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会場:NHN Japan本社
その意欲を象徴付ける体制強化が、2006年冒頭にNHNグループ内で行なわれた。NHN Japanの代表取締役社長 千良鉉氏が、NHNグループ全体(韓国、日本、中国、北米)のゲームパブリッシング事業を統括する最高責任者「チーフゲームオフィサー(CGO)」に就任したのである。 千氏は韓国人だが、'98年に日本の大学院を卒業後、2000年にNHN Japan設立、代表取締役就任、そして2006年にNHN Global CGO就任と、10年以上の日本滞在歴を持ち、流暢な日本語を操る。その彼が、韓国大手NHNのグループ全体のパブリッシング事業の舵取りを担うというのは、極めてユニークなシナリオといっていい。 NHNのゲームパブリッシング戦略とは何か、その中でNHN Japanはどのような役割を担うのか、結果として日本のゲームファンにどのようなエンターテインメント、サービスが提供されるのか。今回は、NHNグループ最大のキーマンである千氏に、日本発のNHNグローバル戦略と日本でのゲームパブリッシング戦略、そしてその窓口であるゲームポータルビジネスについて話を伺った。
■ NHN Global のCGOとNHN Japanの代表取締役の2つの顔を持つ千氏
千氏: NHNグループとして韓国、日本でのサービス、そして、中国、昨年アメリカでも法人を立ち上げましたが、NHN Japan の代表取締役社長としての業務とは別に、NHNのゲームパブリッシングビジネスをグローバルな視点からシナジーを図っていくというのが一番大きな役割になります。 編: この場合の「ゲーム」というのは、どこからどこまでを指すのでしょうか。 千氏: 私が考えているゲームは“エンターテイメント”に近いですね。例えば任天堂さんのようないわゆる王道のゲームから、お客さんが楽しんでくれるインターネットコンテンツまでをすべて含みます。 編: 現状ではカジュアルゲームがビジネスのメインになっていますが、今後はMMORPGのような大規模なオンラインゲームを展開していくということでしょうか。 千氏: ビジネスの形態をどう見るかで変わってきます。我々は検索サイトがいろいろなコンテンツで人を集めるように、カジュアルゲームなどゲームのコンテンツで人々を集めてコミュニティーを形成し、これを拠点とする。人を集めるためのゲームは基本的に無料なんです。拠点ができたら収益モデルとしてスポーツゲームやRPGなどをパブリッシャーとして提供していく。 最初はサイトを立ち上げてサイトがうまく動くような形にするための基礎的なコンテンツをそろえて、そこからさらに深く遊びたいお客様のためのコンテンツを収益モデルとして固めていく。そういった形なんです。ですので、何か特定のタイトルをどんどん押していくという形ではないです。 編: NHNの収益モデルの中心は、「ハンゲーム」におけるゲームポータルビジネスやアバタービジネスですが、新たな収益モデルの創出が千社長の今後の目標ということでしょうか? 千氏: そうですね、「ハンゲーム」というのはゲームポータルですが、形としてはゲームビジネスというよりインターネットビジネスのモデルに近い。人を集めて、何かどこか楽しい場所をインターネットで作ると言うことをメインの考え方にしています。そこに収益モデルを考えたのが今のアバターです。 ここにオプションとして、クオリティの高いゲームを求めるお客様に対してもっと良いゲームを紹介するというビジネス展開を考えています。結論から言えば良いコンテンツをどんどん紹介していきたいと思っています。 