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★PCゲームレビュー★

世界観、キャラクタに強いこだわりを感じさせるRPG
「英雄伝説 VI 空の軌跡」
  • ジャンル:RPG
  • 発売元:日本ファルコム
  • 価格:8,560円(CD-ROM版、DVD-ROM版とも)            
  • 対応OS:Windows 98/Me/2000/XP
  • 発売日:2004年6月24日



■新たな伝説の始まりを告げる「英雄伝説」シリーズ最新作

主人公エステル。元気でまっすぐな少女。父譲りの棒術を操る。ちょっとがさつなところもあるが、器の大きさも感じさせる少女
もう一人の主人公ヨシュア。物静かで利発な優等生タイプで、剣の腕も確か。秘密と悲しみを心の底にもつ彼にとって、エステルの明るさは大きな癒しとなっている
 「英雄伝説 VI 空の軌跡(以下、「空の軌跡」)」は、「イース」シリーズと並んで、日本ファルコムの看板ともいえる人気RPGシリーズの最新作だ。特に「英雄伝説 III 白き魔女」('94年発売)、「英雄伝説 IV 朱紅い雫」('96年発売)、「英雄伝説 V 海の檻歌」('99年発売)の「ガガーブトリロジー3部作」は高い評価を受けたことで有名だ。

 今作は、前シリーズから舞台を一新、“導力”という神秘のエネルギーで動く機関オーブメントによる、“導力革命”が果たされたユニークな世界で物語は展開する。オーブメントとは、鉱山から採掘される七種類の異なる性質を持つ水晶のような結晶体、七曜石(セプチウム)の導力で駆動する。

 特に本作の舞台となる「リーベル王国」はオーブメント発祥の地であり、地方でもオーブメントによる街灯で道は照らされ、鉱山で使うエレベーター、さらには空を巨大な「飛行挺」が行き交っている。オーブメントが発明された「導力革命」から50年、人々の生活は一変したのである。

 新しいエネルギーにより、人々の生活は豊かになったが、いまだ安全にはほど遠い。導力による魔除けの施された場所以外には強力な魔物が徘徊し、旅人を襲ってくるなど国々も平穏ではない。リーベル王国は「エレボニア帝国」と「カルバード共和国」というふたつの強国に囲まれた小国。10年前には帝国による侵略を受け、後に言われる「百日戦争」を繰り広げ、大きな戦禍に見舞われた。

 この世界には国以外にも人々を助ける機関が存在する。世界各地に散らばり、支部を持つ「七曜教会」と、「遊撃士協会」である。このふたつの組織は国を超えて連携を保っており、百日戦争でも仲介の役目を果たした。七曜教会は人々の精神面を助ける存在であり、遊撃士協会は実利面で役に立っている。

 協会に所属するメンバーは「ブレイサー」と呼ばれ、主に戦士として、街道の魔物退治から、積み荷の護衛など、協会から斡旋された仕事を料金をもらってこなしていく。時には子供の失せ物探しから、恋文の配達まで請け負う、「何でも屋」の集団である。国を守る軍人達からはうさんくさい目で見られることもあるが、より人々の生活に近い存在だ。

本作の主人公エステルとヨシュアは、新人のブレイサー。彼らの父、カシウスはベテランのブレイサーである。ふたりの新人ブレイサーは、物語を進めるうちに、ブレイサーとしての自覚とともに、父のすごさを実感していく。彼らの冒険は、やがて世界に関わるような大きなものとなる。物語は、今幕を開けるのである。


【スクリーンショット】
ふたりの父親であるカシウス。物語の序盤で大きな事件をかぎつけ、旅に出ることになる。2人は旅の先々で彼のすごさを実感することに シェラザード。カシウスの弟子であり、若い娘ながら、腕利きのブレイサーである。2人の姉代わり、かつちょっと厳しい先生でもある。酒豪 オリビエ。帝国からの旅行者で、美形ながら、ナルシストっぽい言動のせいで、「ちょっと変な人」という評価を受けがち。2人も同様の評価を下す
リーベル王国の一大情報誌「リーベル通信」の記者ナイアルと、天然ボケの新人カメラマン ドロシー。遺跡の取材のガードを引き受けることで出会う 王国最大の商業都市ボースの市長を務めるメイベル。若い女性ながらも敏腕。ある事件で、遊撃士に調査を依頼することになる 自分たち用の飛行艇を持っている“空賊”、カプア一家。一度ならずエステル達の前に現れることになる。彼らの境遇にも秘密があるようだが……



