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★PS2 ゲームレビュー★
プラットフォームをそれまでのファミコンからスーパーファミコンに移して「ドラゴンクエストV」が登場したのは11年と半年前。ファミコンをはるかに凌駕するグラフィックとサウンドという武器を得たドラゴンクエストの物語は、より壮大で、より感動的で、そしてよりリアルな世界観でプレーヤーを魅了した。ファンタジーという完全なフィクションのジャンルでありながら、立体感のあるグラフィックで描かれたスライムや、臨場感溢れる効果音、そして迫力のオーケストラサウンドが生み出すディテールは、プレーヤーを物語の世界に埋没させるのに十分な説得力を持っていたのである。 そして11年と半年。いくつものハード(とプレーヤー)の世代を超えて、プレイステーション 2というプラットフォームで「ドラゴンクエストV」が登場し、発売から2日で130万本という驚くべき出荷本数を記録した。かつての冒険を懐かしむ20代以降の世代と、初めてこのタイトルに触れるプレーヤーが多いであろう10代前半の世代の両方に受け入れられたとか、スーパーファミコンよりも圧倒的に高性能なプラットフォームで登場したとか、「VIII」の映像特典ディスクが魅力的であったとか、その要因は多いだろうが、11年半も昔のタイトルでありながらこれほどの快挙を成し遂げられることに、コンシューマーの分野にRPGというジャンルを定着させた「国民的シリーズ」としての懐の深さを感じずにはいられない。 とは言え、リアルタイムでSFC版をプレイした33歳としては、シリーズ最新作ではなく、MMORPGでもなく、(今となっては)斬新なシステムを搭載しているわけでもない本作に、再び遊び込めるだけの深みがあるのかということに疑問を感じずにはいられない。僕と同じような気持ちで購入を戸惑っているプレーヤーも多いと思われるので、本稿がそういった人たちへの指針になれば、という気持ちで書かせていただくことにする(これまでにプレイする機会がなかった人たちには、本稿を読むまでもなく、すぐに買って、プレイしてみるべきだと言いたい気持ちではあるが……)。
■ 「ドラクエ」がポリゴンであることの必要性 PSですでに「VII」が登場しているので、ポリゴンで描写された「ドラクエ」の世界に対して、今さらこれといった驚きはない。スライムが透けて見える、ボスがデカい、呪文がカッコいい、町や洞窟に臨場感がある……といった感動はあればあるほどいいに決まっているので、平面的な「ドラクエ」に郷愁のようなものを感じつつも、「ドラクエ」はこの先もポリゴンであれ、と思う。鳥山明氏が描くキャラクタの表情をテクスチャで忠実に再現し、ポリゴンでスムーズにカッコよく動かしている「VIII」のプレミアム映像ディスクを見れば、その思いはひとしおだ。 そして、本作について言うなら、11年半の昔に連日徹夜して眺め続けたあの町が、あの場所が、あのモンスターが3Dで再現(または再構築)されていることに、郷愁と新鮮さが一緒くたになった心地よい感動がある。切り立った岩山に抱かれたエルヘブンの雄大さや、透き通った天空への塔の美しさは、11年半前に頭の中で修飾したイメージを完全に超えていて、その迫力の前に不覚にも涙腺がゆるんでしまった(当時の僕の想像力が貧困であり、そして現在の感受性が強すぎたのかもしれないが)。 正直、プレイしているうちに「そうそう、ここはこうだった」などと展開を思い出してしまい、そのうち単なる「遊び直し」といった気分になることを危惧していたが、新しい場所にたどり着き、その景観がまるで変わっているというだけで、ずいぶんと新鮮な感覚でプレイできたのは驚きだった。それどころか、平面のマップだとキャラクタが通れる幅が丸見えでわかりやすかったのに、3D表示になったことでその道に気付けず、2時間近くも塔を登ったり降りたりさせられたという間抜けな羽目にさえ陥ってしまった。 ゆえに、思う。僕ほど物覚えが悪いプレーヤーがどれだけいるのかが疑問ではあるが、遮蔽物によって視界が不自由になる3Dであるからこその、探索の楽しみ。これは11年半前には味わうことができなかった、大きな魅力ではないかと。かつて、2D画面の黒く塗りつぶされた場所に身をひそめているラゴスの存在には驚かされ、そんな場所に隠すという発想が楽しくもあったが、あれはやはり2Dという丸見え状態のマップに、どうにかして探索の楽しみを付加しようと苦心されたものに過ぎない。3Dであることによって、そういった楽しさは確実に引き上げられている。物陰に隠れたタンスや宝箱を見逃すまいと、視点をグリグリと動かす作業はやはりおもしろい。
■ マイナーチェンジによってプレイしやすくなった
