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ガンホー代表取締役社長森下一喜氏ロングインタビュー |
会場:国際展示場
東京ゲームショウ初日に都合4タイトルの新しいオンラインゲームを発表したガンホー・オンライン・エンターテインメント株式会社。すでに運営を開始している「ラグナロクオンライン」や「A3」といったタイトルも含めると、そのラインナップは実に11タイトルにも及ぶ。従来のオンラインゲームメーカーでは考えられないほどの大規模展開である。
しかもそのうち2タイトルは自社開発と発表され、世界のオンラインゲームを提供するパブリッシャーとしてだけでなく、今後は世界に発信するデベロッパーとしても展開していく方針を明らかにした。今回はガンホーの代表取締役社長森下一喜氏に、今回発表された新作タイトルを通して、同社の今後の戦略について話を伺ってみた。
■ 「GO」は、“懐かしさ”をキーワードにした和風ファンタジーRPG
ゲームアーツと共同開発しているオンラインゲーム「GO」。2005年正式サービス予定 |
「1点だけ特別に」と社長に見せて頂いたイメージスケッチ。どうやら彼が主人公級の重要人物のようだ |
森下一喜氏 ありがとうございます。今回についてはユーザーの皆さんにお披露目をするという意味合いが強く、「GO」と「Rondo」に関しては発表のみ、「Yogurting(ヨーグルティング)」に関してはすでに韓国ではβテストも始まっていますが、発表そのものが直前に決定したこともあり、これについてもトレーラームービーのみということになりました。
編 「GO」と「Rondo」に関してはコードネームということですが、正式タイトルを発表しなかった理由は?
森下氏 正式タイトルについては、また時期を見て発表したいと考えています。「GO」というのはガンホーとゲームアーツのオンラインゲームであるという意味です。「Rondo」も同様にゲームコンセプトを表しています。
「GO」については、今回発表したようにゲームアーツとの共同開発で、今年5月にゲームアーツに出資し、業務提携を行なった際に起ち上がったプロジェクトです。あれから4カ月が経過し、何らかの形でプロジェクトの進み具合を見せなければならないということで今回の発表に至りました。
今回、画面等を一切見せてないのは、ゲーム内容に関してまだコンフィデンシャルにしておきたいことがあるためです。特にシステム面で新しいことをやろうと考えています。とりあえず今回は開発はキチンと進んでいますということを宣言する意味合いの強い発表でした。
編 「GO」はゲームアーツとの共同開発ということでしたが、提供プラットフォームはPCのみというのは意外でした。この理由は?
森下氏 発売時期は来年を予定しているのですが、来年であればPCのみでいいだろうと。他プラットフォームへの展開は、市場の状況を見ながらじっくり決めていこうという考えです。もちろん、コンソール市場への興味はありますし、ゲームアーツとの提携でそれを実現する技術力は備えています。
編 とすると「GO」はPCオンリーだが、次回作はコンソールへの提供もあるかもしれないと?
森下氏 まったくの未定ですが、やろうと思えばできるということです。
編 開発状況についてはいかがでしょうか?
森下氏 業務提携の発表からスタートしていますからまだ4カ月です。まだこれからといった感じです。
編 文字通りラフスケッチの段階だと?
森下氏 いえ、実際にいくつかのコードは書き始めています。
編 2005年リリースということは、βテストなんかの準備もふまえて逆算していくと、2004年内には具体的な形のものが見られそうですね。
森下氏 現時点で言えるのは「2005年に出します」ということです。頑張ります。
編 ゲーム内容についてお伺いしたいのですが、イメージスケッチを見る限りでは、「イース」的といいますか、RPGの原点的というか、和風ファンタジー的というか、どちらかというとクラシックな印象を受けますが?
森下氏 ゲーム内容については「喋るな」と堀(誠一:コンテンツ開発部ゼネラルマネージャー)から言われているので、あまり喋れないんですが(笑)、そのイメージでいうと「懐かしい」という表現が一番近いでしょうか。
懐かしさ、そして居心地のよさ、これまでコンソールゲームをプレイしてきた日本のRPGファンがどこか懐かしさや居心地の良さを感じる空間の実現。今言えるのは、こんなところですかね(笑)
編 いやいやいや抽象的過ぎて何がなんだかよくわからないのですが(笑)。
森下氏 いや、ゲームシステムに関して重要なヒントを含んだつもりですよ(笑)。そうですね、後はコミュニティの充実を強く意識しています。冒険ファンタジーの醍醐味を存分に味わえるように開拓の要素を全面に押し出して、「あっ、冒険ファンタジーってコレだよね、懐かしいな」と思えるオンラインゲームにしたいと考えています。
編 「懐かしさ」というのは茫漠とした表現ですが、それはSCEの「ぼくのなつやすみ」的な懐かしさなのか、それとも往年のRPGファンが、リメイクされた「ドラクエ」シリーズをプレイしたときに感じる懐かしさなのか。
森下氏 強いて言えば「ドラクエ」の懐かしさですね。RPGってこういうことだよねと。
編 それをMMORPGでやると?
