★ PCゲームレビュー★
今回紹介する「America's Army: Operations 'Recon'(以下:AAO)」は、新兵不足に悩むアメリカ陸軍が「従来の広報活動では若者の新規入隊が期待できない、リアル系のFPSも売れていることだしゲームなら若者へのアピールも抜群!」と国家予算(なんとその額は700万ドル=約8億5千万円)を投入して作成した陸軍の広報用ゲームだ。 と聞くと「なんだ、ゲームのことなんてわからない軍隊の人が作ったゲームでしょ、あまり期待できないんじゃないの?」と思う人もいると思うが、現実はかなり違う。実はアメリカ軍の訓練の中では戦闘ヘリや戦車の操縦など、コンピューターを使った訓練が多く取り入れられており、その訓練内容に関しては軍の上層部も常に把握、検討しているのだ。その多くは一般には公開されない自動車教習所でみられるようなハードウェアも含めた専用シミュレーターが主体だが、一方で徒歩で戦場を移動する軽歩兵の訓練用として、リアル系FPSゲームを訓練の一環として兵士にプレイさせていたりもする。ここ最近では、特に実戦に近いとゲームユーザーの間でも評価の高い「Rainbow Six: Ghost Recon」を訓練シミュレータとして採用するなど、コンピューターゲームに関するアメリカ陸軍の造詣は意外なほど深い。 さて、ここ最近のリアル系FPSに目を向けると、ゲーム内での戦場に説得性を持たせるために「いかに現実の戦場をゲーム内に再現するか」ということが次第に重視されているのはご存知のとおりだ。ここ最近では、「Medal of Honer: Allied Assault」の制作チームがデイル・ダイ元大尉の指導の下、戦闘テクニック訓練を実際に受けて、その経験をゲームにフィードバックし、好評を得たのは記憶に新しいところだ。当然、本家本元のアメリカ軍が全面的に協力して実際の戦闘状況を再現したAAOは、「訓練や戦場、銃器などに関するリアル感」という面では他のゲームを凌駕する仕上がりとなっている。
■ 空挺任務やレンジャーによる潜入任務はまだお預け
さて、今回リリースされた「America's Army: Operations 'Recon'」は「America's Army: Operations -Defend Freedom-」の一部だけを先行リリースしたものだ。内容的には新兵訓練、集団市街戦訓練(MacKenna MOUT)、第172歩兵旅団と第10山岳旅団の実戦というところまでが収録されており、全体から見れば30%ほどしか楽しむことはできない。これは今後以下の予定で段階的にリリースされていくことが公式にアナウンスされている。
Sniper School
Airborn&Ranger
8月末までにすべての実戦ステージや訓練がプレイできるようになり、その時点でCD版(アメリカ国内居住の希望者に無料で配布される)がリリースされるという運びのようだ。この追加パッチに関しては、リリースされた時点で機会を見てご紹介したい。
■ 訓練訓練また訓練。訓練で成績を残さないと実戦には参加できない さて、実際のゲームの運びだが、最初にAAOの認証サーバーにアカウント登録をする。ゲームメニューの「Step 1: Create Online Soldier (opens web browser)」をクリックしてアカウント登録用のWebページにアクセス、プレーヤーネームとメールアドレス(フリーメールアドレスは使用できない)を入力する。すると、入力したメールアドレス宛に本登録用ページのURLと登録用のレジストコードが記されたメールが送られてくるので、本登録用ページにアクセスしてパスワードを設定する。その後、ゲームメニューの「Step 2: Soldier Login」から先ほど設定したアカウント名とパスワードを入力すれば登録は終了だ。たったこれだけの手続きでAAOを楽しめるようになる。 AAOにおいてプレーヤーは以下のようなカリキュラムにそって行なわれる基礎訓練(シングルプレイ)をクリアし、実戦(マルチプレイ)へとステージを進めていくことになる。
1・フォートベニングの訓練施設で行なわれる新兵訓練(オフライン) ということで、まずはフォートベニングでの新兵訓練だ。新兵訓練というと映画「フルメタルジャケット」などを想像して、最初は走るか行進かというイメージが強いが、さすがにゲーム中でずっと走らせても意味が無いので省略、武器をバラしての掃除も同じ理由から省略し、いきなり射撃訓練から始まる。 訓練はM16A2アサルトライフルを使ったRifle Marksmanship(射撃訓練)からスタートし、アスレチック機材を使ったObstacle Course(身体訓練)、各種火器を扱うためのUS Wepons(武器習熟訓練)、MOUT(Military Operations on Urbanized Terrain=市街戦訓練)の4つを操作法の説明を受けつつこなしていくことになる。 そして各訓練の結果(訓練をクリアしたかどうか)はアカウント登録をしたAAOの認証サーバーに転送され、プレーヤーは次の訓練に進むわけだ。ただ、現在のバージョンREACONで行なわれる4種類の訓練の中でもRifle Marksmanshipは少々特殊で、射撃基礎訓練の後に行なわれるテストの結果でプレーヤーは以下の3つのクラスに分類される。
