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Game Developers Conference 2006現地レポート

Wi-Fiを得た「どうぶつの森」次はRevolutionへ!?
「ポケットの中にあるのはフランチャイズ? 『おいでよ どうぶつの森』のケーススタディ」
「Wi-Fiコネクションの目指すもの: ニンテンドーDSワイヤレス通信機能の事後分析」

3月23日、24日 開催

会場:San Jose McEnery Convention Center

 「Game Developers Conference(GDC) 2005」での基調講演をかわきりに始まったといえる任天堂のニンテンドーDSによるWi-Fi戦略。GDC2005で発表になった「おいでよ どうぶつの森」のWi-Fi対応に、期待が膨らんだユーザーも多かっただろう。そして、「Touch! Generation」シリーズとともに、発売当日から怒涛の勢いで売れた「おいでよ どうぶつの森」の快進撃は、日本国内で任天堂ファンのパワーを見せ付けた。

 そんな任天堂は、GDC2006において、岩田代表取締役社長の基調講演を2年連続で行なったほか、「おいでよ どうぶつの森」、そして「Wi-Fi」に関するセッションを行なった。本稿では、その2つを取りまとめ、日本国内のみならず、任天堂が業界をある意味席巻した2005年度のDS戦略について、再び探ってみたいと思う。

■ Wi-Fiを得ることで本来の姿に近づいた!? 「おいでよ どうぶつの森」

任天堂の江口氏
 「ポケットの中にあるのはフランチャイズ? 「おいでよ どうぶつの森」のケーススタディ」と題された、任天堂情報開発本部の江口勝也ディレクターによるセッションでは、「家庭用ゲームをワイヤレス対応の携帯機システム向けに作りなおす際のデザイン課題について語られた。

 ディスクシステムが発売された'86年に任天堂に入社した江口氏は、宮本 茂氏、手塚卓治氏のもと、ゲームの制作に携わって20年になる。「スーパーマリオブラザーズ3」、「スーパーマリオワールド」、「スターフォックス」、「ウェーブレース64」、「ヨッシーストーリー」などでコースデザインやディレクターを務めてきた人物だ。

● 原点回帰を繰り返してきた「どうぶつの森」

企画書の一部
 「どうぶつの森」は、64DD向けのソフトとして企画された。64MBの記録容量、時計機能を内蔵した64DDの機能を使った新しいソフトの企画として立ち上がったのが最初。その当時の企画書によれば、コンセプトとして「複数のプレーヤーが互いに関わりあいながら目的を達成していく“コミュニケーションフィールド”を作成する」ということが訴えられていた。

 つまり最初は「目的のあるゲーム」として企画されたわけで、あくまで「コミュニケーションフィールドを作る」という点においては変わらないものの、これは現在の「どうぶつの森」とは異なる。江口氏によれば、当時、「コミュニケーション」というだけで、本当に作りたいフィールドにプレーヤーを引き込む確信が持てなかったため、「まずは、なじみのある定石に添った形で始めるのがよいのではないか」という判断によって「目的」が追加されたそうだ。

 だが、普通に作っても面白くないだろうということで、主人公は非常に非力で、動物を操ることで難関に立ち向かっていくゲームにしようと考えた。犬は埋まっているアイテムをかぎつけたり、鳥は障害物を飛び越えて向こうのアイテムを持ち帰ってきたり……。時計機能を利用することで、昼にしか活躍できない鳥、夜間にしか登場しない狼など、リアルタイムにシンクロした要素も考えられていたという。これが「どうぶつの森」の原型だったわけだ。

 「そんな動物たちを操りながら、複数のプレーヤーが巨大な悪を倒そうとしているうちに、お互いコミュニケーションをとることが楽しくなって、魔王のことなんてどうでもよくなってしまう、そんなことを思い描いていました」と江口氏。非常にユーモラスな話だ。しかしその後、64DDのビジネスがうまくいかず、企画自体がニンテンドウ64向けに方針転換されることになる。そうすると困ったのがハードの仕様変更だ。64DDの記憶容量を最大限に生かし、“ユーザーの状態をすべてセーブデータに残す”ということを考えていたのだが、それが64ではセーブ領域がごっそり減り、セーブ領域は1Mbit=128Kbyteだけ。しかも、セーブデータの安全性を確保するために、同じデータをコピーして持っている必要があるため、実質、セーブデータは64Kbyteとなってしまった。

 こうなると、ゲーム要素の何を生かし、何を切り捨てるか、厳選することが必要になってくる。そこで原点に返った江口氏は、「本当に遊んでほしいのは何か」を考えた。本当にやりたかったのは「コミュニケーションフィールドを提供する」ということ。余分なところにパワーをかける余裕はないから、ダンジョンを排除、魔王も戦闘も削除。広大なフィールドもいらない。また、終わりが必要ないので、ストーリーもエンディングもいらない。「ゲームが終わってはいけない」と判断したわけだ。

