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SCEJ、“ことば”を綴ってラップにしちゃう
リズムアクション「モジブリボン」を松浦氏といとうせいこう氏が解説

11月20日 発売

価格:5,800円

 株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメントは11月20日にプレイステーション 2用“ことば・リズムアクション”「モジブリボン」を発売する。価格は5,800円。周辺機器ではネットワークアダプタ、PlayStation BB、PS2用キーボードに対応している。今回は、9日から都内で行なわれている「ミクロ楽団展」の会場においてモジブリボンのお披露目会が行なわれた。

 「モジブリボン」はごく簡単に説明すると、流れてくるテキストの虫食いになっているところでタイミング良くスティックを倒すことで文字を埋めていく (ゲームでは墨で文字を書いていくことになる) 、一種のリズムアクションゲーム。

 ただスティックを倒せばいいのではなく、少し上に上げて墨を入れないと文字がかすれてしまう。逆にタイミングが悪くスティックを上に上げすぎてしまい墨を入れすぎると滲んでしまう。タイミングが悪ければキャラクタが転んでしまい、墨をこぼしてしまう。とにかくタイミング良くスティック倒していき文字を埋めていく。うまくクリアし続けると“上手”と表示され、もっとうまくプレイし続けるとキャラクタが育っていき、“超一流”となる。
 「モジブリボン」ではこれだけでは終わらない。ゲームでは、いとうせいこう氏が書き下ろした、登場キャラクタ“モジブリ”の珍道中を描いた「ラップ物語」が収録されており、このテキストをベースにまずはゲームを進めることになる。

 しかしそれだけではなく、ユーザーが入力したテキストをベースにゲームをプレイすることもできる。テキストの入力は左右スティックを使って入力できるほか、PS2対応キーボードで入力することも可能。コントローラによるテキスト入力は右スティックで大きなリングに対応した“あかさたな……”を選択、左スティックで小さな内側のリングに対応した“あいうえお等”を選択し“L1”で入力する。ゲームではひらがなとカタカナしか扱えない。

 さらにさらに、ユーザーが入力したラップデータは、ネットワークアダプタやPlayStation BBを通じて「モジブリボン」のサーバーにアップできる。特定の人に送ることはもちろん、不特定多数の遊ぶことができる“公開”といったスタイルでアップすることもできる。「モジブリボン」の世界ではベースとして“徳”というポイントが存在する。このポイントをたくさん持っているほど“エライ!”というわけ。「モジブリボン」のデータをアップした場合、多くの人に遊んでもらえればもらえるほど、制作者に“徳”がキャッシュバックされることになる。

 どんなに面白いデータをダウンロードしても、プレーヤーがヘタであれば読み進めることができないのが歯がゆいところだが、アップロードした人がスコアを添付して送ることで、ダウンロードした人がプレイしなくても楽しめるシステムも用意されているという。

 こう書いてくると多彩なシステムで複雑なようだが、じつは単純なリズムアクションであるという点がポイントが高い。そのくせ奥が深く、ユーザーが色々な工夫をすることで楽しみが広がることになる。リズムアクションというのは表向きの顔で、“ことば”を遊ぶという点ではフレキシブルなシステムと言えるかもしれない。

【スクリーンショット】
 松浦季里さんのデザインによるキャラクタがカワイイ。目とかでさりげな~くテキストっぽさを醸し出している点に注目。水彩画というか水墨画っぽいグラフィックも斬新。
 最も下の段の左側の画像が日本語入力システム。右側のアナログスティックで大きなリング (あかさたな……) を決定し左側のアナログスティックで小さなリング (あいうえお等) を決定し入力時は“L1”を押す。
 下段中央の写真を見てもらえるとわかるが、ユーザーが入力したテキストをラップにするとき、アクセントを変えたり三連符や休符などを設定することができる。この機能により、方言っぽいイントネーションなども再現できることになる



■基礎技術の開発について

 対談は、制作のスタートにまで遡った。松浦氏によれば「こういうのがいいな」と思い付いてから3年半かかっているという。実際、弊誌でも一度、1年半前のGame Developers Conferenceで出展されたときにご紹介している。その時のスクリーンショットを見ると現在とそう変わりはない。その2年前から制作はスタートしているわけで、かなりの難産であったことが伺える。

 「なぜラップなのか?」の問いには「ボタンを押して帰ってくるとき“声”が面白かった。リズムがあって、意味がある。『パラッパラッパー』の時は英語だったけど、普段使っていることばであり、意味をつかむためには、日本語をやりたくて。でも、コンピュータ上で色々とやるときに日本語は扱いにくいんです。でも誰かがしなくちゃいけない」という所から制作はスタート。

 その原因となったのがふたつの基礎技術の研究であったという (もちろんほかにも大変なことはあったと思われるが) 。ひとつは音声合成で、もうひとつは日本語の入力システム。入力したテキストを音声でラップするということで、大変だったという。音声合成の基本は、連続することばが推移するときに、どれだけ細かくその間のデータを計算できるかでなめらかさが決定するのだという。つまり膨大なデータ処理が発生するわけで、処理スピードはプレイステーション 2でもってしても追いつかないのだという。「モジブリボン」では2小節で一度句切って、次のデータをバックで一生懸命計算しているのだとか。

 かなりの苦労があったのだが、開発の途中に「モジブリボン」のシステムにあるラッパーのリリックを入力すると、そのラッパーが歌っている通りの符割となったため、松浦氏は「これは行ける」と確信したのだという。

