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新RADEON発表会でValveのGabe Newell氏が講演 |
一報で報じたようにRADEON 9800XT/9600XTのリテールパッケージには新世代3Dアクションシューティングとして注目されている「Half-Life 2」のフル版がバンドルされることが明らかになった。
これをふまえて、「Half-Life 2」の開発元、ValveのPresident Gabe Newell氏が壇上に立ち、ValveとATIの関係、そして「Half-Life 2」と新RADEONシリーズについてコメントした。
今回のRADEON 9800XT/9600XTの発表会は発表会はアルカトラズ島(通称「ザ・ロック」)を借り切って豪勢に行なわれた | |
サンフランシスコ港に係留されている第二次世界大戦時代の輸送艦Jeremiah O'brien号。右の画像は「Half-Life 2」内でのレンダリング結果だが、なんとなく似ている。発表会が催されたアルカトラズ島へのフェリーはこの艦船の脇を通って行く |
■ 「Half-Life 2」のベンチマークモードは製品版に付属、10月下旬以降には単体でのリリースも計画
ValveのPresident Gabe Newell氏。非常に戦略的なコメントが数多く飛び出した講演だった |
ATIのDirector/Advanced Technology Marketingを務めるAndrew B. Thompson氏はHalf-Life2のパフォーマンス差を見たときの様子をこと細かく語ってくれた |
「今、私が付けているヘッドセットに、このイベントを仕切るプロデューサー達の会話が聞こえてきたんですけどね。彼らはこのイベントのスケジュールを非常に厳密に行なっているらしくて、『今のファンファーレは流れ始めるのが15秒遅れてるぞ!』とかスタッフ同士でやり合っているわけですよ。『遅れてるぞ!』で怒鳴られるのは、最近の我々も同じでして……。自分が言われているのじゃないのが分かっていても思わず、ビクっときてしまいした(笑)」
明確な表現はさけたが、これはいうまでもなく「Half-Life 2」の発売が正式に延期となったことを意味している。結局発売は「ホリデーシーズン(年末)」というアナウンスがなされ、また、Valveが独自で展開しているプログラム配信システム「STEAM」経由での販売と、リテールパッケージ版の販売が行なわれることも明らかになった。
このあと、Newell氏が話し出したのは「Half-Life 2」のDirectX 9レンダリングパス開発のために必要だった要件についてだ。彼が挙げたのは
(1)高品質な映像
(2)新しい技術的フィーチャー
(3)より高い効率におけるGPUの活用
(4)上記の要素を容易にインプリメントできること
の4点。(1)から(4)は互いに密接な関係になっており、高品質な映像は新しい技術によって生まれるし、新しい技術をちゃんとゲームが楽しめるパフォーマンス内で動作させるためにはその高品質映像を実践するにあたり、GPUのパフォーマンス低下を避けなければならない。そして、これらの命題を全てクリアにするためのハードルが高くては開発に時間が掛かってしまう。
「結局、我々は、上記4つの条件を満たすのに最適だったのはATIのR3xx(RADEON 9700以上)と判断した」(Newell氏)
また、彼が高く評価したのは「Top-to-Bottom」、すなわちハイエンドからローエンドまで現実的なパフォーマンスでDirectX9パスを動かせるという、ATI GPUラインナップのコストパフォーマンス・スケーラビリティ・デザインについて。もっとも、現行の最下位モデルとなるRADEON 9200系はDirectX 8.1パスまでしか動かせないので、彼のいう“Bottom”はRADEON 9500までを指すことには留意する必要がある。
あえて彼のコメントの行間を邪推するならば、「NVIDIAのGeForceFXファミリーでは彼らの制作した「Half-Life 2」のDirectX 9レンダリングパスは現実的なパフォーマンスで動作できない」ということをほのめかしているようにも思えてくる。
続いて壇上に上がったATI Senior Vice PresidentのRick Bergman氏は、3Dゲームファンにとって非常に興味深いスライドを示した(下図)。これは各種最新3Dゲームのベンチマークの結果だ。注目すべきは一番左の「Half-Life 2」ベンチマークの結果だ。
