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★ピックアップ アーケード★
■ 続々と出荷される「頭文字D Arcade Stage Ver.3」 3月中旬頃、アーケード用レースゲーム「頭文字D Arcade Stage Ver.3」の新規筐体が出荷される。いきなりこんなことを言われても、一般の人には「なんのことやらサッパリ」かと思われるが、ここ数年のアーケード業界、特にレースゲームの分野では同作は異例のヒットとなっている。 記者などは、週末に財布からカードを取り出して「ぼちぼち火を入れるかね~」と乱入禁止モードで妙義や碓氷をチンタラ走るマッタリプレーヤーに過ぎないが、真横で正丸や土坂をガッツンガッツン攻めるプレーヤーを見るたび「いまだ熱が冷めやらぬとは、まさにこのことよのう」などと、日々感じ入っている。 そんなとき、公道最速伝説モードの画面を見て「そういえば、もう原作に追いついちゃってるんだよなぁ。この先、どうなるんだろう?」と、たわいもない疑問が脳内に湧き出てきた。もし「Ver.4」が出るとしたら、どうなるのか。もしくは、原作を追い越すわけにもいかず、打ち止めになる可能性だってゼロとはいえない。 そのあたりも含め、先々の展望などをうかがうべくヒットメーカーを訪問。新広報の西嶋氏を巻き込みつつ、プロデューサー新井氏に直撃インタビューを行なった。今回は、その前編をお届けしよう。
■ 続編を作るとは、まったく思っていなかった
新井: ありましたねぇ。あのー、ちょっと技術系の話になるんですけど。「Ver.1」を作ったときも、「Ver.2」を作ったときも(どちらも)続編を作るとはまったく思ってなかったんですよ。なんていうんですかねぇ。ボクはゲームの内容はもちろん「売るタイミング」も凄く大事だと思っているんですよ。営業と色々と相談して「この時期に出そう!」っていうのを決めて。それで、ボクらの開発チームに無理いって「ここで出せば絶対売れるから、とりあえず作ってくれ!!」と。できないんだったら、企画内容を削ってでも「その時期に出せば絶対売れるから!」ってやるんですよ。だから、毎回ボクに(続編を)作る気がないんで……。ちょっと言葉は悪いんですけど、やっつけ仕事的なプログラムを組むんですよ。とりあえず、早く仕上げる方向でプログラムを作れ、と。 -- ここは絶対逃すな、という商機が見えているわけですね。 新井: そう(笑) 前のプログラムが続編をつくるためのものじゃないから、イチから作るような感じになっちゃったり。だから、プログラマーがいつも倒れてますねぇ。 -- そういう意味では「作りこみ」よりも「納期」に対するプレッシャーのほうが強いんですか? 新井: う~~~ん……。今は、いいゲームを出せば売れるっていうわけでもないんで。タイミングを狙っていかないと。10年くらい前は、いいゲームを作れば営業が売ってくれるんだ! みたいなのがあったけど。今はタイミングを外すとエライ目にあいますからねぇ……。 -- 今回の正式リリース(1月末)は、予定通り? 新井: そうですね。なんとか。帳尻合わせで。 -- そういう意味では、新井さんのアタマのなかには“許容範囲”というか、一定の期間があったわけですね。そのデッドラインが1月末だった、と。 新井: 1月中には出したかったですねぇ。 -- 早めに出せるとしたら、どれくらいを目標に考えてました? 新井: 12月末、ですねぇ。一番早く出せて12月末かなぁ、とか思ってたんですけど。やっぱり、お正月明けに(新作が)あると、ディストリビューターさんとかゲームセンターの人たちが喜ぶかなぁ、と。そういうのって凄く難しくて。コンシューマの場合、ゲーム屋さんに置いてもらうのも大変ですけど、そこからすぐにユーザーにつながるじゃないですか。ボクたちのゲームは、途中にゲームセンターの人たちが入るんで、いかにゲームセンターの人たちが欲しがるタイミングで手渡せるかと。 -- 予算がない時期に出しても……ってことですね。 新井: そうなんですよ。 -- 昔と相当違いますよね。昔は(AOUやAM)ショーあわせだったのが、今はどのメーカーさんもプライベートショーを重視されてます。 新井: お店の形態も、だいぶ変わってきましたからね。そこいらへんは、作る側といえども、気にしながら作らなきゃいけないな、っていうのはありますね。
