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★PS2ゲームレビュー★
「SILENT HILL3」はその独特の世界観でユーザーから高い評価を得ているシリーズの最新作である。15歳以上を対象にし、“暴力表現”の表記もあるように、このゲームは非常に「恐ろしい」ゲームだ。その恐怖を可能にしたのは制作者の世界の描写に対するこだわりさえも超えた「執念」であり、そして高度な技術力である。 プログラムで作られた「お化け屋敷」。遊園地でそっちへ足が向いてしまう人や、恐怖映画が好きな人には強くお勧めするタイトルである。 ■ 逃げるためには、前に進むしかない
「SILENT HILL3」をプレイして、まず感じたのはこの感覚である。恐怖の根元に立ち向かうのは、それ以上の恐怖を回避するためであって、恐怖への戦いが楽しいわけでも、戦っている自分が好きなわけでもない。ただひたすら、悪夢から逃れる方法を探して暗闇へと足を踏み出す。一方向しか、道はない。プレーヤーはまさに恐怖から「逃れる」ために、前に進んでいくのだ。 本作の主人公「ヘザー」は、全く突然に悪夢の世界に投げ出される。前半のゲームの目的は「家に帰ること」なのである。一番安心できる場所を目指して、ヘザーは逃げていくのだ。確実に恐怖が潜んでいる闇に立ち向かい、次でこれが終わると信じながら前へ進む悲壮感は独特なものがある。 絶望的な感覚が支配しがちな本作だが、ヘザーの性格づけが明るいところが本作の魅力のひとつとなっている。タフな明るさを持った女性なのだ。錆び付いた鉄パイプを異形の怪物に振り下ろす姿は「キレた強さ」を感じさせるが、それだけではない、異常な世界の中でも皮肉とユーモアを忘れないヘザーの「ヒーローっぽさ」は筆者のような気の弱いプレーヤーにも勇気を与えてくれる。
■ 突然現れる悪夢の世界 オープニングではゲームのストーリーはほとんど語られず、プレーヤーはヘザーと同じように突然異世界に投げ出されることとなる。「NewGame」を選んで進めると、突然「遊園地」の中だ。装備画面にはサブマシンガンとかあるし、ちっとも現実感がない。ゲームを進めるために探索し突然走ってきたジェットコースターに……と、ここまではカフェでうたた寝をしてしまったヘザーの悪夢だということがわかる。 家に帰るために店を出たヘザーの前に怪しげな中年男が現れる。ダグラスというその私立探偵をまくために、トイレの窓から路地に出て、再びショッピングモールへと戻るヘザー。しかし、何か雰囲気がおかしい。まったく人の気配がないのだ。ドアも壊れていたり、ほとんどあかない。シャッターが半開きになっている店に入るヘザー。 ぴちゃぴちゃがつがつと、得体の知れない音がする。そこには巨大な「何か」がうずくまっていて、床下の血だまりをすすっていた。赤黒い皮膚を持つ、人間を冒涜するかのような人型をした袋のような怪物。それは、顔の位置にある感覚器とおぼしき丸いものを回転させながら、ヘザーににじり寄ってきた……。それは、確かに悪夢で見た怪物の姿だった。 こうして、ヘザーは逃れられない悪夢へと捕らわれていく。さらに訳のわからないことをつぶやくように話す謎の女性クローディアと出会うことでショッピングモールの姿が一変する。触れたら破傷風になってしまいそうな錆の浮いた壁、新鮮さを失った赤黒い血だまりの床、そして金網の向こうでぎちぎちと音を立てる異形の者達。立ち止まったら闇から来るものに襲われる、そんな強迫観念を生み出す薄暗い狂気の迷宮にヘザーは閉じこめられてしまう。 発狂しそうな状況の中を、ヘザーは逃げまどい、ある時はにじり寄ってくる怪物に渾身の力で鉄パイプをたたきつけ、脱出口を探していく。そしてひときわ凶悪な、肉塊に恐竜の口をつけたような怪物を、拾った拳銃で倒したとき、世界は正常に戻る。静寂に満ちた、終了時間を過ぎたショッピングモール。安堵のため息と共に地下鉄の駅へ向かったヘザーは、まだ悪夢が終わってないことを知る。一人も人がいない駅、そして闇の向こうから響いてくる何かの足音。その重態患者のような苦しげな息づかいと、血が抜けていない肉のかたまりを引きずっているかのような湿った足音は、あいつら以外に考えられない。地下鉄を抜け、今度こそ現実世界かと思った瞬間、ドアの向こうは血と錆の世界……。 家に帰ったヘザーにはさらなる悲劇が待ち受けている。そしてヘザーは、自分の運命が「サイレントヒル」にあることを知るのだ。ヘザーはこの狂気の世界と自身の秘密を知るために、今度は自分から、運命に立ち向かうために闇に踏み出すことになる。 今作のストーリーは第一作目である「サイレントヒル」の直接の続編に当たる。シリーズを通してプレイしている人は、より一層楽しめるだろう。