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★PCゲームレビュー★
発売まで後2週間に迫った「マイクロソフトフライトシミュレータ 2004 翼の創世紀」(以下、「翼の創世紀」)。レビュー第2回目となる今回は、本作に登場している日本でも有名な2つのエピソード、「ライト兄弟の初飛行」、「リンドバーグの無着陸大西洋横断飛行」をプレイし、その感触をお伝えしたい。 ■アメリカ航空史を学び、追体験できる 世界中の空港、地形を再現し、「世界旅行」を可能にした「マイクロソフトフライトシミュレーター」シリーズ。ただ飛ぶ楽しさだけではなく、本物の飛行機操縦の感触を楽しみ、かつ空を目指す人の練習にもなるクオリティーを実現させているソフトなのだが、最新作である「翼の創世紀」はさらに“アメリカ航空史100年”を記念した、歴史的資料を盛り込んだ作品となっている。 1903年のライト兄弟の初飛行から100年。世界の航空史のトップとなったアメリカには多くの「伝説」とそれを生み出した「名機」がある。今回選ばれたのはそのうちの9機種、ライト兄弟のライトフライヤー号や、リンドバーグのスピリット・オブ・セントルイス号のようにひとつしかない機体の他に、時代を作ったともいえる“大衆機”ジェニーといった機体を収録。それぞれにレーン・ウォレス氏による情緒たっぷりのテキストでの説明があり、事典としても楽しめる。さらに教育番組のようなムービーも挿入されていて、非常に資料価値の高いものとなっている。 読み物としても、空へロマンを感じる人にとってはたまらなく面白く、かつ先人達のアイデアにより、現在の航空というものが形作られたことに改めて感心させられるだけでなく、さらに本作ではジョイスティックを握り、かれらの見た“景色”の中へ入っていけるのである。テキストをじっくり読んで、気分を盛り上げてから行なうフライトは、独特の臨場感をもたらしてくれる。 もちろん、「完全再現」とはいかない。偉人達の飛行、そして実際の航空機の操縦は、風、天候、あるいは政治情勢、さらにはパイロットの体調まで、複雑な要素が絡み合うもので、ゲームの感触は、たしかに「リアル」とは違った体験である。
しかし「ゲーム」としての楽しさは、疑いようがない。本作のテキストに始まり、関連書物を読みあさって知識が増すほど、その飛行は楽しくなる。「空想力」のスパイスがあれば、この「素材」は何倍ものうまみを出してくれる。彼らと同じ飛行コースをたどり、機体から外を見て、彼らが見たであろう風景を探す。本作が実現した、この楽しさを体験して欲しい。
■ライトフライヤー号に乗って世界初の有人動力飛行に挑戦
彼らはまず、複葉式のグライダーを作る。これは「操縦性」を持たせてあるのが特徴で、飛行を制御できなかったリリエンタールのグライダーの反省点から生まれたものだった。グライダーの実験を重ね、自信をつけた彼らはその機体に独自で開発したエンジンと、プロペラをつけ「ライトフライヤー号」と命名する。 人類初となる動力飛行の成功は1903年12月17日に成し遂げられた。飛行時間12秒、地上1.5メートル、約36メートルというわずかな飛行ではあったが、それは人類がなしえた偉大な一歩であった。その後、4回目にして59秒、260メートルと記録を大幅に更新、ライト兄弟は飛行実験に成功。航空史にその名を刻んだのである。 ゲームではこの飛行実験を追体験できる。二枚の大きな羽根にはさまれた特徴的なデザインのライト フライヤー号に乗り、ライト兄弟の記録に挑戦できるのだ。
仮想コクピット画面にすることで、このユニークな機体を隅々まで観察できる。むき出しの木の柱にくくりつけられた計器、ジョイスティックに反応する目の前の補助翼、操縦者の横には大きなエンジンがあり、ピストンがひっきりなしに動いていたりと、本物さながらの迫力を感じ取ることができる。機体の前に視線を移すと、何本かの白い石碑がある。これがライト兄弟の飛行実験の成果である。この記録を超えることが目標だ。
フライトモデルを上げることでより一層リアルな感触を感じることもできる。操縦桿を引きすぎるとたちまち失速してしまう、そのギリギリのポイントを見極めてグッと操縦桿を押し込み、落ちすぎないように、上がりすぎないように、低空をバランスをとって飛んでいく。ちょっとコツをつかめば、ライト兄弟の記録を抜くことができるだろう。 ■「夜」との戦い、リンドバーグの飛行
当時、世界の航空業界はまさに「挑戦の時代」だった。ドーバー海峡横断を始め、着水と補給を行ないながらの大西洋横断など、さまざまな勇敢なパイロットによって、日々記録は塗り替えられていた。 大西洋横断、それは人類がまだ成し遂げていない最大の挑戦のひとつだった。正確には「逆横断」ともいうべきもので、ニューヨークからパリという偏西風に逆らうこの飛行は、多くのパイロット達を挫折させていたのである。この難しい飛行には、2万5千ドルもの賞金がかけられることになり、世界は挑戦者、そして成功者を待ち望んでいた。 郵便飛行屋出身のリンドバーグは、さまざまな軍人達が豊富な資金とチームでもって挑もうとするこの記録に、ライアン エアラインズ社にアイデアを持ち込み、既存の飛行機を改造して挑んだのである。 まず、この機体をじっくり観察してリンドバーグの乗った「スピリット オブ セントルイス号」がどれだけ無茶な設計だったのかを確認して欲しい。