★ PS2ゲームレビュー ★

冴え渡る剣技と絡み合う人間模様、剣客ゲームの決定版!
「侍~SAMURAI~」

  • ジャンル:本格侍アドベンチャー
  • 発売元:株式会社スパイク
  • 価格:通常版6,800円
  • プラットフォーム:プレイステーション 2
  • 発売日:2002年2月7日

【ゲームの内容】
 プレーヤーは明治時代に生きる無名の侍となり、黒生家(くろふけ)と赤玉党(あかだまとう)の対立激しい六骨峠を舞台に刀を振るう。開発は『天誅』のアクワイア、販売は『デコトラ伝説』、『ファイプロ』等のスパイクで、自由度の高いストーリー展開と臨場感溢れる戦闘シーンが魅力の時代劇アクションアドベンチャーに仕上がっている。刀を集めたり、技を覚えたりといったコレクション的な楽しみもあり、ストーリーの結末も多彩。何度でも遊ぶことができる。



 明治維新の時代に生きる侍たちの物語

 時は明治10年。明治維新による政変で、日本は外交的かつ近代的な中央集権国家を目指しつつあった。武家による封建時代は終息を迎え、それまで「侍」と呼ばれた男たちは行き場を失っていた。『侍』はそんな時代を背景にした、関東のはずれにある「六骨峠」にふらりと立ち寄ったひとりの侍の物語である。

 目下、六骨峠には「黒生家」と「赤玉党」という二つの勢力があった。黒生家はこれまで六骨峠を取り仕切っていた由緒ある武家だが、現在は地元警察官に袖の下を渡してヤクザまがいの活動を行なっている。赤玉党は侍の時代を取り戻そうと考え、各地で反乱を起こした士族によって発足した組織。「打倒明治政府」を掲げ、新時代に迎合して悪事を働く黒生家との臨戦体制を執っている。この二大勢力は対立を深め、一触即発の状態にあった。

オープニングムービーが雰囲気を盛り上げる。六骨峠には黒生家、赤玉党、そして明治政府による三つ巴の欲望と陰謀が渦巻いている。主人公はこれから何を行ない、どのような結末を迎えていくのか

 プレーヤーである名無しの侍(名前は自分で設定可能)は、この六骨峠でさまざまなイベントに遭遇しながらゲームを進めていくことになる。峠には黒生家屋敷に赤玉党本部、高炉、神社などの施設があり、そこに住まう人々や自然、建物の内部も緻密に描写されている。マップの全体像はそれほど大規模ではなく、数回もプレイすれば見知った土地であるかのごとく自在に闊歩できるようになるだろう。峠には朝、昼、夜の概念があり、時間や経過に応じた多様なイベントが発生してストーリーが枝分かれしていく。随時あちこち移動する必要があり、同じ場所でも幾つもの情景を持っているためか、六骨峠のマップが特に狭いという感覚はない。逆に移動の手間がかからず、「目的地にテキパキ行ける」という印象である。

六骨峠の全体図。各所には朝~夜の概念があり、時間によって起きるイベントはさまざま 高炉(溶鉱炉)のそばには蒸気機関車が走っている。これに激突すると轢かれてダメージ

 プレーヤーが行動できるのは二日間で、六骨峠のマップも前述のようにすぐに全体像を把握できるため、慣れてくれば1ゲームは2時間程度で終了する。1プレイが終了すると、エンディングとともに「普通の侍」、「噂の侍」といった称号が与えられ、侍経験値が加算されていく(累積する)。この値によって、さまざまな隠し要素が段階を追って増えるという特典がある。付け加えるならば、エンディングと称号もコレクションできるようになっている。  こうした盛りだくさんの追加要素、そして武器の成長システムから、『侍』は痛快なアクションと多様なストーリーを楽しみながら、繰り返し遊ぶタイプのゲームであることがわかる。1プレイの負担は決して重くないので気軽にプレイでき、やり込むほどにその密度が上がっていく感覚、六角峠での出来事をあらゆる立場で、あらゆる角度から見ていく過程……そこには、パズルのピースが埋まっていくような達成感がある。


