★ PS2ゲームレビュー ★
完成披露パーティから待ちどおしかったこの作品、発売日に入手したあと、一気に解いてしまった。1回目のプレイは7時間ちょっとかかったが、十分楽しめた。個人的には今年発売されたゲームの中でもトップクラスに気に入った作品だ。
■ 「道を切り拓く」独自の楽しさが詰まった作品 迷宮脱出劇であるこの作品は、根本的なゲームシステム自体は「プリンス・オブ・ペルシャ」や「トゥームレイダー」などに代表される謎解き要素を含んだアクションゲームである。そこに、ほとんど自発的に行動しない「ヨルダ」という少女の手を引いて、主人公・ICOがどうやって城を抜けだすのか、というテーマが、ゲームシステムにうまく取り入れられているあたりが独自性のひとつになっている。この「手を引く」行為そのものが、プレーヤーを主人公にシンクロさせ、単なる脱出劇に留まらない「助けてあげたい」思いを助長させてくれる。ヨルダは、鎖に捕まって昇ることができないし、ジャンプの飛距離も短く、ICOに比べてできることが「制限」されている。要領がつかめないうちは、彼女を抱えて連れ去ってしまう「影」のように、自分もああしたいなーと思う場面があった。しかも窮地を切り抜けても彼女は礼のひとつもないし、言葉も通じない。ICOのセリフは字幕が日本語表示されるのに、1回目のプレイでは彼女のセリフは理解不能の言語として表現されている。これも一種の「制限」である。 このもどかしさに愛着のようなものが沸いてきたあたりから、このゲームは俄然おもしろくなってくる。ICOひとりだったら簡単にクリアできる仕掛けも、ヨルダには進めない。だからヨルダのために道を切り拓いてあげ、彼女を手伝ってふたりで困難を乗り越える、という行動は、これが現実だったらある意味うそ臭いドラマのようなものなのだろうが、ゲームシステムに組み込まれ、パズルアクション的楽しさを生み出すことで、プレーヤーにスムーズに受け入れられるようになっている。ときにはヨルダの力を借りて進んだほうが楽な場面すらあるのだ。 しかも、ふたりの距離が離れていると、いつ「影」に襲われてしまうかわからない。ヨルダが影に襲われると、ヨルダの小さな悲鳴とともに静かにB.G.M.が変わって教えてくれるのだが、基本的にはICOはヨルダの側にいないと危険だ。もし、ヨルダが連れ去られて影の巣に取り込まれ、姿を消してしまうと(取り込まれてから10秒前後)、ゲームオーバーになってしまう。突破口をさがして別の部屋で探索していたり、鎖を登り切ってさあ、と思ったときなど、この敵の出現タイミングも憎らしいぐらいよくできている。 離れたセーブもふたりで一緒にイスに座ることで行なわれるなど、特別なことでもない限り、いつもふたりはいっしょにいなければならない、と思わせる「制限」のつくりの上手さが感じられる。
■ 何を見せたいのか? にしぼりこんだアプローチが好印象
ICOとヨルダの動きの違いにしても同じことが言える。活動的なICOは走るモーションも溌剌としたものが感じられるが、ヨルダは静かに走ってくる。はしごを昇るときも同じ。ICOなら交互に手を伸ばして上っていくが、ヨルダは1段ずつ、丁寧に上っていく。 そしてなによりすばらしいと感じられたのは、多彩な表情を魅せる霧の城だ。室内と屋外、そして城から見えるまわりの景色、隙間から差し込んでくる日の光、たいまつの明かり、庭の木々の木漏れ日……キャラクタはトゥーンシェードのように抽象的なイメージで描かれているが、こと背景に関しては写実的な印象を受ける。 室内で目的を達成して屋外に出たとき、計算されたカメラアングルから、城の広さ、高さが実感される。屋内では吹き抜けが多用された構造に、その複雑さを感じさせられるなど、この城の造りもゲームの雰囲気作りにかなり貢献していると思われる。城の外壁に張りついて移動したり、パイプの上を歩いたりする時など、高所恐怖症になりそうなぐらいの高さを感じさせるアングルなど、手に汗を握ってプレイしたことは1度や2度ではない。ゲームシステムから見ても、池や海などの上からならかなりの高さから落ちてもゲームオーバーにならないなど、城の作りとゲーム性がうまくシンクロしている。 視点は右スティックである程度移動させることができるし、R2ボタンを押している間はアップになる。ヨルダと離れているときはR1ボタンを押せばヨルダの方にカメラが移動するので、攻略上であたりを見回したいときは、視点を切り替えながら進めば問題ない。
