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Eidos UKレポート
「Time Splitter 2」開発者David Doakインタビュー |
Eidosが同シリーズの大ヒットを「想定通り」としたのは、コンソール向けFPSの元祖的存在である「007 GoldenEye」のクリエイターたちの作品だったからだ。「007 GoldenEye」は日本でも発売され、30万本を超えるヒットを残したため、記憶している方も多いだろう。そこで今回は、コンソール向けFPSの火付け役として知られるDavid Doak氏率いるFree Radical Design本社を訪ねてみた。
Free Radicalは、英国中部の小都市Derbyから東へ約8マイルのところにある。ロンドン中心部から特急で2時間、その後タクシーで15分程度。閑静な住宅街の中に最近建設されたらしい近代的なオフィスエリアの一角にあった。同じくDerbyを本拠にするCore Design同様、建物には表札ひとつなく、窓はすべてブラインドが降ろされ、外からはゲーム会社であることがまったくわからない。建物のそばに止めてある車のグレードの高さが、わずかにその存在を示していた。
■ Rareでの仕事からFree Radical設立まで
インタビューに応じていただいたFree Radicalの設立者兼ディレクターDavid Doak氏 |
David Doak(以下、D) 日本のジャーナリストがここに来たのは初めてだからね(笑) Free Radicalは'99年に5人で設立した。それまではRareで、任天堂やMicrosoftの仕事を請け負っていた。有名なところでは「ドンキーコング」、「007 GoldenEye」、「Perfect Dark」などがある。独立後は元Rareの人間も入ってきて、現在は54人のスタッフで開発を行なっている。いまではRareとの関係はまったくない。もちろん、友人はたくさん居るが(笑)
編 なぜRareから独立することになったのでしょうか?
D 「Golden Eye」は8人で開発したのだが、当時Rareは大きな会社で、弱い立場の我々としてはさまざまな軋轢や制約があり、もっと自由に、自らの裁量で開発をコントロールできる環境を作りたいと考えたからだ。
編 その結果生まれたのが「Time Splitters」シリーズですか?
D そういうことになる。我々が新しいコンソール向けFPSを開発するときに特に重視したのが、マルチプレイモードの実現、まったく新しいFPSにすること、そして欧米のプレイステーション 2のローンチに間に合わせるという3つだ。
マルチプレイモードの開発では、バラエティに富んだ内容を楽しめることを重視した。たとえば戦争を題材にしたFPSなら、戦争しか体験できないが、「Time Splitter」では、シリアスなキャラクタ、おかしいキャラクタ、可愛いキャラクタなど、バラエティに富んだキャラクタを用意することで、新しいゲームプレイが楽しめるように気を配った。
編 「007」からずっとコンソール畑ばかりを歩んできたわけですが、PCプラットフォームで発売しないのは何か理由があるのですか?
D それは最初にRareに所属していたことが大きく影響しているが、最初からコンソールゲームばかりを開発してきたからだ。スタッフもコンソールゲームのファンばかりということもある。それにPCゲームはすでに優秀なFPSがいくらでもある。我々としてはあくまでコンソール市場のFPSを育てていきたかった。
また、技術的な話をすると、我々はゲームプログラミングに関して絶大な自身を持っている。それを当時未発達のコンソール市場で示すことは我々にとって重要なことだった。
編 なるほど。コンソール市場でFPSを開発していくにあたって何か苦労したことはありますか?
D 「007」の話をすると、当時は年配のプログラマが多く、新しいゲームが作れるのか心配だった。また我々もこれまで2Dのゲームしか開発したことがなかったから、きちんと3Dゲームが作れるのかどうか苦労した。当時は3人しかプログラマがいなかった。いまは8人体制でプログラミングを行なっている。
■ 「Time Splitter」の魅力とは?
