【特別企画】

ゲーマー顧問が「LoL」をバリバリ指導! 聖心ウルスラ学園

生徒も顧問も日夜猛勉強中! 中高一貫で目指す未来の栄光

【第3回全国高校eスポーツ選手権】

予選:
11月21日より(「ロケットリーグ」部門)
12月12日より(「リーグ・オブ・レジェンド」部門)
決勝:
2021年3月13日(「ロケットリーグ」部門)
2021年3月14日(「リーグ・オブ・レジェンド」部門)

 第3回全国高校eスポーツ選手権開催に合わせて実施してきた高校eスポーツ部の取材は、今回で4校目。今回取材したのは、宮崎県延岡市にある中高一貫校、聖心ウルスラ学園だ。

 聖心ウルスラ学園は、聖心ウルスラ学園高等学校、聖心ウルスラ学園聡明中学校、聖心ウルスラ学園付属幼稚園の3校で構成されており、聖心ウルスラ学園聡明中学校は、中等部に加えて、高等部があり、中高一貫教育を行なっている。

 この聖心ウルスラ学園では、聖心ウルスラ学園高等学校、聖心ウルスラ学園聡明中学校(中等部/高等部)を対象にeスポーツ同好会を構成。中高一貫で活動しているのが特徴となる。聖心ウルスラ学園 eスポーツ同好会を取材していて最も衝撃的だったのは、顧問が「リーグ・オブ・レジェンド」の戦略を部員に向かってバリバリ指導する部活の風景だ。

 創設初年度であり、顧問も含めて「LoL」は全員初心者だったというが、その話がにわかには信じられないほど”部活らしい部活”のような風景がそこにはあった。その秘密は、やはり顧問の先生にあるようだ。さっそくご紹介したい。

聖心ウルスラ学園高等学校 eスポーツ同好会

左より甲斐寛人(中学1年)、沓名倖寛(高校1年)、工藤凌雅(高校1年)、小沢隼平(高校1年)、日髙秀樹(高校1年)

発足:2020年5月~
人数:8名
競技種目:リーグ・オブ・レジェンド
リーダー:工藤凌雅さん(1年生)

主な実績:
特になし

「ソウルキャリバーII」の店舗大会優勝者が顧問に!

 聖心ウルスラ学園のある宮崎県延岡市は、旭化成グループをはじめとした工業地が広がっている宮崎県北部の中心都市だ。聖心ウルスラ学園の校舎は、延岡からさらに南東方面に進んだ緑ヶ丘と呼ばれる場所にある。

 場所としてはほぼ海際で、辺りは潮の香りが若干混じる。この日は全国的に暖かったこともあるが、取材した11月でも気候は温暖。長袖のシャツに上着なしでも汗ばむくらいの暖かさだった。

学校近くには川もある。地元の方の散歩コースになっているなど、静かな時間が流れている
聖心ウルスラ学園。宮崎県北部では唯一の看護科があることでも知られている

 聖心ウルスラ学園で最も知られているエピソードは2005年、創設部4年目にして甲子園初出場を果たした野球部だろう。2017年には甲子園初勝利をあげ、”校名にカタカナが入った学校初勝利”という記録も作った。全国クラスの部活はほかにもあり、スポーツ系ではバトミントン、文化系では放送部の映像制作や写真部などは特に活躍している。

 そんな聖心ウルスラ学園高校でeスポーツ活動の話が持ち上がったのは、教頭が2019年にサードウェーブの高校eスポーツ部支援プログラムをチラシで知り、「やってみようか」と現在顧問を務める森崇先生に持ちかけたのがきっかけとなっている。

森崇先生。最近は「モンスターハンターワールド:アイスボーン」でタイムアタックをしているという

 教頭が森先生に声をかけたのは、森先生が本校の広報部を務めている、という理由がひとつある。しかしそれ以上に、森先生自身が「周りを見渡しても、顧問をやるなら私以外に適任はいないだろう」と自負するほどの生粋のゲーマーだからだ。