 そして必要だと判断されたのは、以下の4つの要素。

・プレーヤーがやったことが“残っているフィールド”
・プレーヤーがフィールドに対して何かしたくなるモチベーション
・お互いが話のネタにできる要素と、プレーヤー同士をつなぐさまざまな仲介要素
・毎日遊びたくなる変化

 それまで想定していた大きな規模のものから、とても小さな規模のものに変更しなければならなかったところから、この作品の開発が始まった。「とても面白いことなのですが、据え置き機であるニンテンドーゲームキューブ向けから、携帯機であるニンテンドーDS向けに舞台を移す際にも、より小さな舞台に作り直すことが必要になったが、開発初期の段階にも同じことがあった」と江口氏はまとめていたが、その間の苦労を微塵も感じさせない軽妙な語り口が印象に残った。

● 「ソフトを終わらせない」逆転の発想が生み出す脅威のロジック

やる気のスパイラル
 ただ、プレーヤーに明確な目的が与えられない、その独自性は、任天堂社内においてもすぐには理解されなかったそうだ。しかし、64「どうぶつの森」はリリース後、一時期品不足になる人気ぶりを発揮し、GC「どうぶつの森+」でもスマッシュヒットを飛ばす。その上を行くのが、DS「おいでよ どうぶつの森」。ご存知の通り、現在までに248万本の出荷を達成するメガヒット作となった。据え置き機に比べるとさまざまな制限のあるDSで、GC版を大きく超える売り上げとなった理由は何なのだろうか?

 携帯機向けに作り直すことが比較的うまくいったことも理由の1つだが、「コミュニケーションフィールドを作る」という最大の目的こそ、このゲームの本質であり、「交換」、「訪問」といったプレーヤーがさまざまな要素で結びついていることが「どうぶつの森」の面白さの原点、と江口氏は続けた。そこまでプレーヤーをひきつける要素はなんだったのか? 毎日遊びたいと思わせるには何をしているのか? これこそ、携帯機への移植の際にも失ってはならない大事な要素だ。

  • 他人と違う経験をしたとき、それを話したくなる→やる気のスパイラル

     つまり、それだけいろんなことが自由にできるということ。収集要素、そしてアレンジ要素を多数用意する。しかも、最初はあまり自由にできない分、プレーヤーはどうしたらお金を稼げるのかを考え、実行することで暮らし方がわかってくる。その過程でプレーヤーがそれぞれ興味を持つ対象が別々になって、お金儲けのことを忘れてしまうこともあるが……。そのうち、たくさんあるアイテムの中から、好みのものを陳列できる自由度が発揮されてくる。家が大きくなり部屋の数が増えてくることで、夢が膨らんでくる。

     これは屋外についても同じだ。地形は村ごとにばらばらになるようにできている。そこにクリエイティブな配置の要素が加わることで、世界でひとつだけの村を作ることができる。そして、その次の段階として、「自分の村を誰かに見てもらいたい」、「自分の村のことを話したい」、という欲求につながっていく。そしてそれを見せられた側は、自分とは違うオリジナリティに刺激を受ける。これによる新たな「個性のぶつかり合い」のモチベーションが生まれてくる。これが自由度に支えられている「やる気のスパイラル」だ。

  • 同じ時間を共有したことの体験を分かち合う

     この要素には、DSにも装備されている時計機能による現実の時間とのリンク、これが大きな効果を挙げている。季節の変化やイベントが起こるタイミングはあらかじめスケジュールが決まっている。また「とたけけのライブ」のように、曜日によって起こるイベントもある。村の中の時間が現実と連動することで、同じ時間に同じ場所で経験していたかのように、プレーヤー同士が話題にできる。

 こうして、活発なコミュニケーションを喚起することで、プレーヤーのモチベーションを維持するという理想を実現している「どうぶつの森」。しかし、プレーヤー同士がいつでもコミュニケーションを取れるわけはない。オンライン対応とはいえ、やはり一番多いのは、1人でプレイする時間だからだ。そうなると、ゲーム内にゴールを設定することでモチベーションを喚起する方法を取らずに、どうやって毎日遊びたくなるのか?