また、移動中のウィンドウでは、最後に使ったアイテムや呪文が記憶されていて、その位置にカーソルが表示されているのも、ケースバイケースだが便利である。欲を言わせてもらえれば、戦闘時のウィンドウにもその機能をつけてほしかったところだが……。 L1ボタンとL2ボタンをそれぞれ○ボタン、×ボタンとほぼ同様に使えるのも嬉しい配慮。移動時にも左スティックによるアナログ操作で微妙な角度への移動が行なえるなど、SFCよりもはるかに多彩な入力ができるPS2のコントローラなのに、使用しないボタンが少ないという点に、プラットフォームの変化に応じたインターフェイス面での向上がハッキリと見て取れる。実際、町や洞窟などで右スティックで視点を動かしつつ、回転する画面に合わせて左スティックでキャラクタを動かしていくのは爽快で、移動に関するストレスはあまり感じなかった。唯一、岩などを運んでいく場面では微妙な操作がやりにくいという欠点があったが、L2ボタンやR2ボタンで基本の視点に戻し、方向ボタンを使ってしっかりと4方向に操作することでその問題も簡単に解決する。
■ モンスターを仲間にできる楽しさの原点
すでに「ドラゴンクエストモンスターズ」が存在する以上、オリジナルの「V」と同じ仕様のままではモンスターを仲間にできるシステムもやや古くさく、物足りないものになっただろうが、仲間にできるモンスターの種類を増やすということで、その不満が緩和されているようだ。個人的には、手を焼かされるばかりで仲間にならない「ほのおのせんし」を仲間にできるだけで、ちょっとおトクな気分にさせていただいた。モンスターの基礎能力と成長限界レベルの関係で、序盤で仲間にしたお気に入りのモンスターが終盤になると戦力として通用しなくなるのが寂しいが、「ドラゴンクエストモンスターズ」ではなく、「V」なのだからということで、そのあたりは納得しておこうと思う。
■ 収集、コンプリートマニアを楽しませる「名産品」 物語の進行にはほとんど影響がなく、完全な脇道の部分ではあるが、オリジナルの「V」との差異として注目したいのが、それぞれの町や城、そしてその周辺などで入手できる「名産品」の存在だ。物語が進むと主人公は「めいさんひんはくぶつかん」の館長になることができ、各地で集めた様々な名産品を展示できるようになる。それだけなら単なる余興の域を出ないが、名産品それぞれに美しさや面白さといった格付けがなされており、それによって集客効果(博物館の「格」)が変化するとなれば、名産品の収集にも俄然力が入ってくるというもの。もちろん、より美しく、より面白いものほど入手は困難。さらには入手した時点ではそれほどのものではないが、他のアイテムと組み合わせることでより素晴らしいものに……といった要素まであるとなればなおさらだ。 名産品の入手や格の向上といった手がかりが、物語の途中に無理なく散りばめられているのも素晴らしい。町などで人と出会ったら、物語の進行に必要なヒントだけではなく、名産品についての情報にも耳を澄ます。何気ない会話の中から名産品についてのヒントを拾い上げていく。この楽しさは完全にオリジナルの「V」を凌駕したと言えるだろう。
■ プレミアム映像ディスクには「VIII」への期待感が満載!
特筆すべきはやはりキャラクタの頭身数の高さで、「ドラクエ」といえばデフォルメされた頭身のキャラクタだったが、「VIII」では頭身数が高いポリゴンモデルに美麗なテクスチャが貼られており、鳥山明氏のタッチを見事に再現したキャラクタが縦横無尽に動き回る。これまではプレーヤーの脳内で「鳥山キャラ」に補完する作業が行なわれていたが、「VIII」ではその作業はまったく必要がない。また、戦闘時には主人公たちのパーティがモンスターに斬りかかり、モンスターが主人公たちに襲いかかるシーンのアニメーションも制作されているため、やはり脳内で補完していた「このモンスターのこの攻撃は、きっとこういうイメージだろう」という作業にも明確な答えが出るのだ。シリーズのファンなら、このモンスターの動きの部分を確認しただけでも、「VIII」への猛烈な期待感が高まることだろう。少なくとも僕は、ここまで完成しているなら早く発売して欲しいと、久しぶりにワクワクしている。並んででも発売日に手に入れて、すぐにプレイしたい。「ドラクエ」には付き物だったその気持ちが、久しぶりに頭をもたげてきている。
【「ドラゴンクエストV」】
□スクウェア・エニックスのホームページ (2004年4月9日) [Reported by 平田 洋] また、弊誌に掲載された写真、文章の無許諾での転載、使用に関しましては一切お断わりいたします ウォッチ編集部内GAME Watch担当game-watch@impress.co.jp Copyright (c) 2004 Impress Corporation All rights reserved. |
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