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「鉄拳7」チームジャパン一歩及ばず、因縁の日韓戦に惜敗!
格闘技の祭典「ONEチャンピオンシップ」で勃発したハイレベル鉄拳マッチ
2019年10月6日 09:19
「パワプロ」のプロリーグが日本野球機構との共催になっていたり、F1のeスポーツシリーズに現役のF1選手が参戦したりと、昨今のeスポーツ競技はフィジカルスポーツとの距離をどんどん縮めている。格闘ゲームもeスポーツ競技としての地位を確立しつつあるゲームジャンルの一つだが、果たして格闘ゲームは格闘技たり得るのだろうか?
ベルサール渋谷ガーデンにて開催された「ONEチャンピオンシップ マーシャルアーツ・ファンフェス」は、シンガポールに拠点を置くアジアの総合格闘技団体「ONE」が主催したイベントだ。当イベントでは世界中からプロ格闘家、そしてプロゲーマーが招待され、格闘技と格闘ゲームの大会が同じ会場で行なわれた。
会場の反対側からゴングの音と怒号が聞こえる、そんな異様な環境下で行われた「鉄拳7」の招待制大会「ONE TEKKEN トーキョー・インビテーショナル」。国際大会と遜色ない、トップレベルの戦いになった本大会に挑んだ日本人プレーヤーたちの姿を追った。
当日になって欠員が……チームジャパンにとって波乱の幕開けとなった本大会
本大会は3on3の招待制大会で、参加チームはチームジャパン、チームコリア、チームオールスター、そして当日予選通過チームの全4チームだ。チームオールスターにはアメリカからAnakin選手、タイからBook選手、フランスからSuper Akouma選手が招待され、まさに「鉄拳」界のスターが揃った。チームコリアのメンバーはTWT 2018決勝覇者のRangchu選手をはじめ、Ulsan選手Chanel選手と精鋭揃いの選手が招待されている。
そんな世界の名だたる強豪たちに立ち向かう、日本を代表するチームジャパンのメンバーは、弦選手、ダブル選手、ぺコス選手の3名……のはずだったが、なんと当日朝になってぺコス選手が家庭の事情により欠場することとなった。幸先の悪いスタートを切ることになってしまったチームジャパンだが、彼らに本大会に臨む意気込みを聞いた。
ぺコス選手のことに触れると、「そうなんです……」と困惑した様子の弦選手とダブル選手。この時点ではどういった処置が下されるのか本人たちも知らない状況だ。しかしすぐ「僕たち2人でも勝算はあります」と力強く答えた。大会へ臨む想いを訊くと両名は「最近はプロライセンスの発行もあり、国際大会などでは日本代表としての意識を持ってプレイしています。本大会でも日本代表として、ONEの期待を裏切らないパフォーマンスをし、観客のためにも是非とも優勝したいです」とその決意を語ってくれた。
大会が始まるとぺコス選手の穴を埋めるため、同じくプロライセンス保有者のじょうたろう選手が助っ人としてチームジャパンに参加した。日本人プロの中でも比較的若手で勢いのある選手揃いになったチームジャパン。彼らは意気込み通り優勝することができるのだろうか。
立ちはだかるアメリカの強豪Anakin
チームジャパンの本選一戦目の相手はチームオールスターとなった。チームオールスターはこの時点ですでに予選通過チームを撃破しており、この試合の勝者がチームコリアとの決勝に進むこととなる。
先鋒戦はじょうたろう選手対Super Akouma選手の対決となった。Super Akouma選手は全一豪鬼の呼び声もあるフランスの強豪で、なんといってもコンボ精度が特徴のプレーヤーだ。「鉄拳7」において豪鬼のコンボ期待値は群を抜いて高いが、壁の位置と角度、相手キャラクターの体格などを考慮しなければいけないため、最大ダメージを出すのは非常に難易度が高い。しかしSuper Akouma選手はその圧倒的練習量から、あらゆる状況から最大コンボを決めてくる爆発力のあるプレーヤーだ。
対するじょうたろう選手は、「FFXV」からのゲストキャラクターであるノクティスをメインに据えるプレーヤーだ。ノクティス使いは数が少ないため、相手の対策不足を如何に突けるかが勝利の鍵となる。そんな中、先鋒戦はノクティス特有の中間距離からの攻めが光り、じょうたろう選手の勝利となる。次にステージに上がったのはタイのBook選手。オールラウンダーとして評価が高い仁使いだ。
この試合も、勢いに乗ったじょうたろう選手の攻めが立て続けに通り、チームジャパンの勝利となる。チームジャパンの決勝進出まで、残るはチームオールスターの大将、アメリカのAnakin選手一人となった。実はこのAnakin選手は、大会前のインタビューで弦選手、ダブル選手が共に一番怖いプレーヤーとして挙げていた選手だ。丁寧な地上戦と、優れた当て勘からくる絶妙な技振りを武器とするAnakin選手は、一筋縄で勝てる相手ではない。勢いのあったじょうたろう選手だが、ここでAnakin選手に惜しくも敗れてしまう。
チームジャパンの中堅はLiquid所属の弦選手、使用キャラクターは今シーズン強化されたシャヒーンだ。Anakin選手の地上戦に付き合わず、シャヒーンの強化点であるスライディングを要に立ち回ってはいたが、それでも要所でダメージを取られてしまい弦選手も敗北する。チームジャパンの大将はチーム最年長であるダブル選手だ。チームジャパンの決勝進出に期待がかかる中、プレッシャーも相当なものだっただろう。しかしダブル選手は、チームメイトの敗北を消して無駄にはしなかった。あえて狭いステージを選択し、Anakin選手の逃げ場を断ってから怒涛の攻めを展開した。
大会前に語ったAnakin選手への苦手意識などは微塵も見えないまま、ダブル選手が速い展開で攻めを通し、試合はチームジャパンに軍配があがる。逆3タテが見える展開でもあったが、執念で決勝進出を決めたかたちとなった。
やはり鉄拳最強国は韓国なのか?
