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会場:昭和女子大学
今年は「ムシキング」の次の作品となる「オシャレ魔女 ラブ and ベリー」をテーマに、女児向けという前人未踏の市場でいかに成功を勝ち取り、定着させていったのか、その開発秘話が語られた。
■ 2年弱で183億円の売り上げを達成したモンスターコンテンツ
「オシャレ魔女 ラブ and ベリー」は、女児にターゲットを絞ったオシャレとダンスをテーマにしたアーケードゲーム。「ムシキング」同様に、ゲームプレイには100円を投入すると1枚はき出されてくる「オシャレまほうカード」を使用する。 ダンスを踊る前に、手持ちのカードを組み合わせて制限時間内にラブ、またはベリーを着飾らせる。その結果は「オシャレパワー」として数値化され、その後に始まるダンスの成績と合わせて、最終結果となる「いけてるど」が決まる。ダンスは、歌に合わせてボタンを押す、いわゆる音ゲーとなっており、小さい子供でもプレイできるように、音塊は使用せず、歌詞に合わせてボタンを叩くというシステムが採用されている。 会場では実際にデモも行なわれたが、スタートボタンを押してから、1プレイが終わるまでに数分かからない。ダンスの時間が思ったよりも短く、バーコードカードを通してオシャレにあれこれ時間を掛ける時間のほうが長いぐらい。初期時点の主人公達は、寝癖にパジャマ姿、足はスリッパという、否が応でもオシャレさせたくなる格好をしていたり、踊るステージを選ばせることで、TPOに応じてオシャレも変えることを学ばせるなど、大人の目で見ても「うまいな」と思わせるエッセンスが詰め込まれている。
「オシャレ魔女 ラブ and ベリー」は、2004年10月30日からアミューズメント施設への投入が開始され、これまでに1億8,300万枚(183億円)のカードを売り上げ、筐体出荷台数は9,700台、設置店舗は5,300店舗で、セガ想定しているユーザー数は200万人。1人当たり100枚弱のカードを所持している計算になる。カードの種類は222種類にもおよび、年に4回、3カ月ごとに30種類前後の新カードを投入しているという。
■ 「ムシキング」女児プレーヤーから着想を得た「オシャレ魔女 ラブ and ベリー」
しかし、アーケード業界は、「ヒットさせないと大変悲惨な運命が待ちかまえており、先がない」ということで、植村氏自身ずいぶん悩み、結果として開発に1年半ぐらいの期間が掛かってしまったという。 その模索の過程で光りが見えてきたという。それは「ムシキング」の女性プレーヤーの存在。「ムシキング」に女児が熱中しているのを見て、女児も男児と同じように、「ゲームに熱く燃えたがっているのではないか」という予測を深めたという。実際、ロケテストでは、テスターの性別は女性が87%、男性13%で、このうち「ムシキング」経験者が42%と、植村氏の期待通りの数値が出ている。 次に、テーマにオシャレを持ってきた理由として植村氏は、普遍的な興味を持つテーマであり、親子で楽しめ、親が納得できるテーマ、そしてゲームプレイを通じて娘に伝えたいメッセージ性を持っていることという3つの理由を挙げた。オシャレの採用理由に、親が絡んでいるのが意外なところだが、植村氏によれば「ダンナに内緒で数万円をつぎ込んでしまっており、ゲームを通じて娘が少しでも成長してくれたら、自分としても心の慰めになる」という複雑な母親の思考プロセスを披露し、植村氏は「これが実は重要なポイント」と力説した。 ちなみに母親が娘にオシャレを通じて伝えたいことは、身だしなみがオシャレの第一歩であり、目的にあわせてオシャレの内容を変えていくことの2つだという。実際、これは同作のゲームデザイン上、非常に重要視されており、女児はゲームを通じて寝癖を直し、スリッパを靴に履き替え、パジャマ姿をお洋服に着替えることを学ぶ。次の段階として、いくらドレスが気に入っていても、すべての場所でそれが通用するわけではないということを学ぶ。 3つ目の段階として、コーディネートを学ぶ。講演では、実際に親子で遊んでいる映像が流されたが、ここでは母親の力が発揮されるようで「(娘の)ちぐはぐなファッションセンスを見ていると、黙ってられない」とコメントする親の姿も見られた。 ゲームデザイン的な特徴としては、オシャレの得点化と、ゲージのない音ゲーの2つ。オシャレの得点化は、本来感覚的な要素であるオシャレを、髪、服、靴、ステージ、色合い、シーズン、流行といった要素の相性から得点化し、オシャレ度を数値的に計る仕組み。ゲージのない音ゲーは、ゲージを付けるとプレイ中ゲージしか見なくなるため、オシャレの魅力がスポイルされてしまう。これを防ぐため、ゲージをなくし、変わりに歌詞を載せ、発音のタイミングでボタンを叩かせるシステムを採用している。
