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会場:ジークレスト本社
そうした中、ジークレストの次の一手は、「トリックスター」以来となるMMORPGだった。「トリックスター」では、韓国版をベースに大胆なカルチャライズを施して大きな成功を収めたことで知られる。コンテンツに徹底的に手を入れるという文化は、その後のアップデートや新作タイトルにも受け継がれ、現在では一種の社風となっているところがある。3年ぶりの新作ではこの点どうなるのか。
今回は、同社を牽引する代表取締役社長兼CEOの長沢潔氏に、「紡がれた運命」の獲得経緯から正式サービスへの抱負まで、気になる点をひととおり伺ってみた。インタビューの後半では、同社全体の今後の事業戦略についても話を伺っている。 ■ 元“丸太売り”。ユニークなキャリアを持つジークレスト代表取締役社長 長沢 潔氏
長沢氏: 私は初めて入社したのが伊藤忠商事で、丸太を売っていました。伊藤忠商事の海外駐在を経て5年目にサイバーエージェントの子会社に転職することになります。当時マネジメントを勉強したいなと思っていたのですが、伊藤忠のような大企業ですと早くてあと5年、普通に考えてもう10年くらいはがんばらないと管理職になることはできない。そこで勢いのあるベンチャー企業でやりたいという気持ちがあったのですが、そのタイミングで先に伊藤忠を辞めてサイバーエージェントに入社していた同期がその子会社の社長を勤めており、その彼に誘われて決めました。現在サイバーエージェントのCOOに就任している西條氏です。 そこから広告媒体の子会社や、音楽レーベル事業など子会社をいくつか転々としまして、マネジメント的なことをしながら立ち上げの再テコ入れなどをやりました。音楽レーベル事業に関しては、エンタメ系は割と好きで思い入れもあったのですが、残念ながら状況自体は良くありませんでした。その当時インターネットを通じた音楽配信はまだ広がっておらず、iPodなどの登場はまだ先で、どちらかといえば既存の音楽業界からは快く思われていなかったと認識しています。 そういった状況もあり、なかなかビジネスに結びつけることができず、結果的に会社を潰してしまいました。振り返ってみれば、当時私自身の実力が足りていなかった事も大きかったと思います。一方で、どうやったら会社がつぶれるかということをリアルに実感することができたのはいい経験です。もちろん大いに反省すべき点ですが。 次にサイバーエージェントの新規事業の立ち上げを手伝っていまして、その時にジークレストのオンラインゲーム事業をやるのだけどどうかという話がありました。以前からオンラインゲーム市場についてはマーケティングリサーチを行なっていて、市場としてのおもしろさを感じていました。市場の規模感としてはこのくらいで市場としてはこういう見通しだというのはある程度理解できていたと思います。 これも西條氏が絡んでいるのですが、オンラインゲーム事業をやらないかと言われ、元々市場としては注目していたのでおもしろそうだと答えました。ジークレストは、もともとシステムプロという会社のゲーム部門があり、そこの資産を活かす形でできた会社でした。そこに2人で乗り込んでスタートを切ったというのが最初の流れです。 編: つまり、今までゲーム事業に関わった事がないのですね。 長沢氏: まったくないですね(笑)。ずっとプレーヤーの立場でした。オンラインゲームは触った事はあったのですがヘビーユーザーではありませんでした。どちらかといえばプレイステーション 2などのコンシューマゲームで遊ぶことが多かったです。 編: 実は今年のGDCの会場でお見かけしたのですが、声をかけようとしたら、もの凄い勢いで会場を移動されていてかないませんでした(笑)。GDCはどのような経緯で参加されたのですか? 長沢氏: 単純に技術的なトレンドを知っておきたいと思って参加しました。僕らのラインナップは全部で5つありますが、海外からもってきているのは「トリックスター」だけなのです。「競馬伝説Live!」にしても「バルビレッジ」にしても「アットゲームズ」にしても「ドリーム★ダービー」にしても、我々で企画して、開発会社とパートナーシップの中で開発をしているいわゆる自社開発のタイトルなのです。そこは1つの特徴でもあり強みでもあるので伸ばしていきたいと思っています。