決勝でチームジャパンを待ち受けていたのは、チームコリアだ。「鉄拳」シリーズは昔から韓国プレーヤーの存在感が大きく、日本プレーヤーはその陰に隠れてしまう傾向があった。今回日本を代表するのはeスポーツ時代を代表する若手選手3名、オーディエンスからは番狂わせを望む声援が飛び交う。
先鋒戦はじょうたろう選手対CHANEL選手のカードになった。使用キャラクターアリサの特性も相まって、防御に定評のあるプレーヤーだ。対するじょうたろう選手は直前の試合でも2タテをやってのけ、その攻めは勢いに乗っている。試合は一進一退の攻防になり、ラウンド数2-2までもつれる。実力は拮抗しているが、じょうたろう選手がアリサの強みである横移動を確実に咎めていき、徐々にペースを握っていく。接戦の末勝利したのはじょうたろう選手。チームコリアは続けて中堅のRangchuを投入する。
Rangchu選手はTWT 2018覇者でありながら、最弱キャラクターともいわれるパンダを使用する選手だ。キャラパワーでは平均値に満たないが、パンダ特有の不規則な攻撃を巧みに使いこなす、独特な強さを持ったプレーヤーだ。パンダの慣れない攻め、そして独特の体格に苦戦する場面も見られたが、じょうたろう選手の勢いは止まらない。リスクの高い技を積極的に振っていく姿勢が功を奏し、チームジャパンはTWT王者をも破り優勝へ王手をかけた。
チームコリアの大将として出てきたのは19歳のUlsan選手。古豪揃いの韓国「鉄拳」界で急成長している若手の最注目株だ。彼がじょうたろう選手の勢いに歯止めをかける。Ulsan選手は反応速度を活かし、相手のミスを誘い反撃を決める、堅実かつ強力なプレイスタイルをとってくる。勢いに乗っているじょうたろう選手は大ぶりの技で攻めを仕掛けにいくも、Ulsan選手に巧みに捌かれ、敗北してしまう。
続いて弦選手がUlsan選手に立ち向かう。彼らは同じ19歳同士、それぞれの国を背負う若手プレーヤーとして、負けられない対戦となった。弦選手は大会前、韓国人プレーヤーには自信がある、なんとしても結果を残したいと述べていた。しかしそんな想いとは裏腹に、試合はUlsan選手のペースで進む。距離を詰めたい弦選手の動きに対し、Ulsan選手は確実に置き技で対応し、冷たくあしらっていく。最後には勝負のレイジアーツもガードされ、Ulsan選手の勝利となった。
大将戦にまでもつれた決勝戦、最終戦のカードはダブル選手対Ulsan選手となった。ダブル選手は大会前、「自分の攻めの速さに注目してほしい」と語っていた。しかし相手は鉄壁Ulsan選手、ダブル選手得意の攻めがどこまで通るかが勝負の鍵となる組み合わせとなった。
両者の実力は互角に見えたが、やはり試合のペースはUlsan選手が握っているようだった。ダブル選手は持ち前の速い展開に持ち込めず、お互いが小技で削り合うような展開になっていった。小技の応酬ではやはりUlsan選手に分があるように思えたが、ダブル選手も針孔を通すようにコンボを決めていき、試合はラウンド数2-2までもつれる。
オーディエンスが固唾をのんで見守る中、Ulsan選手が壁を使った大ダメージコンボを決め、ダブル選手は惜しくも敗北。Ulsan選手は決勝の場で3タテを決め、「ONE TEKKEN トーキョー・インビテーショナル」はチームコリアの優勝となった。
惜しくも準優勝となったチームジャパンには、賞金495,000円が授与された。コメントを求められるとダブル選手は、「本当に悔しいです。大将である自分があそこでUlsanを倒せてたらと思います。」と語った。惜敗だっただけに悔しさも大きいだろう。
さて、格闘技と同会場という画期的なアイデアのもと開催された本大会だが、格闘ゲームが格闘技として認知されるには、まだ壁があるように感じた。筆者は長年の格闘ゲームファンであり、本大会のハイレベルな試合にはもちろん大満足だったが、全く知識のない格闘技を生で観戦し、その迫力に驚かされた。やはり命がけで戦っている選手たちを目の当たりにすると、自然と興奮してしまう。それに対し格闘ゲームは、体格のハンディキャップや性別を超越して平等に戦える、という利点はあるものの、画面を介している分知識のない人にはその迫力が伝わりにくい。
しかし格闘ゲームにおいても、人生をかけて練習し試合に臨んでいる選手たちがいるわけだから、彼らの努力や取り組みがオーディエンスに伝われば、画面の中の戦いも現実味が出てくるのではないかと思う。今回激戦を披露してくれたプロプレーヤーたちは、命がけで戦う格闘家たちと同等のリスペクトを受けるべきアスリートだ。今回のイベントを通じて、いつか彼らが格闘家たちと同じように、観客を刺激し感動させるような存在になってほしいと改めて感じた。