いずれも子供が遊びやすくするための工夫であり、これにより歌を覚えられる3歳児程度から、無理なく遊べるようになっている。植村氏は子供は論理ではなくて、心地よさが大事であることを強調。思わず頷いてしまう説得力ある言葉である。 ■ 今後の展開は「子供の夢を実現し、手が届くものへ」
ここで植村氏は、「オシャレ魔女 ラブ and ベリー」の会議中の写真を紹介した。植村氏以外は全員若い女性がずらりと並んでいる。植村氏は「自慢するわけではないが」とおどけつつ、「以前は男性ばかりだったが、ある時、毎日スタッフの着てる服が同じことに気付き、これはダメだということで、まず女性を増やした」という。新しいスタッフには、アパレル業界経験者や服飾専門学校の卒業生を選んだという。 ここからの話の展開に驚いたのだが、女性スタッフが何をやってるのかというと、通常のゲーム制作に加え、中国の工場を取材し、最新の生地見本をチェックして次のシーズンの流行を予測したり、実際にゲームに登場する服を、そっくりそのまま現実の服としてデザインしたりなど、アパレル風な業務というより、アパレル事業そのものに携わっているのである。 植村氏によれば、ファッションデザイナーのセンスやトレンドに関わらず、最新の生地見本を見ることで、だいたい次の流行りが予想できるという。このアプローチは「オシャレ魔女 ラブ and ベリー」プロジェクトの全体に活かされており、たとえば、デザイナーに新しい服の企画書を渡す際は、テクスチャの質感を正確に再現するために実際の生地見本を、イラストに貼り付けている。これにより、後日、ゲーム内の服を現実の服へと再現する場合も、生地見本から正確に再現することができるという。 ちなみに実際に再現された服は数千円から数十万円で販売しているという。布地のシャツはまだ買える値段だが、凝ったイブニングドレスともなると、もともと大量生産を前提にしていないため、オートクチュール並の価格に跳ね上がる。100円のカードに描かれた服を、実際の服にして売れるものなのか、と疑問に思っていたら、公開されたショップの映像では、売り場は親子で埋め尽くされており、売り切れた棚も見られただけでなく、ショップオープン時に初日で400万円を売り上げた店舗も存在するというから凄い。別の意味で大規模な新規ユーザーの開拓が行なわれていることをまざまざと見せつけられた。 植村氏は最後に、その次の展開として、9月中旬に盛岡にオープンするテーマパーク「マジカルキャッスル」と、全国の女児待望の「オシャレ魔女 ラブ and ベリー ~DSコレクション~」(11月22日、6,090円)を紹介した。 「マジカルキャッスル」は、「オシャレ魔女 ラブ and ベリー」のあらゆるコンテンツを体験できるテーマパークで、ゲームコーナーやショップに加え、あまりに高額すぎて買えないような服を試着できたり、フィッティングルームでは髪型を整えたり、化粧まで施すことができる。そのままコンテストにも参加できるようにステージも用意され、「オシャレ魔女 ラブ and ベリー」が大好きな女児にとってはまさに夢の楽園となる。 一方、「オシャレ魔女 ラブ and ベリー ~DSコレクション~」も非常に強力なコンテンツだ。アーケード版より機能が充実したゲームソフトに加え、GBAカードリッジ部分に装着できる「オシャレまほうリーダー」を標準で同梱しており、手持ちのカードを読み込ませてゲームがプレイできる。セガの見込み値である200万ユーザーが確かならば、ミリオンを超える大ヒットは間違いないと思われる。
昨年のテーマだった「ムシキング」は対象が同姓ということもあり、講演内容も理解できる要素が多かったが、今回の「オシャレ魔女 ラブ and ベリー」は、オシャレに音ゲーをミックスさせ、アーケードゲームにアパレル産業を直結させるという想像を超えるビジネス展開に、カルチャーショックを受けっぱなしだった。植村氏が指摘したように、女児を含む女性向け市場は、まだまだ大きな潜在需要が眠っていると思われる。彼女たちが成長したとき、ゲーム市場とどう向き合っていくのか。今後、大きな成長が見込まれる分野だけに今後も引き続き注目していきたいところだ。
□CESAのホームページ (2006年9月1日) [Reported by 中村聖司]
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