そこで技術的なトレンドに関してある程度の雰囲気を掴んでおかなければいけないなと思いまして、参加しました。 編: メーカートップがGDCに参加するのは珍しいですよね。しかも1人でうろちょろしていて、たぶん周りは社長だとは気づかなかったでしょうね。 長沢氏: だいたいそういう動き方ですね(笑)。本当に色々見ていました。面白いなと思ったのは脳波でゲームのキャラクタをコントロールするものですとか、モーションキャプチャのトレンドの技術が昔見ていたものよりも大分スムーズになったですとか、ダイレクトにキャラクタに乗っけてキャラクタを動かせるようになったりとか。以前はスムーズにいかなかった印象がありましたが、こんなになっているんだと。 編: JOGA(日本オンラインゲーム協会)にも理事として関わられていますが、長沢さんの担当分野の進捗を教えていただけますか。 長沢氏: 私が担当しているのは「ゲーム内広告」に関する分科会です。現状の課題点の洗い出しは終わったかなと考えています。ゲームをメディアとして捉えた場合、広告代理店やクライアントがどういう風にゲームを見ているか、一方でゲーム会社がメディアとして考えた場合、こういうところを押していきたいという部分に大きな隔たりがある。インターネット上のコンテンツなので一般的なインターネット上の広告媒体と比較されがちです。たとえばクリックレートやコンバージョンや費用対効果的な部分です。オンラインゲームの場合はリテンション率が高いというか、同じ人が繰り返し遊ぶタイプのゲームになりますので、渋谷にあるビルボードのようなブランディングのような部分でないとなかなか広告媒体としてのよさが活かせないなと考えていますが、現在はその認識のずれが大きいです。改めてゲームを媒体としてみた場合に、媒体資料はこんな感じでなければだめではないかとか、テストマーケティング的に実際の効果がどれくらいかというのはお互いに知っておいた方が良いよねということは動いています。 編: 仮に自社の問題として捉えた場合、どの程度の可能性を感じていますか。 長沢氏: 今で言うとお客様に不快な思いをさせてしまうような広告の展開はしたくななと考えています。やはりお客様に支えていただいていますので、その不利益にはならないようにしたいですね。ですので、既存のタイトルでいえば、広告がメインになるような組み方はおそらくしないと思います。ただ、そこで何らかの収益を稼げることによって、コンテンツのバージョンアップや、より楽しく遊べるような流れができればベストですよね。結局お客様にフィードバックができる形が望ましいと思います。 編: なるほど。現時点で具体的なプランがあるというお話しではないのですね? 長沢氏: 分科会の中で言えばもう少しすれば発表ができると思うのですが、テストマーケティングはいくつかあると思います。数社さんにお願いして、実際に広告を出してみることはやってみたいですね。今動いている案件が1つあって、スプラッシュ画面で動画広告が流せないかということは模索していきます。ただ、いきなりクライアントにつけるとなるとお客様の心理的な抵抗感はすごくあると思いますので、社会的に意味のある広告でのトライアルを考えています。たとえば公共性の高い、「いじめはよくない」とか、「子供を大人がちゃんとみてあげよう」とかそういった社会的に意義のある広告を利用して、オンラインゲーム業界全体の社会的地位が上がっていけばいいなと思っていますし、それで広告媒体として必要な数値はある程度取れると思います。それで本質的な意味でのゲーム広告のあり方を模索できれば良いかなと考えています。 編: ゴールを設定するのは難しいと思いますが、将来的にゲーム内広告は、メーカー全体の売り上げの何割かを占めるような存在になってくるのでしょうか? 長沢氏: ゲーム内広告に向いているコンテンツと向かないコンテンツがあると感じています。中国のあるタイトルにおいては4割くらいを広告収益で占められている例があります。たとえばレースゲームの看板の部分が広告になっていたり、タイヤメーカーさんが商品としてプロダクトプレースメント的な形で参加されていたりという例ですね。ファンタジーのMMORPGではゲーム内広告にはあまり向かないと思うのですが、リアルな世界をターゲットにした、レースゲームやFPSのようなモデルの場合ある一定の規模を広告収入で稼ぐ事ができるのではないかと思います。 