編: これまではたとえば「スカッとゴルフ パンヤ」(以下、「パンヤ」)などの他社タイトルも取り扱っていましたが、今後は「フリースタイル」、「Xenepic Online」のような自社コンテンツが、メインのビジネスになってくると? 千氏: そうですね。今年は更に自社運営タイトルを増やして、本格的にパブリッシャーとして展開していきたいと思っています。パブリッシャーとしてはサーバー周りのノウハウや課金システム、プロモーションやマーケティング力が必要になってきます。「パンヤ」などのようにマーケティング提携だけしている場合、NHNが主体的にプロモーションやマーケティングを行なうのが難しい。自社のモデルができてきたので、その上で、本格的に市場に自社運営コンテンツを出していくことを考えています。これの第一歩が「フリースタイル」です。 編: 現在展開しているゲームコンテンツの調子はいかがでしょうか。 千氏: 「フリースタイル」はeスポーツにカテゴライズされる作品ですが、弊社としては“インターネットスポーツ”として、バスケットボールが好きな人ばかりでなく、ゲームファンがFPSとはまた違った感触を感じたり、違う面白さを感じてもらえるゲームとして出しました。 いわゆる“ハードコアカジュアルゲーム”の国内の同時アクセス数はだいたい4,000~5,000人。まだこのくらいの市場規模なんです。「フリースタイル」も大体そのくらいですが、これからまだまだ伸びる市場じゃないかなと思っています。
■ NHNが考えるコンテンツビジネス、パブリッシングビジネス
千氏: それぞれが置かれている市場のタイミングによって動き方が異なってくるので、市場に合わせて各現地法人が判断しているだけであって、決して韓国と日本で戦略が違うということはありません。 編: 今後も韓国メーカーのオンラインゲームをパブリッシングしていく機会が増えていきそうですが、逆に本社はやるけれども日本ではやらない、ということもあるのでしょうか? 千氏: あります。各法人によって状況もお客様も違うので、現地の判断が一番大事です。開発会社の方がどう思うかでも変わってきますね。できるだけグローバルな版権をとっていくのが良いと思いますが、弊社にとってもグローバルで同じようにやるかが果たして良いことのかどうかも考えていかなければならないところだと思っています。 編: 最近は様々なゲームパブリッシャーが、ゲームポータルを展開してユーザーの囲い込みを行なっています。「ハンゲーム」はいわばゲームポータルのはしりですが、本家本元として現状をどのように見ていますか? 千氏: マーケットが大きくなっていくのは嬉しいことだと思っています。どの産業でも独占的にやることはよくないことだと思いますし、競争しながらも相談できるような関係が構築できればと思っています。ただ、今後、ゲームポータルそのものが国内で大きくなっていくかは、まだまだわからないことだと思いますね。 弊社も「ゲームポータル」という言葉自体が正しいかどうかもまだわからない部分があります。ハンゲームは「ゲームコミュニティポータル」に近いかなと思っています。コミュニティを作るにはなかなか時間がかかります。他の会社がそれを育てていくのかはわからないところです。 「パンヤ」、「GUNS Online」、「ヨーグルティング」、もちろん弊社の「フリースタイル」も含めて、これらの韓国タイトルは、現在のところまだ「ラグナロクオンライン」ほど伸びていません。お客様にとってはゲームは会社で選ぶのではなく、コンテンツで選ぶわけですから、ゲームの窓口であるポータルはどんどん増えて欲しいなと思っています。 編: そうした状況下で、NHNのゲームポータルビジネスはどう発展していくのでしょうか? 千氏: 弊社が一番に考えているのは「ゲームコミュニティ」です。お客様がネットで“楽しい場所”として弊社を認識して欲しい。そこで仲間ができて一緒にゲームが楽しめる。