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「鉄拳7」世界大会最後の1枠は“ラホールの強心臓”パキスタンBilal選手に

“修羅の国”パキスタンもついに総力を投入。最終予選は世界対パキスタンの構図に

12月7日開催

会場:KBank Siam Pic-Ganesha Theatre

 「Tekken World Tour 2019」(以下TWT2019)は、5月~11月にかけて開催された「鉄拳7」の世界リーグだ。熾烈な戦いが続いた本リーグも、12月8日にバンコクにて開催される決勝大会をもって幕引きとなる。その決勝大会を控えた12月7日、決勝の最後の1枠を懸けた当日予選が開催された。

 TWT2019決勝大会は、リーグ通算ポイント上位19名と当日予選を勝ち抜いた1名の計20名で争われる。つまり、当日予選を勝ち抜いた選手は、これまでのTWT2019の成績に関わらず、決勝大会に進出することができる。その一枠を求め、世界中から250名を超える鉄拳プレーヤーが集まった。その中には惜しくも上位19名に届かなかった者もいれば、全くポイントを持たない者もいる。

 日本・韓国に加え、新勢力のパキスタン、さらにはフィリピンや地元タイまで、様々な国のトッププレーヤーが集まった当日予選は、誰が勝ってもおかしくない大混戦になった。賞金やリーグポイントもでない、優勝者1名だけが報われる過酷な予選の模様を、現地からレポートする。

TEKKEN_JPのTEKKEN WORLD TOUR 2019 FINALS 最終予選をwww.twitch.tvから視聴する

【Tekken World Tour Finals 2019 当日予選】

打倒パキスタンなるか!? パキスタンVS日本!

 今大会の注目はなんといってもパキスタンの選手たちだ。彼らは、何十年と歴史がある「鉄拳」の競技シーンにおいて、今年になって登場した新勢力だ。しかも彼らの実力は、これまで強かった日本や韓国の選手たちを容易に凌ぐ強さで、彼らの台頭は鉄拳eスポーツシーンを大いに揺るがした。

 そんな彼らだが、パキスタンの国政の影響から、国際大会へ出場する機会に恵まれず、実力は十分でもリーグのランキングでは圏外の選手が多数いる。実際トップ19名に食い込めたのは、アメリカ開催EVO2019覇者のArslan Ash選手と、UAE開催Rox n' Roll Dubai覇者のAwais Honey選手の2名のみだ。しかし地元パキスタンの大会を見れば分かるように、パキスタンではこの2名がダントツのトップ2というわけではなく、彼らに勝るとも劣らない選手が多数いる。

 本予選には、Arslan選手・Awais選手に続こうと、Tokyo Masters覇者のAtif Butt選手(参考記事)や、パキスタン開催のTakra Cupで2位だったThe JON選手(参考記事)など、パキスタンから10名弱の選手が参戦している。言うまでもなく、TWT2019に緒戦から参加していれば、累計ポイントで上位19位に入ったであろう強者ばかりだ。

プールでのAtif Butt選手
The JON選手(中央)

 本戦出場が確定しているArslan Ash選手やAwais Honey選手も同郷の選手たちを応援しようと予選会に駆けつけていた。話を聞くと「こうしてパキスタンの選手たちが海外大会に出れるようになって本当にうれしい。これからはパキスタンの時代だ」と語ってくれた。

写真に応じてくれたEVO 2019覇者のArslan Ash選手

 そのパキスタン勢は、これまでノーマークの状態をいいことに連戦連勝だったが、今回は風景が一変していた。日韓をはじめとする歴戦の鉄拳プレーヤーたちはみな、本予選に備えパキスタン対策を入念に練ってきていた。それに伴い、会場にも打倒パキスタンの雰囲気が漂っている。誰かがパキスタン勢に勝つと全体から歓声が沸く、そんな状況だった。

 プール序盤では前評判通りに易々と駒を進めていたパキスタン勢だったが、中盤になるにつれ彼らにも徐々に危うい試合が見られ始めた。Atif Butt選手対日本の太平洋選手の試合では、結果としてAtif選手が勝利したが、ゲームカウントは2-1で、内容では太平洋選手が肉薄していた。太平洋選手曰く「今までは豪鬼戦で皆怖がりすぎていました。相手のゲージを見ていれば攻め時は必ずあります。」とのことで、今まで絶望的に思われていた豪鬼戦も攻略の糸口が見えてきている様だ。