新井: まだ出荷されてないんですけど(注:本インタビューは2月6日に収録) ……3月くらいから出回るんじゃないですか。かなり売れてるらしいですね。 -- この時期、なぜこんなに新規筐体の受注が殺到したんでしょう? 新井さんは、どのように分析されてますか? 新井: あ~、これはもう「頭文字D」がみなさんに愛されているというのもあるんでしょうけど。 -- 部内的にはいかがでしょう。これだけ売れると「もう1本、いっちゃえよ!」みたいな感じ? 新井: どうですかねぇ。まだ、あんまないですけど。 西嶋: まだ(Ver.3が)出たばっかりだし。 新井: ユーザーからは、かなりきてますけど。ファンメールがたくさん。 -- 「Ver.2」のときと一緒じゃないですか(笑) 新井: 基本的に、お客さんのプッシュが強ければ作ってみようかな、というのがボクらのチームのスタンスですね。ま、続編ですからね。お客さんあってのことですから。 -- 新井さん個人としては、いかがですか? 新井: 「Ver.4」ですか? 別に作っても構わないですよ。新しいことにチャレンジしたいとかはありますけど、それはまた別の話で。まぁ、次を作るなら大幅に変えたいですけどね。バージョンアップじゃなくて。そろそろパーツもかえてみたり、ゲーム性も変えてみようかな、みたいな。 -- そこで、いかにもクリエイターっぽいコメントが出てこないのが「新井さん」らしいなぁ。 新井: ○×さんなら、もっとクリエイティブなこと言いますか?(一同爆笑) ボク、あんまりね、そういうのないっていったらアレですけど。ゲームを作らせてもらってる、っていうイメージがあるんで。あんまりデカいこと、いえないですよね。「作れ」っていわれたら、それは喜んで作りますし。 -- 気質、ということになりますか。 新井: 昔みたいに、アーティスティックなことをいって食っていける時代だったらいいんですけども。最近は、ホント世知辛いことをいうと、ゲームがどんどん複雑化していって、抱える人数も多くて。で、さっきもいいましたけど、商機=ビジネスタイミングを狙って、凄く短いスパンだとか、無理なスケジュールを組んで作るわけじゃないですか。そうすると、家族がいる連中とか、独身にしても女の子と会う時間さえない。15人くらいを拘束して作るもんなのに、そこでボクができることといったら「たくさん売ってバックする」ことしか、できないじゃないですか。そこでエゴイスティックに「こんな新しいゲームを作ってみたいんだ」ってのは許されないだろう、みたいなとこはありますよね。 -- プロデューサーの存在意義、みたいにも聞こえます。 新井: その点、どうせやるんだったら、ユーザーに楽しんでもらえて、ゲームセンターが儲かって、ボクらも満足してっていうのを作らないとダメだなと。ホントはありますけどね。個人的には。それは、まぁ。 -- セガは、伝統的に作り手側の意見が強い会社だったと思うんです。その点、新井さんは新しいというか、違うなぁという気がします。 新井: ボクも、元々デザイナーだった頃は、上に振り回されるときもあったんですよね。「なんで、こんなに1年半も2年も作ってるんだろう」とか個人的にあったりとか、しかも出して売れないとゲンナリする。 -- 数字で返ってこないのは、一番こたえますよね。 新井: 特にゲームセンターのゲームは辛くって、ボクが一番最初に作ったゲームはホント売れないゲームで、もう2週間くらいでゲームセンターから消えちゃうんです。 -- ちなみに、最初に作られたゲームは? 新井: ボクね、'91年入社で、'93年くらいに出た「ダークエッジ」がデビュー作なんです。ボク、あのときは全然ペーペーで。作るの大変だったんですよ。あれも1年半くらいかけて作ったんです。当時、1年半もかけて作るのは大変なことで、出してすぐ消えちゃって「もぉー!!」みたいなトコがあって。当時は言われたことをやるだけなんで、どうしようもないんですけど。ああいうのを経験していると、やっぱり。で、また面白いもんで、一回勝つと……「頭文字D」は売れたから勝ちだと思うんですけど。一回勝ちの味をしめると、作る連中の意識も変わってくるんですよね。いい意味で。 -- プロスポーツに通じるものがありますね。 新井: そうです。なんとなく苦労して作るんじゃなくて、苦労するから結果が欲しいよね、っていう意識にかわっていくのは、凄く大事。