森下氏 MMOかどうかについても言うことを止められているのですが、発表会でゲームアーツの宮地社長がお話になったように、日本でRPGは、コンソールゲーム市場で長年培ってきたノウハウ、そして目にこえたユーザー層というものが存在します。オフラインゲームもオンラインゲームも、RPGが目指すものは結局同じはずで、我々は「GO」で、RPG大国日本が、MMORPGを作るとこうなるんだということを世界に示そうと考えています。
編 ターゲットとしてはどのあたりを考えていますか?
森下氏 若年層から、「懐かしさ」を感じてくれる往年のRPGファンまで、年齢にすると10代から30代あたりまでをカバーします。
編 基本的なゲームデザインはどうなるんでしょうか。ソロ、PT、それとも攻城戦ができるような大規模?
森下氏 ソロでもできますしPTでもできます。攻城戦というと言葉が一人歩きしてしまいますが、このうちのいずれかがメインになるということは考えていません。
■ 「Rondo」は、ハード、ネットワーク、ソフトのすべてが新しい新世代のオンラインゲーム
こちらはガンホーが独自開発しているオンラインゲーム「Rondo」。サービス開始時期は2006年。具体的な情報の公開はもうしばらく待たなければならないようだ |
森下氏 これはもっとお話しできない(笑)。
編 イメージイラストを見る限りでは、SFアニメ的な雰囲気ですね。
森下氏 こちらはキャラクターを含めてアニメーションに興味があるユーザーを対象にしています。ただ、こちらについては、「GO」よりさらに新しい試みを取り入れる予定です。それが具体的に何なのかということに関しては現時点ではお話できませんが、一例を挙げるとネットワークアーキテクトの部分から、完全に新しいオンラインゲームになります。
もちろん、ゲームに置いても新機軸を盛り込みますが、これは果たしてMMORPGというくくりで正しいのかと思えるようなチャレンジを行なっていきます。
編 MMOかMOかというは、単純に同時アクセス数で分けられる話ですよね。
森下氏 そういう次元で話をすればMMOということになります。しかし「Rondo」はそうしたくくりを超越したオンラインゲームになります。いや、オンラインゲームというくくりすら越えた新しいジャンルのゲームになるでしょう。
編 自信たっぷりのコメントですが、その新機軸とは何でしょう?
森下氏 だからお話しできません(笑)。「Rondo」に関しては、共同開発の「GO」と違って、完全に自社タイトルなので、そのメリットを生かした形で開発に取り組んでいきます。
編 開発総指揮は堀氏の担当でしょうか。
森下氏 そうです。情報規制しているのも彼です(笑)。
編 自社開発だからこそのオリジナル要素ということですが、世界も視野に入れているわけですよね。
森下氏 そのとおりです。日本人が開発した日本人の琴線に響くようなMMORPGというのは実はまだ存在しないんですね。だから、オンラインゲーム運営に関して、さまざまなノウハウを持つ弊社が、自社でそれを開発するということです。
編 オンラインゲームというジャンルすら超越する新機軸のゲームというのは、大胆な発言ですが、たとえば過去のオンラインゲームで新機軸といえそうなのは「Diablo」、「ファンタシースターオンライン」。このあたりだと思います。考え方としてはこれらに匹敵するような内容のゲームになるという感じでしょうか。
森下氏 サーバーテクノロジーが新しいという点では似てますが、方向性としては違います。
編 すると、プライベートダンジョンのような、他社が慌てて追従するようなシステム的な新機軸でしょうか。
森下氏 ソフト的な面ではネットワークアーキテクチャを新しくしますということしか現段階ではコメントできません。もともと「Rondo」は、かなり前から社内で研究開発を進めており、コアとなる仕様は固まっています。
編 確かに「将来的にはオリジナルタイトルを」というセリフは、「ラグナロクオンライン」のβテスト時代には聞いていました。
森下氏 当時は正直いいまして運営だけで精一杯で夢物語に過ぎなかったんですが(笑)、運営が一段落して経営が軌道に乗り始めてから開発チームをつくり、水面下で堀が指揮して開発研究に当たっていました。
しかしまだ本格的な開発はこれからで、「GO」は2005年と発表していますが、「Rondo」は未定になっています。今回発表した中では「Rondo」が最後発になるのは間違いないと思います。
編 未定というとちょっと曖昧ですが2006年と見ていいですか。
森下氏 そうですね、そのぐらいになると思います。
編 チートやBOTに対する対策はいかがですか?
