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【Game Developers Conference 2004】レポート
海道賢仁氏と上田文人氏がPS2「ICO」の開発経緯を解説 |
会場:San Jose McEnery Convention Center
ICOの開発スタッフである、プロデューサーの海道賢仁氏と、ディレクターの上田文人氏。非常に多くの聴講者がつめかけ、熱気のあるセッションとなった |
今回の海道氏と上田氏によるセッションの内容は、「ICO」の開発経緯を説明するというもので、2002年6月に東京で行なわれた、IGDA東京チャプター主催による第2回ゲーム開発者向けセミナーのものとほぼ同じであった。ただ、「ICO」は2002年の「Game Developers Choice Awards」で3部門を受賞するなど、海外で非常に高い評価を得ているゲームということもあり、大勢の立ち見が出るほど多数の聴講者が詰めかけ、熱気のあるセッションとなった。ここでは、このセッションの内容について紹介していく。
写実的なリアルさではなく、感覚的なリアルさの追求が根底にあるICOのコンセプトだ |
この時点で設定されていたゲーム内容は、ノンプレーヤーキャラクタ(NPC)とのコミュニケーションを主体とした、シミュレーションタイプのアドベンチャーゲームで、城だけでなく街や砂漠なども登場する、スケールの大きなものとなっていた。しかし、少年と少女が手を取り合って進むというコンセプトはこの時点ですでに決まっていたそうだ。このCGムービーは社内での評判が高く、'97年の9月に海道氏がプロジェクトに加わり、プレイステーション向けのタイトルとして開発がスタートすることになった。
「ICO」を開発するにあたり、海道氏と上田氏はプロダクトコンセプトとして3つの考えをまとめ上げた。1つめは「差別化」。たくさんある他のゲームに埋もれることのない、他のゲームとは異なる目立つゲームを目指す。2つめは「美しいグラフィック」。当時は、すでに3Dグラフィックは珍しいものではなくなっていた。その中で、アートの領域にまで踏み込めるようなグラフィックを実現する。3つめは「リアリティ」。モニターの中に現実世界が存在するかのよな錯覚を受けてしまうほどの精密な世界を作り上げる。ちなみに、この「リアリティ」という点は、「写実的(フォトリアリスティック)」という意味ではなく、プレイしたときの「実在感(リアリズム)」という意味で使っているそうだ。
この3つのコンセプトをどういう方法で実現するのか。そこで考えたのが、シンプルなゲームにするということであった。ここで言うシンプルとは、コンパクトなゲームを作るということではなく、不必要なものを削ってゲーム内容をシンプルにするということ。そして内容をシンプルにした分、ディテールを非常に細かくして、リアリティを追求する。内容をコンパクトにすることで、他にはない高いリアリティを目指したとしても、同じコストで制作できるのではないか、と考えたからだそうだ。
この考えを実現するために、城以外のフィールドを全て省き、城から脱出した時点でゲームクリアとなるようにした。また、たくさんのキャラクタを登場させるのではなく、少年と少女、敵キャラクタの3種類のみを登場させるように変更した。そしてこのコンセプトで、'98年8月にプレゼン用のデモムービーを作成したところ、社内での評判が非常に高かったことから、ゲームをコンパクトにしてクオリティを上げるという考えに自信を持ったそうだ。
その後も開発は進み、'99年10月には、新たなデモムービーが作成された。この時点で、敵キャラクタが人型の兵士である点以外は、すでにゲーム内容は製品版とほとんど変わらないものが出来上がっていた。ただ、この時点で試作から約2年経過していたものの、海道氏らが考えるリアリティ(キャラクタのモーション、細部の描写など)にはほど遠いものだったという。プレイステーションの処理能力ではこれ以上のリアリティの向上は不可能と考え、ちょうどPS2の登場が見えていたこともあり、当初のコンセプトを変えることなく、プラットフォームを変更して開発を行なうと決断することになったそうだ。
PS2用として開発するにあたり、細部のディテールを向上させるとともに、リアルさを追求できないものを徹底的に排除した |
例えば、少女が箱を登るというシーンでも、ぴょんと飛び乗るようなモーションと、少女らしい仕草で登るようなモーションとでは、やらなければならないモーション制御が格段に違ってくる。もちろんこれはプログラマーの負担になるわけだが、この点に理解のあるプログラマーの協力がなければ、なかなか実現は難しい。ただ、「ICO」のプログラマーはこの部分に賛同してくれたため、スムーズに開発が進んだそうだ。
ところで、PS2での開発を進めていく上で、まずテストとしてPS用として利用していたデータを流用してムービーを作ってみたところ、いくつか気がついた点があったそうだ。それは、PS2は解像度が高いためごまかしがきかず、よりディテールを作り込まなければならないという点。そして、戦闘シーンなどで、キャラクタの表情があまりにもリアルに表現されるために、それが逆に欠点となってしまう可能性があるという点だ。そこで、ディテールはさらに作り込まれ、敵キャラクタは人間の兵士からモンスターへと変更された。
PS2向けに「ICO」を開発していく過程において、リアリティを追求するテクニックとして使ったのが、細部のディテールの向上に加え、リアルさを追求できないものを徹底的に排除する、ということだそうだ。少しでもリアルでないものが含まれていると、せっかくのリアリティの積み重ねが台無しになってしまう。そのため「ICO」では、空中を移動する橋、といったようなものは一切盛り込まれていないわけだ。
このように、内容をコンパクトにしてクオリティを高めるといった制作手法を、海道氏らは「サブトラクティングデザイン(Subtracting Design)」と呼んでいるそうだ。この手法は全てのゲーム制作に適合するわけではないと思われるが、「ICO」の場合には見事に合っていたというわけだ。
「ICO」は、当初の開発コンセプトである、「差別化」、「美しいグラフィック」、「リアリティ」を実現するために、「サブトラクティングデザイン」という制作手法を用い、さらにストーリー、キャラクタデザイン、サウンド、ゲームシステムなど、ゲームの全ての要素を、印象的なリアリティを実現するために使っている。それによって、他とは違うゲームができあがったのだ。
「ICO」は、約4年という長期にわたるトライ&エラーの元に開発されてきた。その間、初期段階からの開発コンセプトを妥協することなく一切変更せずに制作が進められたことに加え、コンセプトの内容を、プレゼン用のムービーという形でデータとしてまとめ、常にチームの内外にアピールしてきたという。それにより、周囲の理解を深められたことが、いい形で「ICO」が完成にこぎつけられた秘訣だと海道氏は指摘し、セッションが締めくくられた。
(2004年3月29日)
[Reported by 平澤寿康]
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