寂しさを埋めるような刺激があってほしいし、そこにはコミュニティがあって欲しい。対戦をしたり、誰かと繋がっている、というのは大事だと思います。このコミュニティを強化していきたいし、パブリッシャーとしても力をつけていきたい、この2つが大きな戦略です。 これは国内の戦略で、グローバル的にはそういった拠点をつなげてコンテンツを流通していく。日本国内のゲームを韓国に紹介したりとか、アメリカに紹介するとか。オフラインではやりにくいところも1つの会社を通して展開できればやりやすいんじゃないかなと。 たとえば現在の中国ではゲームを展開できても課金することまで行くのはなかなか難しいという状況があります。現地のメーカーと組んで仕事をすることでこういった状況を回避することも可能となり、次回のタイトルでも一緒にやろうということにもなる。こういった形で広げていけばいいなと思いますね。 編: NHNから今後世界へと発信されるタイトルも出てくるのでしょうか。 千氏: 段階的にはまず弊社がやっているポータルサイトと一番融合するタイトルを作ることで、日本国内でまず足元を固めていきたいと思っています。 その上で世界に展開していくゲームを作るか否かは、次の問題だと思っています。そこまでにいくつかの課題があって、技術的なノウハウや、経験、資金力、そしてそれを長期的にサポートしていく戦略……こういったものがまず必要かなと。今の考え方としては開発会社とパートナーを組んでサポートしていく方法もありますね。 弊社にも現在80人くらいの開発メンバーがいます。彼らは他社と同じように自分たちが作りたいもの、お客さんに喜んでもらうためのものを作っています。もの作りの感覚を持ちたいと思っているからです。 編: CGOとして、今後提供していきたいゲームのジャンルや、対象とするユーザーのターゲットはどのあたりになるでしょう? 千氏: グローバルで考えると、アメリカのお客様が好むコンテンツと、日本、韓国、中国……それぞれの国のユーザーが好むコンテンツはかなり違います。まずそれを分析した上でそれに合うコンテンツを流通させていきたい。アメリカならばFPSや通信のインフラを考えればカードゲームなどのギャンブル性があるものが受け入れられているようです。 日本国内に関しては、弊社のようなカジュアルゲームが中心になります。今は過渡期だと思うのですが、今後はハードコアなゲームに移っていくお客さんもいるでしょう。こういった中でできるだけ弊社の強みを生かしていくような方向で戦略を組んでいっています。たとえば、ハードコアなゲーム以外にも、任天堂さんが最近提供しているゲームに近いような、ゲームを普段あまりやらない人も楽しめるクイズゲームのような楽しいコンテンツを提供していければと思っています。 編: つまり、「脳を鍛える大人 のDSトレーニング」や「えいご漬け」といった教育要素のあるゲームも提供していくということでしょうか? 千氏: そういうものにも興味を持っています。オンラインにすると全国での順位が出てきたりとか、また面白さが広がると思うんです。 編: 質問の答えとしては、全ジャンル、全年齢層がターゲットと言うことになりそうですね(笑) 千氏: 基本的にそうなりますが、やはりタイミングですね。すべてをカバーし、すべてを開発することは無理だと思っています。 編: それではまず何から手がけていきますか。 千氏: まずはゲームコミュニティです。その足元をしっかり固めた上での展開だと思っています。我々が作るマーケットとして、まず生活の一部になるほど浸透させたい。毎日ちょっと遊ぶ、毎日麻雀を、オセロをちょっとやってみる。自分の戦績がそこに残せる。そういったビジネスモデルをまずしっかり定着させたいと思っています。
■ ユーザーのライフスタイルの変化に対応した「マルチターゲット戦略」とは何か?
