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中国セッションレポート
急速に変化を遂げる市場、各メーカーの対応策は?

会期:2月28日~3月1日 開催

開催場:工学院新宿キャンパス


■急激な発展により可能性と同時に問題を抱える中国モバイル業界

エノーバステクノロジーのGage Galinger氏
 「大躍進! 中国モバイルエンターテイメント市場」 というタイトルで講義を行なったのは、中国でモバイルゲームを配信しているエノーバステクノロジーのGage Galinger氏。エノーバステクノロジーは自社ソフトを開発するとともに、外国製品のローカライズを行なって配信をしている。2000年に北京で活動を開始し、当時40名だった社員は、いまや130名を越え、会社は急速に発展、成長を続けているという。それでも中国市場の拡大に追いつかない。氏は中国でのビジネスの秘訣は、「柔軟であること」だと語る。

 中国では二つの携帯電話会社があり、2004年6月の時点で中国全土で15億台の携帯電話が使用されているという。そのうちの6億8千万台ほどが機種交換を行なっている。数字だけ見ると非常に大きいようだが、成長率を示す曲線はここ最近で鈍化し始めている。このことに関して氏は、「チャンスである」と指摘する。携帯の端末が普及しきって、市場の成長率が落ち着いてくれば、端末の値段が下がり、ユーザーはサービスの充実を求めるようになる。ソフトに焦点があたるようになるのはこれからだという。

 2004年はカメラ付き携帯が中国で1億7千万台出荷された。エノーバステクノロジーが配信するゲームソフトが動く能力を持った端末が、ようやく普及し始めている。これはXboxやPS2よりも大きな市場になる可能性を持っている。2008年までに中国の携帯コンテンツ産業は8億円の市場になるという予測も立てられている。

 中国では2つの通信業者しかない。コンテンツプロバイダーはこの二つの業者に認められなければ全くサービスすることができない。特に最大手である「チャイナモバイル」の条件は厳しく、OKやCPUといった英語すら使ってはいけない。英字は配信会社の名前だけ、すべて中国語にローカライズしたソフトでしか許可されない。

 さらに日本と違い、通信業者が機種を決めているわけではないので、100種類以上の会社も機種もバラバラな端末に向けてソフトを配信することを考えなければならない。ひとつのソフトをできるだけ多くの端末で動くようにしなければ採算がとれないし、動作条件やソフトの容量も極力軽くしなくてはならない。

 通信業者がソフトメーカーに厳しい条件を課す理由にはもう一つ大きな理由がある。現在、この通信業者には「ソフトを配信したい」と願い出る業者が非常に多く、この数をあえて制限するため、許可を出す条件を厳しくしているのだ。

 結果、与えた条件は満たしているものの、ソフトの内容そのものに注意が払われなくなる。このため、現在配信されているゲームに対して、ユーザーの不満は非常に高い。無理矢理移植されたため、操作のシステムが携帯電話に合っていないとか、ゲームが単純すぎるとか、不具合が多い。また、環境についても不満の声が挙がっている。急速に発展したネットワーク網のため、場所によってはダウンロードに時間がかかったり、回線が切れたりする。こういった環境のため、データをやりとりして楽しむ通信ゲームもサービスできない。現在ユーザーは、一つのゲームをプレイするのは長くても1週間で、新しいゲームコンテンツに移ってしまう。1~2回プレイしてその内容に見切りをつけ、ソフトを削除してしまうプレーヤーも多いのだ。

 氏は今後こういった状況が改善されることに大きな期待を寄せているという。とにかく、ユーザーに満足してもらうゲームを作りたい。また、日本の企業にも期待をしているという。中国では日本のゲームを好きなユーザーが多い。そのために、低性能の端末でも動く日本のゲーム資産を是非とも中国に紹介したいと語る。そのためには、携帯ゲームのコンテンツを紹介するためのメディア展開も必要だという。

 併せて氏は新しいパブリッシャーの参入の難しさも語る。新しい企業は二つの通信業者への“コネ”がなければソフト配信は不可能だ。現在はソフトの内容よりも、このコネと業者が課する条件をクリアするためのノウハウが必要となる。これはゲーム制作技術とは全く違うものだ。ここで、「そこでノウハウのあるエノーバステクノロジーを」と話は続くわけである。他の国に比べ、あまりに早い速度で発展しているという状況と、中国の広さ、さらにはお国柄もあって、非常に難しいが、やりがいのある市場だと氏は話を結んだ。