ウザいときもありますけども(一同爆笑) もういいじゃん!! と思うときもあるんですけど。でもね、いい方向に転がってくると、モチベーションがグァーッと上がって「新井さん、こうしたほうが絶対いいと思う」に「いいこと言うねぇ!」って(笑) -- 勝利のメンタリティというか。星野阪神的というか。チームの状態は、今ちょうどそんな感じなんですか? 新井: 結構メンツは変わってるんですけど。あと、一度成功すると、チームとして辛いところをガマンできるんですよ。見えてる成功とか。続編とか、特に。「Ver.1」のときが一番大変でしたけど。 -- 先が見えない状況が、一番大変ですよね。 新井: みんな「これで苦労してて大丈夫なの?」みたいなトコとか、不満とかあったんですけど(成功作の)続編だと、ガマンしますよね。前年優勝してるんで「今回も頑張れば、また優勝できるかも」みたいな感じでがんばれますよね。そこらへんは、みんなの意識が変わって良かったんじゃないですかねぇ。
■ 各車の良いところを助長するように走行性能を調整した
新井: あ~、やっぱり、ユーザーさんから言われたところをメインに。「インテグラが速すぎる!」とか。結局、インテグラが全コースでまんべんなく速いってなったじゃないですか。あれを反省して、この峠ではこのクルマが速いみたいな。得手不得手をもっとハッキリさせようと。 -- どのクルマでもタメ張れるではなく、もっと尖った調整にしよう、と。 新井: そうですね。このクルマは、この峠ではダメだけど、こっちの峠では速い、みたいな感じにしてます。 -- その影響か、私の地元ではインテグラ一色だったのが、今は色々と変わってきています。ただ、ランエボが増殖している雰囲気はありますけど。 新井: ランエボ、速く感じるんですよね~。 -- それは、狙ってそうされたんですか? 新井: 特に速くしたわけじゃないんですけど、運転しやすいんでしょうね。 -- 自分の愛車だから無意識に速くなってる、なんてコトはないですか? 新井: 走行性能(プログラム)はボクじゃないから(笑) ゲームを作っている最中に色々なクルマを運転するんですけど“好みの走行性能”が出てくるんですよね。インプレッサとかランエボみたいな……あ、これ、あくまでもゲーム内での話ですけど。それでやりこんでるというのはあるけど……そんなに速いってことはないですよ。前が遅かったから、今回の調整でそう感じるのかもしれない。 -- ユーザーさんの嗜好って、ハッキリしていますよね。これが速いとなったら、コロッとクルマを変える人も少なくないですし。 新井: それが狙いのひとつでもあるんですけどね。車種を絞らないで、色々と乗っていただきたいですから。ただ、「俺は遅くてもハチロクで走るんだ!」っていう“クルマへのこだわり”が「頭文字D」の世界観というか。そういうところを、もっとこう……良いところを助長するように走行性能を色々といじったんですけどね。 -- テストプレイを繰り返していると、やはり「この峠では、このクルマが絶対的に速い」というのができてきちゃうわけですよね。そうなると、やはり「ここでは、このクルマでしか走らない」という人が出てきてしまうと思うんですが。 新井: でもね、それも、プログラム(走行性能)を作っている奴は「この峠では、このクルマが速い“はず”」で作るんですよ。確信ないんです。たぶんこういうふうに作ったら、これが速いはずってボクら遊ぶんですけど、実際ゲームセンターでやりこまれると違ったりするんですよ。 -- 実際、そういうケースはありますか? 新井: あります、あります! 前のバージョンなんですけど、DC2(インテグラ)なんか特に。あそこでは速いと思ってたけど、ここでもこんなに速いとは思ってなかった、というところですよね。ホント、みんなにやってもらわないとわからないですよ。ボクら作ってる側ですけど、ゲームセンターの速い連中にはおよばないんで。毎回「エーッ!?」ってなりますよ。インターネットランキングでも「なんでこのクルマがここにきてるの?」みたいな。 -- 今のバージョンで、そういったケースはありますか? 新井: まだ、ないですね。まだ想定の範囲内。これからです。1カ月ぐらいしたら、速いクルマが決まってくると思うんですけどね。 -- 速いクルマといえば、前回のランキングでは香港の人たちが凄いタイムを叩きだしていましたが。それについては、何か分析されましたか?
