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■ 「パンチアウト」に似てるなぁと思った人はいませんか? いきなりだが、以前記者がGBA「はじめの一歩 THE FIGHTING!」の紹介記事を執筆したとき、その画面写真を見て「……うーん、自分のキャラがグローブだけってのは、ちょっと寂しいよなぁ」という感慨を抱いたことを、ここに告白しておこう。 記者はアクションゲームが好きで、すべてではないが、ひととおりチェックはしているつもりだ。ちなみに、最初にプレイしたボクシング系のビデオゲームは任天堂のアーケードゲーム「パンチアウト」。 で、ここからが重要。今回レビューを行なう「はじめの一歩 THE FIGHTING!」。グラフィックを見た瞬間「なんていうか『パンチアウト』に似てるなぁ」と思った人は、決して記者だけではないはずだ。 念のためにいっておくと、記者は「似ている」ことを非難しようとしているのではない。対戦相手を正面から見据えるタイプのゲームは、なにも特定のゲームの専売特許ではないからだ。第一、単に似ているというだけで全否定されるなら、この世に出回っているゲームの大半は立つ瀬がなくなる。 インターフェイスが酷似した後発の同系タイトルだからこそ、アレンジや独自性の追及が必須。ましてや、本作は「はじめの一歩」がモチーフ。原作の持つ雰囲気、キャラクタ性といった魅力を損なうことなくゲーム化しなければならない。 こうした努力を怠ったゲームが、ファンからどういう扱いを受けるか。それは、みなまで言わずともわかるだろう。では、GBA「はじめの一歩 THE FIGHTING!」はどうなのか? 筆者は上司からROMを預かった翌日、寝不足の真っ赤な目をこすりながら出社するハメになった。シンプルな操作性による間口の広さと、その先にある奥深い攻防の妙。面白い。気持ちいい。負けると悔しい。だから「もう1回!!」というチャレンジ意欲が、一区切りあるごとに敢然と湧き上がってくる。
「良いゲームはプレーヤーの向上心をほどよく刺激してくれる」というが、本作の仕上がりはまさにそんな感じだ。
■ 気持ちよくパンチが打てる ~3D対戦格闘のコマンド入力にも似た爽快感~ 操作は、十字、A、B、Rボタンだけ。おおまかにいうと、十字ボタンがキャラクタの移動、Aボタンが回避、Bボタンが攻撃、Rボタンがスペシャルコマンドにそれぞれ対応している。 パンチの打ち分けは、十字ボタンとBボタンを組み合わせる。全キャラクタで共通しているのは、ジャブ(B)、ストレート(→+B)、左フック(←+B)、左アッパー(↑+B)、左ボディ(↓+B)の5種類。 防御の共通操作は、ダッキング(A)、スウェーバック(↑+A)、右斜めダッキング(→+A)、左斜めダッキング(←+A)。キャラクタによっては、斜めダッキングがスウェーになる場合もある。 こうした基本操作にくわえて、各キャラクタには「コンビネーションブロー」が多数用意されている。これは、テンポよくボタンを入力することで、フックやアッパーをおりまぜた連続攻撃が繰り出せるというもの。まずは、コンビネーションブローの一例を以下に記しておこう。
B・→+B (ジャブ・右ストレート) B・↑+B (ジャブ・右アッパー) B・←+B・↑+B (ジャブ・右フック・左アッパー) B・←+B・B・↑+B (ジャブ・右フック・左フック・右アッパー) ←+B・B・B・→B (左フック・右フック・左フック・ストレート)
慣れてくれば、ジャブで相手の動きを牽制しながら、初弾のヒットを確認した直後に「コンビネーションブロー」を叩き込むことも不可能ではない。これは、対戦格闘ゲームなどで重要なウェイトを占めるテクニックで、本作でも例外ではない(筆者自身はジャブ2発からのヒット確認が限界というレベルだが……)。
