【Watch記事検索】
最新ニュース
【11月30日】
【11月29日】
【11月28日】
【11月27日】
【11月26日】

CEDEC 2004 セッション講師インタビュー
七音社 代表取締役、松浦雅也氏

    松浦雅也氏
      七音社 代表取締役

      '83~'96年、ポップスユニット「PSY・S (サイズ) 」で活動。'96年に制作を手掛けたPS「パラッパラッパー」が大ヒット。その後も「ウンジャマラミー」、「ビブリボン」、「モジブリボン」、「ビブリップル」等、数々のゲームを制作。
       現在AIBOの音をプロデュース中。2004年3月「Game Developers Choice Awards」にて、ゲーム業界の開拓者に贈られる、“First Penguin Award”を受賞。

       今回のセッションタイトルは、この“First Penguin Award”からきている。“First Penguin”とは、「捕食者のいる水中に、群れの中から勇気をもって最初に飛び込んだペンギン」を意味している。そういったことからこの賞は、ゲーム業界における開拓者に贈られる。常にエンタテインメントの世界で勇気を持って新しいことにチャレンジし、切り拓いていく“First Penguin”であり続けることの意義などについての講演となる。



 9月6日から8日の3日間にわたって開催される「CEDEC 2004 (CESA デベロッパーズカンファレンス)」。このカンファレンスでは、ネットワーク環境の充実、グローバル化などによって大きな変化の時を迎えているゲーム業界において、技術的なトレンドやビジネス化に向けての情報発信などを目的として企画、開催される。

 今年6回目となる「CEDEC」では、レギュラーセッションだけでも40セッション以上が予定されているほか、マイクロソフトのDirectX関連セッションを集めた「Meltdown」、NVIDIAの「開発の鉄人」、その他「スポンサーシップセッション」、「ワークショップ」、「ラウンドテーブル」などの開催が予定されている。

 興味深いセッションが目白押しだが、今回はこのなかからいくつかのセッションを行なう講師の方たちにインタビューを行ない、セッションでどのようなことが話されるのか、その一端を探ってみた。なお、セッションの申込みは8月27日まで。


Q:今回、CEDECで講演を行なうことになった経緯を教えていただけますか?

松浦氏: 2004年3月に開催されました「Game Developers Conference 2004 (GDC)」で「Game Developers Choice Awards」の賞“First Penguin Award”をいただいたので、それを受けて、「日本ではCEDECが開催されているので、なんかちょっとお手伝いできることがあるかもしれませんね」という話をしていて、「じゃあ、わかりました」という感じで引き受けることになりました。その時は、取り上げて欲しいテーマなどの指定は特になかったですね。僕はプログラマーでもないですし、技術的なことはあんまりねお話できないですから。

Q:では、今回テーマに「ペンギンのすすめ」と題して、エンターテイメントの世界で新しいことにチャレンジし続けることを選ばれた理由は?

松浦氏: いろいろな意味で閉塞感もあるじゃないですか、現在のゲーム業界は。そういうのを打破するということですね。

Q:これまで、コンシューマゲーム業界で「パラッパラッパー」から始まり、松浦さんにとって、新しいゲームといわれているものを作るのに何が必要だと思いますか? そもそも何をもって新しいゲームとするかと言うこともありますが。

松浦氏: 何が新しいゲームかは微妙ですけどね。

Q:制作当初から“新しいゲームを作る”ことを狙ってはじめられるのですか?

松浦氏: そうです。そうなんですけど、「これは凄く斬新かもしれない」と思って仕事を始めても、あまりに突拍子もなく斬新なものというのはたぶん理解されないんです。だから、そうではなくて、そこそこ理解できる部分を持ってないと逆に斬新だとは思われない。そこのさじ加減というのが重要なポイントだと思います。

Q:逆に、新しいゲームを作ることにとって障害になることってのは?