西嶋: そんなに凄いんスか? 新井: 凄い。香港、凄いですねぇ。 西嶋: それは、データとして現実的なんですか? 新井: そうです、そうです。ちゃんと走ってて。その人のホームページに、走りの映像がアップされているんです。別に、変な走りはしてないんですよ。きれーーーに、丁寧に毎回“溝落とし”やって。超人的な走りをしてるっていう。参りました、みたいな。 -- 「セガラリー」のときの再現ですね。 新井: 「セガラリー」のときも、一番速かった人は台湾の人だったんですよ。やっぱり香港とか台湾でゲームをやってる連中っていうのは、日本でやってる連中より尖ってるていうか、精鋭っていうか、さらにマニアなんでしょう。ぶっちゃけ言うと「気合」が違うんでしょうかね。そんなには違わないとは思うんですけど。 -- では、どこが違うんでしょう? 新井: う~~~ん、そんなに変わらないと思うんですよ。スポーツじゃないんで。カール・ルイスが足が速いというのとは、わけが違うから。同じアジア系の民族ですし。やっぱり「気合」とかなんじゃないですかねぇ。 -- アジア圏には、新しい世代がいるのかもしれませんね。 新井: だと思いますよ。ずーっと、洋ゲーとか難しいゲームをやってる連中だったりするし。 西嶋: あとは、種類が少ないっていうのもあるかもしれない。日本はやっぱり(ゲームの)中心だけあって、アーケードは色々なゲームが一杯出ますから。海外に行くと、種類自体が少ないし。ホントに昔のが、ずーっと動いてる。 新井: ゲーセンも少ないですしね。 -- そんな環境で、新台の「頭文字D」がポーンと入ってきたら……。 西嶋: みんなやる、っていうか。で、そんなにたくさん(プレーヤーが)いる訳じゃないだろうから、ひたすらやり続けるとか。 新井: あと、ゲームが安いんですよ。韓国とか。1プレイ30円くらいですよ? 高くて50円。 西嶋: 物価水準が違うから、っていうのはあるけど。でも、ある程度裕福な人になると、それほど変わらないですから。 新井: ディストリビューターが言ってましたけど、やっぱりゲームが100円だと、ゲームセンターが繁盛しないんで。PCゲームが凄く人気あるし。 -- 実際、韓国にいかれたことがあるんですか? 新井: 去年、年末に行きまして。PCの人気が、凄かったですねぇ。人気っていうか、ブームとかじゃなくて定着してましたねぇ。 -- 普段の生活のなかで「ちょっと遊びに行こうか」といった選択肢のなかにPC房があるような感じですか? 新井: そんな感じでしたねぇ。儒教の国なんで、親の前でゲームをするのはご法度らしいんですよ。それもあって、ゲームセンターに行くのも良くないことだし、親の前でコンシューマ機で遊ぶのもダメだから、実質PCでゲームするっていうことらしいです。 -- 個室文化じゃないですけど、個室エンターテインメント文化が根付く土壌がある? 新井: 韓国の人がいってましたけど、親の前でゲームをするのは、親の前でHビデオを観るくらいご法度。っていうか「普通、やらないよね」みたいな感じらしいんですよ。でまぁ、PCでゲームをコッソリやってて。LAN対戦したいときとかは、PC房に行くんですって。ギャーギャー騒ぎながら。お店では、好きに繋げるらしんです。あっちとつなげてくれ、って。
新井: そのゲームセンターも、最近は状況が変わってきてますから。 西嶋: そうですね。コンシューマなんか、ある程度の見栄えがないとホントに売れもしないし、鳴かず飛ばずのうえに恥ずかしい。「こんなの出してるの?」みたいにもなっちゃいますし。アーケードのほうも、だんだん営業サイドの言い分が強くなってきている、というのがあります。 -- そういう意味では、わりといい形になってきているといえるんですよね? 新井: ボクは、結構営業の話をきくタイプですね。 -- ヒット作1本で状況が変わる、というのは往々にしてありますからね。 新井: そうですねぇ。それはホント、「頭文字D」で経験しましたけども。こんなに変わるんだ! みたいな。「Ver.1」作ってるときなんか、周囲から「こんなの作って売れるわけねーだろ、死ねバカ!」みたいな(一同爆笑) で、「チクショー!」とかいって。絶対売れますから、みたいな。身内……チームのなかからも「漫画を題材にする」っていうのに抵抗があって。 -- それは、以前のインタビューでも触れておられましたね。 新井: 初めはなんでも大変ですよね。「オマエ(売れるって)そういうけど、なんの裏付けがあるんだ」っていわれるけど、でも新しいものを作るときに確実な裏付けなんかあるわけないんで。自信だけしかない。で、ロケテストやって、ショーに出して評判が上がって、だんだんチームがまとまっていくような感じですね。 西嶋: あと、ゲームになってない時期が一番ツライですね。 新井: そうです。だんだんこう、不安になってくるんですよ。作ってる側も、今自分が思っているものと作っているものがちゃんとマッチしているか、不安じゃないですか。「あれ、思っているものと違った!」とかなったら大変なんで。
