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ガンホー代表取締役社長森下一喜氏特別インタビュー |
会場:ガンホー本社
2004年、ガンホーはオンラインゲームパブリッシャーとして大きなチャレンジの年となった。マルチタイトル戦略の一環として、新規MMORPG「A3」、「タントラ」の運営、それから「ゲットアンプド」、「ポトリス2」、「サバイバルプロジェクト」といったカジュアルオンラインゲームの提供、そのほか、アニメーション事業、インターネット放送、「ラグフェス」をはじめとした数々のオフラインイベント。まさに攻めに攻めた1年となった。
こうした同社を牽引しているのがアイデアマンとして知られる代表取締役社長森下一喜氏である。今回、森下社長から「2005年の事業戦略に関して話したいことがある」とオファーをもらい、早速話を伺ってきた。
当初の予定では、1月下旬に実施される業者向けの戦略発表会との兼ね合いもあり、記事化しないという条件でのインタビューだったが、予想以上におもしろい話だったため、今回無理をいって記事化させて頂いた。今回の話はあくまで“事業戦略”であり、そのため十把一絡げ的な表現も散見されるが、事業戦略レベルでの発言としてご了解いただきたい。
ガンホー代表取締役社長森下一喜氏。新しい話をするときは、非常に楽しそうに話すのが印象的である |
まず、弊社は昨年から現在に至るまでマルチタイトルの戦略を採っています。「ラグナロクオンライン」、「A3」、そして「タントラ」。「タントラ」はオープンβの段階ですが、このほか3タイトルのカジュアルゲームも含めて、複数のオンラインタイトルを同時展開していく、これがマルチタイトル戦略です。
今年はオリジナルタイトルの展開も控えておりますので、マルチタイトルという基本戦略はそのまま継続していきます。プラス新しい事業展開ということになりますが、事業展開の多角化、これが今回の話です。
昨年だと、アニメーション事業に、インターネット放送といったことを行なってきましたが、オンラインゲームのパブリッシング以外のこうした事業もひっくるめて事業の多角化を本格始動させていこうと考えています。
編: なかなかおもしろそうな話ですが、具体的にはどういう内容なのでしょう? 2005年に何か見えてくるのですか?
森下: まず、マルチタイトル戦略については、昨年まではどちらかというと準備期間でしたが、今年は「タントラ」の有料化、そして「ヨーグルティング」と順にタイトルを増やしていきます。もちろん事業の柱である「ラグナロクオンライン」についても、内容の拡充という点において、昨年以上に力を入れていきます。これは単にゲームの機能を追加するというだけでなく、たとえばサポート機能の充実、新しい顧客層の獲得といった部分も重視していきます。
ただ、現在は各タイトルのコミュニティがそれぞれ独立していて、gungho.jpのサイトはWebヘルプデスクや課金登録にしか使われておらず、互いに分散しあった状態にあります。現在、我々は公式サイトでも提唱し始めているのですが、「オンラインコミュニテインメント」というキーワードを掲げています。今後はこれを始動していきます。
我々は将来的に、各タイトルのユーザーが、ゲームタイトルを意識することなく相互にコミュニティを取れるような場を提供していきたいと考えています。すでに我々は多くのユーザーを顧客として抱えていますが、Yahoo!しかり、楽天しかりで、顧客の数、それそのものが大きな力になります。この力を、今後はもっと強力にしていく、というのが基本的な考え方です。
こうなってくると、事業としてはゲームの提供だけでなく、コミュニティを促進させるためのサポートや、より多くの会員を集めるためのエンターテインメントコンテンツの提供も考えていかなければならない。昨年行なったアニメ事業やインターネット放送は、今我々が目指している事業への布石のひとつと考えて頂ければと思います。
編集部: なるほど。いくつか確認させて頂きたいのですが、まず2005年のメインのビジネスはオンラインゲームの展開、運営になるわけですか?
森下: そうなります。
編集部: そして今新しい事業展開についてのお話が出てきましたが、これはgungho.jpをポータルとしたゲームポータル事業を展開していくという認識でよいのですか?
森下: いえポータルではありません。
編集部: しかし、gungho.jpを窓口に、ブロードバンドを利用したエンターテインメントコンテンツの配信ということになると、やはりくくりとしてはポータル事業ですよね?