森下氏 セキュリティに関しては、堀のほうがアーキテクチャの部分から設計しているので、強力なものができあがると確信しております。我々は過去に、今なお手痛い攻撃を受け続けていますが、それを糧にオリジナルタイトルでは2度と同じ愚は繰り返さないよう努力を重ねていきます。
もちろん、時には突破されることもあるでしょうが、いたちごっこになった際の、スパイラルをどうやって断ち切るかということまで考えて設計しています。
編 セキュリティに関しては安心していいと?
森下氏 そうでなければユーザーはついてきてくれないでしょう。「またか!」とは言われないようにしたいと思っています。
■ ガンホーの世界展開について
編 これらの2タイトルは、自社開発タイトルとして、将来的には世界展開を行なっていくということですが、どういう戦略で行くのでしょうか?
森下氏 やり方としては2種類あります。ひとつは現地法人を作り、自社で展開する。もうひとつは弊社のようなパブリッシャーにライセンスして、運営を任せる。どうするかということについては現在検討を重ねていますが、やはり、なぜそこにパブリッシャーがあるかということです。
運営だけなら自社でも可能ですが、マーケティングに関しては現地の文化に精通していなければなりません。これは単に現地の人を雇えば解決するという問題ではなく、すでにノウハウがなければ難しい。
仮の話ですが、自社タイトルが日本で成功したとしましょう。ですが、だからといって海外での成功が保証されるわけではない。当たり前の話ですが、我々もこれまでパブリッシャーとして展開してきただけに、現地のパブリッシャーの有効性はよく理解しているつもりです。
ただし、収益的な問題、また現地のノウハウを学ぶという努力も怠ってはならないと考えていますから、最終的にどうするかは今後の課題です。
編 いずれにしてもまずは日本から、世界同時展開ではないということですね。
森下氏 そうなります。しかし、日本で成功するまで世界展開しないということはないです。少なくとも日本展開から数カ月後には何らかの動きがあると思います。
編 やはり韓国はGravityになると?
森下氏 未定です。Hanbit Softさんもあるし、Neowizさんもある。我々が韓国でビジネスをしているメーカーはGravityだけではありませんから、どこにするかは交渉の上ということになります。
■ 「漂流教室」的な学園MMO「ヨーグルティング」
大手ゲームポータルとして知られる韓国Neowizが展開する「ヨーグルティング」。MMOとMOをドッキングさせたユニークなゲームデザインを採用している |
ゲームの基本的な展開は、「漂流教室」のように学園の外はすべて異世界という状況下で、パーティーを編成し、さまざまなクエストにチャレンジしていくというもの |
森下氏 これはMMO+MOというシステムを採用したオンラインゲームです。学校空間はMMOなのですが、そこから周囲に冒険に出ようということになるとパーティーを組んでMOのシステムでゲームが展開されます。
MMO空間ではコミュニティを楽しみ、学園で受けたクエストをMOのプライベート空間で達成する。これも新しいタイプのオンラインゲームといえます。
編 学園MMOとはユニークですが、最初知ったときは学生生活3年間を、たとえば6カ月のスパンで過ごす恋愛MMOかなと思ったんですが(笑)
森下氏 それもおもしろそうですね(笑)。「ヨーグルティング」は、学生服を着て、剣を持った学生達が、共同でさまざまな困難に立ち向かっていくMMORPGです。
編 日本ではいつぐらいに始動するのでしょうか?
森下氏 これも来年になります。まだ韓国でもβテストがスタートしたばかりで、上々の反応ですが、日本展開にはもうしばらく時間がかかりそうです。
編 どのあたりが魅力だと捉えていますか?
森下氏 まず、トゥーンシェーダーで描かれた可愛らしいグラフィックス、それから学園モノというカジュアルな雰囲気、それから実際の冒険はMOでやるというシステム的な新しさなどでしょうか。
編 なるほど。これは「ラグナ」同様全力展開していくと?
森下氏 全力展開します。ご期待ください。
■ Gravityとのパートナーシップについて
編 Gravityとは昨年独占包括永久提携を結ばれてますが、今年の東京ゲームショウを見ていると、ちょっと事情が変わってきたように見えました。現在どうなっているのでしょう?