 森先生が開口一番に話してくれたのは、「得意ジャンルは格闘ゲーム」であること。「THE KING OF FIGHTERS '94」でSNKに魅了されて以降、さまざまな格闘ゲームをプレイしてきたという。力の入れ方は並大抵のものではなく、「フレームの差し合い」は基本中の基本で、その上で「本来決まらない技を本来決まらない位置からいかに決めていくか」に心血を注いでいた。

 その腕前は、「ソウルキャリバーII」で宮崎市内の当時のゲームセンター店舗大会で優勝(ちなみに使用キャラクターはナイトメア)するほど。店舗大会とはいえ、優勝をもぎ取れるほどのいわゆる”ガチ勢”だったわけだ。「残念ながら、高校生の大会に格闘ゲームがないんですよね」と漏らす森先生だが、これからeスポーツを始める生徒にとってこれほど頼り甲斐のある先生はそうはいないだろう。

生徒にチャンピオンの使い方と戦略をアドバイスする森先生。とても生き生きしている

 ちなみに森先生が全般的に得意なのは「投げキャラ」。「KOF」なら「チーム3人とも投げキャラを選択する」くらいには得意とのこと。最近では「ストリートファイターV」もプレイしており、やはりザンギエフをメインキャラクターとしてランクマッチに出没している。

 話をうかがっていると森先生の猛烈なゲーマーぶりがとにかく面白いのだが、そんな凄腕の噂は教員の間でも知られていた。教頭ももちろん折込済みであり、eスポーツ同好会は有無を言わさず森先生が顧問を担当することになった。

 一方で、eスポーツ同好会発足には違う理由もある。それは、eスポーツの可能性の部分だ。野球やバトミントン、あるいは映像制作や写真というそれぞれ違うジャンルで才能を発揮する生徒がいるように、もともと生徒には千差万別の適性があるはず。eスポーツが新たな受け皿となり、これまでとはまた違う切り口で生徒の適性を伸ばす可能性があるのであれば、ぜひ取り組むべきだろうという考えだ。

 校長も周りの先生もeスポーツ始動について特に反対することもなく、ついに2020年度からeスポーツ同好会がスタートすることになった。

顧問&監督&コーチが生徒の実力向上をグイグイ引っ張る

 宮崎県では新型コロナウイルスの影響はまだ比較的少なかったため、5月あたりからeスポーツ同好会に生徒が集まりだしたという。現在では高校生が6名、中学生が2名。いずれも1年生がeスポーツ同好会に所属している。

 意外だったのは、集まった中にeスポーツタイトルを本格的にやっている生徒はひとりもいなかったこと。もちろん「LoL」についても、初心者ばかりが集まった。ある意味eスポーツ年長者である森先生も「LoL」は未プレイだったため、生徒と顧問が一緒になって「LoL」を勉強するところからスタートしたそうだ。

eスポーツ同好会の活動風景

 しかし森先生は、「むしろ全員初心者でよかったのかも」と話す。変に実力差がないので、お互いがお互いをフォローしながら、フラットな気持ちで全員でレベルを上げることができる。そのことで、モチベーションも上手く保てるからだ。

 それにしても驚くというか感動すらするのが、森先生のそこからの吸収速度である。生徒と一斉にスタートして取材時点で半年ほどだが、森先生が「部の中で一番ランクが高い」そう。プレイ中の生徒には、後ろから「そのチャンピオンならマナ重視のビルドがいい」、「そのチャンピオンと当たるならもう少しレベルが上がってから」など、全体的な戦略だけでなくピンポイントで明確なアドバイスがポンポン飛び出てくる。

プレイ中は、ほぼコーチの視線で生徒に声をかけ続ける森先生

 聞けば森先生、自宅にオーダーメイドでカスタムした水冷ゲーミングPCを所有しており、そのPCで日々「LoL」を学んでいるそう。その勉強スタイルは「死んで覚える」で、セオリーとされている知識と実際にプレイした感触を照らし合わせながら自分に落とし込んでいく。「LoL」はチャンピオン同士の相性やビルドなど覚えるべき点が山ほどあるタイトルだが、そこは「がんばって覚えている」という。やり込みのコツを知っている強みが、最大限発揮されている。

