インタビュー

eスポーツによる地方創生、その具体策とは!? NASEF JAPANファウンダー尾崎健介氏インタビュー

3月28日収録

 3月28日に京都府亀岡市の京都スタジアムでこけら落としイベントが行なわれた。といってもメインフィールドを使ったスポーツイベントではなく、新設されたeスポーツ施設を使ったeスポーツイベントだ。

 競技種目は「ロケットリーグ」。大会自体は高校生から社会人まで幅広い層を対象にしたものだったが、1位は国内有力メンバーを揃えた一般チームだったものの、2位と3位には3月に実施されたばかりの第3回全国高校eスポーツ選手権で優勝したN高NRLG Cats、その姉妹チームであるNRLG Cowsが入賞し、高校生チームの層の厚さを見せつけた。近い将来、トップ選手も交えた国内メジャー大会で、高校生選手やチームが優勝をもぎ取っていく未来がすぐそこまで来ていることを実感した。

 本イベントについては、現地レポートをお届けしているので詳細についてはそちらを参照いただきたいが、一番驚いたのは、本大会は京都府、亀岡市、そして各教育委員会が後援しており、その結果、エントリーした39チーム中20チームが京都の高校チームだったことだ。第3回全国高校eスポーツ選手権は、178チームに対して京都のチームはわずか2チームだったのと比較すると、いかに短期間で激増しているかがわかる。

 その原動力となっているのは、京都府の全面バックアップにあることは間違いないが、その実現に向けて全面支援を行なったのがサードウェーブだ。今回、サードウェーブは、同社が設立したJHSEF(全国高等学校eスポーツ連盟)およびNASEF JAPAN(北米教育eスポーツ連盟日本本部)を表看板に、ゲーミングPCやモニターといった機材の提供から、大会運営のノウハウ、コンサルティングまで関わり、黒子としてイベント運営を支援した。

 今回はその仕掛け人であるサードウェーブ代表取締役社長 尾崎健介氏に話を伺った。「NASEFの尾崎です」ということで、NASEF JAPANファウンダーとしての立場から話を伺っている。

京都スタジアムで取材に応じていただいた

京都スタジアムこけら落としイベントについて

――新型コロナで順延となっていた京都スタジアムこけら落としイベントが無事開催されました。この日を迎えた感想から聞かせていただけますか。

尾崎氏: 京都に新しいスタジアムができ、その中にeスポーツ施設をつくると聞いた時から、非常に楽しみにしていました。

 京都スタジアムは、素晴らしいスポーツ施設であると同時にeスポーツの施設があるということで、より多くの方が楽しめる施設です。eスポーツという、いわば最先端のスポーツを、この伝統ある京都という地で体験できる場ができたことは、大変喜ばしいことだと思います。

【京都スタジアム】

――京都亀岡との接点はどこにあったのでしょうか?

尾崎氏: 京都府から、このスタジアムの説明会がありました。その時に、弊社の担当者が出席して話を聞きました。

――尾崎さんは京都府の構想を聞いてどう思われましたか?

尾崎氏: はじめは構想だけでしたので、「ルフス(LFS 池袋 eSports Arena)のような施設がもうひとつできることは良いことだな」ぐらいだったんです。

――実際はそんなものではなくスタジアム規模だったわけですよね。今いま日本にはいろいろなeスポーツ施設がありますが、こういった大きな万単位のお客さんが入るスタジアムに、eスポーツ施設が併設されるというのは、あるようでなかなかないですよね。そう知った時はどう思いましたか?

尾崎氏: 以前、中村さんとご一緒したIEM Sydneyを思い出しました。私は、それまでもeスポーツに対し関心を寄せており、多くの大会の様子を見ていましたが、シドニーであのアリーナであれだけ多くの人々が観戦しているというのが衝撃でした。しかも若者だけでなく、年配の方も含めてこんなに多くの方たちがeスポーツ大会で熱狂しているということが驚きでした。それ以来、そういう世界を模索してきたので、このような規模の話を日本でも聞くことができたのは、純粋に嬉しかったですね。

【IEM Sydney応援シーン】

――今回こけら落としのイベントとして「ロケットリーグ」の大会がありましたが、競技種目についてNASEF(読み:ナセフ 北米教育eスポーツ連盟 日本本部、NASEF JAPAN、以下、NASEF)さんとかの後押しなどがあったのでしょうか?