森下氏 昨年当時に比べると、ガンホー、Gravity両社ともメーカーとしてのステージが上がっています。たとえば、Gravityさんも元々デベロッパーでしたが、現在はパブリッシャーとして世界展開を考えている。我々も今後はデベロッパーとして考えていかなければならない。
そうなると昨年結んだ契約は、両社の成長を阻害することになってしまいます。これはまったくポジティブな話で、もう少し自由にやっていきましょうという感じになっています。とはいっても「ラグナロクオンライン」の運営などは今後も影響ありませんし、親密な協力体制は続いています。
「じゃなぜ『ROSE Online』はやらないの?」ということに関しては、Gravityの開発タイトルではないからです。すでに韓国で発表している「レクイエム」に関しては、「A3」と被っている。これを弊社が握り続けていると、Gravityは「レクイエム」を日本展開できないということになる。それじゃ両社のためにならないので、もう少し自由にやりましょうというのが現在のスタンスです。
編 それでは「ラグナロクモバイル」はどうでしょう。これはGravityの自社開発タイトルですよね。
森下氏 両社の提携に関して、モバイルに関する契約はしてないので、Gravityさんと話し合って決めていきたいと考えていきます。我々としてはオンラインゲームパブリッシャーですので、オフラインゲームに関してはかなり微妙といえるかもしれません。
編 しかし、「ラグナロクモバイル」は、「ラグナロクオンライン」との連動機能が最大のウリですよね。仮にガンホーがパブリッシャーとならない場合、この連動機能が難しくなってくると思いますが。
森下氏 そうですね。仮に連動機能をサポートするとなると、アカウント管理と個人情報の共有が必要不可欠になりますが、これを第三者に提供すると言うことは法的にも道義的にもできません。
ウチは携帯ゲーム市場には直接手を出していないので、どういう形がいいのかというのは今後考えていかなければならないところです。前向きに取り組んでいきます。
■ ガンホーの2005年度以降の戦略とは!?
ガンホーの8月末までの事業状況。来年はこのグラフがどのように推移するか注目されるところだ |
森下氏 MMORPGに関しては、経営的な面で言うと、同時に複数のタイトルを手がけた方がブレイクイーブンポイントを低く抑えることができて、非常に有効なんです。現時点ですでに十分過ぎるほどの設備を確保していますが、たとえば現在用意している回線は、30%ほどです。
編 ということは「ラグナロクオンライン」でいうと同接30万人までサポートできる設備があると。
森下氏 もっと行けると思いますよ。で、こういう状態ですから、仮に1タイトル増やしたところで、新しい設備投資は必要としない。オンラインゲームの配信は、何より初期の設備投資に一番コストがかかりますから、それが必要ないというのは大きな強みです。これにより利益が出るまでのブレイクイーブンポイントをぐぐっと下げることができるわけです。別の観点から見ると、複数タイトルでビジネス展開した方が、収益面で安定させることができるという考え方もあります。
ですからこれらのタイトルに関しては、何が何でも「ラグナロク」と同規模まで成長させるということは考えていません。もちろんそうなれば一番いいのですが、そうならなくてもビジネスとしては十分成立しますし、ポートフォリオの面でもいい影響を与えます。
そして将来、これはあくまで仮の話ですが、「ラグナロク」が赤字化するかもしれない。現時点でそうなってしまえば会社として赤字は避けられないわけですが、複数タイトルを稼働させていれば、万が一そうなっても会社としてビジネスを継続できます。
編 メーカーとしてマルチ展開は絶大なメリットがあるというは良く理解できました。しかし、実際にお金を払って遊ぶのは人間です。3つも4つも遊んで、かつ円滑なコミュニティを維持するというのは、物理的に不可能だと思います。ガンホーは今後、ユーザーに対してどのような遊び方をしてほしいと考えているのですか?
森下氏 3つも4つも同時に遊んでくださいということは言いませんし、そういうマーケティングはやりません。単純に新規タイトルは、新しい顧客の開拓が第一義です。もちろん、「ラグナロクオンライン」から乗り換えるユーザーが出てくることも織り込み済みです。
考え方としては簡単で、ゲームであり、遊びですから、いつかは飽きがきてしまう。既存のゲームに飽きてしまったユーザーに対して新しい選択肢をガンホー自ら提供するということです。
これはむしろ我々よりもユーザーにメリットのあることだと思ってます。たとえば、全タイトルが1,500円だとしたら、ユーザーが他のゲームに移行しても、我々が毎月いただく料金は変わらない。しかし、ユーザーは、すでに課金情報も個人情報などを登録してますから、煩わしい手続きは抜きにして新しいオンラインゲームを始めることができる。このメリットは大きいと考えています。
編 しかし会社の規模はまた一段と大きくなりそうですね。
森下氏 そうなります。あまり知られていませんが、我々は常時スタッフの募集を行なっており、毎月新しいスタッフが入っています。しかし、必要な人材が揃うかというと、なかなかそういうわけにはいかないのが現状です。
編 来年度のガンホーはどうなるでしょうか?
森下氏 自社開発タイトルに力を注ぎます。海外展開も視野に入れて活発に活動を行なっていきます。
編 ありがとうございました。
(C) 2004 GungHo Online Entertainment, Inc. All Rights Reserved.
□ガンホー・オンライン・エンターテインメントのホームページ
http://www.gungho.jp/
(2004年9月27日)
[Reported by 中村聖司]
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