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★PS2ゲームレビュー★
世にあるゲームの中には大小の差はあれど、「安全地帯」が存在する。それはスタート時の立ち位置や面クリア後のデモ画面、体力回復ゾーンなど、ゲームごとにさまざまだ。そんな安全地帯が徐々に失われていくとしたら、ゲームを遊ぶ側にとってそれは紛れもない恐怖だ。この度コナミ株式会社より発売された「SILENT HILL 4 -THE ROOM- (以下、SH4)」は、敵クリーチャーと闘い、謎を解き明かしながら進んでいく3D視点のホラーアドベンチャー。だが、このゲームの本当に怖いところは、異形のクリーチャーでもシナリオでもなく、ゲーム内の現実世界(=安全地帯)が異世界に侵されていく部分にあると筆者は考える。
■ 爽快なバイオレンスアクション プレーヤーの分身である青年のヘンリー・タウンゼントは、自室であるアパート「スウスアッシュフィールドハイツ」の302号室で目覚める。この302号室の移動箇所というか間取りは、寝室、リビングルーム、キッチン、バスルーム、物置き部屋。ドアからも、窓からも出られないということを除けばごく一般的なアパートの一室だ。302号室ではヘンリーの体力は自動的に回復し、セーブが可能で、アイテムの収納場所まである。この302号室はスタート当初は、現実の多くの部屋がそうであるように、プレーヤーの安らぎの場所として存在しているのだ。 だが、302号室の平穏は「バスルームに、異世界への穴が開く」という形で破られる。 この時から、ラップ現象が起き、壁の染みが広がるといった具合に次第に異世界の侵食が始まるのである。体力の回復機能は停止し、それどころか体力減少のゾーンまで広がっていく。自分の居場所がなくなっていく……これは怖い。プレーヤーの「302号室に戻ればなんとかなるだろう」という希望が少しずつ削り落とされていく息苦しさ、体力回復アイテムが尽きたときの絶望感。これは、確実にプレーヤーを焦らせていく。
この現実世界パートの302号室は、単なるセーブポイントとアイテム保管所ではなく、謎解きの一部が多く隠されている。簡単に言ってしまえば、現実世界パートと後述の異世界パートは関連性があり、2つの世界を行き来することで謎が解ける、というケースが多い。302号室に備え付けられているものを使って何ができるか、という洞察力も深く求められるだろう。現実世界モードで不満があるとすれば、部屋間のわずかな移動でもロード(時間自体は短い)が挟まれてしまうことと、セーブポイントが302号室のリビングにしかないため、わざわざ現実世界パートまで戻らなければならないこと。ただ、これらは個人差こそあれ、ストレスを感じるほどの問題ではないと思われる。
■ 爽快な戦闘シーンが絡む「異世界パート」 302号室に発生した穴に入ることで、舞台は「異世界パート」へと移行する。ここでの視点は主観視点ではなく、プレーヤーキャラクタの後方にカメラが据えられている後方視点に切り替わる。操作系統は左スティックでキャラクタの移動、○ボタンで対象物のチェック、×ボタンで走る、□ボタンでアイテムの装備・変更、△ボタンでスクラップブック(入手したヒント)とマップの表示となっている。
戦闘シーンは武器を装備することで行なう。この武器の種類もバラエティに富み、シリーズ定番の鉄パイプや、ゴルフクラブ、ピストルなど多数の武器アイテムを集めることができる。これらの武器を装備し、R2ボタンを押している間は装備している武器を構える戦闘態勢となる。戦闘態勢の状態で、○ボタンを押すと各武器に応じた攻撃が発動。打撃系武器の場合、○ボタンを押したままにしていると、体力ゲージ脇のパワーゲージが増加し、ゲージがMAXになった状態で○ボタンを再度押すことで、強力な溜め攻撃が可能となる