西嶋: ギクシャクというか。くりかえし。 新井: そのへん、まとめるのも難しいですよね。 -- そのあたりは、「頭文字D」を作ってきていても、ありますか? 新井: あります。特に、新しいアイデアを入れるときとか揉めますよね。ボクは凄くクルマオタクなんで。クルマ寄りの発言をして、もうひとりのほうはゲーム寄りの発言をして「どっちがいいのよ?」っていうのが。「新井さんのほうにいっちゃうと、あるマニアはくっつくけど、あるマニアは離れちゃう」とか。ボクはどうしても、放っておくとオタクのほうにずーっといくんで。そこをいつも「それは新井さん、やりすぎ」とか。また戻されて。 -- 戻すのは、誰の役目なんですか? 新井: 松本ですね。「それは突っ走りすぎ、新井さん」みたいな。まわりからも凄いいわれますよね。 西嶋: 特に原作があると、ユーザーが想像するものと、開発の想像するもののギャップとかが心配になったり。ちゃんとキャッチしなきゃいけないものですから。 新井: 自分が作りたいものを作っちゃうと、暴走しちゃうんで。そこが結構、毎回不安ではありますね。 -- 不安だけど、楽しみな部分もあるんですよね? 新井: パーツを選ぶときとか、凄く楽しかったんですよ。一番はじめ、ね。松本は僕ほどクルマ詳しくないんで「新井さん、選んで」っていわれて、「えっ、俺、選んでいいの? マジ!? 凄い選んじゃうよ!!」みたいな(笑) こーんな表を作って「ここのパーツメーカーがマニア的にカッコイイ」とか。「それダメ、新井さん」とかいわれても「ここのカーボンが、凄く製品の精度がいいんだよ」、「そんなのわからないからダメ」とか(笑) -- ユーザーに伝わらなければ意味がない、と。 新井: だけど、それを無理いって入れてもらったりとか。で、ゲームで見たマニアの人から「よくぞこのパーツメーカーを入れてくれた!」って。そうでしょ? ほら言ったじゃんマッツー!(松本さんの愛称)みたいな(笑) 今でも「何がカッコいいのかわからない」って。カーボンのパーツってあるんですよ。それを「色が黒くなってるだけじゃないですか!(松本)」、「バーカ! 6kg重さが変わるんだ(新井)」って(笑) でも、それがわかる人もいたりとかして、面白いですよねぇ。メールがきて「あそこのパーツがいいですよねぇ」ほらきた! って。 -- 細かいところをくすぐるわけですね。 新井: そこがバランスですよね。松本は漫画オタクなんですよ。凄い漫画が好きで、原作視点で。ボクはクルマオタクの視点から。もうひとり、「森」っていう走行性能を作ってるプログラマが、今度は走行性能オタクの視点からギューッと。今回、そういうのがたまたま合致したんでしょうね。 -- 森さんの作り方って、ゲームをプレイしてみると「頑固」だなって気がします。ゲームから伝わるというか。 新井: 森は、実践タイプなんですね。サーキットを走ったけど、こういう動きにはならなかったと。ボクはスペックオタクで、本をずーっと読むタイプなんで「このクルマは280馬力でFRだから、こういう挙動をするはずだ!(新井)」、「俺は運転席でそんな風になったことはない(森)」とかいって。お互いウルサイなー、みたいな。で、松本は「原作はこうじゃん!」って(笑)。でも、漫画により過ぎると、今までのレースゲームユーザーが離れる。 -- 特に森さんが嫌がられるんじゃないですか? 新井: 嫌がりますねぇ。凄く嫌がる。だから、続編を作るときも、「Ver.3」を作るときも、やっぱり、なかなか譲らなかったです。「俺はこれがいいと思う」って。 -- ユーザーサイドでは、いかがでしょう? これまで3タイトルをリリースしたことで、ユーザーの嗜好や要求については、かなり正確に把握されていると思うんですが……。 新井: 求めているものをチョロッと出すのも、なんかシャクな気がするんですよね。 -- 迎合しているみたいで嫌? 