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「パキスタンには俺より強い奴が沢山いる」は本当だった! 「Tokyo Tekken Masters 2019」、パキスタンから初来日のAtif Butt選手が堂々優勝

10月26、27日開催

会場:バンダイナムコ未来研究所

 10月26~27日にかけて開催された「鉄拳7」の世界大会「Tokyo Tekken Masters 2019」。日本開催の大会では最高レベルの混戦が予想される本大会は、今年で3度目の開催となる。過去2回の大会は共に韓国の選手が優勝を果たしており、ホーム開催の大会で、日本勢は3度目の正直で韓国勢に打ち勝つことができるのかに注目が集まった。

 しかし蓋を開けてみると、大会は「鉄拳」の伝統である“日本と韓国”の戦いにはならなかった。世界大会として本大会には日韓をはじめ、フィリピン、ペルーなどを含む計28カ国からのプレーヤーが参戦した。国際化する「鉄拳」プロシーンが明確に反映された本大会だが、その中で最も影響力のあるファクターがパキスタン勢の存在だ。

 昨年の「Tokyo Tekken Masters」の時点では、パキスタンに「鉄拳」コミュニティが存在していること自体、誰も知らなかった。これは、パキスタンがネット環境などが整わない途上国であり、ビザ取得にも難がある閉鎖的な国であることが所以だろう。そんな彼らが脚光が浴びたのが、2019年1月に福岡で開催された「EVO Japan」である。無名であったパキスタン人のArslan Ash選手が、錚々たる強豪たちに打ち勝ち優勝しただけでなく、こんなコメントを残したのだ。「パキスタンには俺より強い奴が沢山いる」と。

 その彼が以前からパキスタンの強豪プレーヤーとして名を挙げていたのがAwais Honey選手だ。そんなAwais Honey選手が、自身の強さを証明すべく、初めての来日を果たしたのが本大会なのだ。「鉄拳」エリートが揃う韓国勢に加え、ダークホースのパキスタン勢が立ちはだかる中、我らが日本勢はホーム開催の本大会にて優勝の座を守ることができたのだろうか?

【Tokyo Tekken Masters 2019】

まさに異次元の強さ、パキスタン勢の前に続々と敗れる日本人プロ選手たち

 10月26日に1日がかりで執り行われた予選の末、総勢262名からTOP32に残ったのは日本人19名、韓国人10名、フィリピン人1名、そしてパキスタン人2名となった。日本勢が数多く残る中、注目のパキスタン勢はAwais Honey選手に加え、彼と一緒に来日したAtif Butt選手の両名がウィナーズに残っている。Awais Honey選手はArslan Ash選手の太鼓判通りの強さを発揮し、予選は1試合も落としていない。Atif Butt選手も未知数のプレーヤーだが、国内トップ選手のタケ。選手を2-0で倒したところを見るに、その実力は確かだ。

Atif Butt選手(左)タケ。選手(右)

 そんな両名の使用キャラクターは豪鬼だ。本来「鉄拳」にはない、ゲージや必殺技キャンセルの概念を駆使し、変則的な戦いを仕掛けるのが特徴で、従来の「鉄拳」で培ったセオリーのみでは倒せないキャラだ。両名はセービングキャンセルや壁を巧みに使ったコンボに長けており、豪鬼の熟練度は相当なものだ。さらに、リーチの短い豪鬼では難しいはずのスカし確定や下段への反撃も一級品で、「鉄拳」というゲーム自体への理解度もかなり深いようだ。

 予選を経て、彼らの強さが本物だということは証明された。とはいえ、どんなに強いプレーヤーであっても、世界最高レベルのこのTOP32を勝ち抜くのは簡単ではない。誰もがそう思う中、彼ら2人の快進撃は止まることを知らなかった。EVO2018覇者のLowHigh選手や、TWT2018覇者のRangchu選手といった実績のある韓国トップ選手ですら2-0で彼らの前に敗れていく。

 日本「鉄拳」界の若手筆頭であるダブル選手は、TOP32とTOP8で計2回Awais Honey選手と相まみえた。ダブル選手の使うロウは、豪鬼の強力なしゃがみ右パンチに対してリターンを取れるプレッシングキックや、セービングに対して有効なスライディングなどの技を持っているため、決して豪鬼に対して不利なキャラクターではない。しかし、普段であれば展開の速さで相手を圧倒するダブル選手も、今大会ではAwais Honey選手に2度敗れてトーナメント敗退という結果になった。しかもカウントは両試合共に2-0だ。Awais Honey選手のリスク管理が徹底された立ち回りにはまるで隙が無く、それでいてコンボにも一切妥協がない。ダブル選手にとってはまさに絶望的な試合内容だった。

Awais Honey選手に負けてうなだれるダブル選手

 知名度では日本一と言っても過言ではない、ベテランプロプレーヤーのノビ選手ですら、Atif Butt選手に一太刀を浴びせることすら叶わなかった。ノビ選手は「鉄拳5」からドラグノフを使い続けており、ベテランならではの切れ味のある攻めが真骨頂だ。しかしその攻めもAtif Butt選手にことごとく凌がれ、気づけば試合のペースはAtif Butt選手に。最終的にはしゃがみ右パンチからの高火力コンボに翻弄され、ノビ選手も2-0で敗れた。

