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「ブルーフロウ」は、工画堂スタジオの看板タイトルとも言える「パワードール」シリーズの入門用タイトルとして制作されたシミュレーションゲーム。ゲームルールをシンプルにし、細かい難易度設定を行なうことで、シミュレーションゲーム初心者にもオススメできる内容となっている。「メカと美少女」という非常にわかりやすいセールスポイントをうまいバランスで表現している作品である。
■美少女達と共に、戦場を戦い抜け!
主人公ユアンはネクタルに住む14才の少年である。彼はひょんな事から地球軍のパワーローダー(人型機動兵器)の最新型「ブルーフロウ」に搭乗してしまい、戦いに巻き込まれてしまう。ブルーフロウは女性だけで結成された地球軍の部隊に配属されるはずの機体だった。軍事機密を知り、地球軍の監視下に置かれる事になってしまったユアンは、ブルーフロウに乗り、彼女たちと共に戦うことを決意する……。 声優さんの歌う主題歌、つぎつぎと増えていく美少女メンバー、ユニークな彼女たちのセリフ、などなど、本作はまごうことなき「美少女ゲーム」の一面を持った作品である。主人公のユアンに川上とも子、隊長のクロウディアに田中理恵、隊員のマキには池澤春菜といった声優達が出演しており、声優ファンにも要注目の作品となっている。 特に川上とも子演じるユアンは中性的な魅力を持っており、この可愛らしい少年が、「お姉さま達にいろいろいじられる」というシチュエーションは、グッと来る人も多いのではないだろうか? 女の子の性格は、積極的だったり、お姉さんタイプだったりと、アニメ的な「極端さ」で描写されている。筆者は、キャラクタの外見だけ見るとネコミミ美少女なのに、キツイ性格のレイチェルがちょっとお気に入りだ。 こういった「お約束」を高い次元で実現しているため、キャラクタの魅力ばかりに目がいきそうになるが、本作はロボットシミュレーションゲームとしても魅力ある作品となっている。ゲーム性については次の項から詳しく紹介していこう。各パワーローダーのキャラクタ性がうまく出ており、味のある作品に仕上がっている。
筆者が非常に面白く感じたのは、他のシミュレーションゲームと比べてユニットを大事にしてしまったところだ。やはり乗っているのが美少女だと感情移入が違うのだろうか?
集中攻撃を受けているユニットがあると妙に焦ってしまったり、ユニットの状態に必要以上に気を配ってしまった。ユニットごとに強い思い入れをしてしまうところは、本作ならではの魅力だろう。
■ストーリー性を取り入れたマップ構成
各ユニットをクリックするか、範囲をドラッグして選択し、移動位置を指定する。ユニットは敵と遭遇すると自動的に攻撃を開始する。ユニットに細かく指示を出して集中攻撃を行なうこともできるし、右クリックでメニューを出して防御や索敵中心といった行動傾向を細かく設定できる。また、ファンクションキーを使ってのユニットの指定も可能になっており、慣れてくればユニットごとの作戦行動を素早く行なうことができるようになるだろう。 突然敵が奇襲してきたり、味方の救援を要請する信号が上がったり、一つのマップでも多彩な展開が用意されており、ゲームの状況は刻々変化してくる。これに対応し、ある時は部隊を分けたり、集団で指定された場所に向かったりと、柔軟な作戦行動が必要になる。 敵ユニットの位置は最初は見ることができない。各ユニットにはセンサー範囲が設定されており、ここに引っ掛かった敵を感知することができる。索敵に特化したローダーが何体かいれば、敵を素早く感知し、先制攻撃をすることができる。ミサイルやスナイパーライフルなど射程の長い兵器と組み合わせれば、一方的に攻撃することも可能だ。詳しくは後述するが、ローダーは搭乗員の女性隊員に劣らないほどキャラクタ性があり、これを使いこなすのはゲームの大きな楽しさのひとつだ。 状況に応じて部隊を進めていく楽しさ、10数体のローダーを機能的に運用する醍醐味……。こう書くと「本格的なシミュレーションはちょっと苦手」と尻込みしてしまう人もいるかもしれないが、難易度設定のおかげでそのハードルは下げられている。さらに、繰り返しマップに挑戦することでさまざまな解法が見えてくる。何度も挑戦することで、ゲームの難易度はさらに低くなるだろう。また、スペースキーを押すことでゲームにポーズがかけられる。混乱した状況に陥ったときはポーズをかけ、ひとつひとつのユニットに的確な指示を出していけば、難局も切り抜けられるだろう。 本作ならではの「アニメ的展開」も見所のひとつだ。ユニークな味方の新キャラクタが登場して楽しい会話を繰り広げたり、敵のキャラクタと会話をすることもある。同じネクタルに住む同胞が惑星連合側についてユアンが心を痛めたりとシリアスな展開も用意されている。ステージ間のインターミッションと共に、ここで展開するストーリーも注目したい。 欲を言えばこれだけ初心者に配慮された作品なのだから、ゲーム中での作戦説明の部分をもう少し充実させて欲しかった。変化する情景に合わせて「ここに向かえ!」というような、マップの細かいところまで解説した情報が表示されてもいいのではないだろうか? 本作は一度そのマップをクリアすれば確かに解法はわかるのだが、最初に挑戦したとき、ちょっと迷う部分もあった。本作の方向性からは、手取り足取り説明してくれるような親切さを発揮しても良いように思えた。