しかし、日本のゲーム内広告に関する環境そのものは、他国と比べると比較的厳しい状況にあると考えています。たとえば、中国の場合は中国全土をカバーできるマスメディアが日本ほど多くないと訊いています。テレビを取り巻く環境も日本とは大きく違っており、新聞も買わない人や買えない人も存在している。街に立て新聞のようなものがあるのですが、あれくらいが一般的なように思います。メーカーさんが自分の欲しい層に対して刺さるような大きな展開をしようと思ったときに、中国は他にそうしたメディアが少ないため若者を中心に数多く人を集めるオンラインゲームにとって、広告展開には割と向いている環境だといえるのではないでしょうか。 しかし日本の場合は、いわゆるマスメディアは、広告媒体としてやはりパワーを持っている。マスブランディングを考えた場合、ゲームはその上にはなかなか来ない。ですから、個人的には、何らかのPRプランの一部分をゲーム内広告が担うという形が理想的な着地点かなと考えています。そこである程度の収益が期待できればなと。しかしながら、特にそれをあてにしたビジネスモデルを組むと現時点では難しいのではないでしょうか。
■ 「トリックスター」成功の要因と「紡がれた運命」の獲得経緯について
長沢氏: ありがとうございます(笑)。タイミングが良かったと思います。オンラインゲーム自体が黎明期で、アイテム課金がそれほど一般的でなかった時代に投入できました。我々なりに色々考えていまして、どういったターゲットに刺さるようにもっていくかに関しては、キャラクタがかわいらしくより広い層に受け入れられそうだと思いました。僕自身がオンラインゲームのヘビーユーザーではなかったので、社内で「ぱっと見で(初心者の)僕が引いてしまうゲームはやめようね」と伝えていました。 たとえば、いわゆる洋ゲーと呼ばれるわらわらと人がやってきて殺しあってというテイストは、日本の初心者にとってはハードルが高そうで難しそうだと感じるのではないかとは思っていましたね。また、世界観としては平和な和気藹々としたもののほうが間口が広くなり、市場自体が広がっていくと感じていました。その中でヘビーユーザーがお金を使って伸ばすよりはライトユーザーの裾野が広がって小額の課金をしていくことが現実的なストーリーだと感じまして、そうならなければだめだと思っていました。つまり、どちらかといえばライトユーザーに刺さるゲームにしたかったです。 日本の場合コンシューマに慣れている文化が強いので、コンテンツに対する見方はシビアなものだと僕自身は思っていました。韓国の場合、バックグラウンドやストーリー的なものにあまりパワーを割いているとは思えなかったので、僕らは自分たちでストーリーやバランスを調整することで、NPCにもファンがついてくれるような形にしたいと思いました。バックグラウンドやバックストーリーをつけて、キャラクタビジュアルから裏の世界が透けて見え、その子の性格が見えることによってキャラクタにファンがつく流れを作りたかったのです。 編: もうひとつ。韓国産タイトルを成功させるために、カルチャライズするというのはどこの会社でも行なわれるアプローチですが、実際にはなかなか成功しない。なぜかというと、韓国のデベロッパーさんが直すことを嫌がる、直せる人がいなくなる、コードをいじりかたがわからなくなるからです。韓国産のカルチャライズには常に涙物語がつきものですが、「トリックスター」はやりぬきつつありますよね。そこが一番凄いところだと思います。なぜ完遂できているのでしょうか? 長沢氏: あの当時、開発会社のNtreevさんが「パンヤ」がスタートして「トリックスター」も立ち上がった段階でした。当初から日本の環境はこんな感じなのだということは積極的にプレゼンテーションを行なっていました。日本の環境ではこうしなければ厳しいということをかなり詰めていて、今でも必ずマンスリーベースで顔を合わせてミーティングをやっています。今でこそプロデューサーに任せていますが、当時は私も出て行ってやっていました。 基本方針としては開発会社に負担をかけないところからスタートしました。たとえばビジュアルイラストの差し替えに関しては開発側にとってはそれほど負担にはなりません。バックストーリーの盛り込みに関しても基本的にこちらの作業なので、開発側の負担にはなりません。基本的にそうしたところからがっちりやって、結果的にお客様がついてきてくれたので関係が強化されてやりやすくなりました。 