 侍の誇りを貫くか、恥をさらして生き抜くか

 プレーヤーの行動は基本的に自由。黒生家や赤玉党に仕えるのは当然可能で、その両方に属したり、片方を裏切ることもできる。弱気を助け、強気を挫く正義の侍となるもよし、すべてを無視して通り過ぎる一匹狼となるもよし、道行く人に問答無用で斬りつけて「外道」扱いされるもまたよしである。出会い頭に恐喝してくるゴロツキや賄賂を要求する悪徳警官もいれば、助けを求める村娘、熱心に入党を勧める赤玉党員もいる。時には異なる勢力間の密会の現場に出くわすこともある。実にさまざまな人々が六角峠で生活している。

 さながら「ヤクザ対過激派」といった様相を呈する黒生家と赤玉党だが、各団体に所属するカリスマ性の高い登場人物たちも『侍』の世界を引き立てている。黒生家サイドは頑固一徹の頭首・黒生鉄心を筆頭に、その3人目の妻である黒生邑咲、喧嘩っ早い斬り込み隊長の坪八など。赤玉党サイドも、実は鉄心の息子である党首・吉兆やその恋人である異国の剣士・チェルシーといった、個性豊かなキャラクタたちが登場する。また、どちらにも属さない中立者や不穏分子も存在し、プレーヤーの選択によって彼らとの関わり方も大きく変わってくるのである。

【主要登場人物】
~黒生家~
黒生鉄心 黒生邑咲 坪内八郎 知床総一郎
黒生家を束ねる党首。かつて豪傑として名を馳せた 鉄心の三番目の妻で、後継ぎの金太郎の母。野心家 黒生家の若い衆をまとめる侍大将。短気で怒りっぽい 黒生家の参謀を務める冷徹な男。剣技は一流の腕前

~赤玉党~
吉兆 チェルシー 苅部星雲 日向隼人
赤玉党の党首。黒生家に対して敵対心を抱いており、様々な策略を企てている 吉兆の恋人であるイギリス人。剣術はかなりの凄腕 赤玉党の精鋭。黒生家との決着をつけたがっている 赤玉党の作戦参謀。切れ者で通っているが、剣術も得意

~その他~
すず ドナルド・ドナテロウズ 井の頭茂吉 堂島軍二
宿場の飯処「甘栗」の看板娘。祖父との二人暮らし 武士道に目覚めた異国のアフロ侍。通称「ドナドナ」 六骨峠の巡査。ことあるごとに賄賂を要求してくる 一本松にいる鍛冶屋。かつて「鬼軍二」と呼ばれていた

 プレーヤーの行動選択は主に会話で行なう。他のキャラクタに近づくと、話ができる場合はアイコンが表示される。このときに○ボタンを押すとフキダシと共に選択肢が現れ、ここから選ぶスタイルになっている。○を押さなければ「何も言わない」ということで話が思わぬ方向に進んだり、抜き身で近づけばいきなり戦闘になることもある。このような会話に代替する選択肢も豊富に用意されているので、キャラクタたちのいろいろな反応を楽しむことができる。なお、戦闘中に挑発や命乞いをすることも可能だ。

 朝、昼、夜の時間の経過は特定のイベントをこなすことで進行する。リアルタイムに時間が流れているわけではないので、じっくり考えて行動することができる。ただ、ある人物が通り過ぎる時に近寄って話しかける、またはある程度離れて密談を盗み聞きする、といったタイプのイベントもあるので、周りの風景にもよく目を凝らしておこう。

会話でどの選択肢を選んだかによってその後の展開も柔軟に変化する いきなり危機的状況。始まってすぐにこんな事態を迎える場合もある 黒生家、赤玉党への入隊も可能だが、トラブルを起こしていると門前払い


 剣戟アクションの真髄がここにある。

 シナリオに並んで、本作で特に力が注がれているのが、時代劇の立ち回りを再現したアクション部分である。基本的な攻撃は刀による弱攻撃、強攻撃と蹴り攻撃で、ボタンの押し方やアナログスティックとの組み合わせで多彩な技が出せる。ほかにジャンプと防御、走りなどの基本動作、そして「崩し」や「さばき」など独自のシステムが加わり、奥深い駆け引き要素を生み出している。キーレスポンスは良好で、斬り伏せたときの爽快感、くらったときの痛みもしっかり伝わってくる。アクション部分だけを取り出しても、剣戟格闘ゲームとしても十分成り立つほどに作り込まれている印象だ。話の流れで複数の敵に囲まれる状況も頻繁に起きるが、“手番”という概念でひとりずつしか攻撃してこないため、多勢に無勢でやられてしまうということもない。敵が何人いたとしても、基本は1対1である。

