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【龍が如く3】
価格:7,980円
CEROレーティング:D(17歳以上対象)
そこで、「龍が如く3」のすごさをもっと知るために、そして本作の生みの親である名越稔洋氏のすべてを知る為に、マフィアっぽいスーツを着た筆者は、セガを訪ねることに。そう、名越氏にインタビューするという、ものすごく貴重な機会に恵まれたのだ。 社内の一室に通されてしばらくすると、こんがりと焼けた顔がトレードマークのカリスマゲームクリエイターが現われた。憧れの人を前に、足が少し震え始める。「落ち着いて」と自分に言い聞かせながら、待ちに待ったインタビューをスタートさせる。
本稿では、「龍が如く3」にまつわる話題や名越氏の人物像について一問一答形式でお話を伺ってきた。すごいゲームの裏には、必ずすごい人がいると筆者は確信している。最後の最後までゆっくり読んで、「龍が如く3」と名越氏のすごさを思う存分実感して欲しい!
■ 映画のような「龍が如く3」。そのテーマ、舞台、主人公の秘密とは? ジョン・カミナリ(以下、カミナリ):こんなに豪華なキャストをテレビゲームで起用するのはたぶん初めてだと思うのですが、役者さんたちを指揮する気持ちはどうでしたか? 名越稔洋氏(以下、名越氏):キャスティングは僕で、収録を担当するディレクターがいて、彼がキャストに与えた演技のイメージが違えば、僕がコメントするんです。でもキャリアのある役者さんだと、自分の解釈をプラスアルファするので、逆に自分たちが気付かなかったこともあります。いろいろな発見があって、とても面白い収録ですよ。収録しながら作っていく感じですね。
名越氏:モーションポートレイトではなく、セガで作ったオリジナルのエンジンがあるんです。それがツールとしては非常に優秀なんですが、それでもキャラクターに命を与えるのは難しいですね。ツールで作れる部分にはどうしても限界があるので、どのシーンも最終的には必ず人の手が加えられてます。 例えば泣き、怒りという部分でより微妙な感情を表現したいと思うと、ツールで動かせる分量では足りないですから。嬉しいんだけど、100%嬉しいのではなくてすこし心に引っ掛かりのある喜びだったり、怒っているんだけど、怒りきれない理由のある怒りであったり、エモーショナルなかけ合わせみたいなものを、今回はうまく出したいというのを目標にしてました。微妙な部分でのこだわりが“いい”と評価してもらえるとしたらすごく嬉しいです。 カミナリ:桐生一馬はものすごく魅力的な主人公だと思いますが、彼を作る上で、昔の映画からインスピレーションを受けたことはありますか?個人的には、チャールズ・ブロンソンとスティーブン・セガールの間のキャラクターだと思うのですが。 名越氏:やはり日本の昔の任侠映画ですね。強きをくじき、弱きを助けるという芯の通った強い生き方をする男。だけど、強いがゆえに皆から避けられるし、本人も不器用で周囲とうまく付き合えない。無骨な良さっていうか、昭和のかっこいい男を目指したので、特定の人というよりは、あの人のああいう部分、この人のこういう部分をコラージュして、僕なりのベストを組み合わせた感じです。それができるのがCGの良さかな。
最初はもっと怖かったんですよ、見るからに悪党みたいな。ただある日考え直して、これはこれでかっこいいんだけどユーザーが感情移入するのにハードルが高すぎるなと思って、ちょっと抑えたんですよ(笑)。
名越氏:僕にとっては、遥と桐生が2人で1人の人間なんです。ゲームでは桐生は強さの象徴として描いていますが、それでも彼にも弱い部分があって、それを補うことのできる存在が遥なんです。もちろん、桐生が遥を支えることもあります。
本当に大切なものを補い合うという彼らの生き方に共感してもらえたらいいなと思って、コントラストのある存在にしています。僕の特別な人物と重なってはいないけどね。まだ子供もいないし(笑)。
名越氏:前作が大阪だったから、また大きな都市、名古屋、札幌、福岡などでやるよりは、もうちょっと意外性のある場所を舞台にしたいと思って。候補で沖縄が挙がって、確かに日本人にとってはすごくアイデンティティの高いロケーションなのでいいかなと。もちろん実際に見に行きました。 正直に言うと僕も沖縄は知ってはいたけど、行ったことはなかったんですよ。行ったことで初めて、いろいろなスポットがあることとか、外国人にしても、六本木とはまた違う雰囲気を持っていることがわかりました。もちろんリゾート地だから昼間はすごく爽やかな雰囲気なんだけど、その独特なコントラストのあるロケーションがドラマを書けそうなエネルギーを持っていたので、一気に書き始めたんです。 カミナリ:ロード時間がすごく短くなった本作ですが、やっぱりテンポはアクションゲームには欠かせない要素の1つだと思いました。「龍が如く3」はその他に、なにが進化したのでしょうか? 名越氏:まずはロードをシームレスにしたこと。あとは細かいAIはすごく進化したので、シームレスにするとバトルが始まった時、周りで歩いている人間たちが綺麗に逃げなきゃいけないし、あと人が避けるとか、リアクションにおけるバリエーションがものすごく進化したと思いますね。街で行動する臨場感は、飛躍的に向上したところですね。 カミナリ:前作と同じように、パートナーと協力して敵と戦えるのでしょうか?そうでしたら、新しいアクションはありますか? 名越氏:ありますよ。格闘技場でトーナメントもできますし、アクションに関しては、それだけを一年中考えてる担当者がいるので、彼らの知恵の結集、結果をぜひ見てあげて欲しいなって思います。 カミナリ:プレイスポットもさらに充実している本作ですが、名越さんのオススメのプレイスポット、あるいはサブストーリーはどれですか?