編: 「トリックスター」のサービスを開始したのが2005年で、MMORPG2作目ということになる「紡がれた運命」は、3年後の2008年発表となりました。ちょっと間が空いてしまったなという印象を持ちましたが。 長沢氏: 「良いタイトルがないかな」とずっと見ていたのですが、なかなか良い出会いがなく結果的に今のタイミングになってしまいました。内部的にいうと2年前から「アットゲームズ」を立ち上げて注力してきました。おかげさまで大分かたちにもなってきてお客様数も増えてきました。 ある程度形になってきて落ち着いてきた現状があるので、ジークレスト全体で改めて成長イメージを描くときに、新しいコンテンツの投入は重要な位置づけになるなと。継続的にコンタクトを取っていたメーカーさんと開発途中だけれどもどういう方向で作っていくつもりなのかといったお話をしました。フィーリングが合ったというか我々がやりたいことを一緒に実現してくれそうな感覚がありましたので、やりましょうかということが大まかな経緯ですね。 編: 私はいまジークレストさんがMMORPGに再び乗り出してきたことが意外だなと思いました。「トリックスター」を成功させた後は、他のメーカーのように2本目、3本目と行かずに、モバイルゲームやポータルビジネスに注力した。これはいわば時代のトレンドを先取りした格好ですが、そのジークレストが、再びMMORPGに戻ってくるとは思っていませんでした。 長沢氏: 市場を見てみますと依然としてMMORPGが市場シェアとして最も大きいのは事実ですし、まだ勝負できる土壌があると見ています。一方で、新しい取り組みもやっていかなければと思っています。「アットゲームズ」では継続的に新しい試みを続けていますが、基盤を固めていくところとチャレンジングなところは会社としてバランスをとっていかなければいけないなと感じています。パブリッシャとしてもともと持っているノウハウを活かすという意味ではアイテム課金ベースのMMORPGはやりやすいなと感じています。 編: 最近では、横スクロール型の2Dタイプのオンラインアクションや、オンラインFPSなどもシェアを伸ばしつつありますよね。そうした中でMMORPGというオーソドックスなゲームジャンルを選んだ理由とは何でしょうか? 長沢氏: もともと成功するためには我々の経験からいって開発会社とのフィーリングは大事だと思っているのです。一緒に向き合って考えられる関係になっていないと良いゲームは生まれないと思うのです。ジャンルというよりはそのフィーリングを最重視した結果です。 編: フィーリングが合うかどうかは契約を決める上でゲームジャンル云々よりも大きなウェイトを占めることだと? 長沢氏: 大きいですね。開発会社や実際開発途中ではあるのですが、我々のほうからもアイデアを出していますし、1つ1つに前向きに捉えていただいている。それが我々としてはものすごくやりやすい。Nglim Softとだったら良いタイトルにしていくことができるのではないかと考えています。オンラインゲームはサービスインしてからよりもその先のほうが長いので、一緒にやれるパートナーであるかどうかの見極めが成功の条件としては重要だなと考えています。開発会社の魅力は我々にとっては大きな要素でした。 編: すでに発表されていた内容として、RPG「Fate」のオンライン版として開発されていたぐらいですが、日本での正式発表ではタイトルごと大きく変わりましたよね。 長沢氏: 元々の「Fate」からの流れにはそこまでこだわらないようにしました。日本で発売したわけではありませんし、日本市場で考えた場合にはコンテンツ単体で勝負せざるを得ない。どちらかというとゲームに触れてみて、現状どこまでできあがっていて、今後どういうものを追加しようと思っていて、開発会社の力量的に現実的にいけるのかということが大事でしたので、そこに関してヒアリングをベースに敷き詰めていきました。 編: タイトルの由来はどこからきているのでしょうか。 長沢氏: ゲームのシステムとしては善悪のシステムが中に入っていて、お客様の行動がその先の有り様を決めていくのが要素だと思っています。自分自身の手で運命を作っていくというか、自分の行動が未来を変えていくという要素が強いので、それをダイレクトにタイトルに載せていければいいなと。最終的にはプロデューサーが「これでいかせてください」、「わかった」という流れですけどね。 編: 日本先行展開をウリにしていますが、これはどういった経緯からなのですか? 長沢氏: 開発会社のスタンスも大きかったのですが、日本向けにゲームシステムを作っていこうとすると、同時に韓国向けを作るというのは難しいのです。いずれかの二者択一をすべきタイミングでどちらかといえば日本を先にやっていただくことを熱望していましたし、彼らとしても日本マーケットの将来性もまだまだ感じているところもありましたので方向性が一致しました。