 つまり森先生は、eスポーツ同好会の監督兼コーチでもあるわけだ。押し引きなど試合の駆け引きはもちろん承知しているし、「LoL」の戦略上のポイントはすでに生徒に教えられるまでに押さえている。生徒としてもアドバイスをもらえることでプレイに集中しやすいようで、活動風景を見ていても高いモチベーションがあると感じられた。

森先生は「LoL」試合前のチェックシートを自作し、貼り出している
Wikiから引っ張ってきたという各レーンの心得。もちろん森先生が用意したものだ

 部長の工藤凌雅さん(1年生)は、eスポーツ同好会について「居心地がいい」と感じている。「みんなちゃんと強くなろうとしていて、やっていて楽しい。森先生が見ての通りゲーム大好きなのも、こちらとしては本当にありがたい」と語ってくれた。

部長の工藤凌雅さん。将来の夢はゲームクリエイター。部活紹介で初めて「LoL」を知り、eスポーツという未知の世界を楽しそうに感じたという。「LoL」ではロールを他のメンバーに合わせてオールマイティに対応できるところが強み

 聖心ウルスラ学園高校が高校eスポーツ部支援プログラムでレンタルしているPCは、デスクトップPCが3台、ノートPCが2台だ。森先生はさらに、学校のノートPCをカスタマイズして、「『LoL』が十分動く」5台を追加で用意している。

 現在同好会に集まっている生徒は8名だが、「将来的なことを考えて」すでに用意したそうだ。また、全員集まるタイミングがあれば、森先生と副顧問の先生が参加して10名による5対5も実現できる。ちなみにGALLERIAの使い心地は、PC構成に詳しい森先生も「ミドルクラスで十分な性能があり、しっかりしている」と上々。PCでゲームをすること自体が初めての生徒がほとんどだが、慣れない中でも快適に「LoL」をプレイしているようだ。

フル稼働しているGALLERIAの筐体
森先生が用意した5台のPCは、その活躍の場を待っている

 創設1年目となるeスポーツ同好会だが、ゆくゆくは部にして、全国クラスになることを森先生は狙っている。実力は確かにまだまだ足りないかもしれないが、「死に覚え」をポリシーとする森先生としては生徒にできる限りのことを伝えてぶつかってほしいし、生徒もそれに応えようとしている。

 工藤さんはそのことをしっかりと理解していて、「まだ1年目なので、将来のための土台作りをしっかりしていきたい」と話す。それでも、「夢のような話かもしれないが、3年目で優勝するくらいの結果が残せたら嬉しい」とポジティブに続けてくれた。

 森先生は野球部を創設から間近で見ていて、創設当初はそれこそボロボロだったそう。試合で何十点も取られて大敗したこともあり、「最初から上手くいくことはない」と誰よりも理解している。そこからでもわずか3年で大きく羽ばたいた野球部をモデルとして、eスポーツ同好会は将来を見据えている。

 第3回全国高校eスポーツ選手権は高校生の大会なので中学生は応援に回ることになる。しかし、その中学生が3年間みっちり「LoL」をやり込み、いよいよ高校1年生になるときもまた楽しみだ。そのときには部としてもかなりの実力をつけていることだろう。

日々練習を重ねる生徒たち。森先生が席に付き、実際に生徒とプレイすることもあるそう

 さらに、森先生は「LoL」に限らず、生徒が興味を持ったタイトル、つまり”生徒自身が適正を感じたタイトル”をどんどん採り入れていく方針でいる。偶然にも延岡市のケーブルテレビ企業がeスポーツチーム「waiwai GAMING CLUB」を所有しており、そこに「ぷよぷよ」のプロであるoka選手が所属していることから、まずはoka選手と生徒の交流の機会も持つとのことだ。

 話す中でも格闘ゲームを教えたくてウズウズしている森先生が何より印象的だったが、今後eスポーツがさらに高校の部活として根付いていくのであれば、そう遠くはないうちに実現できるかもしれない。顧問が自身のゲーム力でグイグイ引っ張る聖心ウルスラ学園高等学校のeスポーツ活動、今後の活躍がとても楽しみだ。