ただの斬り攻撃以外にもジャンプ斬りや浮かせ技、投げ技などアクションは多彩

 気をつけなくてはならないのが、刀には耐久力が設定されていることだ。プレーヤーが最初に持っている「中庸刀」は耐久力が3。敵に攻撃を続けると、3本ある耐久力ゲージが少しずつ赤く染まっていく。攻撃を止めれば赤ゲージは時間で回復するが、構わず斬りつけてゲージがゼロになれば、刀が壊れて耐久力が一段階落ちてしまう。中庸刀なら耐久力は2となり、ゲージ総量も2/3になる。つまり、耐久力が落ちるほど刀は壊れやすくなり、連続で攻撃しにくくなっていくのだ。もし耐久力が1の状態で壊れると、刃ごと折れて使い物にならなくなる。攻撃力の高い技ほど赤ゲージの増加値が高く、防御された時はさらに高い。強攻撃ばかり振り回していると簡単に折れてしまうので気をつけたい。なお、防御時には赤ゲージは増加しないので(一部除く)、壊れそうな時でも走り回って逃げる必要はない。

 一本松という場所にいる堂島という鍛冶屋に頼めば、完全に折れていない限り、刀の耐久値を回復してもらうことができる。料金はあと払いなので、金を払わずに済ませることも可能。ただしその場合は必ず鍛冶屋との戦闘になり、負ければゲームオーバー、勝てても二度と鍛冶屋を利用できなくなってしまうデメリットがある。

刀の赤いゲージが増えてきたら危険信号。すべて赤くなると壊れてしまう 堂島に頼めば武器を鍛えてくれる。武器が強いほど金額も高くなっていく

 また、戦闘中に突然「技」が閃くことがある。連続で突きを繰り出す技や、敵を高く浮かせて追撃できる技、また防御不可の投げ技など、数多くの技が用意されている。敵が稀に落とす秘伝書で覚えることもできるが、基本的には閃きがメインの習得方法となる。使用する技やヒット状況によって閃きやすさにも傾向があるようで、なかなか新技を覚えなくなったら、普段あまり使わない攻撃を使ってみるといいかもしれない。

 技にはもう1つ、「見切り技」というものがある。これは特定の強力な技のみが対象で、「合わせ」に成功すると一定の確率で習得できる。見切った技は、以後自動的に弾いてくれるようになるので、積極的に挑戦したいところだ。

技を覚えるとメッセージが表示され、1回だけ自動的に実行する 一度覚えた技は記憶され、メニューからいつでも確認できる

 本作固有のシステムに触れておくと、まず敵を押して怯ませる「崩し」がある。弱攻撃を敵に防御させた時、または自分が弱攻撃を防御した時に有効で、スキを作って畳み込むことができる。攻撃側と防御側が同時に押した場合は、攻撃側の崩しが成立する。  崩しに対抗する手段が「さばき」。使える状況は崩しと同じく弱攻撃の防御が絡んだ瞬間で、成功すると崩しにきた相手を受け流してスキを生じさせる。だが、相手が押してこなかった場合は自分だけが硬直してしまうことになる。

 ほかに、崩されたときの対応として「避け」という動作もある。これを行なうと敵に対して垂直方向に移動するので、追撃をかわして反撃することができる。ただし、技によっては避け方向が決まっていたり、狭い場所に追いつめられていると移動できないことがあるので、必ず成功するとは限らない。確実に避けるためには、地形を意識した立ち回りと敵の技に対する知識が必要になってくる。

 最後に、究極の防御法ともいえるのが「合わせ」である。これを使えば崩されたときはもちろん、ダウン中や空中など、自分がいかなる状態であっても防御可能。さらに防御の硬直がなく、合わせた瞬間からすぐに行動できるという優れもの。「敵の技が当たる直前に防御ボタンを一瞬だけ押す」という方法で行なえる。絶大な効果を持つだけに入力タイミングはシビアだが、習得できたらこれほど強力なものはない。連続攻撃をくらったり、浮かされたときには、ダメでもともとという思いで常に入力するクセを付けておくといい。