 もうひとつの日本語入力についても、これまで大勢となっているキーボード入力について「入力できない」とキッパリ。このため、インターフェイスを新たに開発することになり、上記のようなふたつのアナログスティックを使用した入力方法が考案された。

 こういった基礎技術の研究がひととおり見通しが立った時点で、初めていとうせいこう氏へ仕事の依頼となった。いとうせいこう氏は制作について「日本語は同音異義語が多いので、勘違いしないように気を付けた。ゲームで漢字が使えないため、テキストの前後で理解させないといけない。さらに韻も踏まないといけない。さらに文字の流れに対してプレーヤーの理解が追いつくかどうかが不安だった」とかなり突っ込んだ制作者側の悩みを語った。これについては松浦氏が「プレーヤーの日本語能力にかかっている」とコメントして答えた。

■ プレーヤーの差を飲み込む細かいシステムも搭載

 しかし松浦氏としては決まったフレーズだけでなく、ユーザーが自分で入力したフレーズをラップにできるようにならなければいけないと考えた。この時、入力したテキストは自動的にラップにしてくれる機能もあるが、いっぽうで、ユーザーが細かくアクセントなどを設定できる機能も搭載している。三連符や休符を入れることで間を空けたり、韻を踏んだりすることもできるわけだ。

 この機能について、開発陣は初め反対したという。というのも「自動的にラップ化してくれる機能があるのに、ユーザーに設定させる機能は (ソフトの機能的に) “逆行”することになるのではないか」という意見だったという。

 これについて松浦氏は「日本語にはわれわれの知らないことばがたくさんある。そう言ったことばに対応するため」という。ことばで気持ちを伝えるときイントネーションの違いによって同じことばでも意味合いが変わったり、語尾の上がり下がりで違ってくる。さらには方言もあるので、ことばに対してフレキシブルに対応するために機能として搭載したのだという。

 いとうせいこう氏は「文章を書いても気持ちが伝わらないことがあって、そういった部分を埋めるために“ (笑) ”といった表現などが出てくる。このもどかしさを埋めるために、キーボードを打つ強弱によって文字の大きさが変わるなどのインターフェイスができないかなと悩んだこともある。松浦さんも同じ様なことで悩んでいて、その結果がこのシステム」と共感を示していた。

■ いとうせいこう氏「ゲームにはチャレンジがない」

 松浦氏は「モジブリボン」を「難しいことを喋ったけど、ゲームは簡単。このゲームは無骨なゲームだ」と表現。その真意は、「今のゲームはグラフィックもすごくて動きもすごい。『モジブリボン』は、基礎技術の開発にはスゴイかけたけど、見た目はそんなに気を遣ってない」と説明。

 これに対していとうせいこう氏は「ひとつのゲームに色々なスゴイ技術がつまっている。未来の可能性を好きな人には良いと思う。可能性をプンプン感じる」と語り、「今の時代、作品として完成しているものはダメだと思う。未完成でユーザーが入り込み、制作者が思いもつかないような楽しみ方を提示できるようなところが今の時代にマッチしている」と続けた。

 最後に松浦氏は「音楽制作はデジタル (ソフト) に置き換わりつつあるけど、音楽の制作の発想を根本的に覆すようなソフトは出てきていない。そういった意味ではデジタルになって後退している気もする。そういった意味でも、構造変化を起こすようなソフトを制作しないと作る意味はない」と力強く語り、「モジブリボン」の革新性をアピール。

 これに答えるかたちで、いとうせいこう氏は、「最近のゲームは停滞しているように感じる。こういったチャレンジングなゲームが出てこないと」と同調していた。

会場ではプロデューサーの松浦雅也氏とラップ物語を書き下ろしたいとうせいこう氏の対談形式で「モジブリボン」の魅力について解き明かされていった 松浦雅也氏。PSY・Sでの音楽活動で有名。ミュージシャン活動と並行しマルチメディア作品を手掛け、「パラッパラッパー」などゲームソフトも制作してきた いとうせいこう氏。作家からラッパーまで数多くの活動を行なってきた。今回は「ラップ物語」を書き下ろした。プレーヤーはいとうせいこう氏の物語をベースにゲームをプレイする
「モジブリボン」のキャラクタデザインとグラフィックスを担当したイラストレーターの松浦季里さん。「リズムライダー・ケロリカン」、「ビブリボン」などゲーム作品も手掛けた。今回は生“モジブリ”を本物の墨で書き上げた 会場に映し出された日本語入力システムを説明する松浦氏。ゲームのベースとなる基礎技術研究にかなりの時間を要したという
来場者の書いたテキストを「モジブリボン」に入力しプレイ。いとうせいこう氏と松浦氏からそれぞれテキストが手渡され、それを受けて続けていく形で文章を入力。全く違った文章ができあがったところが面白い 会場には「モジブリボン」を展示 松浦氏のこれまで手掛けた作品「ビブリボン」なども置かれていた


(C) 2003 Sony Computer Entertainment Inc.

□ソニー・コンピュータエンタテインメントのホームページ
http://www.playstation.jp/
□「モジブリボン」のページ
http://www.playstation.jp/scej/title/mojibribon/
□七音社のホームページ
http://www.nanaon-sha.com/
□関連情報
【2002年3月22日】「パラッパラッパー」の松浦雅也氏や「Rez」の水口哲也氏が
GDCカンファレンスで講演
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20020322/gdc04.htm

(2003年10月9日)

[Reported by 船津稔]


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ウォッチ編集部内GAME Watch担当game-watch@impress.co.jp

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