松浦氏: そのへんがレクチャーの内容にもなると思います。例えば、ひとつのコンテンツを色々なプラットフォームに移植していきますよね。これって色々なバージョンを作ってるようで、表現形態は実は一種類しかない。そこから映画に発展したり、キャラクタグッズに派生したりとか、サウンドトラックを作ったりとかというケースもありますが。

 個人的には、ゲームに留まらなければならない理由はないと思うのですが、今はそうなってますね。つまり、表現方法はゲームにしかないという考え方ですね。そこがなんかポイントなんかなって考え初めています。

Q:ゲームだけではなく映像や音楽など色々な表現方法があり、表現がゲームだけに留まる理由はないのに、全部ゲームで完結してしまうということですね。

松浦氏: そうです。そこがチョット気になりますね。僕自身は音楽畑からゲーム業界に飛び込んできたので、そういったところにこだわりがなく、別にゲーム、ゲームと言われることに対して抵抗感はなかったんですが、逆にゲーム業界の人達というのは、ゲームに固執してる部分があるのかなという気がします。音楽業界とかほかのメディアというのは、わりと“動きやすい”のですが、ゲームというのは、意外にもかたくなな部分があって、創作に対して自由度が少ない気がします。でも、それがなぜそうなるのか、自分でもよくわかってないのですが、それがポイントのような気はします。

Q:もうゲーム業界に入って長く活躍されてますが、ゲーム業界の外と中で違いはありますか? また、昔と今では違いますか?

松浦氏: すごく違うようでもあるんですが、そんなに分析的にみていないので、よくわからないですね。ただ、僕が初めてゲームを作り始めた「パラッパラッパー」の頃と今を比べて何が一番変わったかと言われると、海外の勢いが一番変わったんじゃないですか。ゲームと言えば日本のお家芸みたいな言われ方を長々としてましたけど、もはやそういう状態ではないですよね。そこがすごく変わったという気がします。

Q:それは脅威なのでしょうか、チャンスなのでしょうか?

松浦氏: 脅威ではないと思います。なぜならば海外のゲームは、ほとんど日本に入ってきていないでしょ。逆に、別な意味での脅威というこというと、ローカル化してる脅威はありますよ。エンターテイメントコンテンツこそがグローバルでありと思いたいところなんですが、逆にローカル化しているところがあんまり気持ちよくないですね。

Q:そういった風潮を打破したいという気持ちはあるのでしょうか?

松浦氏: そうですね。それが本当にゲームという枠組みの中でできるのかということもひっくるめて、僕がやっていきたい仕事の方向性なんだろうなという気はしますよ。

Q:松浦さんは、「モジブリボン」の発表会でもおっしゃてましたが、新技術がベースにあってゲームを開発するといった手法が多いようですが。

松浦氏: うん。その方が作り手として楽しいですね。それが「マニアックだ」と言われたりする原因になってたりするんでしょうけど。さっきの「新しいゲーム」という話じゃないですが、技術者は、技術がどういう風に利用価値があるのかとかあんまり興味ないんですよ。新しい技術は、それだけで面白いみたいな感じですね。

 それで、新しい技術という点だけで作っていきますが、エンターテイメントとして一般にも楽しめるようにするというところが重要なんです。そこで、あるひとつの技術を題材にしても、エンジニアの人達が考えるイメージと、僕等みたいにコンテンツを考えるイメージと、両極端だったりするわけです。当然、理解や考え方によって衝突したりするわけなんですが、それが面白いですね。ひとつの題材をとらえる時に、制作者のバックボーンが違うがためにぶつかり合い、その時に双方の立場を理解するために、他者の意見を新しい考え方として受け入れるしかなく、それが新しいイメージに繋がりやすいんですよ。

Q:一方で、ゲームが売れないという現実があり、会社組織として周りにプレゼンテーションし、営業的に説得していかなければならない状況も発生すると思うのですが。

松浦氏: 「売れなければならない」と言うのは、幻覚ですね。「売れなければいけない」というのは事実なんだけど、モノを作る人間が「売れなければいけない」ということを考えてデザインするというのは……やりますけど、本当に最終的に自分がコレ面白いとか、コレをやりたいとかって思ったときに、「売れなければならない」という理由に縛られてしまうのは間違っていると思います。「売れなければならない」という点だけに囚われないでモノを考える人間が、そのプロジェクトのリーダーにはなれなくても、重要なパートになっているという状況がないと、モノ作りは面白くなくなってしまう。これは売れそうだなというだけで作っていっても面白くないですよ。

Q:基本的には純粋に創作活動を行なう面が欲しいと言うことですか。

松浦氏: いや、そこがチョット微妙なんです。僕は、必ずしも純粋にクリエイティビティだけを追い求めることだけがいいと言いたいわけではなくて、「こうしたら楽しんでもらえるかな……」とか、あれこれ考えることはいいことだと思います。だけども、最終的に「自分がコレを作りたい!」と思うイメージの一番頂上にある目的が、「売れそうだ」と言うことであるなら、悲しいことですよ。

