【特別企画】
京都スタジアムを「ロケットリーグ」の聖地にする取り組み。「京都eスポーツ文化祭」説明会レポート
2021年8月31日 00:00
- 【京都eスポーツ文化祭】
- 10月~2022年1月開催予定
京都eスポーツ振興協議会は、ジャパンeスポーツ アソシエイション(JeSA)、北米教育eスポーツ連盟 日本本部(NASEF JAPAN)、全国高等学校eスポーツ連盟(JHSEF)と共同で10月以降の開催を予定している「京都eスポーツ文化祭」のオンライン説明会を開催した。
4年先まで見据えたプラン、最終的には5,000人規模の大会を
京都eスポーツ振興協議会はeスポーツを用いた地域創生やデジタル人材の育成を目標に今年3月に設立され、一般社団法人ジャパンeスポーツアソシエーションと合同会社ビバ&サンガが主体となって運営されている団体だ。当団体は京都府の補助金対象事業者にも採択されており、サッカーチーム京都サンガF.C.のホームスタジアムでもある「サンガスタジアム by KYOCERA」にeスポーツ専用施設「スカイフィールド」を開設し、そこを拠点として京都府の学生を対象にしたeスポーツ大会を開くなどして、地域でのeスポーツの普及に努めている。
そんな協議会の今後の主軸となっていく事業が、今回発表された「京都eスポーツ文化祭」である。これはサンガスタジアムで開催される、子供から大人まで誰でも参加できる「ロケットリーグ」の大会で、第一回大会は来年2月に開催される予定だ。ロケットリーグはサッカーを模したゲームであり、サンガスタジアムと親和性があること、また観戦者にとっての分かりやすさと競技性を兼ね備えたタイトルであることから大会種目に選定されたようだ。
当イベントは4年先までのプランが考えられており、協議会は、4年後までに京都スタジアムをロケットリーグの聖地として認知させ、会場に3,000~5,000人の観客が集まるような大規模のイベントが開催できるようになっていることを目標として掲げている。容易に達成できる目標ではないが、共同開催のJHSEFは今年3月に全国から194校が参加した「全国高校eスポーツ選手権」を主催しており、そのノウハウを借りれば決して不可能な目標ではないだろう。
また協議会は、「京都eスポーツ文化祭」は単なるeスポーツ大会に留まらず、地方創生と人材育成を同時に実現する事業である点を強調した。全国から京都にプレイヤーや観客を集めることで地域の活性化を図るのはもちろんのこと、地元の学生たちを巻き込み、最終的には学生が主体となって大会を成立させることで、人材育成の側面も持たせる狙いがある。これらの目標を達成するべく、協議会は今後3年間かけて地元の人材育成や後援企業の獲得などに努めていく方針だ。
人材育成の具体的な内容として、例えばマーケティング人材の育成であれば、高校生を対象にPR動画やWebページ制作のノウハウを教える講座を開催し、受講生には実際に「京都eスポーツ文化祭」のPRを担当してもらう、というフローを想定しているようだ。eスポーツ大会の運営に関わる傍ら、実社会でも応用できるITスキルを身に付けることができれば、高校生にとっても良い学びになるというわけだ。
また、機材の運用を担当するテクニカル人材や大会の運営スタッフも将来的には高校生に担当してもらうことを想定しているそうで、こちらも同様に事前の講座を通じて人材を育成し、その過程で高校生たちが専門的なスキルを身に付けることができる、アクティブラーニングのプログラムになっているようだ。
加えて、eスポーツ大会に欠かせない実況解説やMCの育成、さらには大会のレベルアップに向けた選手のスキルアップトレーニングなどのプログラムも開催予定で、実況解説の講師はロケットリーグファンにはおなじみのKokken氏、スキルアップトレーニングの講師は東京ヴェルディ所属のReaLize選手と元プロのValtaN選手が担当するようだ。第一線で活躍するプロの手ほどきを受けられるというのは、高校生にとっても貴重な体験になるだろう。
協議会の理想が全て実現されれば、「京都eスポーツ文化祭」はPRから運営、さらには演者まで、全てが高校生で構成された大会ということになる。コロナ渦の現状を考えると中々野心的なプランであるといえるが、本当に実現されれば京都の高校生たちにとって一大イベントになることは間違いなしだ。
また学生生徒たちへのプログラムを開催するのと並行して、協議会は、教員や学校へのサポートも行っていく方針だ。「eスポーツ指導教員向けセミナー」と題し、eスポーツ部活動の運営方法やeスポーツの教育的価値などをレクチャーし、加えて個別相談にも応じてくれるという。これはNASEF JAPANが全国の学校に向けて行っているプログラムでもあるが、京都府の学校に重点的にサポートを行うことによって、地域の教育現場にeスポーツの導入を促進する狙いがある。
なお、前述の「全国高校eスポーツ選手権」では、出場校全194校中、京都府の高校はたったの4校。この数字を見ても京都府ではeスポーツが普及しているとは言いづらい。しかし同時に、「京都eスポーツ文化祭」が皮切りとなって京都にもeスポーツが普及すれば、生徒たちにとって新たな学びの場が与えられることになる。そのためには、学校や保護者に地道なレクチャー活動を続け、大人たちの理解を得ることが重要になってくるだろう。
第一回「NASEF JAPAN ロケットリーグ大会」は今年11月からエントリーが開始される。興味のある方は、続報に注目だ。
学生がeスポーツを取り組むことの価値とは
説明会後半では、NASEF JAPANの坪山義明氏が『日米の事例からみるeスポーツの教育的価値』と題して講演を行った。この講演では、今日本の学校で着実に増えつつあるeスポーツ部活動の実例を取り上げながら、eスポーツの教育的価値、そしてeスポーツ部の具体的な運営方法についてのレクチャーがなされた。
坪山氏は、学校関係者の中には依然として「eスポーツを教育現場に持ち込むことに抵抗がある方が多い」としたうえで、eスポーツに取り組むことはスポーツに取り組むことと同等の教育的効果があると強調した。坪山氏は、eスポーツ部活動は決してプロゲーマーを育成するための場ではなく、eスポーツを通じて生徒たちの自主性とコミュニケーション能力を増長する場であると話す。
「京都eスポーツ文化祭」の採用タイトルである「ロケットリーグ」をはじめ、JHSEFやNASEF JAPANが種目として採用しているゲームタイトルはチーム戦のゲームに限定されている。これには生徒たちに一丸となって目標に進む意義を学んで欲しいという意図があり、実際にこれらのゲームを通じてコミュニケーション能力の向上が感じられたという声も多いという。
また、学校関係者の中には「eスポーツ部の顧問をできる教員がいない」といった悩みから部の設立を断念する方も多いとのことだが、坪山氏は、eスポーツの技術的な指導ができる顧問は必ずしも必要ではないと話す。部活動は生徒の自主性を育む場であり、顧問がeスポーツに精通している必要はなく、むしろ生徒たちが自分たちでオンライン上のリソースを活用し、自ら向上していく環境づくりが重要とのことだ。
NASEF JAPANは今後も独自のメンバーシップなどを通じて、全国の学校でeスポーツ部開設を促進・サポートしていく方針だ。eスポーツ教育に興味がある教育関係者は、是非一度NASEF JAPANのセミナーに参加してみてほしい。