単にボタンを連打するだけでも気持ちよく遊べるが、本作のテクニカルな部分が理解できてくると、爽快感や楽しさが飛躍的に増していく。そして、こうした基本部分に上乗せするように「一歩らしさ」を強烈に演出するのが、スペシャルコマンドの存在だ。
■ 「一歩らしさ」を演出するスペシャルコマンド スペシャルコマンドは、Rボタン、十字ボタン、AまたはBボタンの3つを同時に入力する。こう説明するとややこしいが、要はRボタンを押したまま十字ボタンとAまたはBボタンを同時に押せばいい。 スペシャルコマンドは、各キャラクタごとに5~8種類が用意されている。たとえば、一歩であれば「ガゼルパンチ」、「デンプシーロール」など、宮田なら「クロスカウンター」、「ジョルトカウンター」などといった具合だ。 スペシャルコマンドは攻撃タイプと防御タイプに大別され、防御タイプは全キャラクタで共通しているものが多い。全キャラクタ共通なのは、一時ダウンを回避する「ダウン回避」、ダメージの回復量に関係なく起き上がれる「起き上がり」で、キャラクタ独自の防御系スペシャルコマンドは「間柴 了」の「肘ブロック」、「伊達 英二」の「攻撃いなし」のふたつだけ。原作ファンなら、思わずニヤリとしてしまうこと請け合いだ。 各スペシャルコマンドの発動には、画面右上に表示された「スピリットゲージ」を消費する。強力なスペシャルコマンドほど多量のゲージを消費するため、あまり乱発はできない。スピリットゲージは相手を攻撃するたびに蓄積されていくので、相手がどのあたりで発動してくるかを見切るのも、大きなポイントになってくる。 なお、攻撃タイプのスペシャルコマンドは、「コンビネーションブロー」の最後につなげて発動できる。やりかたは、「コンビネーションブロー」最後の入力にそのまま続けてスペシャルコマンドを入力する。感覚としては、対戦格闘ゲームの「技キャンセル」に近い。
「コンビネーションブロー」と「スペシャルコマンド」のセット攻撃は、決まれば威力、爽快感ともにバツグン。原作ファンは、スペシャルブローが炸裂した名場面を思い浮かべながら遊ぶと、さらに楽しく遊べるだろう。ただし、必ずしも原作どおりにゲームが進行するとは限らないが……。
■ 対戦ツールとしての出来はどうか? 対戦ツールとして考える場合“ボクシングゲーム”として盛り込まれた要素が重要になってくる。具体的にいえば、リング上での「駆け引き」に直接影響する要素のことだ。 本作は、画面のインターフェイスからもわかるとおり、細かいフットワークやリング上でのポジショニングなどは再現されていない。そのかわり、対戦相手との距離(間合い)が画面左側にゲージで表示される。 「間合い」は地味ながら重要な要素で、一歩のようなインファイターは常に間合いを詰めながら強打を武器に戦い、宮田のようなアウトボクサーは一定の間合いとペースを保って戦ったほうが有利になる。 間合いを詰めるときは十字ボタンの上を、離すときは下を押せばいい。システム上、相手に近づくのはそれほど難しくないが、フックやストレートなどの重い一撃を喰らうと強制的に間合いが離されてしまう。間合いを前後するときの隙も皆無ではないから、慎重に動かないと一瞬のスキをついて畳み込まれるケースも珍しくない。 ガードについては、一定以上連続した状態が続くとグローブが徐々に赤くなり、限度を超えると「ガード不能」になる。つまり、じーっと亀のようにガードを固めて、自分からはほとんど手を出さないといった消極的な戦い方は難しくなっているわけだ。手数の多いキャラクタが有利になりそうなシステムだが、Bボタンの連打も慣れればきちんと見切れるため、必ずしも有利ではない。 最初のうちは暴れているだけの相手に負けることも珍しくないが、慣れれば連打が途切れる瞬間が見えてくる。そして、相手の攻撃が途切れた瞬間こそが「反撃のチャンス到来」というわけだ。 