太平洋選手(奥)Atif選手(手前)
負けて悔しそうな太平洋選手

 続いてはLiquid所属の弦選手対パキスタンのHeera選手の試合。Heera選手はパキスタン一のスティーブ使いとして有力視されているプレーヤーだ。対する弦選手は小学生のころから鉄拳をプレイする、現19歳の若手プレーヤーだ。両陣営にはそれぞれの国のサポーターが付き、試合の行方を見守っている。

弦選手(中央左)Heera選手(中央右)

 弦選手の側にはノビ選手をはじめとした日本勢のみならず、日本にとって宿敵の韓国の選手までもが応援についている。対するHeera選手サイドにはArslan Ash選手をはじめとするパキスタンのプレーヤーたちがついている。両陣営が固唾をのんで見守った試合は、弦選手のシャヒーンが上手く立ち回り、Heera選手の得意とするカウンター戦術を機能させないまま勝利した。ここ数か月パキスタン勢のために練ってきた対策が芽吹いた瞬間だった。

Heera選手を見守るパキスタンの選手たち
弦選手勝利の瞬間の日本陣営

 お次は日本の影丸選手VSパキスタンのThe JON選手の試合だ。The JON選手は前述の通り地元開催の大会でAwais Honey選手他多数の強豪プレーヤーを抑え2位となった、予選通過候補の1人だ。対する影丸選手は「鉄拳6」の頃からプレイするベテランプレーヤーだ。

The JON選手(中央左)影丸選手(中央右)

 先ほどと同じように、それぞれの陣営にサポーターがついている。これらの試合はもはや個人間の試合ではなく、鉄拳eスポーツシーンの新たな勢力図を決める対決なのだ。試合は1-1までもつれた後、影丸選手の年季を感じさせる落ち着いた立ち回りがThe JON選手を上回り、影丸選手の勝利となった。試合後にコメントを求めると影丸選手は「声援のおかげで、気持ちよくプレイできて、それが要因で勝てたと思います。」と述べた。

影丸選手勝利の瞬間

 パキスタンの台頭で一時は下火になったかと思われた日本人選手たちだが、彼らはこの数か月間確実に準備をし、この大舞台で結果を残した。一丸となって互いを応援している彼らを見るに、鉄拳eスポーツシーンをパキスタン勢に譲るつもりはまだまだないようだ。

地元Book選手も健闘!波乱のTOP8

 8時間以上にわたって繰り広げられた当日予選の末、TOP8まで勝ち抜いたのは、フィリピンのAK選手、地元タイのBook選手、韓国のJeondding選手・Eyemusician選手、日本の弦選手・影丸選手、そしてパキスタンのAtif Butt選手・Bilal選手だ。前評判では8名ともパキスタン勢でもおかしくないほどと言われていたが、各国の選手が大健闘し、TOP8は総勢5か国の選手で争われることとなった。

 まず注目すべきなのがBook選手対Atif Butt選手のカードだ。パキスタン最強の呼び声もあるAtif選手に相対するは、地元タイから唯一のTOP8入りを果たした孤高のプレーヤーBook選手だ。観客席には大勢のタイ人サポーターもおり、Book選手としては負けられない一戦だ。

タイのBook選手

 もつれるかと思われたこの試合だが、蓋を開けてみるとBook選手がAtif選手を圧倒する展開になった。Book選手も相当豪鬼戦を研究してきているようで、安易な跳びや下段を一切通さず、さらには“Atif体操”とまで呼ばれるようになったAtif選手のしゃがみ右パンチに対しても、右回し突きなどで積極的にリスクを負わせている。

Book選手の仁の右回し突きが炸裂する

 Book選手の活躍に、会場は大いに盛り上がった。Book選手の攻撃が当たるたびに歓声が沸く。するとAtif選手は雰囲気に圧倒されたか、次第にミスが増えていき、そのままBook選手が勝利。会場は拍手と歓声に包まれた。

地元ヒーローの勝利に盛り上がる観客
声援に応えるBook選手

 会場の支えもあり、勢いは十分かと思われたBook選手だが、彼が敗北を喫した相手がパキスタンのBilal選手だった。彼はArslan Ash選手がパキスタンの最強プレーヤーの一人として名を挙げる選手で現地パキスタンでは“ラホールの強心臓”という異名を持っていることでも知られる。

