【特別企画】
まもなく開幕! 第3回全国高校eスポーツ選手権 「ロケリ」部門決勝戦直前インタビュー
上手くなる環境に身を置く! 生徒の行動力で急成長する東海大札幌高校に密着
2021年3月11日 00:00
- 【第3回全国高校eスポーツ選手権 決勝大会】
- 2021年3月13日、14日開催
高校生の日本一を決めるeスポーツ大会「第3回全国高校eスポーツ選手権」の決勝大会まであと2日に迫ってきた。
GAME Watchでは予選前に4校の取材を行ない、徐々に広がりを見せる“高校eスポーツ部”の実際の現場と生徒の声をお伝えしてきたが、今回決勝大会に進んだ2校に新たに話を聞けた。
今回お届けするのは、東海大学付属札幌高等学校だ。東海大札幌はeスポーツ活動を同好会として2018年に始動。最初は5名でのスタートとなったが、様々な大会に出場し続けた結果、「第3回全国高校eスポーツ選手権」では「ロケットリーグ」部門で見事に決勝進出を果たし、ベスト4入りを確定させている。これまでどのような活動を行ない、またどのような姿勢で決勝戦に挑むのか。さっそくご紹介したい。
東海大付属札幌高等学校 eスポーツ同好会
発足:2018年10月~
部員数:15名
競技種目:ロケットリーグ
リーダー:牧野峻弥さん(3年生)
主な実績:
全国高校eスポーツ選手権 ロケットリーグ部門 第1回~第3回に3年連続出場
STAGE:0 eSPORTS High-School Championship 2019 フォートナイト部門 出場
STAGE:0 eSPORTS High-School Championship 2020 フォートナイト部門・リーグオブレジェンド部門 出場
全国都道府県対抗eスポーツ選手権 2019 IBARAKI グランツーリスモ部門 北海道ベスト8
全国都道府県対抗eスポーツ選手権 2020 KAGOSHIMA ウイニングイレブン部門 北海道代表
全道高校生eスポーツ大会 THE ONLINE(フォートナイト) 北海道ベスト4
熊本ルーキーズカップ清正杯 いざ、決戦の時~(リーグオブレジェンド) 優勝
「体格差が関係ない」eスポーツで部活をやりたい
東海大札幌(旧東海大四)は、全国優勝経験があるバレーボール部やスキー部などをはじめとした 野球部、柔道部、剣道部、陸上競技部、バスケットボール部、サッカー部などの全国クラスの運動部、吹奏楽部で特に有名な高校だ。卒業生にはオリンピック選手やプロ選手を多数輩出しており、校舎のエントランスや体育館のロビーには数々のトロフィーが並べられている。東海大札幌に連綿と続く、その伝統と実力が垣間見える。ちなみに、「ゲームは1日1時間」のあの高橋名人も本校の卒業生だそうだ。
学校の様子を伺っていると、その環境の良さがわかる。校舎は札幌市の小高い丘にあり、校舎からは札幌の街並みが見渡せる立地がまず特徴的だ。また校舎周辺の広大な敷地には、野球グラウンド、陸上競技場、サッカー場などのほか、バスケットコート3面が取れる体育館など、北海道らしいスケールの大きさがある。
2016年には新校舎へと移行し、全教室にはWi-Fiとプロジェクターを完備。教室は日差しを考えて南向きで、東海大学の札幌キャンバス校舎と通路でつながっている。ICT教育の一環で全生徒がiPadを1人1台所持し、大学との連携も強化された。
生徒が普段過ごしている校舎の様子を見るだけでもいかに伸び伸びと日々を過ごせる環境にあるかがよくわかるのだが、ではeスポーツ同好会はどのように立ち上がっていったのだろうか。
eスポーツ活動始動のキーマンとなったのは、現在eスポーツ同好会の顧問を務める高野晋也先生と、同校でダンス部を新設した経験を持ち、現在はアドバイザー的な立場の阿部友哉先生だ。2人は以前からeスポーツの可能性に注目していて、部活にならないかと考えていたそうだ。
eスポーツのいいところは、体格差関係なく輝ける可能性があるところだと高野先生は言う。運動部では、もともと持っている体格によってどうしても有利不利が決まるところがある。しかし、eスポーツであれば体格差は関係ない。むしろ、運動部での活躍が難しい生徒でもeスポーツでならトップクラスになれるかもしれない。
eスポーツが受け皿となり、そういった生徒でも仲間と一緒に上を目指す楽しさ、勝つために技術を磨くやりがいを感じられる。そうした今までにない活動が、eスポーツならできるというわけだ。
この考えを直接後押しすることになったのが、サードウェーブによる「高校eスポーツ部支援プログラム」だ。ゲーミングPCを無料貸し出す本プログラムは、まさに渡りに船。さっそく、阿部先生はプログラムに申し込んで、eスポーツ同好会を発足することになる。
