【Watch記事検索】
最新ニュース
【11月30日】
【11月29日】
【11月28日】
【11月27日】
【11月26日】

セガ植村氏、「オシャレ魔女 ラブ and ベリー」開発秘話を公開
女児向けのマシンはいかに生まれたか、アパレル事業参入の意図とは?

8月30日~9月1日開催

会場:昭和女子大学



 CEDEC2日目に行なわれたセガのファミリーエンターテインメント事業を牽引する植村比呂志氏の講演は、昨年に引き続き今年も大盛況となった。「甲虫王者ムシキング」の成功のノウハウを語った昨年の講演は、CEDECの歴史に残る名講演だったが、その影響もあるのか、今年はアーケードをテーマにしたセッションが増えていた。

 今年は「ムシキング」の次の作品となる「オシャレ魔女 ラブ and ベリー」をテーマに、女児向けという前人未踏の市場でいかに成功を勝ち取り、定着させていったのか、その開発秘話が語られた。


■ 2年弱で183億円の売り上げを達成したモンスターコンテンツ

セガR&Dクリエイティブオフィサー(研究開発担当役員)兼ファミリーエンターテインメント研究開発部長 植村比呂志氏
カード販売枚数1億8,300万枚。昨年のCEDECで報告された「ムシキング」の2億3,000万枚(2005年7月末時点)には届かないが、もの凄い数字である
 まず初めに植村氏が提示したデータから、「オシャレ魔女 ラブ and ベリー」の基本情報をまとめておきたい。

 「オシャレ魔女 ラブ and ベリー」は、女児にターゲットを絞ったオシャレとダンスをテーマにしたアーケードゲーム。「ムシキング」同様に、ゲームプレイには100円を投入すると1枚はき出されてくる「オシャレまほうカード」を使用する。

 ダンスを踊る前に、手持ちのカードを組み合わせて制限時間内にラブ、またはベリーを着飾らせる。その結果は「オシャレパワー」として数値化され、その後に始まるダンスの成績と合わせて、最終結果となる「いけてるど」が決まる。ダンスは、歌に合わせてボタンを押す、いわゆる音ゲーとなっており、小さい子供でもプレイできるように、音塊は使用せず、歌詞に合わせてボタンを叩くというシステムが採用されている。

 会場では実際にデモも行なわれたが、スタートボタンを押してから、1プレイが終わるまでに数分かからない。ダンスの時間が思ったよりも短く、バーコードカードを通してオシャレにあれこれ時間を掛ける時間のほうが長いぐらい。初期時点の主人公達は、寝癖にパジャマ姿、足はスリッパという、否が応でもオシャレさせたくなる格好をしていたり、踊るステージを選ばせることで、TPOに応じてオシャレも変えることを学ばせるなど、大人の目で見ても「うまいな」と思わせるエッセンスが詰め込まれている。

 「オシャレ魔女 ラブ and ベリー」は、2004年10月30日からアミューズメント施設への投入が開始され、これまでに1億8,300万枚(183億円)のカードを売り上げ、筐体出荷台数は9,700台、設置店舗は5,300店舗で、セガ想定しているユーザー数は200万人。1人当たり100枚弱のカードを所持している計算になる。カードの種類は222種類にもおよび、年に4回、3カ月ごとに30種類前後の新カードを投入しているという。

【「オシャレ魔女 ラブ and ベリー」】
講演ではまず初めにゲームを知らない人のために「オシャレ魔女 ラブ and ベリー」の実演が行なわれた。インターフェイスはカード読み取り用のバーコードリーダーに、女児の手を覆うほどに大きな丸ボタンが2つ。ゲームプレイは大きく分けて、カードをどんどん通してオシャレをするフェイズと、オシャレをして音ゲーを楽しむフェイズの2つがある


■ 「ムシキング」女児プレーヤーから着想を得た「オシャレ魔女 ラブ and ベリー」

「ムシキング」で女児プレーヤーの登場が、「オシャレ魔女 ラブ and ベリー」プロジェクトを後押ししたと説明する植村氏
「オシャレ魔女 ラブ and ベリー」をプレイする娘を見守る母親の思考プロセスをおもしろおかしく語る植村氏。財布を握っているのは親だから、ここを重視するのは戦略上非常に重要なポイントだ
 植村氏は、最初に開発の経緯について触れ、リスクを考えたら男児向け第2弾が妥当だったにも関わらず、最初から女児向けと決めていたという。その理由は、2004年当時「ムシキング」が未成熟だったため、「ムシキング」ブランドを守るということと、似たようなものは作りたくなかったためだという。