このあたりの駆け引きがわかると、そこから先はブロックと回避(スウェー、ダッキング)の使い分けが重要になってくる。スウェーの多用は単なる的(マト)にすぎず、かといってガードオンリーでは上から叩き潰されてしまう。様子をみながら、スウェーやダッキングなどで相手の攻撃をかいくぐり、すばやく反撃に転じるのが理想だ。 また、本作では、ダメージを「時間の経過とともに回復するもの」と「蓄積される回復しにくいもの」の2種類にわけている。前者は画面上のゲージに黄色で表示され、ジャブや軽いパンチを受けると蓄積し、これが一定値まで溜まるとダウン。後者は赤色で表現され、ボディーブローや利き腕から繰り出される重い一撃で蓄積する。 ただし、ゲーム中で「軽いパンチ」と「重いパンチ」を意識して使い分けることは、あまり無いものと思われる。ただし「速水 龍一」のショットガンなど、一気に大量の黄色ダメージを奪える能力を持ったキャラクタには重要なポイントだ。逆に「一歩」タイプのボクサーは、「速水」のようなボクサー相手に「ポイント勝ちで逃げ切ろう」などと考えないほうがいいだろう。
■ ちょっとザラついた「ボイス」も大切なエッセンス 本作は、あくまでも「はじめの一歩」がモチーフ。ということは、ゲームのところどころに「一歩らしさ」を感じさせる要素が詰まっていなければならないが……本作は、そのあたりも抜かりがない。 まず第一に「ボイス」。携帯ゲーム機なので、かなりザラついた音質なのは致し方ないが、スペシャルコマンドを入力したときにスピーカーから飛び出すボイスは、アニメ版の声とまさしく同じモノ。しかも、スペシャルコマンド入力時は、キャラクタの目線グラフィックがカットイン形式で表示される。ちょっとしたことだが、これがなかったらかなり寂しく感じるはずだ。 また、グローブの構え方がキャラクタによって違うのも、ファンには嬉しいところ。「一歩」はもちろんピーカブースタイルだし、「間柴 了」はヒットマンスタイル。お気に入りのキャラクタが使えるのはいいが、対戦相手にしないとグラフィックが見られないだけに、グローブの構え方だけでも「それらしく感じられる」というのは、実はとても大切な部分なのではないだろうか。 ただ、そういった細かい部分にまで配慮されているぶん、インターバル中に表示されるグラフィックパターンが少ないのは寂しい限り。ダメージに応じて変化したり、追い込まれているときは焦りなどが感じられれば、もっと雰囲気がよくなったはずだ。
■ 「一歩」ファンは迷わず買い! 良質のスポーツアクションとしてもオススメ 記者は「週刊少年マガジン」を読んでいないため「はじめの一歩」を見たのはアニメ版が最初。後追いでコミックに目を通した程度の「にわかファン」だが、それでもあえて「一歩ファンは迷わず買ってOK!」と、声を大にしていいたい。 ニューのPS2版「はじめの一歩」も大好きな筆者だが、あれとはまた違った“爽快感に溢れる「一歩」ゲーム”がこの世に存在する以上、これを看過することはファンとして許される行為ではないとさえいいたくなる。 マジメなボクシングフリークに無条件でオススメすると「ス、スペシャルコマンドぉ!?」などと言われてしまいそうだが、そのあたりは原作付きのゲームにつき、あくまでも許容範囲で手を出してみることをおすすめする。
さて……実は筆者はまだストーリーモードをコンプリートしていない。また今夜も「寝る前にちょっと」が「気が付いたら朝でした。あと、力の入れすぎで親指イタイっす」といった状況に陥ってしまいそうだ。
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□ESPのホームページ (2002年12月12日) [Reported by 北村孝和]
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