千氏: そうですね。もっとクオリティを高めたいと思っています。たとえばシニアの人が入ってきた時に、相手がチャットで挨拶してきてもすぐに返事を返すのが難しい。このときにボタン1つで挨拶が返せるとか、ユーザーサポートにしてもボタン1つで呼び出せるとかこういった細かいサービスもやりたいと思っているんです。 また、ゲームはスポーツに近い部分があって、もっとうまくなりたい、勝ちたいという気持ちが生まれてきます。その時に戦績や自分の癖などをデータベースとして残し、分析できるような機能が追加できればと思います。他にも、自分と遊んできた人をデータベースとして残すとか、自分のコミュニティ、クラブやギルド機能なども強化していきたいですね。 ゲームは、それそのものが楽しいということと共に、誰かとやるから楽しいということもあると思います。それこそがゲームコミュニティーの強みだと思っています。ゲームを始める前にチームが作れる仕組みを提供するとか、自動的にトーナメントが開催できる仕組みを作るとか、こういったものを作っていけばもっと楽しんでいただけるんじゃないかと。 編: なるほど。今後、パブリッシングビジネスを強化していくけれども、ビジネスのコアとなるのはコミュニティーであり、「ハンゲーム」ということになるのでしょうか。 千氏: いえ、戦略的には「マルチターゲット戦略」を考えています。現在の「ハンゲーム」のメインユーザーは10代から20代前半のお客様です。しかし今後、少子化や高齢化に対応するためには、ターゲット層を広げていかなくてはならない。すべてのユーザーを「ハンゲーム」だけで抱えることは難しいと思っています。今年中にその戦略をお見せしたいと思っています。 お客様の年齢がやはり重要なことだと思っていまして、私たちは2000年の9月から会社を立ち上げ、12月からサービスを開始しましたが、その時中学生だったユーザーはもう大学生になっているんです。ライフスタイル、趣味嗜好、学習能力などは変わってきます。だから年齢に応じたコンテンツを拡充・整理していくべきだと思っているんです。NHNのコンテンツであるかは関係なく、お客様は自分のライフスタイルにあうコンテンツを楽しめば良いのだと思っています。そして私たちはそれを準備するべきだと思います。 編: 「ハンゲーム」が現在提供しているサービスと、今後提供する新しいサービスの違いはどのあたりになるのでしょうか? 千氏: まず、対象年齢の違いですね。たとえばシニア向け、団塊世代を対象にするならば丁寧な言葉遣いにしたり、よりきめ細かいサービスが必要となってきます。コミュニティによって「寂しさ」を埋めることができれば。PCを立ち上げていくつかの操作をすれば誰かと会える。麻雀や囲碁仲間に会える、そうなれば嬉しいですよね。 また、「ハンゲーム」は大人が入るにはちょっと……、という意見も多いので、入りにくいというイメージを変えたい。同じゲームでも遊び方によって違うじゃないですか。そこで年齢ごとのコミュニティができるかもしれない。そういうイメージです。 編: そうなると、30代から50代、60代までを見据えた新世代の「ハンゲーム」に進化するという感じでしょうか。たとえばアバターなどはどうなるのでしょうか。 千氏: アバターは自分を表現する媒体だと思っているんです。それはお客様によって変わってきます。アバターは現在の主な収益ですが、お客様が求めないのであれば新しい媒体を探すべきだと思っています。現在のモデルに固執するのではなく、お客様の求める媒体を提供することが重要だと思っています。 編: コミュニティに関してどのような仕組み、機能を考えていますか? 千氏: 検索ポータルサイトは、検索のほか、気になるニュースをチェックして、メールを確認するだけで終わってしまいます。もうちょっと踏み込んでもオークションなどをやったりしている方もいますが、ゲームコミュニティサイトはもっと気持ちが入ってきます。ゲームの戦績だったり、一緒に遊んだ人は誰なのか、彼らに自分が頑張ったことを見せるとか、コミュニケーションの楽しさを体験して頂きたいです。 ブログの場合、誰かがレスを書いてくれるととても嬉しい。でも、誰も見てくれなければただのホームページなんです。ブログはオンラインですが、そこからオフラインの繋がりも生まれたりする。ゲームコミュニティはゲームが好きだから集まるわけです。