 その時に、売れるか売れないかっていうことは、度外視して判断する瞬間が必要なんだと思いますよ。いい例えが思いつかないけど……例えば、3振するかどうかわからないけど、「3振したくない」と思ってバットを振っていると、みんな内野安打になってしまうといったことになってしまうじゃないですか。

 臨界点ギリギリまで、いろいろな可能性を高めるための建設的な検討を、ありとあらえる角度からやったほうがいい。これは僕も賛成なんです。でも、F1のレースの前のピットでの作業みたいなもので、可能な限り安全を期してレースに臨むのですが、いざレースに出てしまったらアクセルを踏むことを恐れていたらレースには勝てないじゃないですか。そのエネルギーと勢いをもってやらないと、肝心なところで人の心に届かないという気がしてしょうがないんですよね。それはゲームに限らないんですけど。

 僕は、自分のイメージや思いが、誰かの新しい記憶や印象になるのが楽しいので、こういった仕事をやっているんです。そこはピュアにやりたい気がしますよ。だから、数の問題とかはあまり重要じゃない気がします。自分でも全然思い出せないんですけど、まだアマチュアのミュージシャンだった学生時代に、数10人ぐらいしかいないライブハウスですごい演奏ができてたかもしれないと思うんですよね。ウケなかったかも知れないですけど、そういう記憶が他人と共有できるってのは楽しい気がする。

Q:その「アクセルを踏む」ということが今回の講義でも伝わればと言うことですか。

松浦氏: そうですね。それと全く違う話ですが、若い人達は、自分が何10年もモノ作りの現場で苦しみながらモノを作り続ける、歩み続けるという姿をちゃんと想像してないんじゃないかと思うことが多くて。「俺はさっさとヒット作の片棒を担いで豊かになったら、さっさと隠居して田舎暮らしでもするか」みたいな感じが、ちょっと見える時があって。それも楽しいかもしれないけども、僕みたいにそこそこ長い時間やり続けてきた人間からすると、それではちょっと志が低くないかなという気がします。そんなことだから、面白いものも出てこないんじゃないかなという気がします。

Q:産みの苦しみを覚悟するからこそ、楽しみもあるということですか?

松浦氏: 産みの苦しみと言うのは2種類あって、産まれるまでに自分の考えに整理がつかない、発想が完結しないという意味の苦しみもあるんですけど、それだけじゃないんですよ。

 実際には、産まれてしまったモノは自分ではないという苦しみもあるんですよね。つまり、産んじゃったモノというのは勝手にひとり歩きしてしまうので、そのひとり歩きしてしまったモノがですね、世の中から忘れられたり、あるいは、みんなの記憶の中にたくさん入り込んでいくことによって、自分の想像していたモノから明らかに変質してしまったりすることに、自分がどう向き合うのかという難しい問題があるんです。

Q:「パラッパラッパー」とかヒットを記録しましたが、やはり想定していたものと違ってきてたりしたのですか?

松浦氏: ええ、全然違っています。第一、自分でゲームを作るという意識は全然なかったですから。それは今でもそうなんですよ。とは言ってもかれこれ10年以上ゲームを作り続けていますので、自分の中でのゲームという枠をイメージしようとするということに対する、憎悪がすごく大きいですよ。

Q:逆に「ゲーム」というイメージに縛られつつあると?

松浦氏: そうです。自分で縛ってるじゃないかと。誰によって縛られてるってわけではないけど、自分で縛ることによって、発想をより確度の高いものにしようと意識が無意識に働いちゃう。 (ゲームをイメージすることで、わかりやすくなりヒットを計算できるようになると) 安心感が増して、そういったことを潜在的に期待しているところが嫌ですね。

 たしかに、ゲームとしてそうやって制作していくと、なんとなくあたるような気がするんですよね。その方が安心感がある。それに立ち向かわないと面白くないという。それは間違いないですね。

ありがとうございました。

□CEDECのホームページ
http://cedec.cesa.or.jp/
□受講申込みページ
http://cedec.cesa.or.jp/regist/
□七音社のホームページ
http://www.nanaon-sha.com/

(2004年8月23日)

[Reported by 船津稔]


Q&A、ゲームの攻略などに関する質問はお受けしておりません
また、弊誌に掲載された写真、文章の無許諾での転載、使用に関しましては一切お断わりいたします

ウォッチ編集部内GAME Watch担当game-watch@impress.co.jp

Copyright (c) 2004 Impress Corporation All rights reserved.