【特別企画】
亀岡は“日本のカトヴィツェ”になりうるのか!? 京都府、京都スタジアムのeスポーツ施設化を本格始動
2021年3月28日 21:06
- 3月27日、28日開催
- 会場:京都スタジアム
京都府は3月28日、京都亀岡の京都スタジアムにおいて、VR・eスポーツエリア開設を記念して京都スタジアム杯eスポーツ選手権を開催した。こけら落としイベントも同時開催され、式典には、西脇隆俊京都府知事をはじめ、亀岡市長、京都府議会議長、亀岡商工会議所会頭など、多くの関係者が詰めかけた。
eスポーツを使った地方創生。日本のeスポーツを語る上で欠かせないテーマの1つだ。eスポーツを地域活性化に使う、というとあまり聞こえが良くないが、要するに子どもたちが魅力を感じる街作り。そのために若者に高い関心を集めるeスポーツを積極活用するという考え方だ。
ただ、日本ではその多くが、eスポーツで街を盛り上げたいからeスポーツイベントをやるという、“デパート屋上のヒーローショー”の延長線上で捉えている取り組みがまだまだ多いのが現状だ。ヒーローショーでは百貨店の活性化に繋がることはあっても、街の活性化にはなかなか繋がらない。街の活性化に結びつけるためには、地方自治体や、地方の教育委員会に、その有効性を理解して貰い、官民が一体となって進めることが重要となる。
日本においては、まだeスポーツは国が指針を定めるレベルに到っていないため、地方のeスポーツ振興は地方自治体をいかに巻き込むかが重要になってくる。地方自治体のeスポーツへの理解度は、まさに千差万別で、東京都のように一定の予算を割いて毎年大会を実施している比較的積極的な自治体もあれば、香川県のようにeスポーツを“ネット・ゲーム依存”と直結させて考え、徹底的に排除する自治体も存在する。
こうした地方自治体の反応において、日本の全都道府県の中で、eスポーツに対して積極的なのが京都府だ。京都府は、今回サンガスタジアムの愛称で知られる京都府京都スタジアム内に、eスポーツ施設を立ち上げ、市民に安い料金で提供するだけでなく、eスポーツ大会会場としても積極的に活用し、“eスポーツスタジアム”として運用していく構想を明らかにしている。
古川博規京都府副知事が祝辞の中で「いずれeスポーツにもピッチを開放して、1万人を超える方に大会を催して欲しい」と抱負を述べると、桂川孝裕亀岡市長は、「eスポーツは世界で1億人以上のユーザーがおり、経済効果は900億円と言われている。若者にはこのスタジアムを活用して貰いながら、デジタルイノベーションとしての人材育成が行なわれていくこと、亀岡にとっても新たな賑わい創出にも繋がっていくことを期待している」と述べ、共にeスポーツを活用した地方創生に大きな期待を寄せた。
今回誕生したVR・eスポーツエリア「SKY-FIELD」は、京都スタジアムの4階にあり、専用の入り口からエレベーターで直行することができる。そこはeスポーツエリア、VR/フィットネスエリア、コワーキングゾーンに区切られ、コワーキングゾーンは、スタジアム内のVIPルームのようにピッチ全体がよく見渡せるが、eスポーツエリアは専用扉から入ると、eスポーツ会場特有の光が遮られた薄暗い空間となっており、スタジアムらしからぬ趣を称えている。
利用料金は80円(一般、15分)からで、京都府運営ということもあり、かなりリーズナブル。機材はゲーミングPC「GALLERIA」、ASUS製のゲーミングモニター、GTRACINGのゲーミングチェアがそれぞれ12台ずつ配置されていたが、機材自体はもっと多く確保しているという。広さは客席も含めれば50人程度といったところで、それほど大きくないが、古川京都府副知事が明言しているように、ピッチをeスポーツ用に開放する計画も明らかにしており、「SKY-FIELD」を試合会場とし、観戦はピッチやスタンドを使えば、万単位を集めたeスポーツ大会の開催も可能だ。eスポーツ会場としてのポテンシャルのデカさは国内随一といっていい。