■中国の人気ゲームメーカーが分析するMMORPGユーザー像

Neteaseの黄 華氏
後述するディスカッションで提示された中国MMORPGの人気トップ10。ほとんどのタイトルが前年から継続している。MMORPGというゲームの性格を端的に表している
 2004年の中国の人気ゲームソフトトップ10の4位に選ばれた新作MMORPG「夢幻西遊」このゲームを作成したゲームメーカーNeteaseの黄 華氏は「中国オンラインゲーマーの変遷」についての講義をした。

 日本では、中国のオンラインは非常に急速な膨張をしていると報じられている。黄氏は「ちょっと前は確かにそうですが、現在は少し違います」と語る。2003年から業界の成長スピードは少し落ちているという。現在100のメーカーが200以上のゲームを運営しているが、利益を多く出しているのはその中のわずか10%、何とかかつかつでやっているのが10%で他の会社は皆赤字を出しているという。昨年は100本の新作ゲームが出たのだが、前述のトップ10に上がった新作はわずか2本。同時アクセス5万を越えた新作MMORPGも5種類しかなかったという。

 続いて語られたのは中国のMMORPGプレーヤーの傾向。黄氏がMMORPGプレーヤーに行なったアンケートによれば、中国のMMORPGプレーヤーはいくつかの相反する部分を持っていて、他の人の意見や流行に流されやすい傾向があるという。

 まずは「無料ゲームが好き」。中国市場はβテストから有料サービスに移行するときに、50%のユーザーが離れてしまうのが常だ。この移行するユーザーを引き留めようとするのが現在のメーカーの課題だという。この問題に関しては、日本や韓国も同様だろう。ただ、中国のユーザーは次々に無料サービスへ移行していくプレーヤーが多い一方、85%のユーザーが課金も行なっているという。無料プレイのみを楽しんでいるMMORPGユーザーはそれほど多くないのだ。

 中国のユーザーは実に80%がチートツールを使ったことがあり、チャンスがあれば積極的に使いたいという意見がある。また、チートツールを使う知識のある人が圧倒的に多い。それでいながら、ゲームを選択するときには、「そのゲームがちゃんとチートの対策を行っている公平さを持ったゲームか」ということを選択の理由にするという。

 50%のユーザーが友達を作るのを目的にゲームをプレイし、60%のプレーヤーが友達の紹介でゲームを始めるが、争うことも大好きで、特に韓国産MMORPGをプレイするユーザーは積極的に戦争を楽しんでいるという。

 中国のユーザーは次々とゲームを変える傾向がある。70%のユーザーが常に2~3のゲームをプレイしているが80パーセントのユーザーがお気に入りのゲームを持ち、その作品はずっとプレイをし続けているという。前述のアンケートで、昨年に続いて8つのソフトが続けてランクインしたところからもこの傾向が分かる。

 また、中国ユーザーのみならず、非常にユニークな中国の現状も報告された。2004年から政府の意向により、中国メーカーによる国産MMORPG、名付けて「民族Online」を2008までに100本作り出すことになったという。韓国などの外国製MMORPGの輸入は制限され、全体の30%に押さえられる予定だという。今後もどんどん中国メーカーはオリジナルゲームを“作らなくてはならない”。非常に中国らしい状況である。

 こういった状況の中、Neteaseは「情感」にスポットを当ててゲームを制作・運営している。プレーヤー達のつながりを強化し、ゲームの中に結婚や協力技などの概念を導入、さらにオフラインイベントを行なってユーザーの交流を推奨している。オフラインイベントでは4,000人ものファンが集結、さらに大きなショッピングモールなどでゲームをアピールするイベントも行なっている。他にも、チートツールを監視し、掲示板などのコミュニティーに力を入れていくという。

 Neteaseは今後は中国国外のユーザーにもアピールしていきたいとのこと。まずは中国語のまま華僑の多い地域への展開を考えているという。


■コーエー松原氏と中国ソフトメーカーのディスカッション。中国市場の課題と展望

司会を務めた立命館大学政策科学部助教授・中村 彰憲氏
 アジアオンラインゲームカンファレンスの中国セッションの最後に行なわれたのは、「日中コラボレーションで賭ける日本ゲーム開発者、中国進出へのシナリオ」というタイトルのパネルディスカッション。