森下: ポータルというと厳密には“玄関だけ”ですから、そうではありません。我々が考えているのはgungho.jpを入り口としたテーマパークのような概念です。テーマパークの中で、自分の好みにあったアトラクションを遊び、そして好みの同じ仲間とコミュニティを発展させていくという感じです。ポータルだと玄関を作って、あとはコンテンツを流し込むをいうイメージだから、ポータルという言葉は使いたくないのですよ。
編: なるほど。なぜポータルという言葉をわざわざ使ったのかというと、現在日本にゲームポータルと呼ばれるものが存在します。オンラインゲームパブリッシャーは、その窓口に自社のコンテンツを提供し、ポータルのユーザーはそこから好きなゲームを選んで楽しむことができる。これは表現はともかくとして、オンラインゲームビジネスモデルのひとつの形です。
ところがガンホーの場合は、既存のゲームポータルにタイトルを提供するということを意識的に避けてきた。そこに今回の話を聞くと、「自社タイトル限定のゲームポータルを自社で立ち上げる」としか取れない。タイトルも、ポータルも、課金決済も、その他コンテンツもすべて自社でやる。間違ってますか?
森下: ポータルというとハンゲームさんのようなビジネスを言うのだと思いますが、ああいうのとは異なる新しい事業展開になります。我々が目指しているのは“コミュニテインメントサイト”です。gungho.jpでは、コミュニティの元となる「ラグナロクオンライン」や「A3」などのより多くの情報の提供を行なっていくということがひとつ、それから各タイトルのユーザーが相互にコミュニケーションを取れるような仕組みの提供です。
やはり根っこにあるのは、各タイトルごとに抱える数十万のユーザー同士をどのように結びつけ、そして当社のビジネスとしてどう活かすかということです。それがポータルと言われるのであれば、そうなるかもしれません。
編: 何度聞いても、ネクソンやハンゲームのビジネスの延長、あるいは拡張にしか見えませんが。
森下: 違います。イメージからしてまるで違うものになります。
編: 具体的にどう違うのでしょう?
森下: それはできてからのお楽しみということにさせてください(笑)
「2005年は『ラグナロクオンライン』の年です」とのこと。バックにあるのは「ラグナロクオンライン」2005年度版カレンダー |
森下: そのとおりですね。そこが今回のプロジェクトのひとつのキーになりますね。
編: コミュニティというのは、こういうとアレですが、ガンホーさんのウィークポイントでもある。
森下: そうかもしれません(笑)。ただ、これまでにもラグフェスへの協力ですとか、ラグスタの開催などオフラインで可能なことはやってきたという自負はあります。その一方で、オンライン上のコミュニティの形成ということに関しては、比較的手薄だったというのは事実です。そこで今後はオンライン上でのコミュニティ機能の充実を図っていきたいと考えております。
編: お聞きしたいのはその先、具体的にどうするのか、という部分です。
森下: 今それを言ってしまうと戦略的にまずいのです(笑)
編: そこがわからなければインタビューに来た意味がありません(笑)。ヒントだけでも。掲示板なのか、ボイスチャットなのか、あるいはまったく新しいものなのか。
森下: まったく新しい方式です。この中には掲示板的な機能もあるでしょうし、チャットもできるでしょうし、ブログのようなものもあるかもしれない。
編: いまブログというヒントが提示されましたが?
森下: 選択肢のひとつとしてあるという話です。
編: そのサービスは、ガンホーのゲームをプレイしているユーザーが対象になるわけですか。
森下: そうなります。正確にはgungho ID取得者ですから、厳密に言えばゲームをプレイしていなくてもサービスは受けられます。
編: そしてgungho.jpを窓口に、ガンホーが提供する、コミュニティ機能を含めたすべてのエンターテインメントコンテンツにアクセスできると?
森下: そうなります。
編: ポータル、ゲーム、コミュニティ少しずつ見えてきましたが、“実験的事業の本格提供”に相当するプラスαの部分をもう少し教えてください。
森下: 映像もありますし、音楽もあります。
編集部: 音楽? ゲームのサウンドトラックですか?
森下: いえそういうわけではなく、アーティストの育成を含めた音楽事業というものもいろいろ考えています。
編: それはレコード業界への進出というわけではなく、ゲームの主題歌のようなゲームに絡んだ音楽ビジネスという話ですよね?