■「ライトノベルズ的作品」への強いこだわり

 ゲームのスタートは、カシウスがエステルの元に、傷だらけの少年を連れてきたシーンからはじまる。黒髪と、琥珀色の瞳を持つ異国人の少年は、ヨシュアと名乗る。それから5年。エステルとヨシュアは16歳となった。ヨシュアはカシウスの養子となり、エステルとともに彼を「父さん」と呼ぶ。2人は、遊撃士になるため鍛練を重ねてきた。ゲームは2人が挑戦するテストからはじまる。

 楽天家で元気なエステルと、冷静で細かいところに気がつくヨシュア。ふたりの描写は細かく、パワフルで暴走気味のエステルと、ツッコミを入れながらもフォローに苦労をするヨシュアの掛け合いは、同作の大きな魅力のひとつだ。

 しかし、ヨシュアには大きな秘密がある。彼が5年前どんなことがあって父と知り合ったのか、彼はそれまでどんな生活をしていたのか、それを聞くことはふたりにとってタブーになっている。ヨシュアが時々見せるつらそうな、大きな悲しみを思わせる一面は、その過去に原因がありそうなのだが、エステルは追求しない。

 隙がない代わりに、時には人を疑ってしまうこともあるヨシュアには、正直でまっすぐなエステルはまぶしく、心を温かくさせてくれる存在だ。現実だけ見たらエステルに振り回され、フォローに回っている苦労はヨシュアの方が大きいかもしれないが、精神面でエステルは大きな支えになってくれる。一方、幼い頃に母を亡くし、父は世界中を飛び回り家をあけることが多いエステルにとって、ヨシュアは寂しさを忘れさせてくれる大事な家族だ。ふたりの絆は強く、恋愛に発展しない微妙な関係は、好感が持てる設定である。

 こんなふたりが中心となって物語は進んでいく。脇を固めるキャラクタ達もユニークで、丁寧なエピソードともに語られるその描写はとても心地良い。村でおこる小さな事件や、人知れず企まれていた陰謀など、多くの事件がふたりを待っている。スタート地点である地方都市ロレントを始め、美しい観光都市ルーアンや、若き市長がおさめる商業の中心ボースなど、世界はとても細かく設定されており、旅をしている気分も満喫できる。

 魔物を遠ざけるオーブメントの街灯や、城門の扉の開き方、飛行挺の発着場、家々の造りまで、世界観への設定は執念を感じさせるほど細かく、緻密に設定されていて、その「密度」には唸らされる。物語で大きく主張する事柄以外にも、「異世界」への考察は徹底されている。このハードルをクリアしているゲームはそれほど多くない。スタッフのこの作品に対する並々ならぬ意気込みを感じさせる。

 展開されるストーリーもまた独特。「ライトノベルズやコミックのような」という表現は、筆者がファルコムのゲームを評する際によく使う言葉だが、本作はその傾向が徹底している。エステルとヨシュアの、ちょっとくすぐったくなるようなほほえましい関係を初めとして、お姉さん的存在のシェラザード、大ボケのカメラマン、ドロシーなどのコミック的キャラクタ描写は豊かである。さらに学園モノ要素や、温泉、といった「お約束」のエピソードまで盛り込んである。

 キャラクタ性や、お約束を重視させていると、ともすれば本編が軽くなりがちだが、メインのシナリオは非常に骨太だ。戦争の記憶、導力革命後の人々の生活、遊撃士としての役割……。2人の成長の物語を中心に、多くの人の「生活」と、「歴史」の息吹を感じることができるシナリオは、プレーヤーを引き込まずにはいられない。

 綿密にエピソード、キャラクタ、世界を練り上げているのが実感でき、その作品のクオリティは凡百の作品を寄せ付けない。家の中の家具のデザインや、街のキャラクタのセリフひとつひとつにも「丁寧に作られている質感」を、感じさせられる作品である。