 しかし、アーケード業界は、「ヒットさせないと大変悲惨な運命が待ちかまえており、先がない」ということで、植村氏自身ずいぶん悩み、結果として開発に1年半ぐらいの期間が掛かってしまったという。

 その模索の過程で光りが見えてきたという。それは「ムシキング」の女性プレーヤーの存在。「ムシキング」に女児が熱中しているのを見て、女児も男児と同じように、「ゲームに熱く燃えたがっているのではないか」という予測を深めたという。実際、ロケテストでは、テスターの性別は女性が87%、男性13%で、このうち「ムシキング」経験者が42%と、植村氏の期待通りの数値が出ている。

 次に、テーマにオシャレを持ってきた理由として植村氏は、普遍的な興味を持つテーマであり、親子で楽しめ、親が納得できるテーマ、そしてゲームプレイを通じて娘に伝えたいメッセージ性を持っていることという3つの理由を挙げた。オシャレの採用理由に、親が絡んでいるのが意外なところだが、植村氏によれば「ダンナに内緒で数万円をつぎ込んでしまっており、ゲームを通じて娘が少しでも成長してくれたら、自分としても心の慰めになる」という複雑な母親の思考プロセスを披露し、植村氏は「これが実は重要なポイント」と力説した。

 ちなみに母親が娘にオシャレを通じて伝えたいことは、身だしなみがオシャレの第一歩であり、目的にあわせてオシャレの内容を変えていくことの2つだという。実際、これは同作のゲームデザイン上、非常に重要視されており、女児はゲームを通じて寝癖を直し、スリッパを靴に履き替え、パジャマ姿をお洋服に着替えることを学ぶ。次の段階として、いくらドレスが気に入っていても、すべての場所でそれが通用するわけではないということを学ぶ。

 3つ目の段階として、コーディネートを学ぶ。講演では、実際に親子で遊んでいる映像が流されたが、ここでは母親の力が発揮されるようで「(娘の)ちぐはぐなファッションセンスを見ていると、黙ってられない」とコメントする親の姿も見られた。

 ゲームデザイン的な特徴としては、オシャレの得点化と、ゲージのない音ゲーの2つ。オシャレの得点化は、本来感覚的な要素であるオシャレを、髪、服、靴、ステージ、色合い、シーズン、流行といった要素の相性から得点化し、オシャレ度を数値的に計る仕組み。ゲージのない音ゲーは、ゲージを付けるとプレイ中ゲージしか見なくなるため、オシャレの魅力がスポイルされてしまう。これを防ぐため、ゲージをなくし、変わりに歌詞を載せ、発音のタイミングでボタンを叩かせるシステムを採用している。

 いずれも子供が遊びやすくするための工夫であり、これにより歌を覚えられる3歳児程度から、無理なく遊べるようになっている。植村氏は子供は論理ではなくて、心地よさが大事であることを強調。思わず頷いてしまう説得力ある言葉である。


■ 今後の展開は「子供の夢を実現し、手が届くものへ」

「オシャレ魔女 ラブ and ベリー」の会議の様子。植村氏以外全員女性という、ゲームメーカーの会議とは思えないほど異質な風景だ
デザイナーに渡す新しい洋服の企画書。ここに実際の生地見本が張られ、テクスチャの質感の再現に役立てられる
盛岡にオープンするテーマパーク「マジカルキャッスル」。遠距離に住む家庭の母親にはやや頭の痛い問題になりそうだ
「オシャレ魔女 ラブ and ベリー ~DSコレクション~」を実機で紹介する植村氏。GBAカートリッジ挿入口に装着されているのが、「オシャレまほうリーダー」。DSとDS Liteの挿入口の奥行きの違いは、アタッチメントを取り付けて対応する
 植村氏は、今後の展開について「ムシキング」と同様に、「カードが紙くずにならないように続けることが使命」とし、そのための施策として「本物になるために現実とファッションの融合」を挙げた。

 ここで植村氏は、「オシャレ魔女 ラブ and ベリー」の会議中の写真を紹介した。植村氏以外は全員若い女性がずらりと並んでいる。植村氏は「自慢するわけではないが」とおどけつつ、「以前は男性ばかりだったが、ある時、毎日スタッフの着てる服が同じことに気付き、これはダメだということで、まず女性を増やした」という。新しいスタッフには、アパレル業界経験者や服飾専門学校の卒業生を選んだという。

 ここからの話の展開に驚いたのだが、女性スタッフが何をやってるのかというと、通常のゲーム制作に加え、中国の工場を取材し、最新の生地見本をチェックして次のシーズンの流行を予測したり、実際にゲームに登場する服を、そっくりそのまま現実の服としてデザインしたりなど、アパレル風な業務というより、アパレル事業そのものに携わっているのである。

