インタビュー
我々の幹となるのはストーリー、「サイバーパンク2077」開発者インタビュー
この世界のネットは分断されている? 世界の秘密や開発ポリシーが明らかに
2019年6月15日 00:47
予想を大きく超えた世界の面白さ、ゲームシステムの広がりを見せてくれた「サイバーパンク2077」。今回はデモプレイの紹介に加え、本作のクエストディレクターを務めるMATEUSZ TOMASZKIEWICZ氏にインタビューを行なった。
TOMASZKIEWICZ氏は、今回のデモプレイに関して観客に一番見てもらいたいところは「ストーリーの多彩さ」だと語った。「ウィッチャー3」に限らず、CD PROJEKT REDの最大の強みはストーリーにある。これまでは会話やプレーヤーの選択によってゲームの幅を見せていたが、「サイバーパンク2077」は、キャラクターの育成によっても大きく展開が異なる。ダブルジャンプが可能な足があれば障害物を越え、筋力を強化すればドアをこじ開けルートすら全く異なる展開が見せられる。
さらにキャラクターの背景設定がある。この背景によって選べる会話もある。「サイバーパンク2077」は"ゲームプレイの多様性”を大きく強化した作品であり、そこをアピールしたかったとのことだ。今回のデモではハッカー型、パワー型の大きく異なるスタイルを提示したが、もちろんプレーヤーが必要だと思う能力を強化した"ハイブリット型"のキャラクタービルドもできる。
TOMASZKIEWICZ氏は答えとして"さらなるタイプ"を語った。キャラクターは用意された"クラス"を選ぶのではなく、プレーヤーが必要だと思うスキルを選ぶスキルベースであり、しかも選ぶ武器によって戦闘スタイルも異なってくる。近接能力を強化するのにも、ハンマーを振り回すのと、日本刀で戦うこと、ナノワイヤーで戦うスタイルは大きく変わる。近接とハッキングが得意、というビルドも可能だ。ナノワイヤーは近接武器であると同時に、ハッキングツールでもある。
システムはもちろん、テキストでの選択肢も膨大なモノだ。次に筆者は、「サイバーパンク2077」はライターこそ一番大変なスタッフではないか? という質問をぶつけてみた。今回のデモも含め、本作に出る依頼主は全て良からぬ思いでVを利用し、展開が2転3転する。コレはシナリオを作るのはかなり大変だし、アイデアが膨大に盛り込まれていると感じた。
「サイバーパンク2077」はまさにストーリーが全ての根幹を握っているのだとTOMASZKIEWICZ氏は答えた。まず幹となる物語をライターとディレクターが相談しながら作っていく。その幹をクエストという形で切り分け、加工していく。クエストライター達により物語はより磨き込まれ、エキサイティングなゲーム体験を盛り込めるように、より濃厚に作り込まれていく。
そして実装である。ここでゲームとしての"感触"が確かめられる。ストーリーの始まりと結末はある程度定められても、その展開に様々な変化が生まれるように、アイデアを込めていくのである。このようにいくつもの手順でストーリーは作られていく。それはとても複雑だが、システムとしてきちんと形作られているという。
ストーリーを作る上でTOMASZKIEWICZ氏が気をつけてる点は、「没入感の達成」である。それは2つのプロセスに集約されるという。1つはクエストデザインがストーリーの達成に必要だと感じさせることである。プレーヤーの成長がゲームを確実に有利にしていく。新しいルートを進めたり、敵を容易に倒せたり、成長がストーリーの進行を確実にしていく。「このキャラクターならこのように物語を進める」という点をはっきりさせる構成にクエストを組み上げていく。
2つめは「似たようなクエストにしない」。クエストを自動生成するゲームもあるが、「サイバーパンク2077」、そしてCD PROJEKT REDはクエストは1つずつ手作業でクエストを作っている。全体を俯瞰し、似た感じにならないように気をつけてクエストを作成している。全体を見るTOMASZKIEWICZ氏は、それぞれがスペシャルな体験を楽しめるように心がけているとのことだ。
ストーリーはまさに「サイバーパンク2077」の幹であるという。まずストーリーが作られ、そこからコンセプトアートが生まれ、物語の舞台ナイトシティの輪郭が形成される。キャラクターもまた、ストーリーをコアとして具体的な姿が生まれていく。そしてこの流れは一方通行ではない。明確な舞台、世界、キャラクターがさらなるストーリーを生み、システムのアイディアを刺激し、全てはお互いを増幅しながら、より明確なストーリーへと還元されていくのである。
ここで少し話を変え、「サイバーパンク2077」の世界の面白さにフォーカスしてみた。「サイバーパンク2077」は、「レトロフューチャー」の世界である。それはTRPG「サイバーパンク2.0.2.0.」で描かれた未来、1980年代に考えられた未来像を受け継ぐ世界なのだ。そのため、この世界にはスマホ的デバイスが主流になっていないし、接続は無線ではなく有線が多い。現代の我々の未来世界ではなく、大きく異なるセンスによって作られた世界なのだ。現在の世界と異なる「サイバーパンク2077」を描く上で、開発者達は何を気をつけているのだろうか?
