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Game Developers Conference 2005現地レポートXboxキーマンインタビュー |
会場:Moscone West Convention Center
GDC 2005カンファレンスセッション初日に行なわれた基調講演で、非常に強気の発言を行なった、Microsoftコーポレートバイスプレジデント兼XNAチーフアーキテクトのJ.Allard氏。そのJ.Allard氏にインタビューする機会が得られたので、次世代Xboxに関する話題や、今後のゲーム業界に対する展望などをうかがった。
■ 次世代XboxがHDテレビの普及促進につながればいい
Microsoftコーポレートバイスプレジデント兼チーフXNAアーキテクトのJ.Allard氏。ユーモアのある発言で笑いを取る場面もあったが、しっかりとしたビジョンに裏打ちされた自信が満ちあふれる解答に、基調講演同様の自信を感じ取った |
●次世代Xboxにとって最善であり、かつその能力を最大限に発揮させることのできる表示デバイスは確かにHDテレビです。しかし次世代Xboxを楽しむためには、HDテレビが必ず必要というわけではありません。アスペクト比が4:3のテレビでも十分に楽しむことができるようになっています。私たちは、次世代Xboxによって、その驚異的な映像を楽しむための表示デバイスであるHDテレビの普及が促進できればいいと考えています。例えば、Xbox Liveによって(北米市場では)ブロードバンド環境の普及が促進されました。それと同じように、次世代XboxでHDテレビの普及促進につながればいいわけで、普及のタイミングというのはそれほど重要な問題とは考えていません。
――HDテレビではHDのテレビ放送が見られます。しかもHDのテレビ放送は、非常に魅力のあるコンテンツです。となると、1つの表示デバイスを次世代XboxとHDのテレビ放送とで取り合うことになるわけで、テレビ放送はゲームにとって強力な競合相手と言えます。そういったHDテレビ放送とゲームとの関係をどのように考えていますか?
●現在のゲーム市場を考えると、我々の競合相手はソニーではなく、テレビ放送です。現在人々は、テレビを見るために時間やお金を多く費やしています。ですので、私たちも成功するためには意識を変えなければならないでしょう。ゲームとは何なのか、もう一度再定義する必要があります。
「Project Gotham Racing(PGR)」で例えてみましょう。「PGR」は、かっこいい走りをしてクードスを獲得するゲームですが、他の人がプレイしているレースを観戦しつつ賞金を出すといったことができるようにしたり、好きな車を応援できるようにして、応援が多ければより多くのクードスを獲得できるようにする、といったことが実現できるでしょう。このようなインタラクティブ性のあるエンターテインメントを実現できるというのがXboxの可能性なのです。
とにかく、ゲームの市場を拡大したいのです。とはいえ、おばあさんに「Halo」をプレイしてもらいたいわけではありません。テレビを見たり、マンガを読んだり電話をかけている時間の中から、20分でもいいので、すばらしい体験をするために次世代Xboxの前に座ってもらえれば、マーケットの拡大につながるはずです。そのために、コンテンツについて再定義していかなければならないでしょう。
――基調講演の中で、次世代Xboxではソフトウェア・ハードウェア・サービスが重要であるとおっしゃっていましたが、その中のサービスでは、Xbox Live以外にどういったものを考えているのでしょうか?
●まずXbox Live関連では、Xbox Liveの登録者数を200万人から1,000万人へと拡大させるために、新しい機能が盛り込まれます。それがXboxガイドですね。「ゲーマーカード」や「マーケットプレイス」でプレーヤーや開発者の利便性を高めます。これはファーストステップに過ぎません。次世代はかなり長い期間になるでしょう。しかし私たちは、ソフトウェア・ハードウェア・サービスのバランスを取っていますので、利用者が求めるサービスをどんどん追加できます。すばらしいハードウェアがあるからこそ、ソフトウェアとサービスを強化できるのです。
――次世代Xboxには、Blu-ray DiskやHD DVDなどの次世代光ディスクメディアが採用されるのでしょうか?
●私たちは、ディベロッパーを対象にメディアに関する調査を行ないました。その結果、メディアに関しては、スループット(転送速度)が最も重要で、次にシークタイム、次に製造コストという優先順位を設定しました。現在のXboxの開発キットには高性能な新しいデータ圧縮ライブラリが盛り込まれていて、データの圧縮性能は大きく向上しています。容量はあまり重要ではありません。新しい光ディスクフォーマットを採用することで、スループットやレイテンシ(遅延)、コストに影響を与えるのか、そういった点が重要なのです。Blu-ray DiskやHD DVDは、どちらもすばらしいですし、SACDやDVD-Audioも同様です。しかし、次世代Xboxメディアの採用にあたっては、ディベロッパーの声を聞き、優先順位を考えたうえで、どれを採用するか決めます。
■ 次世代Xboxは日本でも確実に受け入れられ、成功する
GDC 2005において次世代Xboxで実現されるサービスとして発表された「Xbox Guide」 |
●(力強く)Yes!!(一同爆笑)
――では、現状でCellに対してどの程度の脅威を感じられているのでしょうか?