新井: なんかその、ゲームを作っているからには、オファーに答えるだけじゃなく、逆に「提案してみたい」という欲もあって。でも、あんまり欲張りすぎてもユーザーに怒られちゃうから、さじ加減が微妙ですよね。提案もしつつ、オファーにも答えつつ、みたいな。 -- そんななかで、根幹部分を作っている森さん自身は、いかがなんでしょう? ギャップを感じているとか? 新井: 彼は……なんていうんですかねー。基本的に「最期は楽しければいいじゃん」ていうタイプなんですよ。ボクらの感覚で「ユーザーを勘違い」させて。ぶつかっても何しても「面白かった」と、気持ちよく勘違いさせたい、と。それを「今、ギアのシフトミスをしたから、そりゃ事故るよね?」っていうゲームは良くない、と。やっててイライラするゲーム、あるじゃないですか。ボク、FPS好きなんですけど……。 -- FPSですか? 正直、意外ですね。
-- 何時頃からハマってるんですか? 新井: 「Wolfenstein」から。あと、ちょっとずれますけど……「Alone in the dark」とか。ボク、ゲームをするのはコンシューマ志向なんです。だけど、作るのはアーケード志向なんですね。不思議と。人から「なんで?」って聞かれると困るんですけど。 -- 遊ぶのは好きだけど、作りたくない? 新井: 微妙ですねぇ。大好きで、やるんですけど……。あと、ボクSLG大好きなんですよ。「三國志」とかコーエー系が大好きなんですけど、作りたくはないっていう。ボクは、アーケードゲームで「100円入れて、ちょっと遊んで楽しい」っていうのを作るのが好きなんです。どうも、細かいゲームを作るのが苦手なみたいで。広いマップがあってとか、ダメみたいです。 -- 作り手としては、そっちのほうが自分にあっている? 新井: FPSも、1回、自分のアタマのなかで作ることを考えましたけど、すぐに破綻しまして(笑) もうダメだ、作れない、と。 -- プレーヤー感覚で「こういうのを作ってみたい」とはならないんですね。 新井: ならないですねぇ。やっぱり、他の人に作ってもらって遊んで「あーでもない、こーでもない」ってやってるのが好きなんですね。ボク、FPSとかの話になると、ただのプレーヤーからの視点、つまり好みの話になっちゃうんですよ。ゲーム性どうこうではなく。たとえば、動いて照準を合わせるときに「照準がブレるのがムカツク」とか、あるんですよ。ピッて止って欲しい。本物はズレるんだろうけど、ゲームとしては止らないと面白くないよね、みたいな。だから、FPSでもあるんですよ。いいストレス感、みたいな。ホントにイライラさせられると嫌になるけど、丁度いいとこがあるんですよ。「今、撃たれたのは俺が悪かった」みたいな。 -- 納得できる部分、ですよね。 新井: そうですね。そういうのは、レースゲームでも同じで、それを活かしてます。イライラするのは、納得できるイライラ感にしようと。だから、ボクらのレースゲームはスピンしないとか。あれは、実際はスピンするけど、100円で3~4分しか遊べないのに、スピンしている時間が30秒とかあったら、相当気分悪いでしょ? みたいな。 -- スピードオーバーして、いちいちクルクル回って逆走してたらタマランと? 新井: そう。だからリバースギアがない。PCゲームでは、ドン! ってぶつかったらバックで戻るっていうのがあるけど、あれはPCゲームだから許されるんであって、アーケードゲームだったら、ぶつかったら「ヌルッ」って抜けて欲しいじゃないですか。すぐにリトライできる、みたいのがいいんで。FPSでも「なんでここで死ぬかなー。しかも、ここからやりなおしかよ!」みたいな。 -- 納得できるかどうかの瀬戸際というか。そこで「自分なら、こう……」とか思わないんですか? 新井: 思わない。「次作るときは、ココ直して欲しいな。これバグじゃねえの? メール送ってやろうかな」みたいな(一同笑)。「コール・オブ・デューティー」とか「メダル・オブ・オナー」とか、キーキー言ってましたね。「これ、敵のスナイパー当たりすぎなんじゃねぇの? 即死かよ?」みたいな。そういうのは、作ろうとは思わないけど、自分がゲームを作るときは、こういう思いをさせたくないな、っていう意味では気にしてますけどね。 -- 遊ぶときは、ある程度「切り分け」ができているわけですね。 新井: そうです、そうです。普通にユーザーになっちゃいますね。ゲームを作るときの参考としてはやってない。