すこし機体の移動速度が遅めなところも気になったところだ。中盤以降は慣れたのだが、まれにユニットが地形に引っ掛かっているような挙動を見せることもあって、もうちょっと快適に動いてくれれば、と思うところもあった。初心者向けの配慮かもしれないが、次回作ではもう少しスピーディーな展開を期待したい。
■個性豊かなパワーローダーを使って完全な勝利を! 本作には多彩なパワーローダーが登場する。主人公の機体ブルーフロウ、「機動戦士ガンダム」に登場するジムのような量産機センチュリオン、その発展型センチュリオンMkIII、索敵に優れたエクスペダイト、砲撃能力に特化したアルバレスト……。部隊はこれらの機体を混成させているそれぞれの機体の能力を活かすことでゲームは非常に有利に進めることができる。最初の内はがむしゃらに敵にぶつけるだけで進めることができるが、中盤からは戦略が必要となってくるのだ。 筆者は特に工作型のディリジェントがお気に入りだ。リペアキットを持ち、仲間を修理してくれる有用な機体だが、もうひとつの優れた能力が「地雷散布」である。特に防御ミッションでは敵の針路に設置し、そこで待ち伏せをすることで多大な戦果を上げることができる。設置砲台という武器もあり、戦力を増強してくれる。シナリオを一度クリアし、敵の針路を把握していれば、この機体は何倍もの能力を見せてくれる。ゲーム攻略のためにぜひ使いこなしたい機体だ。 敵には長射程を誇るミサイル兵器を使いこなすものもいる。これに対抗するにはエクスペダイトのECMである。時間制限は付くが、その特殊能力を使うことで敵のミサイルのロックオンを外し、無力化させることができる。ミサイルは大ダメージをもたらすので、この防御兵器はなくてはならないものである。また、ミサイルが不意に向きを変え、迷走する姿はアニメ的な演出もあって、カッコイイ。 量産機センチュリオンもただの没個性な機体ではない。スナイパーライフルを装備させて距離を置いた攻撃機にしたり、ショットガンを持たせて接近戦を挑ませたりと、武装によって弾力的な運用が可能だ。また、数の少ないセンチュリオンMk IIIを誰に搭乗させるかで悩むのも面白いだろう。お気に入りのキャラクタを選んで、彼女の愛機にする。キャラクタ性が深まるところだ。強力な機体だけに、強気な運用をしてしまいそうだが、中盤になると気が抜けなくなる。お気に入りのキャラクタに怪我をさせないように気を配るのも重要だ。 ゲームが進むと、主人公ユアンを含め、どんな機体もキャラクタの乗り換えができるようになる。自分のこだわりで機体を選別するのもありだろう。初心者はクイックスタートを選んでセッティングを省略するのも良い。マップを何個かクリアしていくと必ず、キャラクタと機体の個性が一体化してくるはずだ。「クララが地雷散布するの楽しそうだ、この娘はディリジェント以外あり得ない」などなど、機体を通して彼女たちの顔が浮かんでくるのが不思議である。イマイチぱっとしない成績の女の子に強い機体を渡してみたりしたくなるかもしれない。繰り返しプレイすることで、ゲームにも慣れてくるし、より深く女の子、機体のキャラクタ性を楽しむことができる。 筆者の現在の課題はマキの乗るインプレグナーの活躍のさせ方だ。シールドを張って敵の攻撃を無力化、そのまま敵に肉薄し接近戦を挑む、というかなり筆者好みの超兵器っぷりなのだが、どうもうまくいかない。マキが敵に突っ込むころには、味方のミサイルやライフルで敵はつぎつぎと倒れてしまうのである。かといってマキを単体で突っ込ませるにはシールドの持続時間が心許ない。どうすればうまくできるのか……ひょっとしたらスモークグレネードに解法があるのかもしれない。
特定のキャラクタを活躍させるために思わずやりこむ、というところは、このライトな感触をもったゲームの一番楽しい部分だろう。単純にクリアするだけではなく、「美しく勝つ」ゲームのデザイン部分さえも超えたプレーヤーの思いいれにより、本作は何倍にも面白さを増すのである。 「ブルーフロウ」は、魅力的なキャラクタとメカをそろえた作品である。女の子達は戦場でもしゃべりまくってくれる。画面は殺伐としがちだが、彼女たちのお約束たっぷりの掛け合いは、戦場に独特の柔らかさを与えてくれる。硬派なシミュレーションゲーマーにはちょっと物足りないとは思うが、ライトなゲームファンにはオススメできる作品だ。美少女達のキャラクタだけではなく、個性的なメカの運用や、難易度を上げての挑戦などやりこみ要素も持っている。 あくまで個人的な感想だが、ちょっと不満を感じたのはストーリーラインだ。戦いに巻き込まれ、やがて成長を遂げる少年、というのは普遍的で魅力的なものだが、ここの部分が本作ではすこし「お約束」に流れてしまったと思う。悩むイベントや人間模様はそれなりに描かれているが、筆者にはすこし共感がしにくかった。もう少しだけ掘り下げてくれれば、と思ってしまった。戦争という重いテーマながら、「女の子だけの特殊部隊」という非常にユニークな味付けをしている本作には、こういった要求は的外れかもしれないが、シリアスと“萌え”の両立を目指して、ぜひスタッフには今後とも頑張っていただきたい。 (C)2005 KOGADO STUDIO,INC.
□工画堂スタジオのホームページ (2005年3月17日) [Reported by 勝田哲也]
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