尾崎氏: 推薦はさせていただきましたが、実際お決めになったのは、主催の合同会社ビバ&サンガと、共催のJeSA(一般社団法人ジャパンeスポーツアソシエーション)の方だと伺っています。サッカー×サッカーという所でもゴロが良いということもあって、私も良かったなと思っています。

【NASEF JAPAN】

――尾崎さんは「知事行き活きトーク」で、京都府知事とのディスカッションにも参加されていましたね。

尾崎氏: 京都府知事や地元の高校生の方々と直接お話しする貴重な体験でした。

――尾崎さんは、今回NASEF JAPANのファウンダーとして、海外のeスポーツ事情を語る立場として、知事から結構鋭いツッコミを受けておられましたが、実際に参加してみていかがでしたか?

尾崎氏: わたしとしてはもっと時間が欲しかったなと(笑)。

――そうですよね、簡潔に答えるのが難しい質問もあって、ちょっと難しそうな印象でしたね。

尾崎氏: eスポーツについてもっと話したかったですね。ただ、今回何よりも嬉しかったのは、都道府県の長である知事が、「ゲームなんか」というようなバイアスなしに、純粋にeスポーツに対して興味を示して話を聞いてくださったことですね。

【知事行き活きトーク】

――知事とは、これまでどのようなコミュニケーションを取られてきたのですか?

尾崎氏: 特に直接コミュニケーションをとっていたわけではありませんが、今後、京都府との新たな取り組みについて発表させていただくこともあると思います。

――先ほどの「知事行き活きトーク」では、高校生が主催する形で5,000人規模での文化祭みたいなeスポーツイベントをやりたいという構想も披露されていましたが、ああいったことの具体的な話が出てくるということですか?

尾崎氏: そうですね。高校生が主体で、我々は後押しです。全国高校eスポーツ選手権のような枠組みを用意するのではなく、高校生が自分たちで考えたことを後押しするようなイメージを考えています。

【知事行き活きトーク】
西脇隆俊京都府知事
トークには京都の学生も参加し、eスポーツへの意欲を語った

――ちなみに今回のイベントでは、JHSEF(読み:ジェセフ)とNASEF(読み:ナセフ)の名前を出して、サードウェーブの名前はできるだけ出さないようにしていましたが、これは何か意図があるのですか?

尾崎氏: eスポーツの発展のためにやるべきことをやる組織、団体というのはJHSEFやNASEFであるべきだと思っています。中村さんには前にもお話しましたが、eスポーツは一私企業ではなく、教育関係者とか各種メディアとかそういった方たちが、大会とか組織を運営するべきだと思っています。サードウェーブはそのスポンサーという立場になれればと考えています。

――今日行なわれたこけら落としのイベント、実際にいかがでしたか。全国高校eスポーツ選手権をはじめ、日本のeスポーツの牽引役としての立場から見てどのように評価していますか?

尾崎氏: 回を重ねることで大会のクオリティも上がりますから、次回はもっと良い大会になると思います。

【京都スタジアム eスポーツ選手権】
京都府関係者が見守る仲大会が行なわれたが、途中で止まるなど、トラブルにも見舞われていた

今後京都府は日本でもっともeスポーツが盛んな地域になる!

――京都とのパートナーシップについてお伺いします。両者(京都府とNASEF)のパートナーシップは、この大会のみで終わるものではないということですが、今後どのようにしていこうと考えていますか?

尾崎氏: NASEFというのはあくまでボトムアップの組織であるべきだと思っています。今後、京都でもっとeスポーツの大会をたくさんできるようにするきっかけ作りが、今回の第1回大会です。大会をやって終わり……ではなく、NASEFは今後も加盟校や加盟生徒を増やすための活動をしていきます。

――なるほど、JHSEFは、1月に徳島でパートナーシップを発表されていました。あれは地この京都と地続きの施策なのですか?

尾崎氏: 徳島県との連携はまた別のものですが、最終的な構想としては同じです。各地方自治体や教育委員会から、「これは良いものだから推進していこう」と認めていただき、後は地場の方達を応援するというコンセプトに違いはありません。徳島県の場合は、四国大学と徳島阿南高専という学校が中心でしたが、今回京都の場合は、地場の協会が中心になっています。

【徳島プロジェクト】
2021年1月には徳島県ともeスポーツに関する協定を締結。こちらはJHSEFが主体となり、徳島県に加え、四国大学や阿南高専とも連携して、eスポーツを徳島に根付かせていくプロジェクトとなる

――ちなみに京都に関しては、教育委員会とおっしゃいましたが、これは京都ならではの特殊事情があるのでしょうか。それとも全国の都道府県で、教育委員会に対する理解を求めるというのは、全国で共通しているのでしょうか。