ストーリーについては、RPGの様に膨大なものではないが、ヘザーの運命と、狂った神との因縁について掘り下げられており、パニックと悲劇に立ち向かっていくヘザーに感情移入をしていけるものだ。 最新技術により描画されるキャラクタの表情に特に注目して欲しい。登場キャラクタは少なく、また、ほとんどセリフもないが、彼らの顔のラインが形作るその描写がすばらしい。明らかに狂気を秘めているとわかり、背筋が恐くなるその感覚がよく出ている。セリフに頼らない、「演技」は必見である。特にヴィンセントがオススメ。この人、登場人物の中ではまともなはずで、そういうセリフもないのだが、どこかがおかしいのかがはっきりとわかる。そういう繊細な描写を本作は可能にしているのだ。後半に出てくるスタンレーもすごくいい。「魅力的」と書くと、少し意味が違う気もするが、登場人物には、強いキャラクタ性がある。 ■ 世界に対するこだわり 何度も繰り返すが、本作のその最新の技術による恐怖の演出は、実に驚くべきものがある。オリジナルの描画プログラムを作成したという影や、血の表現、プログラム的な描写は筆者のような部外者はもちろん、ゲーム制作者も驚かせるモノがあるのではないだろうか。技術に裏打ちされた「生理的な怖さ」、それを自然に出していくのは、企画者とそれを実現させたプログラマーのすごさを感じさせるモノである。 本作はこういったゲームには珍しくつぎつぎと場面を変えていくのが面白い。ショッピングモールから、地下鉄、下水道、廃ビル……後半も、おなじみの病院やサイレントヒルの霧が新たに描き起こされている感覚は、シリーズのファンには特に感慨深いだろう。それぞれの世界には通常の「表」世界と、血と錆に満ちた「裏」世界のマップがあるのだが、どちらも偏執的なまでにリアルで、凄まじい。 筆者の個人的な好みから言えば、雑居ビルの表世界が秀逸だった。昼間は機能していたであろう、人のいる感触が逆に不気味な世界。会社で一番最後まで残って、電気を消す感覚、あの「何かが潜んでいそう」な感覚が、ちゃんとCGから立ち上ってくるのだ。全編を通じてある「廃墟」的な感覚とは、人が確かに使っていたが、うち捨てられたという「無意味さ」そして、虚しさにある。この感触を確かに伝えるそのセンスは、他の作品の追随を許さないものがある。 定評のある「クリーチャー」は今回も絶好調だ。筆者の友人が1作目で語った、「俺、このゲーム恐いけど、制作者さんがどんな人かを想像する方がもっとコワイよ」という言葉は、特に、怪物達の描写にむけられている。すべての怪物に「目」がないというのは怪物達との意志の疎通はできず、「本能」でヘザーを追って来るという恐怖感を強調する。 怪物達は、多分食欲で襲ってくるのだろうけど、牙でかみついてくるモンスターは少なく、ヘザーに身体をこすりつけてくる感じなのだ。常人ならさわられてしまっただけで絶叫してしまいそうな怪物達。この皮膚感は「嫌」と表現するのが一番ぴったり来るような気がする。 それでいて、怪物達はどれもどこかひ弱そうな感じを受けるのがより一層恐く、気持ちが悪い感覚をもたせる。死人を思わせる白い肌、不健康な感じの震え、そしてゆっくりした動き。どこか無力な、しかし生ある限りヘザーの追跡をやめなそうなその怖さは、本作の真骨頂とも言えるだろう。また、それと戦わなくてはいけない感覚、そして勝利に爽快感ではなく、安心感がもたらされるのも本作の特徴。怪物が息絶えたのに、その死体にさらに何度も鉄パイプを振り下ろしてしまっているのを自覚した「罪悪感」はなかなか他の作品では味わえない。 怪物や、さまざまなステージをプレーヤーは目にするのであるが、それらすべてに確固として統一されたセンスが感じられるというのが、この作品の大きな魅力だろう。それは音にも通じる。怪物が近づいたとき発するラジオのノイズ、怪物達が発するこの世のモノとは思えない音、狂っている世界なのに統一感とは、いささか矛盾した表現だが、その「歪んだ感じ」はプレーヤーの中にじわじわと食い込んでくる恐ろしさなのである。 いささかおまけ要素ではあるが、後半の遊園地で出てくる「お化け屋敷」が非常に楽しい。「お化け屋敷といったら、こうだろう」というとてもこだわった演出が楽しめる。このゲーム自身が電子的なお化け屋敷ともいえる作品だが、その中であえて「作り物」を表現しているのが楽しい。筆者一押しの場所である。 ■ ユーザーに合わせたたゲームバランスと「戦闘」の楽しさ 世界観やグラフィックは非常にトンがった本作ではあるが、さすがコナミのソフト。ゲームバランスに関しては「優等生」である。 アクションの難易度だけではなく、「リドル(謎)」レベルも選択できるほど、ユーザーへの配慮は行き届いている。 