■ 「紡がれた運命」の魅力とカルチャライズプランについて
長沢氏: コンシューマ的なところは初心者の方にも優しいのではないかと思います。ストーリーがこれまでのゲームに比べて厚みをもっていると思っていて、ストーリーを追ってゲームをするコンシューマのRPGに比較的近い感覚は味わっていただけるのではないかと考えています。お客様が自分のキャラクタにつきまとう運命的なものを感じながら一方でMMO的に他のプレーヤーとも絡みながらといった、今までのゲームから秀でた部分は作りたいと思いますし、作れるのではないかと考えています。 編: ビジネスモデルについてはどのような考えをお持ちですか。 長沢氏: 我々がやってきたアイテム課金をビジネスモデルでやっていくことは決まっています。考えているものもあるのですが開発との兼ね合いもあり、具体化できているものはないです。あまり申し上げられませんが独自の仕組みなど追ってお話できると思います。 編: 今回、特に伺いたかった質問ですが、「紡がれた運命」では、「トリックスター」で見せたようなカルチャライズを期待してよいのかどうか、またカルチャライズを行なうのであればそれはどのような内容になるのか教えてください。 長沢氏: かなり力を入れてやりたいと思っています。実際に作っていく過程の中で明確にゲームに反映させていこうと考えていまして、特にお客様の意見を積極的に取り入れる形でゲームシステムを変えていくやり方が取れないかなと。今の時点でもゲーム内のキャラクタも3Dのカートゥーンレンダリングされたキャラクタがいるのですが、その有り様についてもお客様にぜひ意見をもらいたいなと思っていまして、キャラクタはこうしたテイストの方が良いですとか、こういう風なキャラクタを追加してくれといったご意見をいただければゲーム内にどんどん反映させていく形にはしたいと思います。 編: それはもう先行体験テストが始まらないうちから意見を寄せても良いということですか。 長沢氏: そうです。完全に運営の方針としては今までにないくらいお客様の声を反映させたゲーム作りをしたいと考えています。 編: 現時点で運営サイドで決まっているカルチャライズの内容はなんでしょうか。 長沢氏: どれも決定はしていないです。というのもお客様の声をとことんまで拾っていきたいと考えていますので、僕らのものはあくまで仮説だと考えています。お客様の声を聞きながら核心に上手く変えていく方向でやっていきたい。現時点で決定しているものはないと思っていただいたほうが良いです。過去に「トリックスター」でやってカルチャライズに対する基本的なスタンスに関しては前よりも強化されたと考えていただいても良いと思います。最低限おさえなければいけないレベルに関してはご期待を裏切る事はないと思います。 編: たとえば、「トリックスター」ではキャラクタのイラストが大胆に変わり、次にゲームの構造ががらっと変わりました。いずれも見事なカルチャライズと言えると思いますが、お客様が求めればこうした地殻変動も期待できるだろうと? 長沢氏: 今回の取り組みとしてお客様と作っていくことがありますので、ここで言ってしまうとお客様から仮に同じものがあがったとしても元々やる予定だったのではないのと取られてしまいます。 編: だから、現時点では逆に何も言いたくないということですね。 長沢氏: どちらかというとそうですね。大きく変えていくことは当然やっていきますし、そこについてはご期待いただきたいと思います。開発段階からゲームの内容にある程度突っ込むことができるため、最初からカルチャライズされているような方針です。日本のマーケットに受け入れられるタイトルを作ろうと思って開発が進められています。 編: 日本市場を意識したシステムでは何かありますか? 長沢氏: コミュニティ機能は、より強化していきます。