RADEON 9800XTとGeForceFX 5900Ultraではで2.5倍、メインストリームクラスのRADEON 9600XTとGeForceFX 5600Ultraでは、なんと3倍のパフォーマンス差が現れてしまったというのだ。「Half-Life 2」のベンチマークモードは製品版に付属する予定で、10月下旬以降にはベンチマーク単体でのリリースも計画されている。
「Half-Life 2」ベンチマークを実際に動作させた経験のあるATIのDirector/Advanced Technology Marketingを務めるAndrew B. Thompson氏は「『Half-Life 2』ベンチマークにはいくつかのモードがある。1つは動作GPUごとにゲームオプションを自動選択し、パフォーマンスを計測するもの。もうひとつは“apple-to-apple”比較、すなわち、完全な同一レンダリングパスでパフォーマンスを比較するモードだ。あのスライドは後者のテスト結果を示したものだ」という。
RADEON 9800XT/9600XTにおける最新3Dゲームパフォーマンス測定結果。比較対象のFastest CompetitorはそれぞれGeForceFX 5900UltraとGeForceFX 5600Ultra |
■ 「Half-Life 2」のDirectx9レンダリングパスはRADEON 9500以上でないとまともに動かない?
屋内基準の明るさのシーンでは曇り空の天空でもブルーミング(光があふれ出す効果、グレア効果ともいう)を起こすほど明るい |
ほぼ同じ方向を屋外で向いてもブルーミングは起こさない |
左奥の白く輝いている屋根は、茶色の瓦状のバンプマッピングがなされた施された屋根なのだが、強い天空の光を受けてサチュレーションを起こし、真っ白な平面として見え、視点に対して強い二次反射光を放っているように見える |
現実世界の明るさというのはPCディスプレイで表示できる明るさの何千倍以上もあり、人間の目やカメラは、これらを、「適切と判断できる」明るさの範囲内に丸めて見ている。写真でも暗いシーンはより多くの光を受光するためにシャッター速度を遅くしたり、あるいはシーンの明るさによって絞りを操作して露出を変えたりするが、ああした処理は現実世界の情景を、写真という最終結果に作り込むための後処理ということができる。
非常に高いダイナミックレンジの光源を設定し、レンダリング自体を浮動小数点表現にて行なって、現実世界に近い情景を生成する。これがいわゆるHDRレンダリングだ。出来上がった情景を、シーンごとの明るさ基準で1,677万色に丸める処理(トーンマッピング)を行なうと、映像表現としてフォトリアリスティックなものになる。なお、ここまでの処理系を総じて広義にHDRレンダリングと呼ぶこともある。
ちなみに、HDRレンダリングの恩恵はこれだけでなく、相互反射、屈折と反射などの環境マップの多重映り込み処理、その他の複雑な反射モデルなども、演算誤差を少なくできるメリットもある。いずれにせよ、HDRレンダリングは、3Dゲームに効果的かどうかという議論はともかく、リアルタイム3Dグラフィックスというパラダイムにおいては現在注目度の高い技術なのだ。
NVIDIAのGeForceFXファミリーではHDRレンダリングに必要となるFPバッファが上手く活用できない、あるいはFPシェーダー演算速度が芳しくない、などの指摘が開発者の間から出ることがあり、これまでNVIDIAはドライバのアップデートを重ねてきた経緯がある。
NVIDIAは今回の「Half-Life 2」パフォーマンス問題についても早急な対応をしており、最新版ドライバRel.50系では32bit浮動小数点実数(FP32)シェーダー処理をFP16シェーダー処理に動的に置き換えるなどの対策をしてパフォーマンスを稼ぐアプローチを取るようだ。
さて、以前、Valve開発者にインタビューした際、HDRレンダリングパスの構築については、あるGPUベンダの技術協力があった、とコメントしていたが、今回、Newell氏はその技術協力元がATIであることを明らかにした。
この「Half-Life 2」パフォーマンス問題をGeForceFXとRADEONファミリーの優劣問題に発展させて語るるのはやや危険という指摘もある。現状では両者には一長一短があり、たとえば、逆にRADEONファミリーにはGeForce3から対応しているハードウェアシャドウマッピング機能がない(最新最上位のRADEON 9800XTにもない)ために、PC版「Splinter Cell」などのXboxからの移植ゲームをRADEONファミリーで動作させると影表現が簡略化されてしまう、といった問題点も指摘されている。