そこにはゲームを中心とした繋がりがある。そこを強化していきたいです。ですから、コミュニケーションツールや、自分をアピールできる何かが大事になってきます。 ゲームとは関係がないですが、弊社の「アバターワールド」でゲームのサークルの人々が同じ街で住むとか、「パンヤ」などのゲームのイメージを置いておくとか、フラッシュなどの軽いゲームを置いておいて自分の部屋を訪問した人たちだけがプレイできて、その戦績が残るとか、そういったこともできるのではないかと思っています。 編: ビジュアル的には「アバターワールド」のようなものに近いのか、ブログのようなテキスト中心のものなのでしょうか。 千氏: ビジュアルはむしろMMORPGに近いかもしれません。現在の「アバターワールド」は“止まって”います。動きがなく、ストーリーがない。今年はそこに動きとストーリーを付けていくつもりです。出かけたり、訪問したりする時にキャラクタが動く、集まったり、話をしたりもできる。 彼らが何故集まるかと言えば、mixiのようにコミュニティで集まったのではなく、ゲームで集まったので、ゲームの話をしてもいい。オセロや麻雀のサークルの人たちがそれぞれの「今回アップデートがあったけど、ここが良いよね」といった話をしたりする。そういった場を作ってあげたいなと思っています。 編: 話を聞いていると、Gravityの「スタイリア」に近いかなと思うのですが、アバターを直接操作して、ゲームに近い感覚でコミュニケーションがとれる。こういうイメージでしょうか。 千氏: 大きく言えばそういうことですが、それがメインではありません。そこにはやはりたくさんのゲームがあってそれを楽しむ方もいるでしょう。アバターを操作してコミュニケーションをメインにしてしまえばそれは1つのMMORPGになってしまいます。 編: たとえばアバターで集まっていてチャットをしていて「ゲームをやろうよ」となったときに、シームレスにゲームに繋がるのですか? 千氏: それは技術的な話になってきますが、可能かもしれないですね。ただ、1つの世界観のあるゲームではなくて、“街”であってほしい。渋谷みたいな街だけではなくて、様々な性格を持った複数の街がある東京のような都ができる。そういう広がりを持たせたいと思っています。 編: きちんとした世界観を持ったMMORPGを提供する場合、そのアバターを介したポータル世界と、世界観にギャップが生まれてくると思うのですが? 千氏: 以前、「ミュー 奇跡の大地」を弊社で展開したのですが、これは弊社に入口(ポータル)があった、という意味に近かったと思います。これからのパブリッシングもそうなっていきます。運営はしてもあくまで「ポータル」に留まるというイメージです。ポータルサイト自身が意味のある集客力を持って欲しい。もしそれがダメならばポータルの意味あいが弱いんじゃないかなと。1つのタイトルに依存してしまうとポータルの意味がなくなってしまうんじゃないかと思います。 編: ゲームポータルそのもののビジネスモデルはどうなるのでしょう? 千氏: 現在私たちの「ハンゲーム」のビジネスモデルは、韓国にも、日本国内でも他にはないモデルだと思っています。新しいゲームポータルでは、提供するゲームの課金で収益を上げるのが基本になりますが、BtoCの収益モデルは本当に難しく、なかなか成功したモデルはありません。 我々はデジタルコンテンツの値打ちを作り、課金をする。そのコンテンツに対してお客様が満足する部分は何なのか、それは自分をアピールしたくなるもの、満足させるものなのかを考える必要があります。ファッションの話に置き換えると、高い服を買うのか、安い服を買うのか。基本的に服は必要ですが、どのレベルで満足するかが問題になってきます。 「ハンゲーム」では、考えた結論としてアバタービジネスを展開したわけですが、そういった取り組みを新たに考えていかなければならないと思っています。弊社のコミュニティのサークルの中で、種を植えて水や肥料をあげる場所があるのですが、そこでアイテムを販売したりする。みんなで育てるのに必要ならばアイテムを使うとかですね。プレゼントをあげるのに課金をするとか。 現在のアバターのモデルは非常に良いモデルだと思っていますが、ここからどう拡張していくか。「アバターワールド」によって自分の服装だけでなく「部屋」を飾ることができるようになった。