本作の謎に関しては、どちらかというと古典的なアドベンチャーだ。アイテムの総当たりをする感覚などは「お約束」ともいうべきものである。ただ、アイテムを使う感覚が多少ぶっきらぼうなところも確かだ。 必要なアイテムはヘザーが「気がつく」ということでユーザーを誘導するのだが、例えばハンガーをとっておいて、手が届かない位置にある梯子を引っ張り下ろすのに使うのだが、なぜヘザーがいきなりハンガーをとるか、最初はわからない。取れるものは限られていて、それは確実に使い道のあるものだ。 こういった部分は、さすが最近のゲームであるから、洗練されていて、親切なのだが、いささかリアリティーに欠ける。たしかに「じゃあどうしたら快適でリアルなゲームになるか?」と問われるとそれに筆者は答えが出せないのだから、あまり偉そうなことは言えないが……。 リドルのレベルは、イージーはノーマルで起こるイベントを多少削ったという感じに対して、ハードは凄いモノがある。最初の方の謎でさえ、シェークスピアの作品に対する知識を要求されるのだ。あえてゲーム的資料に頼らず、頑張って調べていくのも楽しいかもしれない。 アクションの難易度に関しては、個人的な感覚だが、難易度を上げることで「ゲーム」としての側面が強くなってしまい、いささか強烈な世界観を持つ「サイレントヒル」から離れてしまうような気もする。戦いは極力避けてかわしながら、恐怖と運命に立ち向かう、というのがヘザーというキャラクタだと思うのだがだが……。そのために、私には、多少ストラテジックな戦闘を要求されるボスモンスターより、マップ上をうろうろしてヘザーを探しているザコモンスターの方が「サイレントヒルらしい」気がしないでもない。 もちろん、アクションゲームとしてもこのゲームは秀逸で、武器も非常に多彩。振りの早い日本刀や、近距離で絶大な威力をもつショットガンなどを駆使した、「モンスターを倒すゲーム」という部分でも非常に楽しめる。ガードや、接近戦武器でのレバーを組み合わせた動きなどでモンスターとの駆け引きも楽しめる、ばんばん怪物を倒していくヘザーの強さを感じたり、ハードレベルにすることで怪物を増やし、敵を強力にし、戦いを満喫することももちろん可能だ。 システム的にも良くできたゲームだが、「子供から老人まで誰にでもオススメ!」とは、とても言えないソフトである。そのリアルな血の感触、グロテスクな怪物、なによりも自分の正気が侵されていくようなプレイ感は、「コワイのダメ」な人には、決してお勧めできない。 しかし、このゲームに興味を持った人には自信を持って推薦できるソフトだ。なにより、その生理的嫌悪を呼び覚まさずに入られない演出は、まさに必見である。ゲームとして良 くできている部分も見逃せない。 ただ、不満を感じる点もないわけではない。最大の不満は、日本のこのジャンルのゲームの「定番」ともいえる固定視点による弊害だ。画面が切り替わるのはプレーヤーの意志ではないため、自分の思った方向に、一瞬操作できなくなり、方向感覚も狂う。特に海外のFPSになれた人には不満は必至であろう。もどかしく、理不尽を感じる一番のポイントだ。本作は後方に視点を移動できる機能もあり、オブジェクトはきちんと3Dで描かれている。もちろん、この固定カメラによる3人称視点は、洗練されて蓄積された技術であり、美しいことは確かだ。FPSにはない迫力も確実にある。この問題は、これからも課題となり続けるだろう。 もう一つは、「開かないドア」があまりに多すぎる点だ。このゲームはマップがきちんと現実の建物に即していて、だからこそ部屋の数は膨大になってしまう。しかしそれではゲームにならないため、結果としてほとんどのドアが開かなくなってしまうのだ。頭ではわかっているが、開かないドアをいちいち叩くこの感覚は、問題点であることは確かだ。開くドアはちゃんとヘザーがそこに頭を向けることで教えてくれるが、固定視点の3人称視点ではヘザーのリアクションも見にくい場合がある。 いくつか問題点はあるが、恐怖もののジャンルではトップクラスのゲームであることは間違いない。ユーザーに対する配慮までも感じさせる完成度の高さもある。 これだけ完成された世界を提示しておりながら、実は「隠し要素」ですべてをぶちこわしにしそうな、とてもユニークな「お遊び」を入れてあることもちょっと触れておこう。本編が、恐ろしく、悲しい物語であるだけに、この破壊力はただごとではない。こういった点も、スタッフの「普通じゃない感覚」が感じられて、やっぱりコワイのである。
(2003年8月7日) [Reported by 勝田哲也]
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