シリーズ最新作「Time Splitters 2」。サルがこちらに銃口を向けているのに注目。こうしたユニークなキャラクタが100以上登場する |
D まずパブリッシャーが違う(笑) というのは冗談だが、「007 GoldenEye」では任天堂の縛りというのは特になかったが、開発側としてがっかりしたのは期待どおりのフレームレートが出せなかったこと、そしてグラフィックに弱点があった。具体的にいうと、ニンテンドウ64はリアリティを求めようとすると画面が暗くなってしまった。明るくするとどうしても人工的なものにならざるを得ず、結果「007 GoldenEye」は暗いゲームになってしまった。我々としてはある程度の明るさを確保しつつ、質感の高いリアリティを追求していきたかった。 「Time Splitter」はそうした反省を活かして、もっと明るくて、活き活きしてて、そしてスピード感のあるゲームにしたかった。ただ、若干補足しておくと「007 GoldenEye」の内容自体は気に入っている。そうした部分は「Time Splitter」にも活かしたつもりだ。
編 なるほど。「007 GoldenEye」で、個人的に気に入っているところというのはどの辺ですか?
D 2つある。当時私が担当していたのはレベルの構築、つまりステージの構造、敵の配置、その動きといった内容をひとつひとつ詰めていくことだが、このレベルの設定に関しては自信を持っている。
もうひとつは、ジェームスボンドがあるところから脱出するミッションがあるのだが、これも非常に気に入っている。というのは、シューティングだけでなく、隠れて、逃げるという要素も盛り込めたからだ。
編 それでは「Time Splitter」で気に入っているところはどの辺ですか?
D いろいろあるが、ひとつは「Time Splitter 2」の最初のステージはシベリアのダムだが、実は「007 GoldenEye」の最初のステージもダムだ。これは半ばジョークの意味も含めているが、「007 GoldenEye」のプレーヤーへのファンサービスだ。
編 「Time Splitter」シリーズが欧米で大ヒットした理由というのは何だと考えていますか?
D 「Time Splitter」はライセンスものではなく、またモチーフとした要素もなく、まったくのオリジナルだ。我々としてはとにかくゲームプレイにこだわって開発し、純粋にゲームとして評価されたと考えている。
編 なるほど。そのゲームプレイ部分でこだわった部分とはたとえばどの辺でしょうか
D たくさんある。ひとつは「Time Splitters」は基本的にシューティングゲームだが、シューティングだけではない、謎解きやパズルの要素を盛り込んでいる。もうひとつは、アニメーションに関しても自信がある。
編 アニメーションは何か特別なことをやっているのでしょうか?
D これはアニメーションとは直接関係がないが、たとえばPCゲームのFPSは、銃口は常に画面の中心を向いているが、「Time Splitters」では銃口を敵に向けたまま移動を行なったりといった操作が簡単にできるようになっている。またカットシーンでは、フルフェイシャルアニメーションを採用し、たとえば口を動かすときに、唇だけでなくアゴや頬といった筋肉も連動してアニメーションするようになっている。
編 実際にプレイしてみて驚いたのは、ミッションごとにまったく異なるゲーム内容になっているところです。この何でもありというか自由なゲームデザインはどういう考えから生まれたのでしょうか。
D やはり大前提としてマルチプレイを楽しいものにしたかったということがある。そこでプレーヤーに対して、できるだけ多くのシチュエーションを用意したかった。もともと、開発の原点に映画があった。つまり、戦争映画だけでなく、ホラームービーやサスペンスムービー、アクションムービー、ギャングムービーなども楽しめる方がいいと考えたんだ。
それをひとつのストーリーの中で実現するために時空を飛ぶというアイデアを考えついた。これは我ながらいい考えで、ひとつのゲームの中にさまざまな色を持たせることができた。たとえば19世紀のギャング時代だったら暗い色、西部開拓時代だったら太陽が燦々と照りつける明るい色、未来だったらSFカラーといった具合にだ
編 個人的に影響を受けた作品というのはありますか?
D ゲームというより映画から影響を受けたところが多い。「アンタッチャブル」、「ギャングスター」、「ブレードランナー」、「マトリックス」、クリントイーストウッドの一連のカウボーイムービー、そして「007」シリーズだ(笑)
個性豊かなスクリーンショット。ゲームの目的はステージに隠されたタイムクリスタルを探し出すことだが、その過程はステージごとにまったくといってほど異なる。戦う相手も違えば使用する武器も異なる。常に新鮮なゲームプレイが楽しめる |
■ Free Radicalの今後、FPSの未来について
編 日本ではこれから「Time Splitters」が発売されるわけですが、欧米ではすでに大成功を収め、おそらく次のプロジェクトも動いていると思います。今後はどういったゲームを開発していきますか?
