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★PCゲームレビュー★
■「世界」のゲームが楽しめる時代
韓国や台湾の会社が発表していたPCゲームの中には、アメリカでのゲームエンジンを見事に使いこなしたFPSや、3Dの格闘アクションなどもあり、その技術レベルに驚かされた。ユニークなのはその「感触」である。米国を中心としたいわゆる「洋ゲー」とも、日本のゲームとも違う一種独特の「さじ加減」があるのだ。見た目もゲーム性も、どこかに大きな「ズレ」があって、そこがおもしろい。 現在すでに“ドイツスタッフが創ったシミュレーション”や、“独特のフライトモデルを持ったロシアスタッフのフライトシム”というように、さまざまな国の「お国柄」を感じさせるゲームがプレイできる状況になり、ユーザーはより多彩なゲームを楽しめるようになりつつある。 本作「アークトゥルス」は「ラグナロクオンライン」を手がけた韓国のメーカーGravityが発売したRPGである。ファルコムはずいぶん前から韓国で高い評価を得たゲームのローカライズを行なっており、今作もまた膨大なテキストを見事に日本語化。さらにブックレットを同梱することでプレイをスムースにさせるといった、丁寧なローカライズを行なっている。世界でさまざまな優れたゲームが出ていても、やはり言語やサポートなどさまざまな問題がある。積極的に外国のゲームを紹介してくれるファルコムの姿勢は評価したい。 「アークトゥルス」は日本のRPG、特に「大作RPG」ともよべる作品に強い影響を受けている作品だ。キャラクタ描写、壮大な世界観、そして世界の秘密。個性的なキャラクタが織りなす冒険活劇、というラインは守りながらも、やはり独特の「味」を持った作品となっている。 隣国・韓国を知ることで、日本が見えて来るということは多くあり、この作品でもそれは同様だ。RPGファンに特にお勧めしたい作品であり、プレイすることで「日本のRPG」というものに、思いをはせることができるだろう。
■エキセントリックなキャラクタと壮大なストーリー そして、独特の「エグ味」 「え゛え゛~」という声はこのゲームをプレイした、誰でも発する声だろう。本作は画面を見ても、キャラクタを見ても非常に敷居の低い、万人にお勧めなRPGにとられがちだが、ところがどっこい、なのである。とにかくまずヒロインである「マリア」のあまりにエキセントリックなキャラクタに、圧倒されるに違いない。 とにかく凄まじい。物語は都会に出て一旗揚げようというマリアと、幼なじみの気弱な少年シズが島を出るところから始まるのだが、シズを従わせるために、まず恫喝、続いて暴力。ここまでは「ギャルゲー」のアレな女の子止まりだが、マリアは違う。小金を得るためには窃盗も、自分を守るためには嘘も平気なのである。こう書いても、彼女のエグさはうまく伝わらない。日本人とは違う、独特のリアリティと「迫力」を持ったキャラクタなのだ。 この作品のテイストには「香港映画」に近いものがある。キャラクタ単体をとると、日本人とは決定的に違う価値観と世界で動いているが、それこそが作品の大きな魅力となっている。どこかキャラクタ性の薄い米国製のゲームとはまったく違う、「濃い」キャラクタなのだ。 「ケレン味」というポイントでは、もう一人の主人公である超絶美形の「お貴族様」エリュアードの演出がこれまた驚かされる。各エピソードで挿入される、一瞬で女性を籠絡するテクニックや、歯が浮きまくるセリフはもちろん、決めたときのドアップなど、そのための特別な演出まで挿入、シズやマリアとの出会いの時には「高いところから現われる」と、お約束を気持ちがいいくらいに詰め込んでいる。 最初は驚き、キャラクタに違和感を覚えたりもするが、ストーリーがすすむことで引き込まれていく。マリアの悪役ぶりに、エリュアードのキメっぷりに、シズのしつこいほどに「女」扱いされてしまうエピソードにプレーヤーは慣れてきて、そういった演出がある度にニヤリとしてしまう。 第一章では、明るいトーンで彼らと、棒術の得意な渋い男・テンジを加えたパーティの冒険が描かれる。鍵を握るのは謎の秘宝・ダラント。この一行に謎の美少女セリーヌや、美女盗賊アセルス姉妹が絡んでくる。世界観のリアリティーも注目したい。プレーヤーは冒険をすることで、一見平和なこの世界にも、さまざまな「戦争の火種」が潜んでいることを知ることになる。
街にいる多くの住人達がそれぞれ小さなドラマを抱えているのも日本テイスト。注意深く聞くことで、「スパイ事件」などのエピソードが楽しめるほか、アイテムを入手できたり、シズやマリア達のドラマも挿入されたりする。じっくりプレイを重ねることで、驚くべき情報量が込められていることに気がつくだろう。
