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★PCゲームレビュー★
主人公ケイト・ウォーカーは、オモチャ工場の相続人ハンス・ボラルバーグと工場の買収契約を成立させるために、フランスの片田舎を訪れる。しかし、ハンスは数年前から行方不明。彼の足跡を追ううちに、ケイトは夢とも現実ともつかない不思議な世界へと足を踏み入れる……。 からくり人形と、ゼンマイ仕掛けが彩る、美しく幻想的な世界。前作「シベリア」は、美しいグラフィックと、独特の世界観で人気を博したアドベンチャーゲームである。物語の中で、ケイトはその不思議な旅を続けるうちに、ハンスがはるか北西にある幻の島シベリアと、そこに住むマンモスに会うために旅を始めたことを知る。ゲームは、ケイトがハンスの夢を叶えるために、シベリアへ向かうカラクリ列車に共に乗り込むところで幕を閉じる。 今作「シベリアII」では、ケイトがハンスの夢を叶えるために力を貸すことになる。しかし、シベリアへの旅は雪と氷に阻まれており、ハンスの身体はその過酷な旅に耐えきれないかもしれないほどに、老いている。ケイトは彼の夢を叶えられるだろうか? それ以前に、幻の島シベリアは、本当に存在しているのだろうか? ■雪と氷に包まれた世界での、奇妙な冒険
なんと言ってもこの作品の魅力は、美しい3Dグラフィックスと、謎めいた登場人物、そして独特の世界観によって演出される、“幻想的な空間”である。特に今作では、ケイトの前に現れる世界はすべてが雪と氷に覆われており、その寒々とした美しさは、プレーヤーを引き込まずにはいないだろう。 猛暑の夏に本作がリリースされる、という状況もユニークだ。現実世界はうだるような暑さの中なのに、モニターの中はすべてが凍る極寒の世界。清冽な美しさを持つが、命そのものを消しかねない冷気がこちらまで伝わるような感触は、暑さを一瞬忘れさせてくれる。 ■幻の島シベリアを目指して 主人公ケイト・ウォーカーを乗せた汽車が止まる。たどり着いたところは、駅のまわりにわずかしか建物のないような寂れた街ロマンスバーグである。 駅におりたケイトは、先頭車両で汽車の運転をしているオスカーに声をかける。「何故すぐに出発しないの?」。ハンスの作ったカラクリ人形のオスカーは、見かけこそブリキの人形のようだが、几帳面で小心者で、びっくりするほど人間くさい。 「石炭が必要なのです、ケイト・ウォーカー。汽車はゼンマイで動いているから大丈夫ですが、我々にとってここから先の寒さは危険です」
オスカーはよく気のつく優秀なカラクリ人形だが、機関車の管理以外、実際的な作業はまったくしない。いつも、「私は汽車を守らなくてはいけません、ケイト・ウォーカー」といって首を振るばかりだ。かといって、老齢のハンスが汽車の外に出るのはさらに危険だ。
異世界の雰囲気は、次に訪れる「修道院」で一層強くなる。何とか給炭を成功させたケイトの前で、ハンスが旅の疲れか、病に倒れてしまう。ロマンスバーグには医者がいない。病を治せる可能性があるのは、丘の上にある修道院だけだ。 しかし、修道院は独自の戒律によって厳しく他者を拒んでいる。ケイトは、女であるという理由から、修道院に入れてももらえないのである。それでも、なんとか修道院に入り込み、ハンスを診察してくれる手配をすることができたのだが、司祭は残酷に告げる。「彼はもう手遅れだ。魂が旅立つまで、ここにいた方がいいだろう」途方に暮れるケイトに、意識を取り戻したハンスは言う。「修道僧のアレクセイを探すんだ。彼ならきっと僕を助けてくれる」。ケイトは必死で修道院を探し回るのだが……。 黒いローブに身を包み、フードをかぶったまま一言も発しない修道僧は不気味の一言でとても病を治してくれ人達に見えない。しかも、救いを求めて訪れても、最初は修道院に入れてくれさえしない。中の建物もまた冷たい。雪が降りしきる陰鬱な空をバックにそびえ立つ尖塔はひたすら威圧的で、異教徒を拒む厳しさだけが強調されている。さらに、司祭の狂気を感じさせる信仰ぶりと、暖かみのない言葉は、この修道院のイメージをさらに悪くさせている。 そんな修道院なのに、やはりここにも「カラクリ」が隠されているのが面白い。ハンスと、そしてシベリアに関係ある者達は、ことごとくカラクリに対して親和力を持つのだろうか? この仕掛けを見つけることが、ハンスを救う鍵となる。謎を解き明かすうちに、修道院に隠されたもうひとつの顔が現れる展開は、秀逸なアドベンチャーゲームならではの爽快感と驚きがある。 ゲームの合間に挿入されるムービーシーンが、世界の異様さを一層際立たせている。ムービーの内容の多くは、ケイトの元の職場、ニューヨークのオフィス。ムービーの中で、ケイトの上司達は、異国に旅立ち消息を絶ってしまったケイトを必死に呼び戻そうとするのである。彼らの交わす言葉には、裁判や契約といった、いかにもアメリカ的なビジネス会話で、その会話が幻の島へと向かうケイトの旅の幻想性を強調する。ケイトが現在立っている場所が、本当にこの世界と地続きの「現実の場所」なのか、アメリカのシーンを挿入することで、さらに確信が持てなくなってしまうのだ。 何とか健康を取り戻し、列車に戻ったハンスは、ケイトに、ロマンスバーグにいる友人へ届け物を頼む。その届け物とは、かってこの街にハンスが訪れたときに送った、機械馬の修理部品であった。ハンスの代わりに機械のパズルを解き、再び動き出す機械馬。しかし、店を出たケイトは信じられない光景を目撃する。列車が走り出してるのだ! ケイトを置き去りにしたまま……。 果たしてケイトとハンスは、無事にシベリアにたどり着けるのだろうか?