Bilal選手

 Bilal選手のプレイはその異名に違わない積極的なスタイルで、TOP8の面々を次々と破っていった。Heera選手を破った弦選手でさえ、彼の豪鬼の前に敗れてしまう。Bilal選手の持ち味はなんといってもその距離感覚だろう。細かな動きはせず、どっしりと相手の様子をうかがっているかと思えば、不意に連続前ダッシュで一気に間合いを詰めてくる。その自信に満ちた立ち回りに、圧倒されてしまう選手が多いようだ。

Bilal選手の豪鬼(左)弦選手のシャヒーン(右)

 しかもBilal選手の持ちキャラは豪鬼だけではない。対Book戦では、先ほどのBook選手の豪鬼対策の仕上がり様を見てか、ブライアンを選択していた。会場は依然としてBook選手応援だが“強心臓”はそんなアウェー感はもろともしない。持ち前の前ダッシュでBook選手を壁際まで追い詰め、コンボ後には挑発の起き攻めでダメージを奪ってくる。Book選手も健闘はしたものの、惜しくも敗れてしまった。

握手を交わすBilal選手(左)Book選手(右)

 試合後にBook選手に話を聞くと、「負けてしまった。本当に情けない。」と、自国開催の大舞台で優勝できなかったことを悔やんでいた様子だった。

写真に応じてくれたBook選手

結局勝ったのはパキスタン! Bilal選手の快進撃

 順調に決勝まで駒を進めたBilal選手、彼の相手はフィリピンの19歳AK選手だ。キャラクターはBilal選手が豪鬼、AK選手がシャヒーンとなった。AK選手はシャヒーンをメインキャラとして運用しているが、大会中随所で豪鬼も選択しており、その仕上がりは相当なものだった。故に対豪鬼戦にも十分な知識を持っているはずだ。

フィリピンのAK選手

 第一試合はAK選手が圧倒的だった。豪鬼の手の内を知っているAK選手は、Bilal選手の動きを封じ、そのまま勝利。これにはBilal選手もたまらず、すぐさまキャラクターをブライアンに変更した。

 しかし、キャラクター変更をするもAK選手の勢いは止まらない。Bilal選手の積極性を逆手に取るような右アッパーの置き方や、持ち前のスライディングの精度で、徐々にBilal選手を追い詰めていく。Bilal選手の挑発起き攻めも不思議とAK選手には機能しない。AK選手は勢いのまま3ゲームを連取、Bilal選手をウィナーズから引きずり下ろした。

 このままAK選手が優勝してしまうのかと思われたが、Bilal選手はここで相手の勢いを断ち切るためにインターバルを選択、パキスタンの英雄であるArslan Ash選手にアドバイスを求め精神統一を図った。このインターバルが功を奏したか、Bilal選手が少しづつペースを取り戻す。これまでの積極的な動きに加え、距離を作って相手を誘い込むような動きも見られ、AK選手は次第に下火になっていく。

まさかの0:3で破れ、追い込まれたBilal選手

 一旦ペースをつかんでしまえば、Bilal選手の立ち回りは一級品だ。相手を追い詰める前ダッシュ、スカし確定、そしてレイジドライブの当て勘、Bilal選手の鉄拳力の前に、AK選手が不利な状況が続く。

レイジドライブが決まり手となり、Bilal選手の勝利

 その後も健闘したAK選手だったが、リセット後は1ゲームも取られることなく、3-0でBilal選手が勝利した。ここへきてAtif選手でもなくThe JON選手でもない新たなパキスタン人プレーヤーの台頭は、パキスタンの鉄拳コミュニティがどれだけ層の厚いものかを物語っている。

 試合後に話を聞くとBilal選手は、「勝てるとは思っていなかった。でもせっかくタイまで来ているので、すぐに負けちゃうのは嫌だと思っていたよ。今日で自信がついたから、明日につなげられるといいな」とコメントしてくれた。Bilal選手の予選通過により、パキスタン人選手が計3名出場することになったTWT2019決勝大会。話題のパキスタン勢が勝つのか、それとも日韓が食い下がることができるのか、予測不能な決勝大会は要注目だ。

写真に応じてくれたBilal選手