【スクリーンショット】
ファルコム作品の定番となったアニメーションのオープニングムービー。さまざまなキャラクタとの出会いを予感させる 5年前、父はエステルの元へ、傷ついた少年、ヨシュアをつれてくる。何があったのか、エステルはまだ知らない 16歳となったエステルとヨシュアはブレイサーとしてテストを受ける。先生役はシェラザードが務めた
エステルの故郷、ロレントの街並み。3Dグラフィックで描かれた建物は、回転させることで、オブジェクトひとつひとつにまでこだわって造っているのが確認できる 「リーベル通信」の記者と共にたどり着いた遺跡「翡翠の塔」の頂上。古代文明のテクノロジーという要素も、シナリオに絡んでくるようだ 本作には「現場検証」といった単語が出てくる「探偵趣味」があり、ライトノベルズ的な雰囲気を補強する。どちらかというと、エステルがワトソンで、ヨシュアがホームズ的役割だ
導力革命の象徴的存在の飛行艇。定期便が国内を往来している。すでに人々の生活に深く関わっている存在である ショッピングモールのような「ボースマーケット」。異国の品物が並んでいるほか、食べ物の屋台も 「重剣のアガット」と呼ばれる腕利きブレイサーとの出会い。2人は旅先でさまざまな人物と知り合う
白く美しい建物と、海のコントラストが美しいルーアン。観光客のたえない街である 導力革命発祥の地ツァイスでは、階段までが導力によって稼動している ここはなんと「生徒会室」である。「学園モノ」の要素まで盛り込まれているのだ



■キャラクタ性と駆け引きが楽しめる戦闘システム

 RPGにおいて戦闘シーンはキャラクタ性を主張できる大きな要素であり、本作もその傾向が強い。エステルが元気いっぱいにふるう棒術、ヨシュアの鋭い双剣術、シェラザードの鞭さばきなど、見ているだけでも楽しい。

 戦闘はマップ上の敵に遭遇することで発生する。イベント的な戦闘以外では、近づくと視認できるモンスターに対し、背後からぶつかることで先制攻撃を行なうことができる。反対に、追いつかれてしまうと敵側が有利になる。

 キャラクタは直接攻撃のほか、他のゲームの魔法に当たる「アーツ」と、敵にダメージを受けたり攻撃を行なうことで増加する“CP”を使用して使う「クラフト」という攻撃方法を持っている。戦闘の行動順位は左に表示される「ATバー」で確認できる仕組みだ。

 アーツは後述するオーブメントの設定である程度自由に設定できるが、クラフトは各キャラクタ固有のもの。エステルは範囲攻撃を得意とし、ヨシュアは単体攻撃に秀でている。また、敵キャラクタの行動を遅らせたりする技もあるので、よりキャラクタによる戦闘の組み立てを感じさせる要素である。また、アーツには発動時間があり、それをキャンセルさせる技も大事だ。

 CPが100を超えると、「Sクラフト」という技が使用可能になる。使用することで瞬時にATバーの先頭に立つことができ、派手な効果のある技が発動する。よりキャラクタ性を主張した派手な技が楽しめる上、戦術的にもとても実用的だ。細かくクラフトを使って戦うか、じっくりCPをためて大技にかけるか、という選択は同作の戦闘シーンにおけるもっとも戦術的な要素だろう。

 ATバーにはキャラクタの行動順の表示の他に、「ボーナス」要素がある。ステータスの増加や、クオーツの素になるセピスの獲得増加、クリティカルの発生など有利なことばかり。そのボーナスが敵に行かないように、わざと行動を遅らせたりすることも重要だ。

 アーツはオーブメントに、さまざまなクオーツをはめ込んでいくことで使用できる。ブレイサーが持つオーブメントは懐中時計のような形をしていて、中には回路がある。この回路にクオーツをセットしていくことで、さまざまな系統のアーツが使用できるようになるのだ。

 ゲームが進むことでこの組み合わせにも自由度が出てくる。少し複雑な要素ではあるが、戦闘で得たセピスを工房でクオーツに生成する作業や、組み合わせ表を参考に、有効なアーツを模索していく手順などは、戦闘の効率とともに、「この世界で暮らしている」という実感を補強してくれる、世界観をより大事にしたシステムといえるだろう。

【スクリーンショット】
戦闘画面。メニューにも時計を思わせるオーブメントのデザインが使用されている エステルのクラフト「旋風輪」。多くの敵を同時に攻撃できるが、威力は今ひとつ 魔法的な扱いの「アーツ」。各ブレイサーが持つオーブメントにより発動される
エステルのSブレイク「裂破無双撃」。彼女の気質を感じさせる炎の演出がカッコイイ 敵を倒すと、七曜石のかけらであるセピスを落とす。これを生成してクオーツを造るのだ 各街の工房ではオーブメントの改造や、クオーツの作成ができるオーブメントの回路は、各人固有のものである