森下: そうです。ここ1、2年でコンテンツのヒットする要因として、ひとつは口コミ、それからもうひとつ“意外性”といったものも挙げられると思います。しっかりとしたコミュニティを提供することで、そこから何か新しいムーブメントが生まれるかもしれない。
たとえば、コミュニティの間で、音楽を作る人がいた、あるいは映像であるかもしれません。当然その内容についてコミュニティの間で議論が交わされるでしょうし、賛否両論あるでしょうが、商品化に値する作品が生まれるかもしれない。その支援を我々の方でしていくということも将来あるかもしれない。
編: どんどん話が大きくなってきましたが、確認しますと、まずgungho.jpでは、全ユーザーに対してブログサービスを実施し、その上でユーザーの創作活動を奨励する。そこでたとえば、フラッシュやBGM、「ラグナロクバトル」のような優秀なコンテンツが生まれたら、御社が全力でバックアップし、ビジネス化する手助けをすると?
森下: そういう展開もありだと思います。これまでにも弊社は、同人活動に対して可能な限りの支援をしてきました。これまではオフラインがメインでしたが、オンラインにおける支援をしていく。もし、素晴らしいコンテンツがユーザーの間で生まれたのであれば、それを商品化する手助け、たとえば開発協力するといったことも行なっていってもいいと思ってます。
たとえば商品化に当たってはユーザーに対してアンケートを採るのもいいでしょうし、ユーザーにアイデアを募るというのもおもしろいでしょう。これからのゲームユーザーは、単にゲームを遊ぶだけでなく、そうして得られた仲間たちと創作活動も楽しむ、またはそうして生まれたコンテンツを一緒に楽しむ。そういう展開はありですよね。
編: 将来そうしたサービスを受けられるgungho IDの所有者は現在どれぐらいいるのですか?
森下: 75万人です。これは重複はないので、実数と捉えて頂いていいと思います。
編: 音楽に関しては、たとえばアップルですとかマイクロソフトがはじめた音楽配信サービスのようなものも視野に入れている?
森下: いえいえ、まだまだ構想段階ですから。音楽のダウンロード販売を行なうということもあるかもしれませんが、具体的な話は未定です。
編: なるほど、大変大がかりな構想ですね。
森下: 我々が創業当初に考えていたのはひとつはオリジナルタイトルの提供、そしてもうひとつがコミュニテインメントです。ですから、構想そのものは昔からあったわけです。実験的な試みはすべてこのためといっていいでしょう。そうしたノウハウの吸収もある程度できてきたので、今年ぐらいから少しずつ形にしていきましょうと、そういう話です。
編: ずばり実装はいつになるんでしょう?
森下: 今年中というわけではありません。ただし今年何らかの形で、コミュニティに対する弊社の取り組みの一部が少しずつ見えてくるのは間違いないと思います。
編: プロジェクトとしてはもう始動している?
森下: もちろんです。繰り返しますが、この構想は何も昨日今日思いついたことではなく、創業以来ずっと暖めてきたものです。たとえば、弊社のゲームをプレイするユーザーにアトラクションID(ゲーム用アカウント)だけでなくgungho IDも作成してもらっているのはこのためです。ただ、実態が見えてくるのは、まだ先になりそうです。
編: とはいえコミュニティの充実というのは、ユーザーにとっては熱望するところでしょうし、そもそもこのインタビューが掲載されれば、ユーザーはこの構想を知ってしまうわけです。1年も2年も待たせるわけにはいかないのではないですか?
森下: そんなに待たせるつもりはありません。年内に確実に着手され、何らかの形でサービスを提供できるでしょう。
編: 最後の質問になりますが、公式発表はいつぐらいになるんでしょう?
森下: 時期を言わせようとしてもダメです(笑) 近々、ガンホーの2005年上半期の計画をお知らせする発表会を行ないますが、その場で少し話が出るでしょう。その場はプレスだけでなく、ネットカフェ運営社など業者の方の呼びますので、これが事実上の発表といいますか、宣言になると思います。2005年のガンホーに是非ご期待ください。
編集部: ありがとうございました。
□ガンホー・オンライン・エンターテインメントのホームページ
http://www.gungho.jp/
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【2004年9月27日】ガンホー代表取締役社長森下一喜氏ロングインタビュー
自社開発タイトル「GO」、「Rondo」の開発構想を聞く
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20040927/gungho.htm
(2005年1月20日)
[Reported by 中村聖司]
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