■ 詰まったらまわりをよく見ろ! 適度な難易度とボリューム ファーストインプレッションにも書いたが、このゲームはいわゆる直接的なヒントはほとんど示されることはない。壁や床に設置されているレバーの類と、足場にする大きめの箱ぐらいのものか。あとは、その場に落ちているものを動かしたりすることで切り抜けなければならない。まず、基本的なアクションについても把握しておかねばならないだろう。独特の作りで世界観の統一を図っている付属のマニュアルは、最低でも一度は目を通しておくことをオススメする。鎖に捕まったときは○ボタンを押し続けることで揺らすことができ、その後×を押せば遠くまで飛ぶことができるし、揺らさずに△ボタンを押せば、背後方向へジャンプできる。 爆弾も○ボタンで拾い、○ボタンで置くが、左スティックを入力しながらボタンを押せば投げることもできる。これはジャンプのときと同じ感覚。ジャンプは飛距離が多少足りなくても、引っかかりさえすればOK。時には、足場に乗っている状態で×ボタンを押し、下に降りてみる勇気も必要かもしれない。 また、影との戦いは、□ボタンで武器を振るが、タイミングよく振れば3回までの連続攻撃となる。実際は3回目の攻撃がヒットすると相手は吹き飛んでくれるので、状況によっては2回目までで止めると効率がよくなる。ジャンプ中にも攻撃はできる。影に攻撃を食らって吹き飛ばされたときは、左スティックをガチャガチャ動かしたり、ボタンを連打することで復帰が早まる(上手くすれば尻餅をつくかつかないかのうちに復帰できる。 次に何をしていいかわからなくなったときは、右スティックの視点の移動であたりを見てみることはもちろんだが、ヨルダから手を放してみるのもいい。ヨルダは気になるものがあると、指を差して教えてくれることが多い。筆者もヨルダにひとつ教えてもらったことがあり、軽い停滞から抜け出せたことがあった。 ひとつの仕掛けに対して必要な条件はほぼひとつしかなく、シンプルだが練り込まれていて苦痛になることはなかった。次にどこに行けばいいか、迷うこともあまりなかったように思う。制作中にスタッフが攻略に慣れてしまって、どんどん難しくなってしまうゲームも多いが、このゲームの難易度は(慣れてしまった身からすれば)とても押さえてあるように思われる。ゆえに、手探りでゲームを進めながらでもキャラクタたちの描き出すドラマに集中できるし、まわりの風景に感動する暇もある。こういったのめり込みやすい相乗効果を生んでいるのではなかろうか。
個人的に、城の上層部から眺めたまわりの景色や、風車などの目を引く建造物、そして高い場所から見下ろしたときの演出などにうっとりしたりびっくりしたり手に汗をかいたりと楽しめた作品だった。基本的にS.E.しかないサウンドも制限のひとつだろうが、これがかえってここちよかった。全体のボリュームも一気に解いてしまうにはちょうどよく、飽きることなくラストまで進むことができた。 この類に限らず、ゲームの中でどれだけ世界を構築できるか、というのは昨今のゲームでは特に大きなポイントになっていると思う。このゲームの世界は箱庭的だが非常に魅せ方がうまく、窮屈さを感じない。なんでもかんでもできる、つまりなんでもかんでも作り込んである、という大作(じゃない労作)というものとは違い、目的にそった、さじ加減の非常に微妙なチューニングによるいろんな「制限」にことさら心地よさを感じ、目的に向かってシンプルに楽しめる、丁寧な作りが伺える作品だと感じられた。 視点の変化による距離感のつかみにくい場所があったり、どこまでの高さから落ちたらゲームオーバーになってしまうのかがわかりにくい場所があったりはしたが、それはあくまで重箱の隅的な要素。もし、このレビューを読んで「買ってみよう」と思った人は、ぜひエンディングまでしっかりとICOとヨルダの冒険を見届けてもらいたい。
(C)2001 Sony Computer Entertainment Inc.
□ソニー・コンピュータエンタテインメントのホームページ (2001年12月21日) [Reported by 佐伯憲司] |
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