韓国で元々あるもので重複している部分はありますが、より日本に向いた形で取り入れて、運営会社としてアイデアをスピーディーに盛り上げていくために、ゲームそのものとWebサイトとの連動の強化は今回かなり力を入れています。 編: 連動することで何ができるのでしょうか? 長沢氏: 当然掲示板は入れていきますし、ゲームキャラクタを使ったコミュニティみたいな部分も実現できないかなと考えいています。 編: それはゲームサーバーの情報ともある程度リンクした形で? 長沢氏: そうです。ゲームの内容ではキャラクタが特徴があり、世界観がトゥーンレンダリングのファンタジーの王道ですので、世界観をブラッシュアップして、ストーリー性のところに深みを持たせていきたいです。 編: ストーリーが分岐するのが今回の特徴ですが、ストーリーを大事にするオンラインゲームはなかなか成功しない。その理由としてストーリーがコンテンツとして簡単に消費されてしまうところが挙げられると思います。一度消費されてしまうと遊ぶところがなくなってしまうわけですね。そこがストーリーを大事にしたい日本のクリエーターのジレンマになり、純国産のオンラインゲームが成功しない要因のひとつになっていると思います。この問題に関してジークレストはどのように解決していこうとしているのでしょうか。 長沢氏: 成功しているオンラインゲームの王道的な有り様は踏襲すべきだと考えていて、「紡がれた運命」でも継続的に遊べるような仕組みは、上手く盛り込まれていると思います。本質的にMMORPGとしてあるべきポイントは抑えておき、ストーリーを追いながらより深い遊び方がしたいお客様にも、そういった機能を提供できる仕組みにしたいです。ストーリーに頼りすぎてしまうと、ストーリーが消費された後のゲームの未来が見えなくなってしまうのですが、ゲームとしてちゃんと完成していて、その中でより深い遊び方やはまり込める要素としてのストーリー分岐という有り様にしたいと思います。 編: シナリオライターを準備してどんどん新シナリオ投入していきますという物量作戦ではなく、ストーリーだけではなく他のゲームの要素と両方遊んでくださいということですね。 長沢氏: MMORPGとして継続的に遊んでいただけるようなバックグラウンドが絶対に必要なのでそこははずせないですよね。1つの特徴としてストーリーの分岐のところや善悪のシステム、キャラクタが善になったり悪になったりしたことによるメリットデメリットみたいな部分がエッセンスとして入ってくるイメージです。 編: 「トリックスター」は、敷居が低くて遊びやすいゲームですが、レベルに関して言えば天竺にでも向かうような遠さといいますか、ものすごく奥行きがあります。その点について「紡がれた運命」ではどのようになるのでしょうか? 長沢氏: 「トリックスター」も始まった当初はそんな感じではなかったと思うのです。ただ3年やっていますし、継続的にやっている方もたくさんいらっしゃいまして、そうした方にもエンターテインメントを提供しなければいけない。理想的には最小がこれくらいの規模でしたが横にも広がっていくようなイメージです。おっしゃっているのはピラミッドの頂点がものすごい高さになっていることだろうと思います。そこはある意味で歴史がそうさせてきた部分があります。我々としてそうしたいとかしたくないという話ではなく、お客様のニーズを反映していった結果そうなったという言い方が正しいと思います。「紡がれた運命」についても必要なタイミングで、レベルでどこまでいくことが可能なのかであったり、それまでどういう遊び方であったりということは追加していくと思います。最初のタイミングでは必要十分なボリューム感でいくと思います。 編: 今いただいているスケジュールですとこの秋から先行体験テストが始まって来年の初め頃に正式サービスのスタートが予定されています。ここ最近の傾向だと、数カ月のスパンは長いなという印象です。この間は何に当てるつもりですか? 長沢氏: そこで先ほど申し上げたお客様さんの声を反映させたいのです。通常よりは時間をかけてやる必要がありますし、そういう体制でよりよいゲームを作っていきたいです。 編: それでは、先行体験テストと正式サービスとではゲームが変わっているだろうと? 長沢氏: 変わっていると思いますね。変わっていないとお客様の声をある意味拾いきれなかったということになりますからね。 