●私たちがXboxでゲーム業界に参入したのは、3D時代のかなり遅い時期でした。既にソニーが圧倒的なシェアを獲得している状態でしたので、追いつくのはほぼ不可能でした。F1にたとえてみると、既に(全18戦のうち)13戦が終了しているかのような状況での参入でした。そういった状況でしたので、来シーズンへ向けた研究や開発、チーム作りに力を入れてきたのです。来シーズン、つまり次世代のレースでは、私たちも、ソニーも任天堂も、全く同じラインからのスタートとなります。しかし私たちは、次世代に向けた戦略をすでに着々と進めていますので、十分に勝つ自信があります。そういった意味では、Cellに対して大きな脅威を感じているということはありません。
――基調講演で、HD時代ではマルチプレーヤーからマルチプラットフォームになるとおっしゃっていました。それは、XNAをベースにしたWindowsと次世代Xboxとのマルチプラットフォームというふうに認識していますが、その中に現世代のXboxも含まれているのでしょうか?
●今、「Halo2」をプレーするとします。Xbox Liveに接続し、いろいろなプレーヤーと「Halo2」を楽しみます。そのときに、PCを起動して、PCの画面に3Dでマップを参照して、どこから敵を狙い撃てばいいのか予習します。また、クランの仲間達と、Bungie.netに設けられている会議室を利用してディスカッションを行ない、その夜に仲間達と「Halo2」をプレイするということもあるでしょう。つまり、WindowsとXboxとのマルチプラットフォームという意味であれば、現在のXboxでも既に実現されているわけです。
しかし、私たちの考えているマルチプラットフォームというコンセプトは、特定のデバイスのみを対象としているわけではありません。ジョージ・ルーカスは「スター・ウォーズ」という世界を作り上げました。「スター・ウォーズ」は、本でもインターネットでもゲームでも映画館でも楽しめます。それぞれは全く異なるものですが、全て「スター・ウォーズ」に関連しているという意味では、同じ世界のものと言えます。それと同じように、どんなデバイスであろうと同じ世界に存在させるというのが、私たちの考えるマルチプラットフォームの究極の目標です。
――では、次世代Xboxで、現在のXboxとの互換性を持たせるといったことは考えられていますか?
●プレイステーション 2では、プレイステーションとの互換性が非常に重要でした。なぜなら、発売時に魅力的なソフトがなかったからです(一同爆笑)。
私たちは、3D時代からHD時代へ、一気に飛躍させたいと考えています。今回の基調講演で、現在のXboxとの互換性について発表することは、重要な意味があるでしょうか。私たちは、現存するゲームをプレイするために巨額の投資をしているのではありません。最も重要なのは、未来のゲームなのです。HDゲームを供給することなのです。次世代Xbox発売日にエキサイティングなHDゲームを供給するのです。もちろん、Xboxとの互換性は重要なことだと考えていますし、それについて努力もしています。しかし、そのことが高い優先順位にいることは非常に危険です。それに、あなた達にそのことの1番のニュースとして取り上げられてしまうと、混乱を招いてしまいます。
GDCでは、ゲーム開発者が情報を求める場です。私たちは、ゲーム開発者をHD時代へと導きたいのです。ゲーム開発者に、私たちが2年後、5年後、10年後のゲームの世界をどういった方向に持って行きたいのかというビジョンを伝えたいのです。GDCは、過去を振り返る場ではありません。未来に向けての話をする場なのです。
――日本で次世代Xbox旋風を巻き起こせると思っていますか?
●'99年に坂口博信さんを訪ねて「Xboxでこのようなアイデアがあるのですがどう思いますか?」と聞いたところ、「No」という答えでした。2000年、今度は「XboxでXbox Liveが始まりましたがどう思いますか?」と聞いたのですが、また「No」。2001年も「No」、2002年も「No」、2003年も「No」、2004年も「No」。その度に、「なぜですか?」と聞いて、いろいろなことを学んでいこうとしました。そして2005年、坂口さんに「これが次世代Xboxのビジョンです。あなたの情熱は、ゲームに対する情熱ですよね。あなたは偉大なクリエイターですよね。どうですか?」と聞いたところ、答えは「Yes」。
他にも、日本でたくさんのクリエイターの方と話しましたが、その多くの方が「No」という答えでした。しかし私はその時に必ず「なぜ?」と聞き返したのです。それは、ゲームに対してすばらしい情熱を持っている方の考えを学びたかったからです。そして、私たちの次世代Xboxや日本に対する情熱が坂口さんや岡本さん、水口さんに伝わったのでしょう。
基調講演で、キーワードとして「パーソナライズ」というものをあげましたが、これは実は秋葉原からヒントを得たのです。秋葉原でドコモのiモード端末を触っていたときに、着信音や壁紙など、とにかくありとあらゆる部分をカスタマイズできるという部分に驚きました。これはアメリカにはない文化です。そこで、日本の文化を学ぶために、子供、エンジニア、販売、競合他社など、可能な限りありとあらゆる人の話を聞き、学んできました。
過去3年間、日本では商業的には非常に厳しいものがありました。しかし学ぶという意味では成功したと思っています。ですので、次世代Xboxは日本でも確実に受け入れられ、成功するものと思っています。
(2005年3月14日)
[Reported by 平澤寿康]
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