■じっくりと謎を解いていく感触 アイテムは効果のあるものしか手に入らず、イベントは決まったところでしか起こらない、しかもそれらはすべてカーソルが教えてくれる。と、このゲームの特徴を書き出すと、自由度が少なく、難易度の低いゲームのように思えるが、決してそうではない。 日本のアドベンチャーゲームに比べると、圧倒的にゲーム内の情報量が少ないのだ。手に入れたアイテムをどこで使えばいいのか? なによりも目の前に見えているものがなんなのか? それさえもわからないものがある。 たとえば、修道院にあるろうそくを作る機械は、ヨーロッパの人ならばわかるかもしれないが、日本人ですぐにわかる人はいないだろう。中盤に出てくる通信機や、レーダーなど、ちょっとしたヒントがあれば、ずいぶん謎は軽くなるはずだ。とはいっても、日本のゲームのように、主人公が独白をして、くどいほど状況説明をしてプレーヤーを導く。というのはあまりにも「ゲーム」的でいやだ、という意見もわかる。「さじ加減」を考えさせるゲームである。プレーヤーをちょっと突き放した感触は、海外ゲームならではであり、その雰囲気も楽しさのひとつかもしれない。 登場人物達も、親切とは言い難い。ロマンスバーグでは利発な少女マルカが助けてくれたからまだなんとかなったが、そこから先はほぼノーヒント。登場するキャラクタがヒントになるような有益な情報を話してくれることはほとんどなく、とにかくカーソルを合わせていくしかない。 ほとんどの場合は、カーソルの変化する「怪しい部分」というのがわかるので、プレイに支障がないが、グラフィックが緻密で美しく、画面に情報を詰め込んであるのが、プレーヤーを惑わせる。特にケイトがどこに移動でき、どこに移動できないかが場合によってはかなり曖昧な印象を受けた。移動可能な場所は、カーソルが光って教えてくれるのだが、光る範囲がかなり広いため、後ろにしか動けないかと思えば、左後ろに別の場所があったりと、「ちょっとわかりにくいな」と、感じた部分もあった。 とはいえ、これは筆者が、急いでプレイしたために感じた不満かもしれない。グラフィックや雰囲気を楽しみ、じっくりと腰を落ち着けて取り組めば、自ずと道は開ける。試行錯誤や、フィールドを何度も歩き回ることも、解いたときの達成感を盛り上げる、すばらしいスパイスになってくれるだろう。 協力してくれないキャラクタ達も、画一的な反応ではなく、謎めいた言葉ではぐらかしたり、とりつくしまもなかったりと、さまざまだ。彼らとのユニークなコミュニケーションも、世界観を楽しむ大事な要素である。 なにより、ケイトの明るいキャラクタ性が、この氷の国の冒険を楽しくしてくれる。極寒の地に挑むケイトは、自身の為ではなく、友人ハンスのために尽力しているのだ。この「暖かな」テーマが、身も凍るような世界に独特の暖かさを与えている。言い訳ばかりして、ほんとにまったく何の役にも立たないオスカーの存在も大きい。難解な謎解きだけがウリのゲームではなく、世界観と冒険を楽しむ作品なのだ。 最後に、筆者が特にわからなかったシーンをスクリーンショットの最終段に3つ掲載しておいた。プレイで詰まった場合は、活用していただきたい。もし、“ネタバレ”をしたくないと思われる方は、拡大しないでいただきたい。また、どうしても詰まってしまった、というプレーヤーは、海外の情報サイトを検索するという方法もある。 最終的な解法は用意されている。誰でも気軽に、楽しめる作品である。本作の世界観に惹かれた人には、是非ともオススメしたいゲームである。 (C) 2004 MC2-Microids.(C) 2004 Typhoon Games (HK) Limited. All Rights Reserved. Produced and Published by MC2- Microids. All other trademarks and logos are property of their respective owners. Uses Bink Video. (C) 1997-2004 by RAD Game Tools, Inc.
□メディアクエストのホームページ (2004年8月9日) [Reported by 勝田哲也]
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