彼がライアン社に注文したのは「空飛ぶ燃料タンク」とでもいうべきもので、とにかく燃料搭載を最優先、補助タンクをコクピット前面にまで設置するというものだった。 コクピット画面は目の前いっぱいの鉄の壁。ほとんど前が見えないのである。潜望鏡を伸ばすことで、小さな小窓で前方が見えるが、飛ぶときの役に立つか、はなはだ疑問だ。なによりもこの画面で空を飛ぶときの「ストレス」は相当なものだ。空を飛ぶことに精通したパイロットでなければ操縦できない機体といえるだろう。 さらにこの機体には、眠気を防止するための措置としてわざと操縦を不安定にしている。ゲームでもこの感覚は再現されており、常にジョイスティックでの補正が必要となっている。針路を保つだけでも大変で、おまけに発進したばかりの機体は燃料の重さで、高度をとることもできない。この機体で33時間以上、気流の激しい大西洋を横断するには、真に超人的な精神力と体力が必要となるだろう。 さすがにこれらを完全再現してしまっては、実際に横断飛行できる人が少ないかもしれない。本作では、さまざまなゲーム的バックアップを受けることでこのハードルを下げ、ちょっとした努力で彼の偉業を体験することが可能になっている。 Wキーを押すことで正面の機体パネルを消し、さらにGPSによって現在地点を表示させ、コースを確認できる。念のため、フライトモデルを優しくしておいたほうがいいだろう。離陸を行なってからは倍速飛行で飛べば飛行時間もずいぶん短縮できる。ただし、機体の速度が上がることで機体の不安定性も増すので、注意が必要だ。
飛行前に表示される「電子ニーボード」には、リンドバーグが飛んだコースが1時間ごとに地名とともに記されている。世界地図を取り出して、それを手元に飛んでいけばコースを見失う心配もないし、なによりも臨場感が増す。地図通りに島が見えてくる安心感とうれしさは、本物のパイロットになったような感覚を与えてくれる。 大変なフライトだが、だからこそリアルで、独特の体験ができる。GPSに映る島の形と、実際の海岸線を見比べてみたり、地図で前方を確認したり……。いよいよ本格的に大西洋に乗り出す、この先にはアイルランドまで陸地がないんだ、という緊張感はまさにこのゲーム、このフライトならではのものだろう。 「自然」の表現も、このフライトの大きな楽しさのひとつ。陸地の上、洋上、さらに気圧によって雲は刻々と形を変え、目の前に現れる。その形はいつかどこかで見た雲と、同じ形をしているのだ。その雲はまた、気流を表現しているのがちゃんと分かる。そういったリアルな雲の造形を本作は実に見事に描いている。 さらに大西洋上では夜への、そして夜明けへの時間の移行が楽しめる。本作は大西洋横断も、時刻の変化も、シームレスに移行する。空の色が徐々に変わり、西の空を茜色に染めながら沈む夕日、空は青から黒に映り、星が瞬きはじめる。水平線も見えないような真の闇、そして夜明け。徹夜をしたときは独特の感慨があるが、その感覚がこみ上げてくる。朝日を浴びて、再び安定した飛行ができるとき、改めて本作の自然の表現に感心することができるだろう。 再び太陽の光を浴びて飛び続けていると、ついに陸地が目の前に現れる。大西洋を横断した。そしてイギリスを飛び越え、セーヌ川を見つけ遡る頃には、心地よい疲れが浮かんでくる。その感触はパリのエッフェル塔を見たときに、最高潮に達するのだ。リンドバーグがどんな飛行をし、どんな風景を見たか、その気持ちをわかったような気分になれる。ゲームでもその行程は努力と、気合いが必要な「冒険」なのである。 一度目の冒険の成功に気をよくした筆者は、難易度を上げて再び大西洋横断に挑戦してみることにした。リンドバーグが、必要なものすらすべて削り、ただ燃料の搭載量を追求したという、その気持ちを体験してみたかったのだ。フライトモデルを「ふつう」にしたスピリット・オブ・セントルイス号は今まで以上にじゃじゃ馬。飛行は不安定で、前回以上の緊張感に満ちたフライトとなった。 真の恐怖は「夜」に訪れた。前回でも苦労したのだが、今回は一度でも水面に触れたら容赦なくクラッシュ、セーブしたところから再飛行になってしまう。水平線すら見えない真の闇では、自分の機体がどんな姿勢で飛んでるかも確認できず、さらに気流が激しいところにはまりこんでしまったようで、何度も墜落をしてしまったのである。 とにかく飛び続けることにだけ集中していると、突然周りが明るくなり、水平線が浮かび上がった。月が昇ったのである。この光のおかげで、筆者は夜明けまで安定した飛行を行なうことができた。月に感謝してしまう、そんなパイロット気分が体験できた場面だった。
夜の海を越えて、大西洋を横断した筆者に、更なる問題が襲いかかった。イギリスを目の前にして燃料タンクが底をついてしまったのである。フランスどころか、イギリスにも行けないと判断した筆者は、あわててGPSを拡大、アイルランドに進路を変え、滑走路がひとつしかないケリーという小さな空港に機体を着陸させた。水面が恐くて高度をとりすぎたのか、スロットルを開けて飛行しすぎたのか、はたまたもっと効率のいい針路があるのか。反省点はいくらでもある。あらためてこの機体での大西洋横断がいかに難しいかを思い知らされたフライトであった。 (C) 2003 Microsoft Corporation. All rights reserved.
□マイクロソフトのホームページ (2003年10月3日) [Reported by 勝田哲也]
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