名越氏:全部面白いんだけど……今回初めてカラオケが入りました。単にリズムゲームじゃ面白くないから、女の子が歌ってるときに、桐生が合いの手を入れたりします。桐生はこれまで、どちらかというとコミカルなところとかファニーなところはカットしてきたんだけど、カラオケだけに関しては、ユニークなテイストを持っているので、今まで見られなかった桐生の側面が見られるのはオススメです。彼も歌います。UFOキャッチャーも取りやすくなったという意見が多かったかな。
名越氏:僕の場合は毎回、ベストなセリフは敵が言ってるんですよ。今回も敵の言葉が1番好きですね。僕は、敵も愛すべきものにしたいんですよね。それぞれが使命を持って動いてるんだけど、悪い奴にもいいところはあるし、いい奴にも悪いところはある。 遥と桐生の関係じゃないけど、一方的なもので決められてしまうとやはりドラマって深くならないから。それを掘り下げていくと悪い奴のセリフって、むしろ心に染みるものが生まれやすいんですよね。だから、もちろん桐生のセリフは最高に気を配っているんだけど、それと同じか、それ以上に敵のセリフにもものすごく気を使ってます。自分で書き直すのは敵のセリフが一番多いですよ。 カミナリ:名場面は? 名越氏:大体においてラストシーンなんで、それを今語る訳にはいかないかな(笑)。 カミナリ:「龍が如く3」で実現したかったけど、実現できなかったことはありますか? 名越氏:今の段階でのベストは尽くしたので、後悔はないですね。またちょっと時間が経つとたぶん浮かんでくると思います。「龍が如く」の時は逆にもっとできたなという気持ちはあったんですけどいい結果が出たし、「龍が如く 見参!」の時はロード画面を短くしたかったんですけど、スケジュールの問題でできなくて、でもやろうとしているドラマの中でここまでやらなければいけないレベルを超えた感じはしています。でも、ユーザーから『ここはどうしてこうなの?』っていう意見が聞こえてくれば課題も増えていくし、自分自身でもここはこうしておけばよかったみたいな、時間が経つと見えてくるものはあると思います。 カミナリ:私はギャング映画の大ファンですが、イタリアと日本を舞台にした「龍が如く」というのはいかがですか?遥がマフィアに拉致されて、桐生一馬が南イタリアに行くというストーリーはありえないかもしれないですが、逆に外国も舞台にすることで、ヨーロッパやアメリカのユーザーたちに「龍が如く」シリーズをもっとアピールできるのではないかと思います。マフィアVSヤクザの「龍が如く」……いかがでしょうか? 名越氏:いいですねぇ、面白いと思いますよ。ただ「海外」を作るのが大変なんですよね。ここで欲を出していくのか、それとも日本人に対して伝えることってまだたくさん残ってるから、それを大事にしていくか……今すぐには結論は出せないですね。もっとメジャーになれば、海を越えるっていうのも面白そうだけど、一方で売ることも大切だから、僕自身どう展開するのが正しいのかというのは毎回悩んではいます。 海外に向けてアピールする方法が全くないとは思わないですけどね。海外を視野に入れることで、当然たくさんの意見を取り入れるでしょうし。でも意見を取り入れることでブレていくこともあるから、そこが難しいですよね。海外の意見を聞いていないから、ブレなくてかっこいい部分もあるわけで。そこが本当に難しいです。 カミナリ:「龍が如く3」もHAVOCを使っていますよね。このミドルウエアにこだわっている特別な理由はありますか?将来的には、このシリーズをさらに進化させるためには、もっと強力なエンジンが必要だと思いますか? 名越氏:HAVOCではないけれど、似たエンジンを使ってますね。強力なエンジンは必要ですね。物理エンジン単体の話ではなくて、AIをもっと進化させる為に、モーションフィージックスという面はもっと評価していかないといけない。僕の頭の中では、今の技術のおおよそ完成形に近いものが、「龍が如く」でできていると思うので、ここから先が一段違う世界だと思っています。 カミナリ:名越さんは非常にクオリティーの高いゲームを驚くほどの短期間で完成できるクリエーターとして世界中で評価されているのですが、今までのペースからすると、もしかして、次の「龍が如く」の開発はすでに始まっているのではないかと推測しているのですが……。