強すぎる溜め攻撃の影響と、遠距離攻撃などの嫌らしい攻撃をしかけるクリーチャーが少ないために、戦闘の難易度はそれほど高くない。主人公キャラクタの攻撃判定は大きく、敵のほとんどが溜め攻撃の一発で昇天してしまうので、「敵が弱すぎる……」とさえ思えてしまうほどだ。さらにボス戦らしい戦闘がほとんど存在しないので、敵の猛攻にあって先に進めないというケースは稀。アクションの初心者でも安心して手が出せるレベルだと思う。後述のプレーヤーの攻撃では倒せないゴーストは頭の痛い問題だが……。
この異世界パートは、あるアイテムを入手するごとに様々な世界に飛ばされる。地下鉄の世界、森の世界、建物乱立の世界、病院の世界……これらの世界は緻密な場面設計が成されている。プレーヤーキャラクタが一瞬で通り過ぎてしまうようなシーンでも、クオリティの高いテクスチャを駆使し、存在感のある質感を演出している。
■ 異世界に棲まう住人たち 「サイレントヒル」シリーズの特徴の1つ、クリーチャー造詣の異形さは今作でも健在だ。相変わらず生理的な嫌悪感を抱かせる愛すべき敵キャラクタたちが登場する。血まみれの犬、2つの顔を持ち手で走る怪物、あらぬ部分に顔が生えた猿など、アンバランスな不気味さは秀逸の出来栄えといえる。プレーヤーの攻撃によって苦悶し、息絶える瞬間はペーソスすら漂う。この通常クリーチャーに加え、今作で新たに登場する敵のタイプとして、ゴーストが存在する。 ゴーストは空中を浮遊し、壁などの障害物を抜け、一定エリア内は主人公を追尾する。しかも、足止めする方法はあっても、基本的には倒す方法はない。いわば、無敵キャラ。これが筆者のような'80年代のアーケードゲームを経験したプレーヤーなら「うわ、このご時世に永パ防止キャラ(1ゲームのプレイ時間が長くなり過ぎないように登場する無敵の敵キャラ)が拝めるとは」と、別のベクトルの恐怖を感じてしまうだろう。 その無敵さゆえに、ゴースト登場のBGM(ノイズ音)が鳴るだけで怯え、焦燥の念に駆られるものの、なぜか怖さはそれほど感じない。その原因を筆者なりに考察してみたが、それは「SH4」のゴーストが実体化しているという点にあると思う。このゲームのゴーストの多くは「死体が浮いている」という感じのグラフィックで、しかも超スピードで突っ込んできては殴りかかってくるという元気の良さ。どうしても生命のない存在とは認めがたく、畏敬の念を抱きにくいのだ。とはいえ、他のクリーチャーが弱い分だけプレーヤーの障害物としてゴーストは有効に機能している。出現する数も多いので、追い回される恐怖は存分に堪能できるだろう。
ゴーストは種類も多くゲームに緊張感を持たせる名妨害役であることは間違いないのだが、その分クリーチャータイプの活躍がマイルドに思えてしまうのが残念。シリーズのファンとしては、同シリーズらしい人外で狂気の産物としか思えない様相の生命体をもっともっと登場させて欲しかった気がする。
■ 謎解きの難易度は中
筆者のクリアタイムは11時間23分と11秒。同じ世界を2度回る必要があるため中だるみする箇所がありつつも、シナリオのボリュームがあったということで満足できた。このゲームに用意された謎解きは、前作のように詩の一編がヒントになるという凄まじい高難度ではなく、ある程度の記憶力・洞察力・推理力を活用すれば答えを導き出せるレベル。大半はシリーズの定番ともいうべき、暗証番号を巡る謎解きや、アイテムを別の場所に移動させるような謎解き。この謎解きを中のレベルに設定できているバランスは、じつにいいツボを抑えているといえる。
なお、シリーズをプレイした人ならわかると思うが、「SH4」の登場人物の中にはシリーズ作品に登場した人物が数名登場する。もちろん、「SH4」のシナリオは単体で楽しめるもので、シリーズ作品を知っている必要性はない。だが、作品世界の広がりを楽しむということもシリーズ物の醍醐味の1つ。シリーズ作品に着手していない、というプレーヤーはこれを機会に「サイレントヒル」シリーズを遊び尽くしてみるのもいいだろう。 (C) 1999 2004 Konami Computer Entertainment Tokyo
□コナミのホームページ (2004年7月7日) [Reported by 福田柵太郎]
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