|
Game Developers Conference 2005現地レポートナムコの高橋慶太氏がPS2「塊魂」について講演 |
会場:Moscone West Convention Center
「Game Developers Conference(GDC) 2005」4日目となる3月10日(現地時間)、ナムコの高橋慶太氏によるセッションが行なわれた。
高橋氏は、プレイステーション 2用アクション「塊魂」のディレクターを務めた人物。「塊魂」は、北米では「Katamari Damacy」というタイトルで発売されており、日本での評判を上回るほどの高い評価を受けている。このセッションの前日に行なわれた「第5回Game Developers Choice Awards」では、“GAME DESIGN”と“INNOVATION”の2部門を受賞しており、特にゲーム開発者には世界的に高評価を得ているようだ。
その高橋氏のセッションは、テキストで書かれたスライドを一切使わず、イラストやムービーのみで解説が行なわれた。さらにその場で落書きするかのようにスクリーンに絵を描くという、いかにもデザイナーらしい手法による、ユニークかつユーモラスな講演となった。
最初に手にはめていた「王子」のハンドパペットを講壇に置いて、高橋氏自身は最後まで横で喋っていた | スクリーン上に絵を描いて解説。非常にわかりやすくて面白い |
玉を転がして落ちているものをくっつけて大きくするという、実にユニークな発想を取り入れた「塊魂」。セッションを聞きに来た開発者を含め、プレーヤーの最大の興味は、「なぜこんなゲームを思いついたのか?」というきっかけだろう。これについて最初に触れた高橋氏は、「これといってないんですよね」と意外な答えを返した。もちろん本当に何もなかったわけではなく、何かを見たり聞いたりした瞬間に閃きがあった、という類のものではないということなのだろう。
逆にプロジェクトを始めるきっかけは明確で、「社内に参加したいプロジェクトがなかった」と言い切った高橋氏。入社後は試作プロジェクトに参加していたが、「塊魂」以前に携わったタイトルで製品化されたものは存在しないという。そのことを当時の上司に相談したところ、「じゃあ自分で企画を立てれば?」と言われ、そこで初めて「ああ、なるほど」と気づいたのだそうだ。そしてその企画が「塊魂」制作プロジェクトとなる。
しかしこの斬新な企画は、当初誰にも目をつけられることなかったという。初めての企画が「塊魂」のようなオリジナリティの強い作品であれば、そう簡単に賛同を得られないことは容易に想像できる。そんな時に高橋氏は、ナムコとCG専門学校が協力して運営していたCGデザイナー育成学校で、ゲーム制作の授業に使う企画を探していることを耳にする。そこへ「塊魂」を持ち込み、十数人の生徒に巻き込むものを作ってもらい、プログラミングやマップ制作などはナムコが担当するという形で試作したという。学生を巻き込んでのプロジェクトだったことは割と知られているが、それが試作のために必然だったというのは意外な話だ。
この試作版のムービーが、会場で流された。画面に表示される情報やカメラワークなど、製品版と比較すれば作りこみの甘い部分は見えるが、基本的なゲームシステムはほとんど変わっていない。王子や王様などのキャラクタも既にできあがっており、「塊魂」の面白さが十分に伝わってくる。
この完成度の高い試作版はナムコ社内でも好評となり、ついに製品版への流れに乗ることになる。とはいえ、それでもスムーズには行かなかったようで、「転がすだけでいいのか」、「もっとゲームとして作りこむ余地があるのではないか」といった声もあったという。しかし高橋氏は、「塊を転がして、巻き込んで、というだけで十分に楽しめる」と確信していたそうだ。ちなみにその際の対応は、「そういった意見は積極的に聞き流した」そうで、これには会場から大爆笑が起こった。
また講演の余談として、「塊魂」の開発以前に動いていた別のプロジェクのイラストが紹介された。このゲームは、カートに乗った少年が、ある理由で街を破壊しながら疾走するという内容。最初に出たイラストは少年がカートに乗っているものだが、次のイラストでは「塊魂」の王子が少年の肩に乗っており、さらに次は王子が少年の後頭部を強打。おかしくなった少年とともに、王様と仲良く遊ぶ……という壮絶なストーリー。もちろんこれは没ネタだが、王子や王様は実は「塊魂」以前から作られていた、いわば再利用キャラクタだった、というのが面白い。
試作版の「塊魂」。プレーヤーならば製品版との違いを見分けられると思うが、同時にゲームがほぼ完成していることもわかるだろう。オープニングの“鼻歌”をはじめ、音楽や効果音も入っている | ||
