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「鉄拳7」世界チャンピオンは日本鉄拳の意地を見せたチクリン選手!
パキスタン勢を完全攻略。強豪韓国、超新星パキスタンを抑えての堂々の初優勝
2019年12月9日 18:22
- 12月8日開催
- 会場:KBank Siam Pic-Ganesha Theatre
「Tekken World Tour 2019」(以下TWT)とは、5月~11月にかけて開催された「鉄拳7」の世界リーグだ。そして半年間続いた当リーグを締めくくり、選手たちの集大成となるのが、12月8日にタイで開催された決勝大会「TWT2019ファイナル」だ。決勝大会にはリーグの通算ポイントランキング1位から19位までの選手が招待されており、それに熾烈な当日予選を勝ち抜いた1名が加えられた計20名によって、鉄拳世界王者の座が争われた。
毎年熱い戦いが繰り広げられるTWT Finalsだが「今年のTWT Finalsは、とりわけ歴史に残る決勝大会になる」。ファンたちにはそんな確信があった。というのも今年の鉄拳シーンといえば、彗星のごとく現われたパキスタンのArslan Ash選手が「EVO Japan」を優勝したのにはじまり、今までノーマークだったパキスタンから続々と強豪選手が現われ、数々の世界タイトルを奪い去っていったことが話題となった。
2017年・2018年はともに韓国人選手の優勝で終わっているTWT Finalsだが、もし今年パキスタン勢が優勝すれば、それは鉄拳の歴史を大きく変えることになる。7日に行なわれた最後の1枠を決める最終予選では、250名以上の中から勝ち上がった1名は、パキスタンのBilal選手だった(参考記事。やはり彼らの強さは本物だ。
そんな勢いのあるパキスタン勢を止めれるとすれば、それはやはり「鉄拳タッグトーナメント」時代から鉄拳の競技シーンを牽引してきた日本と韓国の選手たちだ。日韓の選手の多くは、パキスタン勢の衝撃的な強さを受けて、この数か月間みな入念な対策を練ってきている。ベテランたちが意地を見せるのか、新勢力パキスタンが勢いのままに勝つか、世界中が注目した「TWT2019ファイナル」を現地からレポートする。
日韓の選手が意地を見せる! 波乱のグループ戦!
「TWT2019ファイナル」は、まず20名の選手が5人ずつ4つのブロックに分かれ総当たり戦を行ない、それぞれのブロックから上位2名がTOP8トーナメントへ進出する形式となっている。ブロック分けはリーグのポイントランキング順に選択権が与えられ、他の選手の動向も見ながら自らブロックを選ぶ方式となっている。
注目のパキスタン勢はそれぞれ、筆頭であるArslan Ash選手はAブロック、当日予選を勝ち抜いたBilal選手はCブロック、そして世界最強の豪鬼使いと名高いAwais Honey選手はDブロックを選択した。
鉄拳神Knee VS パキスタンArslan Ash! これが格闘ゲームの洗礼か
2019年のTWTはArslan Ash選手の年だと言っても過言ではないほど、彼の活躍は目覚ましかった。Ash選手はEVO Japan、EVOと名誉ある大会を立て続けに優勝し、決勝大会の前にはレッドブルアスリートにも就任していた。それだけに注目度も高かったAsh選手だが、TWT2019ファイナルは、まさかのグループA最下位、TOP8進出さえできずに去ることになった。
Ash選手の壁となったのは、韓国の若手Ulsan選手、そして鉄拳神とも呼ばれる韓国Knee選手だった。まず初戦のUlsan戦、本来であれば一美使い同士のミラーマッチになるはずだが、Ulsan選手はあえてボブを選択する。サブキャラクターであのAsh選手に立ち向かうのは無謀にも思われたが、Ulsan選手のボブには確実なAsh対策があった。中間距離を得意とするAsh選手に対し、Ulsan選手は執拗な接近戦を迫り、1ゲームを奪う。
その後Ash選手も1本取り返すものの、ここでUlsan選手はキャラクターを一美に変更。Ash選手からすれば、やっとの想いでボブを攻略したところに、Ulsan選手のメインキャラクターがやってくるのだから、たまったものではない。Ulsan選手は前2ゲーム分の情報アドバンテージを活かし、いとも簡単にAsh選手を打ち破ってしまう。
初戦の負けが精神的に響いたか、その後Ash選手はアメリカのShadow20z選手にも敗北し、後がない状況に。そこにやってきたのが韓国の鉄拳神ことKnee選手だ。Knee選手といえば、鉄拳ファンであれば知らぬ者はいないベテラン中のベテランで、EVO2013優勝をはじめ、数多の世界タイトルを保持するベテランプレーヤーだ。