たとえば、世間で話題になってるゲームがあっても、ボクは興味がなければ普通に買わない。ユーザーとして。みんなに「やっとけ」っていわれるんだけど、でも「ボクは興味ない。やりたいゲームだけやります」みたいな感じですね。だから、勉強不足っていうのもあるんですけど。冒険したのって、このあいだ「SIREN」を買ったくらいかな? -- 「SIREN」で冒険ですか!(笑) 新井: 冒険ですねぇ。もぅ、凄く難しくて……キレそうになりましたけど。実際キレましたけど(笑)でもなんか、世界観がいいなぁ、とか思って。 -- でも、プレーヤーとして遊ぶからゲーム制作にフィードバックされることはないんですよね? 新井: ああいう風に作ろうとは思わないけども……なんでこう、ストレス生み出すゲーム作るんだろう。狙ってんのかな? とか。そういうのは考えますけどね。 -- どこかに(クリエイターとしての)意識が残ってるんでしょうか? 新井: ま、コンシューマだからでしょう。ボクらアーケードだから、なるべく気持ちよく、っていうのがあって。「頭文字D」は、その究極っていうか。でも、あんまり簡単すぎても、今度はバカにされてるみたいな気持ちになっちゃうときがあって。
新井: また次、レースゲームを作ろうかな、とは思ってますけどね。 -- 以前のインタビューでも話がありましたが、社内的にも「レースゲームの人」で認知されてますよね。 新井: ま、個人的には色々な……たとえばFPSとか作ってみたいんだけど。今、「Unreal」エンジンとか売ってるし。 -- 買ってみたい、というお気持ちは? 新井: ありますよー!! 個人的にはねー、ちょっとやってみたいな、とか。でもなんか、ユーザーさん的には、ボクらにレースゲームを求めてるのかなー、と。 -- 今、新井さんに他のジャンルに手を出されると「え! 俺ら、しばらくレースゲーム遊べないの?」と思われてしまう? 新井: 新井:ありがたいことに、待ってる人もおられるみたいで。そういうのを作り続けるみたいなのも、いいのかなー、みたいな気もしますね。演歌じゃないですけど、同じジャンルをずーっとやってて、ある層のお客さんをずーっと楽しませ続けるっていのもいいのかな、という気持ちもありますね。 -- 特にアーケードって、そういう裾野ができあがっている部分があります。 新井: アーケードのほうが、コアなユーザーが多いじゃないですか。ボク、プロレスとかも好きなんですけど。プロレスも、観てる側としては、お金を払ってでも見に行く団体って、やっぱり「コアユーザーを大事にする団体」が一番嬉しいんですよね。で、結局、言葉は悪いんですけど、パッと群がったお客さんって、すぐどこかにいなくなっちゃうんで。やっぱり、ずーっとね、うるさいことをブーブーいいながらも、ずーっといてくれるお客さんが、ボク的には一番大事なんですよ。よく、レースゲームとかで「こんなにハンドルが重たいと、女性客がプレイできない」っていわれるんですけど「やらないじゃないか!!」と(一同爆笑)。やってくれるなら、ボクは作りますけど。スイマセン、やってください(笑) で、やってくれる中高生の男の子連中は凄く大事に考えるけど、文句ばっかり言ってやってくれない人なんかには、作りません! みたいな。 -- 序列をつけるわけじゃないけど、やっぱり大事なお客さんって、いますもんね 新井: お金払って遊んでくれて、ボクらのことを色々叱ってくれるお客さんが大事ですよ、一番。 -- でも、営業サイド的には「マジョリティも大事にしなさい」となるわけですよね? 西嶋: まぁ……(苦笑) どうしても、そうなりますよね。 新井: でも、面白いもんで。子供向けでも、たとえばお菓子とかゲームとか作ると、子供ってバカじゃないから(子供だましじゃ)ダメなんですよ。やっぱ、本物を作らないと。「グランツーリスモ」なんか、凄いマニアなゲームじゃないですか。でも、あれも本物感があるから、色々なユーザーが受け入れたと思うんですよ。あれを、もっとこう日和って、もっと一般的に、ってやっちゃうとダメでしょうね。やっぱ本物感が大事だと思うんですよ。
■ ファンからのメールには、すべて目を通しています