少年の肩に乗った王子が後頭部をガツン! これで少年は王子と王様のおもちゃに……という凄いゲームが「塊魂」の代わりにできていたかもしれない |
高橋氏はナムコ入社前、美術大学で彫刻を学んでいた。そこでは後半の2年間が自由制作期間にあてられており、当時の高橋氏は大いに悩んだという。それは何を作ろうかというものではなく、「身の回りにはごみ問題もあるし、世界には紛争も起こっている。ほかにも難しい問題は山ほどあるのに、それが彫刻とどう絡んでいくのか」ということだったそうだ。彫刻を芸術作品として追求するのではなく、世の中の役に立てたい、と思ったわけだ。
高橋氏が出した結論は、「少しでも楽しかったり笑えたりすれば、世の中がよくなって問題もなくなるかもしれない」というものだった。見た人を楽しくさせるようなものを作ることにした高橋氏は、「変形するちゃぶ台(ふたりがかりでないと変形できない)」や、「巨大なカバのティッシュカバー(縦積みに4箱も入る)」といったものを制作した。芸術的にどうこういう類のものではないし、まして機能的にも不便なものもあるが、しかし見た人に強烈なインパクトを与え、思わず笑ってしまうものばかり。
「触れた人が笑ってくれたことがとても自信になった」という高橋氏は、楽しさを商品にする仕事としてゲーム会社を選び、ナムコに入社する。「実際はあまり面白くなかったんですが」といって笑いを取りつつも、「暴力的なゲームが日本でも騒がれているけれど、そういわれるゲームは作りたくない。いい影響を与えられるゲームを作りたい」と語った。「人を楽しい気持ちにさせれば、戦争もなくなるかもしれない」という彫刻に与えられたメッセージは、「塊魂」にもそのまま受け継がれているのだろう。
高橋氏が学生時代に制作したもの。一見普通のちゃぶ台だが、変形して人型になる。作業はふたりがかりで、コミュニケーションに最適? | |
巨大なカバのティッシュカバー。既に名前から洒落。中にはティッシュの箱が4個入るが、構造上、上の1個しか機能しないという無駄さがまた面白い | |
ヤギの形をした植木鉢。これは普通に見てもちょっとかわいい。しかし水をやると、下からおしっこをするように水が流れ出てくる…… |
講演の中で高橋氏は、自らが持つゲーム観をいくつか語っている。まず「塊魂」のボリュームが少ないと言われていることに触れた際には、「ゲームを楽しんでもらえるのは光栄なことだが、ゲームに数十時間も費やすのが、いいことだとは思えない」と語った。特に子供がゲームをすることに対しては、「外で友達と元気に遊ぶほうがいい。ゲームなんて大人になってもできるし、時間がもったいない」という。何ともゲーム開発者らしからぬ意見で、GDCという場所で言うこととは思えないが、これも高橋氏のポリシーの1つなのだろう。
また大人に対しても、「ストレスを発散するためのゲームを作っているのではない。生活を楽しくする、素敵なフィードバックがあるゲームを作りたい」という。気分を紛らわせるのではなく、心から楽しませたいという高橋氏のポリシーがよくわかる。
「塊魂」は、塊を転がしてくっつけるというシンプルなゲームで、高橋氏自身も「誰にでもわかるゲームを作りたい」と話している。しかし、「シンプルイズベストとは思っていない。わかりやすいからシンプルかというと、そうではない」と主張する。
続けて高橋氏は「人間、長く生きていると、いろんな感情が交錯して、喜んだり、悲しんだり、怒ったり、涙も笑いも絡み合ってくるようなことがある。そういうものを、“愛”とか“青春”とかで一言で表現できてしまう」と話した。概念的で伝わりにくいが、そういった「あらゆるものを凝縮したもの」というのが高橋氏の言う「シンプル」であり、そういうゲームを作りたい、ということなのだろう。
高橋氏は「ビームに当たりたい、小さくなりたい、と思わせるゲームデザインが、『塊魂』が(GDC Awardの)賞を取ったゆえんかな……何でもないです」といって笑いを取った。しかしこれは何の冗談でもなく、本当に重要なファクターであろうと思う。ゲームオーバーになっても楽しめたり、本来よけたくなるビームに当たりたくなる意外性など、そのオリジナリティには脱帽の一言だ。
全体的にお笑いの色が強い講演だったが、時折垣間見える高橋氏の確固たるビジョンは非常に魅力的な内容だった。会場に来ていた開発者たちも、もちろんそれらを見逃しておらず、スタンディングオベーションで惜しみない拍手が送られた。
新作「みんな大好き塊魂」より、目からビームを撃つ王様。王子が当たると体が縮む | 講演の後も、質問や挨拶、サインを求める人でごった返していた。常識はずれの大人気 |
(2005年3月13日)
[Reported by 石田賀津男]
GAME Watchホームページ |