Knee選手とAsh選手の初対戦は2018年のドバイ開催「OUG Gaming」まで遡る。その大会の決勝で2人は対戦し、Ash選手が勝利、この一戦がAsh選手の名を世界に轟かせるキッカケとなった。さらに2人は今年の「EVO」の決勝戦でも相まみえており、これまたAsh選手が勝利、Knee選手はEVOのタイトルをAsh選手に明け渡してしまう。
2度も敗北しているKnee選手だが、以前自身のTwitterで「こんなに張り合える人がいるのは久しぶりだ、ゲーセンのころを思い出す」とツイートしていたように、Ash選手を良きライバルととらえているようだ。Knee選手がブロックAを選択した理由も「Ashを倒したいから」とのことだ。
両者気合十分で臨んだ試合は、一進一退の展開となった。まず第1ゲームをAsh選手がもぎとり、伊達ではない強さを見せつける。しかしそこからKnee選手が意地を見せる。後がないAsh選手の精神に詰め寄るような、強気の選択肢を見せ、じりじりとAsh選手を追い詰めていく。
実はKnee選手はこのTWT Finalsを手前にして、Ash選手を倒すために実際にパキスタンに赴いて武者修行をしていた。Knee選手はその武者修行でパキスタンの鉄拳スタイルを知り尽くしている。現地で得た経験が活かされているのか、次第にKnee選手のペースになっていき、ゲームカウントは2-1でKnee選手が勝利する。Ash選手はまさかの3敗を喫し、脱落が決定。この勝利でブロックAの通過選手はUlsan選手とKnee選手の2名となった。
試合後Ash選手はTwitterで「I am sorry guys (みんな、ごめん)」と一言コメントを残し、会場を後にした。プロになって初めてとなる完敗を経験したAsh選手。競技シーンに身を置くということは、どれだけ強くてもいずれ対策され、誰しもが挫折を経験するものだ。Arslan Ash選手にとってこの敗北をどう乗り越えるかが、今後の課題になるだろう。
我らが“ラストサムライ”チクリン選手VS“ラホールの強心臓”Bilal!
グループBからは日本のダブル選手、そしてアメリカのAnakin選手が順当にTOP8に駒を進め、そして続くグループC。ファンの注目は前日に開催された過酷な当日予選を勝ち抜き、勢いに乗っているBilal選手だ。Bilal選手も今まで目立った活躍はなかったものの、以前より“ラホールの強心臓”として地元では有名だったプレーヤーで、前日の予選ではその強さを存分に証明した。
そんなグループBでBilal選手を迎え撃つのは日本のチクリン選手だ。チクリン選手は、EVO JapanでArslan Ash選手と直接対決・敗北し、その強さを身にしみて経験した1人だ。以降Tokyo Mastersでもパキスタンの選手に負けており、今までのところパキスタンの選手には負けが続いている。しかし努力の人として知られるチクリン選手は、Knee選手同様にパキスタンでの武者修行も積んでおり、これまでのパキスタンの選手たちとの対戦経験からも、Bilal選手を倒す体制は整っていると言える。
試合が始まると、Bilal選手はブライアンを選択、チクリン選手はギースだ。Bilal選手が豪鬼ではなくブライアンを選択したということは、チクリン選手には豪鬼は通用しないと考え、“鉄拳力”での勝負を挑んだということだろう。
Bilal選手の持ち味は、“強心臓”の異名に違わないどっしりとしたプレイスタイルだ。直立不動で相手の動きを伺い、一気に距離を詰める、一切物怖じしないスタイルが特徴だ。対するチクリン選手は、目には目を、ということなのかこちらもどっしりとしたプレイスタイルで試合が進んでいく。お互いが中間距離でお見合いになる場面が多く、緊張感は抜群だ。
お互いに攻撃を交換していく中、チクリン選手はゲージを温存し、そしてここぞというところで特大コンボを叩きこむ。さらに壁際に追い詰めた後は、チクリン選手は一切相手を逃がさない。Bilal選手はじりじりと追い詰められていく。Bilal選手も要所でコンボを決めていき、起き攻めに挑発などの強気の選択肢を見せていくが、チクリン選手は冷静にそれらに対処。力の差を見せつけてチクリン選手が2-0の大勝だ。
この後、チクリン選手は前年のTWTチャンピオン韓国Rangchu選手にも打ち勝ち、韓国のJDCR選手と共にTOP8進出を決める。試合後チクリン選手は「自信は無かったが、不思議といつもの動きができた」とコメントしてくれた。グループ敗退になってしまったBilal選手は、「新しい経験ができた。来年はもっと強くなって戻ってくるつもりだ」とコメントしてくれた。