 江口氏によれば、「自分で満足できている、満足する方向に感じられることがとても重要なこと。その満足感が明日に繋がる。そこにちょっとした秘密がある」というのだ。それは「満足したいと思っているわけだから、満足させてしまったら、そこで終わってしまう」ということ。そのために、「どうぶつの森」の世界はとても不自由にできている。現実の時間とリンクさせることが、ここでも大きな効果を発揮している。

 店で販売されているものは数が限られている上、1度買うと翌日にならないと補充されない。これが実時間の翌日なわけだから、とても不便に思ったユーザーも多い。店の開店時間も限られている。忙しい人には非常にありがたくない仕掛けだ。満足したい人が稼ぎたいお金を稼ぐ手段が失われてしまうわけだ。ほかにも果物を埋めて木が生えるまで、数日かかるうえ、一度果物を収穫すると3日経たないと収穫はできないなど、季節の変化や時間による周期は、このゲームにおいて、簡単には満足できないようになっている。

 それだけでは、プレーヤーにすぐにあきらめられてしまう。そこで、毎日満足できる仕掛けを用意した。つまり、それを達成するため、プレーヤーの日課になる要素だ。例えば、生えてくる雑草を引き抜いたり、ポストの手紙を確認したり、化石を掘ったり。カブの価格に一喜一憂したり。さらに、釣りや虫取り、服のデザインなど、時間が許せばこつこつとやることはいっぱい用意されているわけだ。さらに重要なのが、これらの行為はすべて「やらなければならない」ことは1つもないということ。

 つまり、「遊びたくなる動機は、大きな満足感を得るまでの渇望感だと言えるが、その間には、待たされる間を埋める小さな幸せ感と、大きな満足が得られたときの大きな幸せ感があること」……これが毎日遊びに行きたくなる大きな理由だと江口氏は分析していた。それを支えているのは、プレーヤーの興味に対応する世界の多彩さ、そして何も強制しない奔放さ……このソフトにストーリーがないことがそれを許しているのだ。

 ストーリーもエンディングも必要ない。むしろ邪魔なものだ、という判断……つまり、コミュニケーションを終わらせないための判断……このソフトのコンセプトからすれば、ソフトをクリアしない、終わらせないことが重要。これは、制約を逆転の発想で利点へと転化した、恐ろしくポジティブな企画なのだ。

● 「あんしん」=「おいでよ どうぶつの森」が任天堂Wi-Fiコネクションに与えた影響

「Wi-Fi対応は宿命だった」と江口氏は言う
 さて、同じ企画を別のプラットフォームに持っていく際にあたって大切なことは、当たり前だがハードの特徴を知ること。DSの場合を見てみよう。

【利点】
ダブル&タッチスクリーン、マイク、ステレオスピーカー、時計機能、通信機能

【制限】
RAMやROMの容量の少なさ、バッテリーによる動作時間の限界

 「コミュニケーションを生み出す」というこのゲームの狙いからすれば、DSへの移行はむしろ願ったりかなったりの話。それは無線機能を搭載していたからに他ならない。しかし、その機能を手に入れるためには、携帯向けにスリム化する必要がある。ここで、再び要素の削り込みを行なうことになった。64DDから64への移行時に、基本的に必要な企画のスリム化は行なっているわけで、携帯機への移行にあたってのスリム化はより慎重に行なわれたという。

 この際に重要なのは、「このソフトにとって何が重要なのか」という、残す部分と削る部分を吟味すること。「どうぶつの森」でも、「おいでよ どうぶつの森」へのさまざまな改変が行なわれている。フィールドを狭くしたり、プレーヤーの家も減らす、どうぶつの数も減らされており、スリム化を行なっている反面、引越し機能を追加するなど、プレーヤーの個性を発揮するために必要なものなどは、残されたり追加されたりしているわけだ。また、バッテリー駆動の携帯機であるゆえのバッテリー切れの問題については、バッテリーチェック機能、スタートボタンでのどこでもセーブ開始といった仕様が追加されている。

 また、ハードウェアの仕様の何を重点的に使うか、ということも吟味されている。タッチスクリーンは直感的操作により、プレイアビリティの向上が見込めるので使用することになった。こういった取捨選択は任天堂の他のDSタイトルでも行なわれており、「マリオカートDS」では操作が煩雑になるため、タッチスクリーンを走行中に使わないようにしていたりするが、「nintendogs」では直感的な操作が重要と判断され、タッチスクリーンがデフォルト操作になっている。

 そして、「どうぶつの森」では、DSの持つ機能の中で、無線通信機能が最も重要視された。このことにより、コミュニケーションを重視する同作では、この無線通信機能で、従来の蓄積されたデータを交換するメールのようなコミュニケーションから、チャット機能や「お出かけ」のリアルタイムなコミュニケーション=井戸端会議的なものへと進化した、と江口氏は語る。