D それは秘密だ(笑)。まあ現時点でいえるのは、今後も多くのタイトルを手がけるために、優秀な人材を獲得していきたいと考えている。もちろん「Time Splitters」の新作は作るが、それ以外の新作にも手を伸ばしていきたい。
編 なるほど。これまでコンソールタイトルばかりをリリースしてきたこともありますが、ネットワーク対応のゲームというのがまだありません。ネットワークゲームについてはどのように考えていますか?
D 興味はあるし、今後はそうせざるを得ないと考えている。「Time Splitters」も当初はネットワークプレイに対応する予定だったが、PS2のオンライン化が思ったよりも進まず、取りやめになったという経緯もある。次は対応するだろう。
編 それでは「Time Splitters 3」ではネットワークプレイを実現する?
D ありえるね(笑)。ただ、オンラインゲームの開発は難しい。というのは、オンラインゲームというのは我々だけで開発できるものではなく、PS2市場であれば、ソニーやEidosの協力が必要不可欠になる。他社がすでにしている苦労を我々も乗り越えていかなければならないのだろうという漠然とした不安は持っているが、その覚悟はできている。
一番大変なのはおそらくテストだ。Xboxのネットワークゲームの中にはパッチがリリースされているものもあるが、我々としてはコンソールゲームにパッチをリリースするのはおかしいと考えている。つまり、ネットワークに対応するから、あとで修正すればいいという考え、もしくは結果的にそうなってしまうことは間違っていると考えている。
編 単刀直入におうかがいしますが、「Time Splitters 3」の開発は始められているのか、また北米市場でうわさがちらほら出てきている次世代プレイステーションのローンチタイトルになるということはありえるのか?
D 開発されてるかもしれない(笑)。ハードウェアとの関わりの話をすると、プレイステーションは日本のハードウェアだから、どうしても日本が先行して発売されてしまう。欧米のメーカーとしてはこれに合わせるのはメリットよりデメリットのほうが大きい。
ゲーマーとして、新しいゲームハードに興味を持ち続けるのは当然のことだが、それは必ずしも正しい考えとはいえない。というのは、過去を見ても新しいハードウェアで同時発売されているタイトルというのは、すべてテクノロジーデモの域を出ず、開発側から見て評価できるゲームというのは存在しない。本当にいいゲームというのは、ハードが発売されて2、3年後に出るのが当然の話で、だから我々としてはローンチに間に合わせることにはまったく興味がない。
編 FPS市場の今後についてどうお考えですか?
D 現在のFPSの主流は、撃って、破壊して、殺すというバイオレンスが中心だが、今後は「考えるシューティング」に向かっていくのではないか。最近のゲームでいえばゲームキューブの「メトロイド」が素晴らしい。撃って敵を倒すだけでなく、プレーヤー自らが考えて行動する必要がある。
マルチプレイの方向性について言及すると、これまでは撃ち合って殺すだけのデスマッチスタイルのゲームがほとんどだったが、今後は共同プレイも増えてくるだろう。「Time Splitters 2」にも搭載しているが、同じミッションを2人で協力してクリアしていくco-opモードのような、モードが増えていくはずだ。
編 ありがとうございました。
インタビュー終了後に社内を見せていただいた。1階が開発に割り当てられ、2階にそのほかの部署の席がある。すでに新しい作品の開発が始まっていたようだが、中身は果たしてなんだろうか |
□Free Radical Designのホームページ
http://www.frd.co.uk/
□「Time Splitters 2」のホームページ
http://www.timesplitters2.eidos.com/
□関連情報
【2002年1月16日】アイドス、「タイムスプリッター~時空の侵略者~」を2月27日に発売
欧米でミリオンを突破したコンソール向けFPS
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20030116/eidos.htm
(2003年1月30日)
[Reported by 中村聖司]
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