名越氏:ナイショです(笑)。
■ すごいゲームの裏にいるすごい人、名越稔洋
名越氏:僕たちが生きている国って政治によって成り立っていますよね。勝手に成り立っているわけじゃないんだから政治に不満があれば、政治に文句を言わなければいけないと思うんです。世の中をリアルに生きていくっていう意味では、もっと新聞とかニュースにも目を向けるべきだし、それで何かを思いつけば、何らかの形で表現するべきだと思います。 今回取り上げたテーマが僕のメッセージそのものではないけれど、世の中で起きていることについて無関心な人が結構多いから、そういう意味では現実社会にもっと目を向けようというメッセージにはなっていると思います。 カミナリ:アサガオという養護施設で子供たちの面倒をみることになった桐生一馬ですが、名越さんは桐生を通じて、大事なメッセージを送りたいのではないかと、個人的に感じました。「龍が如く3」の敵は、ヤクザだけではなく学校でのいじめを始めとした、日本社会の問題でもあると思います。桐生は日本人のあるべき姿を表現しているのでしょうか? 名越氏:僕は、今の日本の問題を色濃く出せるように気を配っているつもりです。大きい話題もミニマムな問題も、すべてを合わせて1つの現実だから、それをいろんな形で表現できるミッションを作りたいという気持ちは昔からあったんですよ。
現代の子供の社会と自分が子どもだった頃の社会って絶対違うと思うから、(ゲーム内の)子供たち1人1人にちゃんとエピソードを与えて、そこで子供たちのたくましい姿を見たり、またその面倒を見ることによって、いろいろな問題に対して正面を向いて考えるきっかけになってくれればいいなという気持ちはあります。
名越氏:(ゲームは)映画やドラマほど認められてないだけで、もう認められ始めていると思うんですよ。今の僕らより若い世代がゲームで泣いたことはあると思うんだけど、僕らよりもっと上の世代はゲームで泣くなんてことはありえない世代なんですよ。 でもこれは時間が解決してくれるから、20年後くらいには、みんなゲームで1度は泣いたことがある中で死んでいくと思うんですよ。そうなった時に初めてゲームはエモーショナルな媒体として普通に認められる時代がくると思います。 カミナリ:映画と同じように? 名越氏:そうです。僕がメディアやイベントに顔を出すようにしているのは、ゲームってすごいことができるんだよ、いいものなんだよということを作り手がもっとアピールしていかなきゃいけない部分もあると思っているからです。 そういうことをやっていけば、そんなに遠くない未来に、当たり前のように認めてもらえる日が来ると思う。時間が経てば認めてもらえるとは思うけど、できることなら早くその日がきて欲しいので、僕も一生懸命努力しています。 カミナリ:「龍が如く3」は映画のようなゲームだと言っても過言ではないと思うのですが、名越さんの次のステップは映画監督ですかね?日本のクエンティン・タランティーノになれると思います。 名越氏:いやいや(笑)。次もその次もゲームデザイナー、クリエイターですよ。ただ、全く無関係のことをやっても意味がないけれど、他のクリエイティブなコンテンツに触れることで、メインの仕事が深まることはあるから、関われるんだったら何でも関わりたい。それは映画に限らずやっていきたいという気持ちはあります。 ただやる以上は1つ1つしっかりやらないと、手をつけてはみたもののいい加減な結果しか残せないのだとしたら、時間も無駄だし、悪い評判も作ってしまうから。やる以上は自分でできると納得して、そこでいいものをつかんでゲームにフィードバックしたいと考えています。 カミナリ:「龍が如く 劇場版」の三池崇史監督とお会いしたことは?