 植村氏によれば、ファッションデザイナーのセンスやトレンドに関わらず、最新の生地見本を見ることで、だいたい次の流行りが予想できるという。このアプローチは「オシャレ魔女 ラブ and ベリー」プロジェクトの全体に活かされており、たとえば、デザイナーに新しい服の企画書を渡す際は、テクスチャの質感を正確に再現するために実際の生地見本を、イラストに貼り付けている。これにより、後日、ゲーム内の服を現実の服へと再現する場合も、生地見本から正確に再現することができるという。

 ちなみに実際に再現された服は数千円から数十万円で販売しているという。布地のシャツはまだ買える値段だが、凝ったイブニングドレスともなると、もともと大量生産を前提にしていないため、オートクチュール並の価格に跳ね上がる。100円のカードに描かれた服を、実際の服にして売れるものなのか、と疑問に思っていたら、公開されたショップの映像では、売り場は親子で埋め尽くされており、売り切れた棚も見られただけでなく、ショップオープン時に初日で400万円を売り上げた店舗も存在するというから凄い。別の意味で大規模な新規ユーザーの開拓が行なわれていることをまざまざと見せつけられた。

 植村氏は最後に、その次の展開として、9月中旬に盛岡にオープンするテーマパーク「マジカルキャッスル」と、全国の女児待望の「オシャレ魔女 ラブ and ベリー ~DSコレクション~」(11月22日、6,090円)を紹介した。

 「マジカルキャッスル」は、「オシャレ魔女 ラブ and ベリー」のあらゆるコンテンツを体験できるテーマパークで、ゲームコーナーやショップに加え、あまりに高額すぎて買えないような服を試着できたり、フィッティングルームでは髪型を整えたり、化粧まで施すことができる。そのままコンテストにも参加できるようにステージも用意され、「オシャレ魔女 ラブ and ベリー」が大好きな女児にとってはまさに夢の楽園となる。

 一方、「オシャレ魔女 ラブ and ベリー ~DSコレクション~」も非常に強力なコンテンツだ。アーケード版より機能が充実したゲームソフトに加え、GBAカードリッジ部分に装着できる「オシャレまほうリーダー」を標準で同梱しており、手持ちのカードを読み込ませてゲームがプレイできる。セガの見込み値である200万ユーザーが確かならば、ミリオンを超える大ヒットは間違いないと思われる。

 昨年のテーマだった「ムシキング」は対象が同姓ということもあり、講演内容も理解できる要素が多かったが、今回の「オシャレ魔女 ラブ and ベリー」は、オシャレに音ゲーをミックスさせ、アーケードゲームにアパレル産業を直結させるという想像を超えるビジネス展開に、カルチャーショックを受けっぱなしだった。植村氏が指摘したように、女児を含む女性向け市場は、まだまだ大きな潜在需要が眠っていると思われる。彼女たちが成長したとき、ゲーム市場とどう向き合っていくのか。今後、大きな成長が見込まれる分野だけに今後も引き続き注目していきたいところだ。

【アパレル事業】
「オシャレ魔女 ラブ and ベリー」はすでにアパレル事業にも参入している。ラブとベリーは14歳という設定だそうだが、販売している服のサイズは100から140と、幼稚園から小学校低学年あたりをメインターゲットにしている

【オシャレ魔女 ラブ and ベリー ~DSコレクション~】
「オシャレまほうリーダー」の実演を行なう植村氏。「アーケードではオシャレタイムが2分しかないためあまりチャレンジできないが、DS版ならゆっくりできる」と説明。カードに付加価値が生まれる強力なコンテンツだ

□CESAのホームページ
http://www.cesa.or.jp/
□「CEDEC 2006」の公式ページ
http://cedec.cesa.or.jp/
□関連情報
【2005年8月30日】セガ植村氏、「ムシキング」成功のノウハウを語る
「ムシキングにおけるアーケードとコンシューマのアナログ的連動」
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20050830/cedec_02.htm
【2006年8月30日】CESA、「CESA DEVELOPERS CONFERENCE 2006」を開催
過去最多の1,700人強が参加する国内最大のゲームカンファレンス
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20060830/cedec_01.htm

(2006年9月1日)

[Reported by 中村聖司]



Q&A、ゲームの攻略などに関する質問はお受けしておりません
また、弊誌に掲載された写真、文章の転載、使用に関しましては一切お断わりいたします

ウォッチ編集部内GAME Watch担当game-watch@impress.co.jp

Copyright (c) 2006 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.