 司会を務めるのは立命館大学政策科学部助教授・中村 彰憲氏。パネリストはコーエー 執行役員の松原健二氏、エノーバステクノロジーのGage Galinger氏、、Neteaseの黄 華氏の3人がそれぞれ、中国市場へ進出する日本メーカー、中国のソフトメーカー、中国のモバイルソフトメーカーという立場で話をした。

 中村氏はまず、中国に3DグラフィックスのMMORPGの進出の難しさを「リネージュII」を例にしてあげる。台湾や韓国で人気を博したこの作品が、中国で大きなムーブメントを起こさなかったのは、ネットカフェのPCの性能が低く、ユーザーがプレイできなかったからではないかという指摘をする。この課題に、黄氏は、中国の市場では「リネージュII」が動くようになるPCが中国の農村部に普及するには2年かかるのではないかと答えた。

 松原氏は、PCの問題のみならず、回線の問題も指摘する。「グラフィックデータを含むパッチを当てる場合は、中国の回線速度はまだ遅く、不安定だ。ネットカフェでゲームを動かす場合はパッチを入れたCDを配布することも考えなくてはならない」。

 次に中村氏は中国市場でカードゲームや単純なレースゲーム、オセロなどの「カジュアルゲーム」が非常に好調な事を議題に上げる。MMORPGを中心に配信し、カジュアルゲームを展開しない戦略をとっている松原・黄氏、両名はともにブランドをアピールし、きちんとした採算をとるには高い技術力を活かしたMMORPGが自社にはあっており、今後の予定はない。と答えた。多くのユーザーを抱えているカジュアルゲームのポータルサイトは数多くあるが採算のとれていないところも多いとのことだ。

 Gage氏のモバイルコンテンツはカジュアルゲームが主力商品である。Gage 氏は多くのプレーヤーが一つのゲームを数回しかプレイしないでやめてしまうモバイルコンテンツの現状を配信業者がゲームに関して全く知識がなく、配信するゲームを選択していないことが原因の一つだと語る。そのためにはメディアを育成しなくてはならない。

 松原氏は日本のモバイルコンテンツの状況を説明。日本では、ドコモやKDDIの紹介ページに載ることで配信数が大きく向上するという。メディアよりも、現状では訴求力がある方法だと指摘する。しかし、と松原氏は言葉をつなげる。「中国の場合は配信業者が非常に多くの会社の端末を使わせているので、業者がユーザーにコンテンツを紹介するのはちょっと無理があるね、やはりメディアが重要かなあ」。

 この後中村氏は最近、ソフトスターの「仙剣奇任傳」というRPGが映画になった事を例に挙げ、ゲームから映画へのコラボレーションは可能かと言うことを各氏に問いかけた。黄氏は今は映画よりも、本によるコラボレーションでゲームをアピールしてきたいと答えた。

 松原氏はゲームと映画の製作費の違いを指摘。特に米国の映画の場合、ゲームの制作費とは段違いで、映画から派生するゲームというものは多いが、逆は難しいという。「日本映画でも10億円という大きなお金で制作されるが、日本のメーカーは1億かけないでゲームを作っている人が多い。ただ、最近はアニメがゲームとのコラボレーションを最初から目的として作るという体制も多くなってきているね」と語った。

 最後に中村氏は日本のイラストレーターが台湾や中国でその実力を認められ、活動のは場が広がっていることを紹介。彼らがきっかけとなって、ゲームや映画など様々なコンテンツが、アジア各国の才能を持つ人たちの手によって生まれる可能性をあげた。

 一時間という限られた時間では、通訳も介したディスカッションはやはり時間が少なかった。議題には「中国政府との関わり方」という、中国市場に進出するために非常に興味深い設問もあり、筆者にはここでお話が終わってしまうことが非常に残念だった。

コーエー 執行役員の松原健二氏 エノーバステクノロジーのGage Galinger氏 Neteaseの黄 華氏
 

□ブロードバンド推進協議会のホームページ
http://www.bbassociation.org/
□「AOGC 2005」のページ
http://www.bbassociation.org/AOGC2005/
□関連情報
【2004年6月21日】SIG-OG、オンラインゲーム専門部会特別講演会を開催
コーエー松原氏「開発費回収のために海外展開は必然」
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20040621/sigog.htm

(2005年3月2日)

[Reported by 勝田哲也]


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