「サイバーパンク2077」の世界は、「サイバーパンク2.0.2.0.」を経由し、現在の我々とは違う時間軸を歩む世界である。このため、原作者のマイク・ポンスミス氏と密接に連絡を取り彼が思い描く未来世界を大事にしている。現実とゲーム世界で大きく異なるところは、「サイバーパンク2077」にはネットを通じて世界が繋がる「インターネット」が存在しないのだという。
過去世界である「サイバーパンク2.0.2.0.」ではインターネットのように人々が自由に世界中にアクセスできる「サイバー空間」が存在した。その世界はコンピュータ空間であり、ジャックインする人は、コンピューターからの疑似信号で世界を体感できる。Vと他のネットランナーが"見ている世界"は視覚イメージ的に、全く別な可能性もある。しかし「サイバーパンク2077」では、この世界は"分断"されているのだという。「サイバーパンク2077」は世界に広がるネットはなく、LANネットワークのような、限定されたネット世界しか存在しないというのだ。
それは50数年の間に、様々なネットランナーがマルウェアをばらまいたり、悪質な犯罪を繰り広げたあげく、ネットウォッチというネット世界を取り締まろうとする勢力によりサイバー空間は「ブラックウォール」というプログラムで分断されてしまったのだという。「サイバーパンク2077」のサイバー空間は分断されており、繋がっていない。しかし凄腕のネットランナーならば、このウォールを越えることができるというのだ。
今回のデモの終盤は、まさにこのブラックウォールを越えようとする場面で終了する。しかし、サイバースペースは膨大な情報の"るつぼ”であり準備なく壁を越えようとすればデータの海に頭が焼き切れてしまう。その海にこぎ出すには準備と技術が必要なのだ。そしてその世界にこそ、「ジョニー・シルヴァーハンド」の秘密に繋がっているのだ!
最後の質問はキアヌ・リーブス氏について。キアヌ氏はサイバーパンクの映画にも多数出演しており、今回の守護天使のような、そして世界の根幹の秘密を握るようなジョニー・シルヴァーハンドを演じるのは、「この人しかいない」という役者だが、彼に開発はどんな影響を受けただろうか?
TOMASZKIEWICZ氏は、「彼は熟練した役者であり、彼の演じ方や、モーションキャプチャーへの取り組み、そして彼からの意見は、とても多くのものを我々にもたらしてくれた」と語った。彼のスペシャルな考え、演じる事への哲学は、開発者達も積極的にヒアリングし、ゲームに最大限活かしたとのことだ。
TOMASZKIEWICZ氏は日本のファンに向かい、「このゲームを待っていただいている日本の皆様には、私達も大変期待しています。『ウィッチャー3』など過去の作品も楽しんでいただいてる方に、必ず満足していただける作品にします。ご期待下さい」と語った。
「CD PROJEKT REDは、ストーリーを最大の売りとするゲームメーカーである」今回のインタビューは、この主張を強く感じさせるものだった。そしてそのストーリーを読み聞かせるのではなく「体感」させるために何をしているのか、その一端が見えた気がした。また、今回の話で、デモの楽しさがさらに膨らんだ。
筆者はTRPG「メタルヘッド」をきっかけに、「ニューロマンサー」、「ハードワイヤード」、「スノウ・クラッシュ」、ディックの作品など、サイバーパンク関連の小説を熱狂的に読んでいた時代がある。今回話を聞いてあの頃のワクワクする気持ちが再び燃え上がった。サイバーパンクは、電子の荒野は素晴らしい。早く本作をプレイしたい!