新井: あれは、ボクたちの考え方で「原作に出てきたクルマと、最新のスポーツカー」っていう。 -- そこでつながるわけですね。 新井: 色々と作る事情もあって、全部のクルマは入れられないんで、色々と考えていって。新しいCIVIC TYPE-RとかDC5とかは、外した、と。なぜなら、あまり(峠を)走っていないから。RX-8のほうは、唯一のロータリー車とか、ボクらクルマ好きからすると胸が躍るわけですよ。 -- そういうフックがあるわけですね。 新井: ボクの強いプッシュもあったわけですが(笑) どうかねー、っていったら「そうですね」って。クルマは非常に迷いました。Zもあったけど「Zはオマエ、違うだろー」って。 -- 峠で(Zが)走ってきたら、走り屋さんに「こいつ、Zで走りにきちゃったよ」という感じ? 新井: そうそう。だから、Zを入れたら逆に日和った感じになったと思う。逆にね。RX-8だったら「頭文字D」に出てきてもおかしくないかなー、みたいな、ね。ライバルで出てきて啓介とバトルしても面白いかもしれないなってふくらむけど、Zの場合はふくらまない、とか。 -- クルマの持つイメージって、大切ですもんね。 新井: やっぱり、最新の「頭文字D」でも、S2000とR34が出てるじゃないですか。で、ボクらはそれが出る前にゲームに入れてたじゃないですか。やっぱり世界観があってたんだ!! みたいな。 -- そこでシンパシーを感じた? 新井: 感じましたねぇ。S2000とR34はオッケーだよねぇ! みたいな(笑) R34を出したときも、言われたんですよ。あれは首都高を走るクルマで、峠は走らないって。そんなことはないって! R34乗ったけど、凄いクルマだって! 峠走って、凄い速いクルマだって。 -- そのあたり、しげの先生に相談されたんですか? 新井: 全然話してないです。これはうちのチームの独断です。でも、一応きくんですけど。なにか問題があったら言ってください、みたいな。でも、いってこないですね。 -- RX-8も、しげの先生的にはOKなんでしょうか? 新井: だと思いますよ。何もいわれなければOKという話だったので。 -- そういう意味では、うまくバランスが取れていたわけですね。 新井: ボクらも原作のファンですから。はずしたことは言わないです。 -- ユーザーと作り手のイメージの共有が、うまくいっているような気がします。 新井: それは、よくファンからメールがきて。作っている最中に「コレ入れてくれ」ってメールがきて「もう入れてるがな~♪」みたいな(笑) やっぱり、ファンのメールは、なんだかんだ気にしますね。 -- メールは、すべて目を通すんですか? 新井: もちろん通してますよ。ウイルスメール以外は(笑) あと、ファンの人から「こんなHPつくってるんです」ってURLが貼ってあったら見に行きます。 -- それは、定期的にチェックするんですか? 新井: ちゃんと作ってあるところは、見にいきますよ。毎日こっそり見にいってますけど。会社から見にいくとバレちゃんで、自宅にアドレスを転送して(笑) すぐバレちゃいますからね。あと、あんまり見られてるってわかると、良くないかなー、とか。 -- ファンの側が見られていることを意識すると、それでサイトの内容が変わっちゃうかもしれませんからね。 新井: そうです、そうです。生っぽい声がみたいんでね。色々とみてますよ。中学生が作ったホームページとか。 -- ファン層は、中高生が多いみたいですね。 新井: 多いです、多いです。やっぱり、嬉しいですね。子供をゲームセンターに呼びたいっていう発想があったんで。やっぱり業界的にも……なんでもそうですけど。ユーザーの年齢層があがっていくと、そのカテゴリ自体が、そのうち無くなるという話になるんで。どんどん新しい血を入れていかないと、っていうのがあって。ボクらも、そういう危機感がありますね。もっと嫌なことをいうと、今、少子化じゃないですか。少子化が進んでいて、ただでさえ若い年齢層が減っていってる、趣味が多様化しているなかで「なんとかしないとイカン」というね。ホントに終わっちゃいますよ。たぶんね、ホントに怖いことをいうと、5年たったらコンシューマ機がなくなっちゃう可能性も十分あるわけで。PCでいいじゃんって話になりかねない。 -- なにかに集約されていく? 新井: 普通に考えたら、PCにいくはずなんですよ。作るのも楽だし。せっかく作ったゲームセンターっていう文化がなくなっちゃうのはね、寂しいですから。 ※後編は明日(3月16日)掲載予定です。
(C) しげの秀一/講談社
□セガのホームページ (2004年3月15日) [Reported by 北村孝和]
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