尾崎氏: 各地における教育委員会のeスポーツに対する向き合い方は、地方のeスポーツの発展においてとても重要な要素なのですが、京都府は積極的だということですね。我々は、文化としてのeスポーツを、各学校に根付かせることを目標として掲げて活動しておりますから、学校に認めて頂き、eスポーツ部を作って頂くことが大事なんです。

 なぜ部が必要かというと、顧問の先生の指導の下、他校とのリーグ戦、学生向けの大会出場、という風に活動が拡大化していきますが、生徒だけの活動では限界があります。今は多くの学校でeスポーツ部が発足していますが、まだまだeスポーツを学校ですることに温度差があります。学校にとって地元の教育委員会の意向はとても重要です。

【教育委員会が後援に】
こけら落としイベントの後援には、京都府、亀岡市に加え、各教育委員会も名を連ねている。ここが重要だという

――なるほど、よくわかりました。そうした中で積極的なのが京都府の教育委員会ということですか?

尾崎氏: そうですね。プレーヤー自身である高校生たちが一から部を立ち上げるのはやっぱり大変で、まわりの大人の力が必要なんです。そういう意味では、今回京都の教育委員会に、理解を示していただいたというところは一番大きいですね。

――何がキーポイントだったのでしょうか? やはり知事の理解というのは大きかったのでしょうか。

尾崎氏: 知事の理解も大きいと思いますが、それだけでもないとは思います。

――それは京都の新しい文化を積極的に取り込んでいく姿勢もあるんでしょうか?

尾崎氏: そうですね、おおいにあると思いますね。

――「知事行き活きトーク」でも、知事からは京都は伝統を墨守する一方で、最先端のものを取り入れていくという、その融合が京都らしさですという話がありました。その最先端のひとつがeスポーツであるというところなのでしょうか?

尾崎氏: そうなのだと思います。わたしも正直、京都のイメージが変わりましたね。造詣が深くもないわたしが言うのは、ちょっと気恥ずかしいのですが、京都の伝統とは、「古いものを守りながら新しいものを取り入れていく」と受け止めました。

――なるほど。イベントの挨拶では「このスタジアムを『ロケリ』の聖地に」という発言もありましたが、このレベルの競技用スタジアムがeスポーツに開放されるのは、まだ日本ではなかなかない話ですよね。

尾崎氏: そうですね。

――京都府はこれから京都スタジアムを活用する形で、eスポーツを推進していくわけですが、1年後、2年後はどういう風景を期待していますか?

尾崎氏: 京都府にある高校に、おそらく半年後、1年後には、もっとも多くのeスポーツの部ができる、またあらゆるeスポーツの大会に、一番参加する都道府県になると思っています。

――そこまで言いきりますか?

尾崎氏: 言い切れると思います。

――ちなみに、全国高校eスポーツ選手権は、京都の参加校は多かったのでしょうか。

尾崎氏: いいえ。今まではそれほど多くありません。

――私も過去3大会とも予選、決勝を観戦していますが、京都の高校というのは、あまり記憶がないです。だからこそ、京都でと聞いたときに、何故京都なのだろうと思いました。ところが、それが今後劇的に変わると?

尾崎氏: 変わります。今回もいきなり京都府内の高校だけで20校近く集まりました。今後、大会に出る学校はもっと増えると思います。

――つまり、教育委員会がeスポーツを推進してくれるとそういうことになると?

尾崎氏: そうです。今回、これだけ多くの参加校があったのは、京都府も教育委員会も一緒になって、「今回のこけら落としで「『ロケットリーグ』」の大会をやるから、学校も是非参加してください」、と呼びかけたからです。

――なるほど、府としての動きになっているんですね。

尾崎氏: そうですね。そういうことは、なかなかないですよね。

――そういう地殻変動が京都で起きつつあると言うことなんですね。

尾崎氏: そうですね。

――京都が期待通りにeスポーツが盛んな地域になれば、将来的には、京都で全国高校eスポーツ選手権や、サードウェーブさんの「GGC(GALLERIA GLOBAL CHALLENGE)」などを開催するような可能性もありますね。

尾崎氏: 全国高校eスポーツ選手権でも「ロケリ」を種目としています。京都スタジアムを「ロケリ」の聖地にするということを考えておられるということは、今後、繋がりがいろいろな面で深くなっていきますよね。

――全国高校eスポーツ選手権の「ロケリ」の決勝をこの京都スタジアムでやれるような未来が来くると良いですね。

尾崎氏: そうですね。もしそうなれば、ぜひ乾杯しましょう(笑)。

【カトヴィツェ】
eスポーツのメッカ ポーランドカトヴィツェ。IEM Katowiceのメインスタンドには1万人を超えるeスポーツファンが詰めかける。こうした未来が日本にも訪れることを期待したい

eスポーツにおける地方からの波

――尾崎さんが近年特に力を入れている「eスポーツを使った地方創生」についてお伺いします。徳島、京都と、具体的な動きが見えてきていますが、もう少し詳しく全体のビジョンをお聞かせいただきますか?