また、「Half-Life 2」のシェーダプログラムはマイクロソフトのHLSL(High Level Shader Language)ベースで開発されており、NVIDIAのCgベースであればもうちょっとパフォーマンス差は縮まるのではないか、という指摘もある。ただ、これについてはNewell氏は「書いたシェーダコードをいちいちプラットフォーム(GPU)ごとに最適化するのはあまりやりたい仕事ではない」と言い切り、彼らはシェーダ記述言語としてHLSLを標準と認識している節が伺えた。
いずれにせよ、このパフォーマンスグラフは「Half-Life 2のDirectX 9レンダリングパスを動かした場合にはこうなる」という認識に留めておくべきだろう。
「Half Life 2」ではこのように光源だけでなく二次反射光もブルーミングを起こすようなHDR表現が採用されている | GeForce FXでもHDRレンダリングパスを有効にすることはできるが、パフォーマンスは同クラスRADEONシリーズの半分以下になってしまう |
■ 「Half-Life 2」には新RADEONが“絶対的”に最適
この言葉通り受け取るのは早計だとしても、「第一世代DirectX9ベースの3Dゲーム」のひとつの基準として一般ユーザーに受け止められることは確実だろう。
Newell氏はさらに、ATIの開発者サポート体制を「早くて正確」と表現し「最上級」と評価し、さらに「ATIとのパートナーシップはプロパガンダ・キーワードを訳も分からず繰り返し言わされるのとは違う。我々は、ATIとタイアップしたことがユーザーに対して最上級の体験をさせることに結びついたと確信している。」という、やや過激な表現も飛び出した。これはNVIDIAに対してのきつめの皮肉とも受け取れる。
最後にNewell氏は「いろいろな、意見はあるだろうが、これだけは言える。新RADEONシリーズはHalf-Life 2を動かすのに“絶対的に”最良のGPUだということだ」と結んだ。
キラー(Killer)アプリケーションとは元来、ユーザーをキル(Kill)するものだった。Half-Life2はユーザーと同時に、NVIDIA GeForceFXまでをKillすることにつながってしまうのだろうか。NVIDIAは10月中旬以降、新GeForceFXシリーズを発表すると言われている。是非とも巻き返しを期待したいものだ。
DirectX 9の実践的なベンチマークとしても期待される「Half-Life 2」 | 「Half-Life 2」を全オプション最高位に設定して快適に動作するのはRADEON9800XTだけと断言 |
今回の発表会で用いられた「Half-Life 2」の映像は既出の物のみだった。RADEON 9800XTでリアルタイムで動作する「Half-Life 2」は今回も見られず。同クラスGeForceFXの2倍以上になるというパフォーマンスを実際に見せてほしかったと思うのは筆者だけではあるまい |
□ATIのホームページ
http://www.ati.com/
□関連情報
【9月19日】ATI、東京ゲームショウに「Half-Life 2」を出展
Source Engineのパワーを一足先に体感
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20030919/ati.htm
【6月11日】Game Critics Awards、「Best of E3 2003」を発表
2003年度のBest of Showは「Half-Life 2」
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20030611/e3best.htm
【5月23日】3Dゲームファンのための「Half-Life 2」エンジン講座(前編)
ゲームエンジンはついに地球シミュレーションの領域に突入する!!
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20030523/e3valve1.htm
【5月26日】3Dゲームファンのための「Half-Life 2」エンジン講座(後編)
ゲームエンジンはついに地球シミュレーションの領域に突入する!!
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20030526/e3valve2.htm
(2003年10月2日)
[Reported by トライゼット西川善司]
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