名越氏:もちろん(あります)。彼は、頭でも撮ってるし、体でも撮っているので、そういう意味では非常にバランスがいいんでしょうね。よく考えて撮ることもあれば、考えていても話にならないからとりあえず撮ろうよという時もあって、だからあんなに大量に作品を生み出せるし、変に肩の力が入ってないですよね。あの人の作品の魅力は、そういうスタンスから生まれてくるんだと思います。非常にテンポのいい、フットワークのいい生き方をしている人だと思いますよ。
名越氏:圧倒的に(洋ゲーの)投資の額が違うので、ボリュームと同時に技術ですかね……でもメガヒットしているタイトルを見て感じるのは、技術的にはすごいけど、よくよく見たら大体わかるので、それも「龍が如く」を通して、僕たちが手に入れた自信をベースにして、海外でヒットさせるものの手がかりにできたらなと思っています。 ただ、動く、休むというテンポ感が日本人と欧米人では圧倒的に違いますよね。日本人には、欧米人向けのゲームのテンポは忙しくて飽きる傾向にあると思うんですよ。そこを肌で感じて身につけていくのは大変そうですね。 (外国人クリエイターがマネできないこととして)1番はその逆で、日本人の間の取り方とか理解しづらいだろうし、ドラマシーンにしてもセリフの数が日本のゲームのほうが圧倒的に多いと思う。でも実際には、それぞれがそれぞれの国民性に合わせてベストを尽くしているから、比較しづらいですよね、同じ土俵じゃないから。 カミナリ:名越さんの思い出のテレビゲームってありますか?ゲーマーとしての人生を変えたゲームというのもあるのでしょうか? 名越氏:今も昔も「スーパーマリオブラザーズ」ですね。それを超えるものはないかな。たまにファミコンのゲームをやる機会があると、おおよその原点はファミコン時代ですべて一応できていたんだと再認識します。そういう意味では、あの時代が青春だった世代(30代から40代)はちょうどゲームクリエイターとして脂がのってきているから、最近(ゲーム界に)恩返ししなきゃいけないという気持ちはすごくあります。 カミナリ:2009年の抱負を教えてください。またこれから挑戦したい新ジャンルはありますか? 名越氏:新ジャンルは1つやりたいと思っているんですよ。タイトル数でいうと、企画の原案から含めれば2、3本計画しているものがあるので、今の段階からもうこの状態で、既にパニックなんです(笑)。
なので、今年は忙しい1年になるとは思ってるんですよ。「龍が如く3」がすでにいい感じにきてるので、次はもっと上を目指さないといけないし、去年よりハードになりそうな今年を何とか凌いでいこうと、今は気合で乗り切ろうみたいな雰囲気ですかね。僕自身もそうですけど、スタッフにも毎回毎回自信がついてるので、それは非常にいいことかな。
名越氏:現時点で「龍が如く」チームができる最高のゲームになりました。テクノロジー的にも最も高度なことが詰まっているゲームだと思います。僕はドラマとしても、1作目の「龍が如く」に近い感動的な作品を作りたかったので、それに近いものにはちゃんとできたと思います。 「龍が如く」と聞いたら、みんなが期待してしまういろんな要素が、何ひとつ裏切ることなく詰まっていると思います。相変わらず短い制作期間でしたけど、くじけることなく、いい結果が出せていると思うので、ぜひ最後まで遊んで貰いたいなと思います。
カミナリ:今日はありがとうございました!
名越氏は、セガの中でもトップクラスのゲームクリエイターであるにも関わらずものすごく腰の低い方だと、会った瞬間から思った。その謙虚な姿勢に驚かされた。外国人ゲームクリエイターは、「我々のゲームはすごい」とか「我々は1番」という発言をすることもあるが、名越氏の場合はインタビューの最初から最後まで、控え目なコメントばかりだった。有名になっても偉くなっても、ずっと謙虚な姿勢でこれからの仕事に挑まなきゃいけないということの大切さを筆者に再認識させてくれた。 名越氏は「龍が如く3」という大作の開発を終えたにも関わらず、休暇は取れないと仰っていた。すでに、いくつかの新しいプロジェクトに取り掛かっていると。それもすごいなと思った。自分の作品への愛情、情熱。その素敵な気持ちがあるからこそ、思い出に残るゲームが誕生するわけだ。
最後に、名越氏についてのもう1つの感想。写真で見るかぎり、怖そうな感じというか、本当に桐生一馬みたいな人なのかも……という印象があった。しかし実際に会ってみると、まったくその逆の人物だと感じた。ものすごく真面目で、律儀な人だと思った。このように外面と内面とのギャップから生まれる独特なコントラストが、名越氏を本当にユニークな人物にしていると思う。
(C) SEGA
□セガのホームページ (2009年2月25日) [Reported by ジョン・カミナリ]
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