Expert Marksman : 40枚全弾命中~36枚命中 このクラス分けでExpert Marksmanを取れないと、今後リリースされるSniper Schoolに参加できないばかりか、ゲーム内でも使用武器にスナイパーライフルを選択することができないというシステムになっている。恐らく今後リリースされるAribornやRangerにおいても訓練でいい成績を残せないと実戦任務に参加することができない(たとえば通常の降下任務は問題無いが、高高度降下による敵地急襲任務はできないなど)ことになるだろう。 確かに実戦任務では必要な技能のないものは足手まとい以外の何者でもないから、このシステムは陸軍を紹介するというAAOの流れにのっとった物といえるだろう。ちなみにこの訓練は何度でもやり直しができるので、どうしてもスナイパーがやりたい! という人は好成績が残せるまで再訓練をするといいだろう。しかしこの射撃訓練毎に渡されるM16A2ライフル、回によって弾道特性が微妙に違う気がするのは筆者だけだろうか……、そこまで再現していたらそれはそれで凄い話ではある。 そしてもうひとつユニークなシステムがある。戦闘中味方を誤射したり、その結果死亡させたりといったことがあると、ROEという数値が溜まっていく。1回の実戦任務の中でその数値が400を越えたプレーヤーはサーバーから強制切断されてしまう。さらに懲りずに味方への発砲を繰り返すとプレーヤーアカウント自体の一時停止や削除もあるというのだ。
これまでも「Counter-Strike」などのリアル系FPSでは、問題のあるプレーヤーのIDをサーバーにログインできないようにするといった「モラルを持たないプレーヤーは締め出す」申し合わせがサーバー管理者の間で自主的に守られていたが、ゲーム公式のシステムとしてきっちり明確化したのはAAOがはじめてだろう。「味方をケツから撃つような卑怯者は仲間じゃない」という、陸軍気質がゲームを通して徹底しているのもAAOの特徴のひとつだ。
■ 現役の陸軍兵士が監修して盛り込まれた、こだわりの銃器描写と隊員の挙動 AAOで一番注目すべきは、アメリカ陸軍の現役隊員が実際にプレイして挙動や描写などのアドバイスを与えるなど、全面協力した(この場合“協力”というのは若干違うかもしれないが)戦闘描写だ。現在のVersion REACONでは基本的にM16A2ライフルとM4A1ライフル、M16A2/M4A1 with M203 Granade、そして分隊支援火器としてM249 SAWの3種類の銃器が使用できる。当然のことながら弾を撃つとリコイルショック(銃を撃った反動で、銃口が暴れること)が発生するのだが、他のリアル系FPSのように真上方向にずれるのではなく、実銃のように右上にずれていく(右肩で支えているからだとか、ライフリングが原因だとか言われている)様子が再現されている。 加えて今までのゲームではあんまり考えられていなかったジャム(挿弾不良)の現象も実際にジャムが起こる確立でゲーム中でも発生する。この状態になると銃を使うことが一切できなくなるので、すばやく後ろに下がって詰まった弾を取りのぞかなければならないのだ。さらに、リアル系FPSの基本であるマガジン交換も実際の兵士がやるとの同じように、マガジンを交換して弾を装弾してという風にやっているので、実際と同じだけの時間(M16なら7秒ほど)がかかったり、ライフルからの薬莢の排出角度や音、照準をのぞいて構えたときに呼吸と連動して照準がフラフラと移動するなど、細かいところまで上げればキリがないくらい銃器関連の描写は凝っている。 さらに面白いのは手榴弾やFlashBangなどのサブ武器だ。通常手榴弾を破裂させるまでは、
1・安全ピンを抜く という流れになる。通常のリアル系FPSでは1から3がごっちゃになっているものが多いが、AAOは違う。1から3までの動作がバッチリできるようになっているのだ。 たとえばM67 ハンドグレネードの場合、
1・グレネードを選択 というこだわりよう。当然爆発までのタイミングを間違えれば手元で爆発して大惨事ということも大いにありえるわけだ(実際筆者は戦闘中にFlashBangを手元で暴発させ、周囲にいた仲間の視界ともども自分の視界を奪ってしまったこともある)。そんなグレネードの中でも特に注目したいのはM83 スモークグレネード。 今までのリアル系FPSでは、スモークグレネードを使ってもすぐに煙が拡散してしまうわ、プレーヤーキャラの姿が透けて見えてしまい煙の意味がないわと、あまり使う意味が感じられなかったが、AAOのスモークはまったく違う。スモークを炊くとかなりの勢いで濃い煙が発生し、スモークの30m四方は伸ばした手の先がもう見えないという状態。おまけに実際のものと同じくくらいの時間、燃焼してくれるので「視界を遮断する」という本来の役割をバッチリ果たしてくれる。 こだわっているのは銃器描写だけではない。プレーヤーキャラの挙動も非常に多彩だ。しゃがんだり伏せたり、銃の構え方や歩き方が本物そのものなのは言うに及ばず、ハンドシグナルまで使えるのだ。実際の戦場では無線(Radio)を使うと近くの敵にしゃべり声が聞こえてしまい、作戦の内容や自分の現在位置を知らせてしまうため、手でメッセージをやり取りすることが多いが、これをゲームの中に取り入れたものは今まであまりなかった(Radioと連動するものはあったが、単独でできるものはこれがはじめてだろう)。