ノビVSAwais Honey!因縁の対決の行方は―
Ash選手とBilal選手が敗退したことで、パキスタン人選手はグループDのAwais Honey選手1人残すのみとなった。Awais Honey選手は地元で“コンボの魔術師”と呼ばれており、何人もいるパキスタン人豪鬼使いの中でもコンボや反撃においてダントツで精度が高い。そんな彼を迎え撃つのは日本最初の鉄拳プロであり大ベテラン、ノビ選手だ。ノビ選手もKnee選手同様、自らAwais Honey選手がいるグループDを選択した。理由は「倒すため」だ。
以前ノビ選手をインタビューした際、ノビ選手は名指しでAwais Honey選手をTWT2019ファイナルで倒したいと語っていた。ノビ選手は長年鉄拳と向き合ってきた経験から、人一倍「鉄拳力」にこだわりを持っている。そんな彼にとって、鉄拳を始めて僅か2年であり、2Dキャラクターとして変則的な強さを持つ豪鬼を使うAwais Honey選手は、倒さなければならない相手なのだ。試合前コメントでは「パキスタン選手たちのおかげで注目を得ている鉄拳ですが、鉄拳は日本のゲームなので、日本人全員でTOP8へ行きたい」と意気込みを語り、会場を味方につけた。
試合が始まるとノビ選手の宣言通り、“鉄拳力”がものを言う展開となった。ノビ選手が近距離で積極的に細かい中・下段の択を仕掛けていき、そして要所でジャンプステータス技や下段当身を見せることで、豪鬼の足払いをけん制していく。1ゲーム目をノビ選手がとると、会場からは大きな歓声が上がる。
しかしAwais選手も黙っていない。持ち前の差し合いでの当て勘でヒットを重ね、セービングキャンセルからのコンボでノビ選手の体力を削っていく。2ゲーム目をAwais選手がとると、今度はパキスタンの応援団が負けじと歓声を上げる。観客たちも各陣営の応援合戦になり、観客が一体となって戦っているような雰囲気だ。
3ゲーム目、序盤で見せていたけん制が効いてきたか、Awais選手の豪鬼は次第に攻め手を失っていく。すると固まったAwais選手に対して、ノビ選手の主力技であるロシアンフックアサルトやコマンド投げが通るようになる。ペースをつかんだノビ選手は、さらには10連コンボまで使って攻めていく。第3ゲーム目はノビ選手が宣言通り勝利し、ノビ選手が圧倒的な鉄拳力によりAwais選手を「わからせた」1戦となった。
これぞ鉄拳! TOP8は日韓戦の連続に!
「歴史が変わる大会」として大注目だった「TWT2019ファイナル」だが、蓋を開けてみればTOP8にパキスタンの選手は1人もいないという、ある意味で誰も予想できない結果となった。これも日韓の選手たちのここ数か月間の血のにじむような努力と、なにより団結力がもたらした結果だ。そしてここからは、鉄拳の歴史の長さが感じられるような日韓戦が続いていく。
TOP8初戦は韓国のKnee選手VS日本のノビ選手という、鉄拳ファンならよだれが出そうなほどの好カードだ。予選では相当な仕上がりを見せていたベテラン2名の試合は、まさに鉄拳力がぶつかり合う展開となった。
果敢に接近して攻めを展開するノビ選手に対し、Knee選手はスティーブでカウンターを狙う戦法だ。お互い動きはキレキレで、横移動やスカし確定の精度を見るに、相当集中していたことが伺える。鉄拳らしい細かい体力の削り合いが続き、要所でKnee選手が狙いのカウンターヒットを当てていく。試合は2-0でKnee選手の勝利となった。
続いて勃発したのは韓国のUlsan選手VS日本のダブル選手のカードだ。2人はそれぞれの国の鉄拳シーンを率いる若手プレーヤーの筆頭だ。Ulsan選手が防御的なプレイを得意とするのに対し、ダブル選手は速い展開を作り攻めを通していく攻撃的なスタイルだ。
序盤はダブル選手のロウがいつも通りの速い展開を作り、Ulsan選手を翻弄していく。このあたりの当て勘は流石ダブル選手といったところだ。しかし、次第にUlsan選手がダブル選手の攻撃にリズムを見出し、試合のペースが落ちていく。どっしりとした立ち合いからダブル選手が技を振るも、下段はガード・上段はスカされるようになり、Ulsan選手が反撃で勝っていく。
その後もUlsan選手が持ち前の対応力でダブル選手を捌ききり、試合は2-0でUlsan選手の勝利となった。19歳でここまでどっしりとした立ち回りができるのは、Ulsan選手しかいないだろう。
決勝戦、まさかのチクリン豪鬼登場!