編: どの程度まで変えていくつもりですか? 長沢氏: 反映できる限りドラスティックに変えていきたいと思います。本来ならゲームキャラクタを変えることは大変だと思うのです。世界観から何から変えていくことになる。タブー視せずにお客様からの声があればぜひやりたいと思いますし、フィールドの追加もこういった遊び方がしたいということがあれば反映させていきたいと思います。 編: 正式サービス後もオンラインゲームには不可欠なゲームの拡張がありますが、この点についてはどのような計画を立てていますか? 長沢氏: そこもお客様の声です。我々がこうしてあげるべきだという部分も反映させていきますけれども、機能的な面も遊び方の面もお客様のニーズをしっかり拾っていきたいです。 編: たとえば、お客様の声で、ストーリーが変わるということもあるのでしょうか。 長沢氏: あると思います。 編: 先行体験テストをプレイして、「自分に向いていないな」と思ってもどんどん要望を出して欲しいということですね。 長沢氏: ええ、そこをあきらめてほしくないのです(笑)。我々にとっては声を拾えるかどうかが重要なポイントだと思いますので、向き不向きとは言わずに、こういう感じだったら遊ぶのにということが出していただけるのならこんなに嬉しいことはありません。 編: 対象年齢はどれくらいを考えているでしょうか。 長沢氏: 10代から20代前半がターゲットになるでしょうね。男性が比率的には多くなると思うのですが女性の方にも遊んでいただきたいです。「トリックスター」でも女性比率は多いタイトルではあるのですがそれでも半分は超えないのです。そういったデータからもマジョリティは男性になるのではないかと思います。 編: 「トリックスター」の3年間での経験が活かされていることはありますか。 長沢氏: お客様に楽しんでいただく部分や継続的に遊んでいただくためのアップデートの仕方や純粋にバグを少なくするためのノウハウといったものは見事に生きてくると思います。世界初ですので懸念しているポイントとしては、先に韓国でサービスされているとそこでバグが潰せていると思うのですが、日本が先になるとそれが出てきてしまう可能性がありますので、通常以上にシビアに見ていきたいと思っています。体制的にも整えているところです。
■ ジークレストの今期事業戦略を聞く。まずは「アットゲームズ」に注力
長沢氏: 中長期のジークレストを意識したときに大きくなって欲しいのは「アットゲームズ」です。ポータルという形として大きくはなっていますが、理念として掲げているところとしてオンラインエンターテインメントのリーディングカンパニーを目指すということがあります。オンラインゲームに限らずオンラインエンターテインメントとしているのは敢えて我々からフィールドを狭める必要はないかなと考えていて、様々なエンターテインメントのジャンルにおいて我々の強みを活かした展開はぜひやっていきたいと思います。今でも「アットゲームズ」は内部的にはSNS的な要素やコミュニティの要素を色濃く映し出しており、単純なゲームポータルサイトの枠は超えさせたいと思っています。 編: ゲームポータル事業がここ数年で一気に増え、「セカンドライフ」的なバーチャルワールドが無数に出てきて渾然一体となってみんな落ちていきました。消えていったコンテンツと「アットゲームズ」の違いは何だと考えていますか? 長沢氏: 「アットゲームズ」をどういう形であればマーケットの中で立ち位置を見つけることができるのか、ものすごく議論しました。継続的に使っていただくための1つのポイントとしてコミュニケーションは重要だと思います。ゲームポータルとしては完成していなければいけなくて、ゲームを遊びに来ていただくのは大事なのですが、おっしゃっているようにゲームポータルサイトがたくさん出てくるタイミングでもあったので、あえて「アットゲームズ」をやっている理由を見つける必要がありました。 そこがゲームとしての差別化なのか、コミュニティを利用して他者との違いを作っていくのかということです。まず我々は後者を選びました。当時はコミュニティとは何なのだという話を内部でよくしていました。オンラインゲームの世界の中で、コミュニティはコミュニケーションをベースに発生するものという捉え方がされていると思うのです。