一章の後半から、二章へ行く過程でプレーヤーは驚くべき「悲劇」の連続を目撃することになる。テンジの過去、シズとマリアの師の裏切り、戦乱に巻き込まれ、崩壊していく街。そしてパーティーはばらばらに。 二章はシズとマリア、エリュアードの「再会」が描かれるのだが、彼らに襲いかかる悲劇というのが凄まじい。エリュアードは怪我でその美貌を失うだけではなく、弟レーグランツの謀反により地位と、家族を失う。エリュアードは地下組織に参加し、残虐で無慈悲な「騎士」となっていく。 そんなエリュアードを必死で支えるマリア。「いずれ玉の輿」とエリュアードに媚びまくっていた一章前半とは違い、味方にさえ眉をひそめられがちなエリュアードを庇うその姿勢は、地下組織の兵士達が憧れるほどの優しく強い女戦士に彼女を成長させていく。 シズは冒険を重ねることで愛することになったセリーヌをその手にかけたショックで精神のバランスを崩してしまう。さらに彼は世界を滅ぼす鍵となるアークトゥルスの宿星を宿した「運命の子」であることが明らかになり、「善の肉体」と「悪の精神」に分離させられてしまう。 悪の精神となってしまった彼は、世界の滅びを防ごうとする勢力により、仮の肉体と精神の均衡を得る。彼は自分の肉体を取り戻すため、アイという少女と共に戦乱で荒廃した世界へ足を踏み出すこととなる。 一昔前の韓国の映画は、「悲劇」の描き方で、定評があったようだ。そういった話を思い出すほどに、本作の登場人物達に降りかかる不幸はものすごい。それは、主人公だけではなく、戦乱に巻き込まれる民衆にも、である。特に繁栄を誇ったドームの表現は凄まじい。ここで感じるのは、大陸的な残酷な表現で、日本とは違うモラルの上で語られているものである。それは非常に生々しい。 悲劇と悲惨の中、刹那的なクライマックスを迎えていく物語は多いが、本作ではその悲劇に立ち向かい、再生していく過程こそがテーマのようだ。二章の終わりではマリアの献身と、優秀な兄を持った故に狂気へと突き進んだ弟レーグランツの本心に直面し、エリュアードは閉ざしてしまっていた心を開いていく。それは一章の高慢さともまた違う彼の新しい一面となっていく。 キャラクタが成長していく感触は、第一章でのしつこいまでのキャラクタの強調が、生きてくる。マリアはその激しい特性を持ったまま、一途な女戦士になっていくし、エリュアードは身分という幻想が瓦解することで本当の仲間を得ることになる。日本のRPGの「観念的」な物語とはちがう、迫力のあるリアリティがここにはある。
本作の魅力は、やはり独特のストーリーとキャラクタにある。彼らが経ていく物語は、制作者の「こんな物語を創りたい」という熱意を強く感じさせるものである。 ■荒削りながら、スピーディなプレイが楽しめるシステム 3Dでつくられた地形に、2Dのキャラクタ。本作のシステムは「ラグナロクオンライン」でユーザーから高い評価を得たシステムの雛形にあたる。かわいいキャラクタがフィールドを駆け回り、派手な戦いを繰り広げる。テクスチャの書き込み、オブジェクトも細かく、美しい。なにより、キャラクタのしぐさが多彩でかわいいのがポイント高い。「ラグナロクオンライン」の人気の高さもうなずける。 「快適」というのも利点のひとつ。中盤からは本格的に経験値稼ぎが必要となり、セーブポイント周辺で戦闘を繰り返すことになるのだが、一回の戦闘にかける時間が短く、それほど苦労せずにレベルを上げていける。また各キャラクタを象徴する必殺技や、決めポーズ、多彩な武器装備もあり、「キャラクタ性」が重要となるRPGのポイントをきちんと押さえている。 その一方で、不備を感じる点も少なくない。第一章ではメインのシナリオの他、さまざまなサブイベント、さらにエクストラダンジョンまで楽しめる自由度の高さが魅力なのだが、正直、特典として封入されたブックレットなしでは、膨大な無駄足を踏む危険がある。ゲーム内にシナリオを進めていくための道しるべが絶対的に足りないのである。こういった点はさまざまな実験過程を経て進化してきた日本のRPGの歴史を感じさせる。そしてRPGというものの開発の難しさを改めて気付かされるだろう。
とはいえ、第一章は寄り道もまた楽しい。シナリオの進行はブックレットを読めばOKなのだから、あえてさまざまな場所を探索してみることも楽しい。スタッフのこだわりが楽しめる、細部にまで凝ったゲームであることを実感できるだろう。二章は比較的進む方向はわかるのだが、バランスが壊れ気味。ここもまた、RPGの快適さを改めて考えさせられるだろう。 多少レスポンスに疑問が残る点もあるのだが、それでも筆者はこのゲームをオススメしたい。RPGはやはり、「キャラクタ」と「ストーリー」こそが重要点で、その視点から見れば本作はものすごいエネルギーを込められて制作された優れたストーリー性を持っている作品だからである。 繰り返すことになるが、日本のRPGファンにこそプレイしてもらいたいゲームだ。違う国の価値観で創られた、壮大なRPG。米国を初めとした「洋モノ」RPGとはまったく違う、ある意味では親しみやすい作品である。この似て非なる独特の感触は、日本のRPGをプレイしていく上で、新しい視点をプレーヤーに気づかせてくれるだろう。
(2003年7月17日) [Reported by 勝田哲也]
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