さて、ここまでの日韓戦は全て韓国が勝ち、鉄拳がいかに韓国のお家芸かを思い出させるような展開だったが、ここへきて決勝戦も日韓戦となった。そのカードはUlsan選手VSチクリン選手だ。韓国が3年連続でTWT王者の座を手にするのか、はたまた日本が意地を見せるのか、会場は固唾をのんで見守った。
試合が始まると、Ulsan選手はいつも通り一美を選択。対するチクリン選手は、これまでずっと全試合をギースで戦い抜いてきたのだが、ここへきてまさかの豪鬼を選択。意外な選択に会場にもどよめきが起こる。一見奇をてらっただけの戦術に見えるこの豪鬼ピックだが、試合後にチクリン選手に尋ねると、彼は対Ulsan選手用に豪鬼を練習していたのだと言う。
実はチクリン選手はパキスタン勢の豪鬼を対策するために、以前から配信などで豪鬼を使っていた。そしてTWTの出場選手を見た時に、Ulsan選手だけはギースがきついため、チクリン選手はUlsan選手と当たった時のためだけに、豪鬼を実戦レベルまで仕上げてきたのだという。しかし、そのカードがまさか決勝戦になるとは、なんと数奇な巡り合わせなのだろう。
チクリン選手だけに、生半可か仕上がりのまま実戦に投入するいうことはありえない。コンボ精度・間合い管理共に、他の豪鬼使いと比べても遜色ないほどの仕上がりだ。Ulsan選手も必死に対抗するが、ひたすら一美の間合いの外からダメージを奪われていくばかりで、中々反撃できない。
1ゲーム目を落としたUlsan選手は、防御的なプレイスタイルに有利に働く無限ステージを選択する。しかしチクリン選手はこれを見透かしていたかのように、どっしりと構えた立ち回りだ。Ulsan選手にペースを握らせず、Ulsan選手が動けばそこに技が置いてある。2ゲーム目もチクリン選手に軍配があがった。
続く3ゲーム目も無限ステージが選択され、Ulsan選手は必死に食らい付こうとする。時間をたっぷり使って細かい削り合いに持ち込む、Ulsan選手らしい攻略だ。しかし、ここへきてチクリン選手が攻めに出る。今まであまり振らなかった中足払いや立ち途中アッパーを通し、持ち前のコンボ精度で一気にUlsan選手の体力を持っていく。決勝戦はなんと3-0のストレートでチクリン選手が勝利、「TWT2019ファイナル」はチクリン選手の優勝で幕を閉じた。チクリン選手にはTWT2019チャンピオンの賞金として75,000ドル(約810万円)が贈られた。
優勝後のインタビューに答えてくれたチクリン選手は、「今はふわふわしてて、まだ嬉しいとかっていう実感がありません」と感想を語り、「ただ皆の声援があって、自信は最後までなかったんですけど、絶対に負けたくないっていう気持ちは強くて、それが勝ちにつながったと思います。」と想いを語ってくれた。
努力の人チクリン選手の優勝で、韓国やパキスタンの陰に隠れていた日本の鉄拳界が、再び脚光を浴びることになった。ひょっとするとパキスタン勢の台頭が、日本勢を再び団結させ、彼らの実力を高め合うきっかけになったのかもしれない。これからさらに進化していくであろう日本のプレーヤーたち、そしてまだ見ぬ強豪プレーヤーが潜んでいるかもしれない世界の鉄拳シーンには、要注目だ。