このVR・eスポーツエリアの管理運営を担うのがビバ・サンガとなる。ビバ・サンガは京都でスポーツ施設を運営しているビバと、京都サンガFCを運営する京都パープルサンガの共同出資によって生まれた会社で、まさにスポーツ的な視点からデジタルスポーツとしてのeスポーツを地域一体となって育てていくための組織だ。
今回、こけら落としイベントで実施された競技種目は、全国高校eスポーツ選手権でもお馴染みの「ロケットリーグ」。サッカーの本場である京都スタジアムで「ロケリ」を扱うという洒落の効いた取り組みで、ビバ・サンガ代表小森敏史氏は「サンガスタジアムを『ロケリ』の聖地にしていきたい」と大きな野望を覗かせた。
こけら落としイベントに参加していて感じたのは、この亀岡が、日本のカトヴィツェのようになったらおもしろいなということだ。ポーランドの中都市カトヴィツェは、世界のeスポーツファンなら知らぬものはいないまさに“eスポーツの聖地”だ。カトヴィツェはもともと鉱物資源に恵まれた工業都市で、ヒトラーやスターリンなど世の支配者に狙われ、鉱物資源が掘り尽くされたあとはそのまま放置された。
この寂れるがままの元工業都市を救ったのがeスポーツだ。世界最大規模のeスポーツの祭典であるIEM(Intel Extreme Masters)の会場として誘致し、現在ではグランドファイナルの開催地として世界中から数十万人のeスポーツファンを集めるまでに到った。このメッカ化に大きな役割を果たしたのはカトヴィツェ市長の存在で、2014年にIntelと市が交わした協定によって、現在のカトヴィツェがある。2020年、2021年は残念ながら共にオンライン開催になってしまったが、地球にeスポーツがある限り必ずや復活するはずだ。
筆者もカトヴィツェには取材で1度だけ足を運んだが、開催期間中は街がIEM一色となり、零下10度を下回る極寒の中、役所の前では、ドラム缶に火をたき続けた状態でパブリックビューイングが行なわれる。メイン会場では、入り口で分厚い外套を預け、半袖にビールでeスポーツに熱狂する。これが数週間続くのだ。こうした動きが日本の地方自治体にあるかというと、筆者が知る限りまったくないように思う。
亀岡市は、その精神的支柱である京都スタジアムという巨大なハコに加えて、京都から30分という立地の良さ、府や市レベルでの積極支援体制、官民が一体となった取り組みなど、様々な好条件が整っているように思う。サッカーの延長線上として「ロケリ」の聖地にするのは悪くないアイデアだし、京都スタジアムで大規模なeスポーツ大会が次々に開催されるような未来を期待したいところだ。
こけら落としイベントの目玉として実施されたeスポーツ大会自体は、京都スタジアムで初の開催だったためか、不慣れな点が目立っていた印象だった。公式サイトで調べようにも出場チーム情報のリンクが切れていたり、予選が終わっているにもかかわらず決勝大会出場チームもわからないなど、おおよそ会場のグレードに相応しい大会とは言えず、大会の模様もライブ配信はないのも残念だった。
来賓として出席していたNASEF JAPANファウンダー尾崎健介氏は、知事の「日本のeスポーツが世界に後れを取っている理由は何か?」という質問に対して、そもそも大会の絶対数が少ないことを挙げ、その背景には、「大会を支援する団体や、eスポーツ大会を運営する会社の少なさ」を挙げていたが、まさにこういう部分だと思う。
ただ、いずれにしても地方から、eスポーツの新たな息吹が感じられたのは、個人的に大きな収穫だった。日本ではeスポーツはまだメジャーではないにしても、実績やノウハウを持った企業はたくさん存在し、それらをうまく活用することで、質の高い大会運営は地方でも十分可能だ。素晴らしい施設ができたのだから、ぜひ次の機会では、亀岡から世界に轟くようなeスポーツ大会を実施してくれることを期待したい。