 井戸端会議は、顔見知りの友人たちと思い思いのことを楽しくおしゃべりすること。ここで重要なのは、「集まっているのは気心が知れた友達であるからこそ楽しめる」ということ。ある意味自分を表現している「村」に、まったく知らない人が来ることはストレスになる危険性がある、と開発陣は考えた。村を荒らされたりしても、知人なら文句を言うこともできるが、知らない人には報復などを恐れて注意することもできない、という人もいるはずだ。

 これを防ぐために、他人の村にお出かけするとき、プレーヤーの行動に制限を付けるということをせず、善良なプレーヤーが安心して楽しみを広げるための仕組み、これが「ニンテンドーWi-Fiコネクション」の基本的な考えにも影響を与えた「ともだちコード」の元になっている。Wi-Fi通信時はお互いのコードを登録しないと接続できないようにすることで、精神的負担を減らすこと……「あんしん」というこの考えは、「どうぶつの森」の考え方を代弁している、と江口氏は語っていた。

■ 「対応ソフトですべての人が接続する仕組みを作る」=Wi-Fiコネクションの壮大な野望

任天堂の大原氏
 その任天堂Wi-Fiコネクションを手がけた大原貴夫氏は、携帯電話とゲームボーイを接続し、「ポケモンクリスタル」によるポケモンの交換や通信対戦に対応した「モバイルシステムGB」からこの分野に携わっている。「ファミコントレード」以来、任天堂は過去にいろいろな通信を介したサービスを提供してきたが、その反省から、「導入時の障壁」を取り除くことが重要という結論に達したという。

 これは、弊誌に寄稿された岩田社長のコメント、そしてWi-Fiコネクションのコンセプトにうたわれている各要素に反映されている。ID、パスワードの設定を意識することなくともだちコードを使えば、自分の知人とのみ遊べる、そして任天堂の対応ソフトの通信対戦料金は無料、というこのコンセプトは、任天堂Wi-Fiステーションなどの環境整備により、多数のユーザーに利用されている。この機能に関しては、どう使うかはソフトウェア側の設定に任せられているのも大きな特徴だ。

 さて、無線通信にチャレンジするということは、技術的にも開発時にいろんな障害が懸念された。大原氏はこの開発エピソードを語ってくれた。

 例えばP2PのNATネゴシエーション。プライベートIP同士の接続は、1つの手法では全世界のルーターに対応することはカバーできない。そこで、雑誌の付録などで「どうぶつの森」の時計ソフトを配布し、ユーザーの承諾を得てテストが行なわれた。結果は良好で、スムーズに開発は進行したが、TCP/IPソケットライブラリは、メモリが不足して別のライブラリを開発することになり、開発に遅れが出たという。

 仕様の決定は2005年から。このプロジェクトは岩田社長直下に置かれ、日米の開発者の共同プロジェクトになった。日本ではクライアントアプリケーションの作成、アメリカではサーバーのコーディングと分担されたのだが、ビデオ会議などでは時差を吸収するためにタイトなスケジュールになったそうだ。

 初の対応ソフトの1本、「マリオカートDS」のベータテストは世界同時に行なわれ、日、米、欧でテストされた。大原氏の同期の社員がアメリカでこのテストに参加しており、大原氏は同僚の顔を想像しながらのテストとなって、非常に楽しかったという。

 また、岩田社長もテストに参加。しかし、社員は一切手抜きをせずレースをしたので、「誰も手加減してくれないね」と感想を述べていたが、「面白い」といってくれてほっとした、と当時のエピソードを語ってくれた。

広く対応ソフトの開発を呼びかけた
 最後に、今後も機能拡張などを考えており、ぜひ対応ソフトを開発してほしい、と大原氏は来場者にアピールしていた。「対応ソフトですべての人が接続する仕組みを作る」、任天堂Wi-Fiコネクションには、それを生かしたソフトがまだまだ必要なのだ。

 江口氏もこれからについては、「Revolutionにはユニークなコントローラーがある。この機能を生かして、どんな新しい『どうぶつの森を』作るのかということ、それに加えて、据え置き機に向けて作るものと、DS版と差別化しつつも、うまく相乗効果が得られるように考えることが次の課題」と締めくくっていた。つまり、Revolution版とDS版(今作になるのか続編になるのかはわからないが)の連携が取られる可能性を示唆していた。任天堂のWi-Fi戦略はこれからもまだまだ広がりを見せていくことだろう。

□Game Developers Conference(英語)のホームページ
http://www.gdconf.com/
□Game Developers Conference(日本語)のホームページ
http://japan.gdconf.com/
□任天堂のページ
http://www.nintendo.co.jp/
□製品情報
http://www.nintendo.co.jp/ds/admj/

(2006年3月26日)

[Reported by 佐伯憲司]



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