これが「崩し」。成功すると敵が上段に構えたまま無防備になる。反撃のチャンス 「さばき」は相手が崩しにきたときのみ有効。読みが外れるとスキができてしまう

 これらのアクションを駆使して、主人公は各所で大立ち回りを演じていく。ゲームレベルは「ふつう」と「やさしい」から選べるが、正直な感想として、「ふつう」は初めて遊ぶにはかなり難しく感じた。アクションの腕に覚えがあるという方以外は、コツをつかむまで「やさしい」を繰り返すことを勧めたい。何度も戦っていれば敵ごとに主力技の性質や崩し、さばきを行なうポイントもわかってくるはずだ。


 合計40種以上! 鍛えるほどに武器はどんどん強くなる

 プレーヤーが閃くことで使えるようになる「技」は、プレーヤーではなく武器ごとに設定されている。武器は敵を倒せば必ず落とし、大きく分けて上段構え、中段構え、下段構え、片手刀、脇差、忍者刀の6タイプがある。その種類は合計40種以上にも及ぶ。手に入れた武器はゲームをクリアすると持ち帰って刀蔵に納め、次以降のゲームに持ち込むことができるようになるのだ。こうして少しずつ集めた武器を鍛え上げ、刀蔵のコレクションを埋めていくのは楽しい限りである。ただし主人公が途中で倒れてゲームオーバーになると、その時持っていた武器は永遠に失われてしまう。ゲーム中のセーブもできないため(中断は可能)、大切な武器を持ち込む際は倒れたときのことも覚悟しておこう。

 主要なキャラクタはほぼすべてが専用武器を持っているため、多くの武器を集めるためには、さまざまな筋道を通り、あらゆるキャラクタを一度は倒す必要があるわけだ。さらに持ち帰れる武器は1ゲームにつき3本まで。鍛冶屋で1本だけ刀蔵に届けてもらうことができるが、これを含めても4本。すべての武器をコンプリートし、それぞれを究極まで鍛え上げ、見切り技も含めてあらゆる技を覚えるには、相当な時間がかかるはずだ。これ以外にも多数のフィーチャーがあるので、昨今のゲームに物足りなさを感じているヘビーユーザーでも、十二分に遊び込む土壌が用意されているといえるだろう。

クリア時に持っていた武器は刀蔵へ保存。次のゲームに1本だけ任意に持っていける キャラクタによって持っている武器も異なるので、いろいろな敵を倒してみよう

 武器以外のアイテムには、金、秘伝書、食べ物がある。秘伝書は武器に付加される「攻撃力」、「防御力」、「体力」の補正値アップ、「技習得」、「見切り技習得」の5種類、食べ物は「ひよこういろう」、「あじの塩焼き」、「大根」、「キノコ」の4種類がある。食べ物は体力を回復する唯一の手段で、持ち運びは不可。落ちている(生えている)場所は決まっているのでしっかり場所を覚えておきたい。キノコは効果がランダムで、体力が減少することもあるので注意してほしい。

アイテムは刀を抜いていない状態で□ボタンを押せば取れるが、蹴り攻撃でも跳ね上げて取ることができる。蹴り攻撃はモーションも早く、戦闘中でも取れるので便利


 何度かプレイを続けるうちに、明確に語られない登場人物の考え方なども漠然と読み取れてくる。例えば黒生家は一見すると典型的な悪役のようだが、権力に屈するのも資金が窮乏した一族の生き残りを優先してのことであり、そのために武士の誇りを捨てざるを得ない苦悩があるように思える。また、黒生家と赤玉党は全面対決のムードが高まる一方で、それぞれの長である鉄心と吉兆は、双方父子で直接剣を交えるのは避けたいと考えているフシがある、といった具合である。これらの例は単なる筆者の感想であり、考え違いの可能性は多分にある。その場合は深く頭を垂れるばかりであるが、自由度の高いゲーム性も相まって、少なくとも六角峠の住人たちが紡ぐ人間模様は本作の大きな魅力として映った。



(C) 2002 Spike/ACQUIRE

□スパイクのホームページ
http://www.spike-online.net/
□製品情報
http://www.spike-online.net/samurai/
□関連情報
【2002年1月16日】正義の用心棒にも悪の首領にもなれる!!
スパイク、時代劇アクション「侍 ~SAMURAI~」
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20020116/samurai.htm

(2002年2月5日)

[Reported by 氏家雅紀]

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ウォッチ編集部内GAME Watch担当 game-watch@impress.co.jp

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