尾崎氏: eスポーツの地方創生というのは、正直、はっきりした形を私はイメージできていません。というのは、都道府県ごとに、形がそれぞれ違ってくるだろうという風に思っているからです。

 例えば主催者が誰かによっても形は変わりますよね。eスポーツ関連の協会、高校生や大学生のコミュニティ、または商店街。主催者によって大会のカラーや形が変わってくると思うんです。どこまでいっても、その地域の人たちがeスポーツの大会をやって、その地域の人たちが観に来る。こういう形が、大小問わず成立してくるだろうなと思います。

 地域の祭りで、eスポーツのイベントをやるとか、そういうものがたくさん開催されるようになるのが、地方創生と直結するのではないかと、わたしは思っていますね。

【徳島のケース】
徳島では、大学や高専を巻き込む形でeスポーツを使った地方創生が行なわれている

――ひとつの成功例を推し進めるのではなくて、都道府県ごとにアプローチの形を変えていかないと、馴染んでいかないのではないかということですね。

尾崎氏: そのとおりです。

――徳島と京都では確かにアプローチが違いますね。ちなみに、今狙っていらっしゃる地域はどの辺りでしょうか。

尾崎氏: たくさんあります(笑)。楽しみにしていて下さい。

――というと同時進行されているような雰囲気ですね。

尾崎氏: そうですね。パートナーも全国に30近くありますから、そこのパートナーを支援しながら進めているので、全国どの地域も可能性はありますね。

――つい先日実施された第3回全国高校eスポーツ選手権では、決勝大会は、オンライン開催でしたが、各校の選手達はオフラインというのが良かったですね。全国に拠点のあるNTTさんの局舎を活用するというアイデアは素晴らしかったなと思います。実際にやられてみてどのような感想をお持ちですか?

尾崎氏: オフラインだから良い、オンラインだから悪いというのではなく、それぞれメリット・デメリットがあります。どちらが良い、悪いというのはないと思っています。ただ、地方創生というものに関していえば、物理的に近い中でやっていく、かつ熱狂を感じられるというのは、やはりオフラインの方が大きいと思うんです。地方創生というところでいえば、場合によっては地元のボランティアのような方々にご協力いただきながら、オフラインで大会をやることもひとつのやり方だと思っています。

【NTT局舎を使った決勝大会】

――大会の規模が大きくなり、予選大会が開かれるようになってくれば、京都の予選は、是非ここでやってもらいたいですよね。亀岡市民の方だけでなく、京都近隣の方も参加して。それこそ地方創生になりますし、eスポーツの盛り上がりにも繋がっていきますよね。

尾崎氏: そうですね。

――今は、私は宮崎の出身ですが、eスポーツはまだ「宮崎の高校はどうか?」といった応援がなかなかできません。高校野球を観ていると「今日は宮崎代表が出るから応援しよう」というところがあるじゃないですか。早くその段階になってくれないかということを期待しています。

尾崎氏: わたしもまったく同じです。高校野球なら野球をやらない人でも地元の出場校を応援します。eスポーツでいえばそのゲームのタイトルを知らなくても、自分の地元の高校が準決勝やに進む、決勝に進むとなれば、何かしらそのチームとの繋がりがあって応援する。そしてファンが増えてくるのだと思います。それがまさしく文化であり、地方に根付くことだと思っています。

――私は、尾崎さんに京都でインタビューをするということ自体が、すでに日本のeスポーツが新しいフェーズに入ってきていることを感じています。ただ、eスポーツで大事なのは、選手達であり、ファンだと思います。特に彼らファンがいなければ何も成立しません。そうした方々に向けて明るいメッセージをいただけますか?

尾崎氏: 大会やイベントなども増えてきて、eスポーツはこれからもっともっとおもしろくなってくると思います。新しい選手もどんどん出てきていますし、大会に出てくるような選手のスキルも、どのゲームタイトルも前よりもより高くなってきています。我々も今後もいろいろな大会をやっていきますので、楽しみにしていてください。

――引き続き期待しています。ありがとうございました。