それが楽しいのは、コミュニティがあったからだと思っているんです。 編: そのサービスはWebブラウザ上で行なうのでしょうか? また、携帯やPDAやコンシューマ機の対応は考えていないのでしょうか? 千氏: Webブラウザ上でサービスを提供します。携帯電話に関しては魅力的だと思います。なぜならばPCと同じで閉鎖的でなく、PCと繋げることもできる。一方、XboxとPS2は繋げることができません。それは会社の戦略によるものです。ただXboxやPS2がPCに近いゲーム機として変わるのならば、対応することに意味は出てくると思っています。
■ 世界それぞれの独自性を持たせるというグローバルの取り組み
千氏: 中国には弊社が50%出資したOurgameというゲームポータルがあります。1億7千万人くらいの加入者がいるサイトになりました。同時アクセスが60万人くらいで、中国では2~3番目くらいの規模ですね。アメリカでは100%出資した現地法人を昨年設立しました。 中国の場合は、1人当たりの収益はまだ高くないですが、人数が多いので、長期的な視野で見ていこうと思っています。北京オリンピックが終わる頃にはもっと良い形で展開できると思っています。インフラの動きは非常に速いです。模倣品の問題もあると思うのですが、ゲームを作る方も、お客様のレベルもだんだん高くなっていくんじゃないかなと思っています。現在でも黒字になっているのですが、長期的な視点を持つことで、グローバルで回していくのにも役立つと思っています。 編: 中国やアメリカでは現在提供しているのは「ハンゲーム」コンテンツが中心なのでしょうか。 千氏: 「ハンゲーム」はプラットフォームがまず必要になります。ログインをすることでアバターが出て、ロビーが出たりミニメールが使えたりする。NHN Japan は韓国とはかなり違ってきていて、アバターなども違っています。NHN Japan の方でほとんど作っていますし、コミュニティやメール機能も違う。 中国の場合は、お客様がゲームをクリックすると「ハンゲーム」のサーバーに繋がるのではなく直接ゲームサーバーに繋がるようになっています。HUBサイトをまとめたような形に近いです。今後はもっと求心力のあるWebサイトとしてまとめていきたい。 CGOである私の役割は、収益モデルや、タイミング、条件の違いなどを組み合わせたりサポートしたり、理解することです。誰かが全部見ることが必要なんですよ。それを私と私のスタッフがやっていきます。 編: スタッフは現在どのくらいなんでしょうか。 千氏: パブリッシングは各国の事業部と繋がっています。直下としては今年立ち上げたばかりなのでまだ多くないです。10人くらいですね。 編: 日韓、中国、アメリカと展開してきましたが、今後展開を予定している地域はありますか? 千氏: これは数年先の話になると思いますが、ヨーロッパ、東南アジアもあると思います。 編: 今年の目標としては中国、そしてアメリカと言うことになるのでしょうか? 千氏: いえ、今年は日韓をもっと強化していきたいですね。それがまず1つの形にならないとアイデアが出てこない。成功することで、それが1つのプロトタイプになると思います。今までは韓国、日本、中国、アメリカと別々でやっていたのですが、これからはこれをまとめて、束ねていく。まずそれを日韓でインタラクティブに作り、そこからノウハウを得られるように、さらに「深掘り」していこうと思っています。 編: それはつまり、先ほどの新規ゲームコミュニティビジネスや新規のゲームコンテンツに力を入れていこうということですか。 千氏: そうですね。我々は半導体を作ったり、電子商品を作るような「モノ」を作る会社ではない。お客様にサービスを提供する会社だと捉えています。現地法人でサービスを判断することがとても大事だと思っているんです。現地法人の判断が正しいかは色々な形でアドバイスしていくためにも、もっと調査をして、深く掘っていくことが大事だと思っています。 それをしないと組織が固くなってしまいます。親会社がすべての方針を決めて指示を出してしまうと、現場で違ってきてしまう。上からの命令とか、そういったものはできるだけなくさないと、うまくいかないんじゃないかなと。変化も激しいので、自ら判断していくような仕組みを築き、現地法人や親会社の良いものはお互いにどんどん取り入れていくということが重要かなと思っていますね。
