by 中村聖司]
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