■メインのストーリーを補強する多彩な要素

 本作は寄り道も楽しめるRPGだ。メインのキャラクタの他、市井のキャラクタの動向にも注目する価値がある。街や村にいるキャラクタそれぞれには名前があり、夫婦仲が悪かったり、子供への教育に悩んでいたり、辺り構わずラブラブ光線を放っていたりと、チェックするだけでも楽しい。しかも彼らの中には旅行をしていたり、故郷から出稼ぎに来ていたりして、思わぬところで再会したりする。チェックをしておくとスタッフのこだわりをより感じることができるだろう。

 住人達との関わりを実感できるのが、遊撃士に寄せられるさまざまな依頼だ。各遊撃支部の掲示板には、住民からの依頼が寄せられている。失せもの探しから、食材集め、事件の調査など、仕事は多岐に渡り、遊撃士の「何でも屋」ぶりが体験できる。

 これらの依頼は本編となるストーリーとは別の、いわばサブシナリオとなっている。本編のシナリオを進めすぎると、依頼の期限が来て達成できなくなってしまうこともある。シナリオ中もこまめに掲示板を覗いて、仕事を進めておくのが賢いやり方だ。ゲームのやり込み要素と言うほかにも、経験値や資金稼ぎといった面でも効果的である。

 旅の楽しさを補完してくれる要素としては「料理」システムがある。ゲーム内では薬や武器の他に、さまざまな食材が購入できる。この食材を使って料理を作ることができるのだが、料理のレシピを覚える方法が楽しい。旅先で、宿屋や酒場で売られている料理を食べることで、レシピを覚えていくのである。

 料理はフライドポテトから王国風オムレツ、さらには「頑固パエリア」といった店の名物料理まで非常に多彩。ちゃんと、漁師町では海鮮系だったりと、ここにもこだわりがみてとれる。ちょっと残念だったのが、各料理にグラフィックがないところ。料理数は大変多いため、仕方がないかもしれないが、序盤のエステルの家での食事シーンでは、オムレツや、チキン等をきちんとグラフィックで表示しているそのこだわりに唸らされただけに、各料理を「見る」楽しさも加えてほしかった。

 繰り返すことになるが、筆者はこの作品は、驚くほど丁寧に、世界観やキャラクタを練りこんで作ってあるという印象を受けた。その実感は、プレイした誰もが感じることだと思う。ライトノベルズ的世界観というと、その名の通り、「軽く」見られがちだが、この作品は、世界の考察において、きちんと「重厚さ」を持っている作品である。この感覚は、多くのプレーヤーに体験してもらいたいところだ。

【スクリーンショット】
遊撃士支部の掲示板には様々な依頼が寄せられる。本編のシナリオとは別に楽しめる要素だ 街道にいる魔物を退治。付近の敵よりちょっと強い。気合いを入れて挑みたい シナリオに直接関わらないNPCにも細かい設定がある。チェックをすることでより楽しめるだろう
エステル達がその「舌」で収集した料理のレシピ。材料は街だけではなく、魔物からも入手可能 各街の酒場やホテルで食べられる名物は、レシピを増やすチャンス 旅を続けていくことで微妙に変化していく2人の関係。頬が弛んでしまう演出が楽しい

(C) Nihon Falcom Corporation. All Rights Reserved.


【英雄伝説 VI 空の軌跡】
  • CPU:Pentium III 500MHz以上(Pentium III 800MHz以上推奨)
  • メモリ:Windows 98/Me:192MB以上(256MB以上推奨)
        Windows 2000/XP:256MB以上(384MB以上推奨)
  • HDD:インストール時:1.9GB以上の空き容量
  • ビデオカード:VRAM 32MB以上


□日本ファルコムのホームページ
http://www.falcom.co.jp/
□「英雄伝説 VI 空の軌跡」のホームページ
http://www.falcom.co.jp/ed6/
□関連情報
【4月13日】日本ファルコム、「英雄伝説 VI 空の軌跡」の予約受付を開始
予約特典先渡しプレゼントを実施
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20040413/eiyu6.htm
【3月31日】日本ファルコム、「英雄伝説 VI 空の軌跡」の初回特典を発表
設定資料集やアレンジサントラなど三大特典
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20040331/falcom.htm
【3月25日】日本ファルコム、「英雄伝説 VI 空の軌跡」を6月24日発売
イメージイラストや最新スクリーンショットを公開
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20040325/falcom.htm
【1月9日】日本ファルコム、「英雄伝説 VI 空の軌跡」を今春発売
新世界を舞台にした「英雄伝説」シリーズ最新作
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20040109/eiyuu.htm

(2004年6月22日)

[Reported by 勝田哲也]


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