■ 「自社に厳しく、日本の良さを世界に主張する」親子が独自路線を歩むNHNグループ
千氏: 今国内においてオンラインゲームは韓国産が多いです。確かに年々レベルも高くなってきているのですが、「カチッ」とハマらない。すごく面白いというところまでいってない。それはやはりどこか日本と合わないところがあって、きちんと合うゲームを作りたいなと思っています。弊社だけでなく共同でやってもいい。 また韓国産の進んでいるゲームもどんどん紹介していきたいと思っています。ジャンル的には、スポーツゲーム、FPSそして「ダンジョン&ファイター」のようなRPG要素のあるゲームも今年お見せできるかなと。 編: すでに発表されているタイトルだと「はちゃめちゃピンボール学園」が国内開発ですが、こういったタイトルが今後増えていくということですか。 千氏: どんどん増えていきます。アバター関連のゲームも増やしていきたいと思っています。もうちょっとハードコアなものは、外と手を組んで出していきたいと思います。 編: 昨年韓国の「G★2005」を取材して、NHNブースも見てきましたが、ブースでは「拳豪(KwonHo)」がとても人気で、その後行なわれたβテストの人気も高いと聞いています。こちらの日本展開はどうでしょうか。 千氏: 「拳豪」に関しては慎重に考えています。 編: 本社がやるからといって日本法人に自動的に降りてくるというわけではないのですね。 千氏: それはありません。たとえば「パンヤ」は、NHN Gamesで開発した「めざせ! ゴルフ王」というゲームと競合していましたが、お客様には一番良いゴルフゲームとして「パンヤ」を紹介しました。競争がなくては、弊社自身の開発能力が落ちてしまいます。だからこそ自社内にも厳しくしていきます。 編: 今後、パブリッシングが確定しているタイトルとしては「ダンジョン&ファイター」がありますが、この作品を選んだ理由を教えてください。 千氏: RPGでありながら手軽さがあり、グラフィックス的にゲームセンターで見たようなテイストがあって、国内のお客様に気に入ってもらえるのじゃないかなと思ったのです。RPGが好きな人、気軽にゲームを楽しみたい人にプレイしてもらいたいですね。 元々このゲームは日本のユーザーに向けて作ったゲームなのです。韓国の開発者が日本のユーザーのことを考えて作ったゲームなので、その気持ちをサポートしてあげたいとも思いました。韓国では課金も始まり、実績もあるゲームですので、それで決めました。 編: 「ダンジョン&ファイター」は千さんが先ほどおっしゃっていた、「カチッとハマるゲーム」ということでしょうか。 千氏: それは日本国内から出てきて欲しいと考えています。現在それに向けて複数のオリジナルゲームの開発を進めています。 編: ほうほう。それはもう水面下で動いているのでしょうか。 千氏: そうですね、動いていますよ(笑)。国内の会社が作ったからといってお客様が満足していただけるかどうかは別な話ですが、その努力は絶えず続けていくべきです。いつかできるだろうと、その気持ちが大事だと思っています。 編: 現在開発中のゲームは、グローバル展開を視野に入れたゲームなのでしょうか。 千氏: それが理想です。しかし、まず日本からだと思っています。日本国内のコンソールゲームで最初から世界市場を視野に入れたゲームはそれほど多くないんじゃないかなと。もちろんそういったゲームもありますが、アメリカを見てみると、やはりビジネスがうまい。日本はそこが少し残念で、率直に言えば「もったいない」。NHN Japan はオンラインだからこそ、日本のゲームを世界に出したいし、出せると思っています。 よく勘違いされることですが、NHN全体の考え方は、「韓国のゲームを世界に出したい」ではないんです。日本は日本、アメリカはアメリカなんです。NHN Japan の社員は、大半が日本人なんです。我々は違うものを出していきたいし、“らしさ”を追求していきたい。それでサービスがグローバルに繋がっていくならば、それこそがNHNがグローバル会社になることだと思っています。 編: NHN Japan らしさ、ひるがえって日本らしさとはどのあたりだと考えていますか? 