もうひとつ、伏せている最中に左右にゴロゴロと転がって移動することができるのも面白い(画面がぐるりと一回点するので、かなり目が回る)。せっかく遮蔽物に隠れて敵の弾を避けているなか、わざわざ立ち上がって移動する兵士もいないわけで現実に即した行動がゲーム内でもできるようになっているというわけだ。
■ チームワーク無しでは到底生き残れない AAOがE3にて発表された直後、ひとつの懸念が頭に浮かんだ。「AAOはアメリカ陸軍のシミュレーターゲームとして発表されたけど、現実そのまんまのゲームバランスにしたらゲームとして破綻しないだろうか……」というものだ。しかし、リリースされたAAOをプレイしてみるとその懸念はまったくの杞憂だった。AAOは銃弾のダメージや爆風によるダメージなどは、確かに現実に近いダメージ値が設定されており、結構不条理な死に方をすることも多い。しかし。シビアな面はあるもののゲームとして完全に破綻しているわけではなかったのだ。 たとえば実戦任務の一つであるBridge。ここは崖にかかった橋を舞台にしたステージで、守備側の守る橋を攻撃側がなんとか突破して対岸の兵員輸送車まで逃げ込むマップだ。一本道なので守備側は橋の途中にある小屋や建物の中にこもって進行してくる攻撃側を狙えば簡単にクリアできる。これだけ見ると守備側に圧倒的に有利に見えるが、攻撃側がまったくクリアできないわけではない。 橋の上の遮蔽物に身を隠し、一人が援護射撃をしている最中にもう一人が進む。開けたところではスモークを炊いて身を隠して慎重に進めば活路が見えてくる。単独では突破できないステージでも、チームが連携して進めるようになれば活路が見えてくるゲームバランスになっており、個人ではなくチームでの行動を重んじる陸軍らしいゲームバランスだといえるだろう。 とは言うものの、通常の販売されているゲームに比べて相当シビアなバランスであることに変わりはない。弾が実銃どおりにぶれるのでなかなか当たらないのが救いとはいえ、このゲームが一般的な値段で販売されてたら「バランス悪いー」と言う声と「いやリアルに近くていい」という賛否両論真っ二つにわかれたろう。ともかくこれだけの優れたゲームが200MB程度のクライアントをダウンロードする手間だけで入手できるのだから、素直に歓迎すべきことだろう。 さらにうれしいことにアメリカ陸軍公式サーバーがかなりの台数(100台以上はありそう)用意されているので、遊ぶ場所にも困らない。先週リリースされたパッチによってユーザー主導の準公式サーバー(認証サーバーへゲーム結果を送ることのできるユーザーサーバー)がたてられるようになり、日本国内でも順次建ち始めている。 唯一問題点を言えばユーザーデータの認証サーバーが落ちるとマルチプレイをすること自体ができなくなってしまうのだが、この認証サーバーがよく落ちるのだ。これだけはなんとかしてほしいのが正直なところ。とは言うものの、とりあえず遊ぶだけならタダ、7月4日のアメリカ独立記念日に配布が始まり全世界ですでに40万人がダウンロードしたと言われるこのお化けゲーム、FPS初心者の方もぜひ遊んでみてほしい。 あと、アメリカ陸軍が税金で作ったゲームということで「このゲームでいい成績出したら日本でもアメリカ陸軍にスカウトされたりしない?」とお考えの方もいると思うが、幸か不幸かそんなことはぜんぜんない。アメリカ以外からでもプレイするのにまったく問題はないと公式にコメントが出ているので安心して楽しんでほしい。
(C) 2002 AMERICAS ARMY.
□United States Armyのホームページ http://www.goarmy.com/ □「America's Army: Operations 'Recon'」公式ホームページ http://www.americasarmy.com/ □関連情報 【2002年7月4日】「America's Army: Operations 'Recon'」製品版 http://game.watch.impress.co.jp/docs/20020704/demo0704.htm (2002年7月15日)
[Reported by TYQ] |
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