圧倒的な強さに驚きを隠せないノビ選手

ラストサムライ チクリン選手

 日韓勢が総崩れの中、TOP3に残ったのはパキスタン勢両名と、日本のチクリン選手だった。彼らを止めるのはもうチクリン選手しかいない、「ラストサムライ」としてチクリン選手に期待がかかる。実はチクリン選手は、Arslan Ash選手が一日にして名を挙げた「EVO Japan 2019」にて、彼とTOP8で対戦し敗れており、パキスタン勢の強さにいち早く気づいたプレーヤーなのだ。その後彼は自らパキスタンへ赴き、数日にわたって現地のプレーヤーたちと対戦、武者修行を行なった。彼は現地でAwais Honey選手、Atif Butt選手の両名とも対戦経験があり、その時の対戦結果は振るわなかったものの、日本勢の中で最もパキスタン勢を理解している選手だ。

 会場の期待を一身に背負うチクリン選手に、まず立ちはだかったのはAtif Butt選手だ。チクリン選手の使用するギースというキャラは、豪鬼と同じようにゲージや必殺技キャンセルを持つ変則的キャラクターだ。しかしシーズン3に入ってから、ギースにはゲージ回収率に大幅な弱体化が施されており、試合はゲージ差が顕著に出る展開となった。得意の攻めで序盤から積極的にゲージを貯めるAtif Butt選手に対し、防戦一方のチクリン選手にはまるでゲージが貯まらない。この差がコンボダメージに露骨に反映され、小技からのリターンを取れないチクリン選手はより後手に回ってしまう。試合は終始Atif Buff選手ペースのまま、まさかの3-0でチクリン選手は敗れてしまった。

チクリン選手(左)Atif Butt選手(右)

 ルーザーズに落ち後がなくなったチクリン選手に、今度はAwais Honey選手が挑んでくる。日本勢の面子を保つためにも、なんとしても勝ちたいチクリン選手。そんな彼に運が味方するかのように、初戦はギースに有利に働く無限ステージが選ばれた。その動きから見るに、チクリン選手は確実に豪鬼対策を練ってきている。灼熱波動拳に対する横移動や、百鬼襲に対するジャブ対空、要所での下段捌きなど、細かい対策は万全だ。しかし、ステージや対策などもろともせず、Awais Honey選手は淡々とラウンドを取っていく。堅実な立ち回りと、要所での勝負強さで、たちまちAwais Honey選手が2-0でリードする。

Awais Honey選手(左)チクリン選手(右)

 本当に後がなくなったチクリン選手は、有利であるはずのステージを放棄し、イチかバチかで壁ありのステージを選択した。この選択が功を奏したか、壁際でのゴリ押しにも見える邪影拳の攻めが通り、なんとかチクリン選手が1ゲーム奪い返す。日本勢がAwais Honey選手から1ゲーム奪ったのはこれが初めて!

 しかし、続く第4ゲームはAwais Honey選手が得意の寺ステージを選択し、再びチクリン選手を圧倒。大足払い、右パンチ、魔法の様に技が当たり、みるみるうちにギースの体力が減っていく。第4ゲームでチクリン選手は1ラウンドも勝てないまま、試合は3-1でAwais Honey選手の勝利、そして「Tokyo Tekken Masters 2019」の決勝戦はパキスタン勢同士のカードとなった。しかし、パキスタン勢、なんと強いのだろう!

トーナメント敗退が決定したチクリン選手

パキスタン勢同士の決勝、新時代の到来

 決勝戦、これまで圧倒的な強さを見せつけ、今までの「鉄拳」界の常識を打ち壊したパキスタンの両名が、異次元の「鉄拳」を繰り広げた。豪鬼同キャラ戦となった決勝戦だが、両者一歩も引かず、試合は高度なコンボ、差し合い、そして反撃の応酬となった。両者とも、反応速度、判断力、コマンド精度どれをとっても前代未聞の水準を持っており、とてもじゃないが真似できる動きではない。彼らを目の当たりにして、会場は口をあんぐりと開けてただただ試合を眺めるばかりだ。

Atif Butt選手(左)Awais Honey選手(右)

 2-2までもつれた決勝戦は、堅実なAwais Honey選手を、Atif Butt選手が持ち前の当て勘でこじ開ける展開となった。高度な読み合い、間合い管理が繰り広げられる中、Atif Butt選手のセオリーを無視した大足払いや昇竜拳が光り、接戦の末Atif Butt選手が勝利した。優勝したAtif Butt選手には賞金5,500ドルがバンダイナムコの原田勝弘プロデューサーから授与された。

原田P(左)Atif Butt選手(右)

 原田PはTOP8全員を称えると共に、パキスタン勢の活躍に対して、「歴史が変わった瞬間を目の当たりにした」とコメントした。昨年まではその存在すら知られていなかったパキスタンの「鉄拳」コミュニティが、今では日本開催の「Tekken Tokyo Masters」を完封するまでになっている。これはまさに「鉄拳」新時代の到来といっても過言ではない。

 トーナメント後、筆者はパキスタン勢両名に話を伺った。この大会は楽勝でしたか?と質問すると、「そんなことはない。日本のプレーヤーたちはみな強く、勝ち上がるのは非常に困難だった」と謙虚なコメントをしてくれた。そんな彼らの今後の目標はTWT(鉄拳ワールドツアー)決勝大会で優勝することだそうだ。今日の結果を踏まえればその目標は簡単に達成できてしまいそうだ。TWT決勝はもう間近、日本勢はそれまでにパキスタン勢を研究し、彼らに一矢報いることはできるのか。新時代が幕を開けた「鉄拳」プロシーンの今後に目が離せない。

インタビューに答えてくれたAwais Honey選手