千氏: 難しい質問ですが、極端なことを言うと「線香花火の楽しさをどう伝えるか」です。「萌え系」というのはコアな方の楽しみですが、花火の面白さをオンラインに出せば面白いんじゃないかと。色的な感覚でも、和紙の感覚をグラフィックスでどう表現するかとか、そういったものはアメリカやヨーロッパでは出せないものではないかと。 企画や音楽、グラフィックスなどにおいても日本ならではの“繊細さ”というものがあって、そこはどんどん出して欲しいなと思いますね。たとえばHanbitさんの「グラナド・エスパダ」では、グラフィックスで小林智美さん、音楽で久保田修さんを起用していますが、やっぱり違うなと。非常に良い例だと思っています。 そういった形でもっと良いものができれば、ビジネスをやっている人間としてうれしいです。そしてそれを次の世代につなげて、もっと良いものができるのであれば、面白いのじゃないかなと。 編: つまり、これまで20年以上にわたって育て上げられた日本のゲームの良いところ、素晴らしいところを世界に発信していくのがNHN Japan のビジネスの1つということになっていくのでしょうか。 千氏: もしゲームをやっていくのであればそれが一番重要だと思っています。何故ならば弊社NHN Japanは日本の会社であって、韓国のことを知らないからです。アメリカのことも知りません。ずっと我々は日本で生活しながらやっているからです。流行や社会の動きも感じながら、やはり企業としてそういうものも出したいと思っていますね。そうしながらグローバルの動きや、技術の進歩も視野に入れていきたいです。 我々はグローバル企業ですが、ソニーさんや、IBMさん、サムスンさんとは違います。我々はサービスを売っています。サービスは目に見えないものなので、そこは徹底した現地化が必要だと思っています。ゲームにしてもそういったゲームを作りたいと思っています。 映画「鉄道員(ぽっぽや)」を、韓国の人は面白くないと言うんですよ。この日本独特の“情緒”をどう伝えるべきなのか。「ドラゴンクエスト」でも敵を殺したりはしない。“やっつけた”という言葉を使います。そうした優しさが日本のゲームの世界にある。それはプロデューサーの気持ちでもありますが、そこにはそれなりの哲学と深さがあります。 韓国のゲーム会社さんを回って、よくこういう話をします。商用化をしてサービスをしていくのも重要なのですが、1つの産業として考えた場合、やはり哲学があって欲しい。気持ちを込めて欲しいと。 編: 千さんの国産ゲームで好きなタイトルはどのようなゲームでしょうか? 千氏: 「ファイナルファンタジー」や「マリオ」などはすごく良いゲームですね。特に任天堂さんのゲームが好きなんです。「マリオ」は歴史があってそして成長している。その生命力と直感的な感覚……やっぱり任天堂さんはゲーム作りがうまいと思っています。任天堂さんのDNAは好きですね。 編: 国内展開、グローバル展開と色々な方向に話が拡散してしまいましたが、今年のNHN Japan はどのようなビジネスを展開していくのか、聞かせてください。 千氏: 私は1つの産業において同じ事を3年間やるのは危険だと思っています。変化しない生き物は生き残れない。インターネットの世界はもっと早い変化が求められています。弊社はゲームポータルから始めて、ゲームコミュニティを運営していますが、今年はその変化期になるのではないかと思います。 今年は、新しいターゲット開拓に向けたサービスを展開し始めながら、ゲームパブリッシャーのビジネスも強化していきます。この2つがこれまでと大きく違ってくるところです。国内はマルチターゲット展開と、新しいパブリッシングビジネス。グローバル的には各拠点を繋げてもっともっと強化していく元年になると思っています。 編: 最後にゲームファンへのメッセージを。 千氏: 「ハンゲーム」が成長できたのは本当にお客様のおかげです。弊社としてもお客様に喜んでいただけるコンテンツを提供していくことに精一杯頑張りたいと思っています。これからも期待してください。 編: ありがとうございました。
□NHN Japanのホームページ (2006年3月3日) [Reported by 中村聖司 Photo by 勝田哲也]
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