同好会発足時、周りの先生からは「勉強がおろそかになるのではないか」、「そもそも学校でゲームをやるとは何事か」などのネガティブな意見もあったそうだが、それでも丁寧に「eスポーツが部活になる」ことを説明していった。
そこまで高野先生が情熱を持っているのは、高野先生自身がもともと大のゲーマーだから。ここ最近はプレイできていないものの、かつては「ストリートファイターII' TURBO」や「ドラゴンクエスト」シリーズ、「ダービースタリオン」シリーズにドハマリし、遊び込んだという。
特に「ストII」は友人と対戦しまくっており、“ゲームで対戦すること”の面白さ、楽しさは誰よりもわかっている。そんな先生だからこそ、eスポーツが生徒にとっていかに有意義かが腑に落ちているし、周りに対しても説得できるのだろう。
トッププレーヤーからの指導を自らもらいにいく
eスポーツ同好会を立ち上げた当初、集まった生徒は5名。兼部の生徒もいる中でのスタートとなったが、2021年2月現在でeスポーツ同好会に所属している生徒は15名にまで増えた。
全国大会の決勝にまで残るチームなだけに、どれほど先進的な練習をしているのかとも考えたのだが、話を聞いてみると想定以上の成果で高野先生自身も正直驚いているという。
活動の方針は、まず出場する大会を決定し、大会に向けて各タイトルの練習をするというもの。決して「ロケットリーグ」だけに専念しているだけでなく、「リーグ・オブ・レジェンド」や「フォートナイト」、「eFootball ウイニングイレブン 2021」の大会にも積極的に出場している。
今回、「第3回全国高校eスポーツ選手権」の「ロケットリーグ」部門で決勝進出を決めたのは、3年生で前部長の牧野峻弥さん、2年生エースの鈴森悠雅さん、1年生の杉山健斗さん、リザーブで1年生の青木雅さんで構成されるチームだ。
実力面で試合を引っ張るのは2年生の鈴森さん。自宅にゲーミングPCを持ち、もともと「フォートナイト」や「ロケットリーグ」を熱心にプレイしていた経験がある。その鈴森さんは、予選を勝ち上がれたのは「運が良かった面が大きい」と分析する。
というのも、チームで合わせて練習する機会がスケジュール的にどうしても難しかったからだそう。鈴森さんが中心となり、勝つために「素早く判断して詰めていく」動きをしていたものの、はっきりと「これが勝因だった」と言えるほどの手応えはそれほどなかったという。
もし本当に運だけで勝っていた場合、さすがに決勝大会での勝負は厳しいものになるのではと感じたのだが、その後の練習によってそうとは決して言えなくなったところに東海大札幌の面白さがある。
その練習とは、1年生杉山さんのある行動がきっかけとなっている。杉山さんは「ロケットリーグ」の経験がスタメンの中ではもっとも少なく、予選大会では「2人の足を引っ張ってしまった」との自覚が強くあったという。なんとかしたいと思った杉山さんが次に動いたのは、「『ロケットリーグ』の上手い人に教えてもらう」ことだった。
杉山さんが声をかけたのは、現役のプロ選手も参加している「ロケットリーグ」コミュニティの主催者。主催者自身も元プロゲーマーであり、日々「ロケットリーグ」で切磋琢磨しているチームだ。杉山さんの思いが主催者に快諾されると、以後、杉山さんはこのチームメンバーとともにプレイを重ね、「ロケットリーグ」のノウハウを教わっていく。
つまり、いきなり“トッププレーヤーの中に入って練習する環境”に自らを置いたわけだ。筆者なら、動画などを参考に「まずは自主練」などと思ってしまいそうなところだが、その段階を一挙に飛び越えているところがいい。eスポーツならではの距離の詰め方だし、大胆だが、確かにこれなら最速かつ最も効果的に上達できそうだ。その発想と行動力に、ひたすら感心してしまった。
コミュニティとの練習は、「自分の知っている『ロケットリーグ』ではなかった」と杉山さんが話すほど別世界の経験となった。空中でボールを運ぶ「エアドリブル」が基礎中の基礎のスキルのような高いプレイレベルの中で、杉山さんは実力を高めていく。
杉山さんは教わった技術や経験を鈴森さんと牧野さんに伝えることもあったし、一緒にコミュニティの練習に参加することもあった。ちなみに、コミュニティには決勝で戦う高校生たちも所属しており、決勝出場者と杉山さんは全員知り合いになったそうだ。
チーム全体の実力は「どんどん高まっている」とはいえ、それでも決勝大会は「厳しい戦いになりそう」と鈴森さん。戦略としては「まずは先制点を取って勝つ流れを掴みたい。そのためにも残りわずかだが、基礎からしっかり固めていきたい」という。リーダーの牧野さんは、「どの相手でも苦戦することがあるのと思うので、裏をついて勝負していく」と抱負を語る。次こそ東海大札幌は、完全に実力で勝利を掴むことはできるのだろうか。3月に控える決勝大会が実に楽しみだ。