チャットして一緒に狩りにいってという感じだと思うのですが、一般的にはコミュニティとはもっとゆるいもので、知り合いと形成するコミュニティもあれば、すれ違うだけで成立するコミュニティも存在していると思っています。 渋谷というエリアに渋谷らしいファッションをして、漏れ聞こえる話題も渋谷らしい話題が出てくる。そこで人は今時分は渋谷というコミュニティに所属しているという感覚が沸き、この街は好きだ嫌いだと感じるものだと思うのです。会話をしなければ成り立たないようなコミュニティというのは、コミュニティとしての魅力としては半分なのではないかと思います。 僕は「すれ違うこと」が重要だと思っていまして、ゲームポータルサイト内のアバターのシステムで少なくとも強力に打ち出しているタイトルは当時なかったので、我々は「リアクションの可視化」ということに注力しました。何かアクションを起こしたときに、相手が驚くでもよけるのでもいいのですが、リアクションが見えるようにしようとしました。普通のチャットではウィンドウに文字がタカタカタと流れていきますけれども、文字が流れてこなければ相手がそこにいるかどうかわからないですよね。実は向こうでお茶をすすっているかもしれませんし画面を見ているかもしれない。そこにそうしているアクションが取れれば、話をしていなくてもつながっている感覚は持てると思うのです。 「アットゲームズ」は色々な場面でつながる要素をとにかく持たせようとしていて、そこが結果としてコミュニケーションにつながればよいし、コミュニティがより強固になれば良いと思います。僕は知らない人とチャットするのは苦手で、あまり好きになれない。個人的には、知らない人とのチャットはかなりハードルが高いなと思っていて、もうちょっとささいなもので良いので仲良くなるきっかけって必要なのではないかと。たまたま隣の席に座りましたというようなゆるいコミュニティ感から、より強いコミュニティに進んでいくために何らかのアクションを経て友達になれるような仕組みを作りたいです。 編: 「セルフィ」と呼ばれるアバターシステムが成功したことが「アットゲームズ」の成功の要因のひとつではないかと? 長沢氏: ゲームポータルとしてはまだまだ改善するところは山ほどあると思っていて、コンテンツがずば抜けて多いわけでもないですし、コンテンツそのもののクオリティもまだまだ上げられると思うのです。ゲームポータルとしてもまだまだ改善の余地があると思っていて、お客様の方に継続的に使っていただいている1つの理由としては「セルフィ」を中心に遊んでいただいている現状はありますよね。内容としては改めてゲームポータルとしての立ち位置を再確認して、さらなる強化を目指していきます。 編: 強みを活かしていくとはどういうことですか? 長沢氏: 常日ごろからずっとその話はしているのですが、改めて言われると説明するのが難しいな(笑)。 編: 客観的に見て、かわいらしいものを作るのがすごく上手いですよね。 長沢氏: ありがとうございます。内部のデザイナーもとてもがんばってくれていて、キャラクタをベースにした展開というのは上手くやれていると思います。キャラクタやコンテンツをベースにコミュニティを発展させていくノウハウは内部的にいくつか持っていますので、そういった部分は活かしていけるポイントではないかと思います。 編: 「アットゲームズ」に関しては今後どのような進化を考えていますか? 長沢氏: 原点回帰を考えています。今まではキャラクタをベースにガッと人が集まってくれて、コミュニティを中心に盛り上がっていました。今後改めて、ジークレストの中での立ち位置としてゲームポータルとしてのあり方を追求したいなと考えています。あのサービスにお客様の方がたくさん入ってくれて、オンラインゲームはこんなものだよというものを我々のほうから提供させていただいて、楽しさを理解してくれて、結果としてよりリッチな方向にお客様が進み、より楽しんでいただける流れを作りたい。セルフィを中心としたある一定の規模感になっていますし、良い形で進んでいると思うのですが、我々が進んでいる流れからするとまだ一部に過ぎないという感覚なのです。コミュニティの部分で作られた良い流れを活かして、ゲームやエンターテインメントサイドに流していくということにすると良い形になってくると思います。やはり、本質的にはもっとゲームを楽しんでいただきたいなと。 編: つまり、現時点ではゲームとアバターが乖離しているところがあるのでしょうか? 長沢氏: アバターを楽しんでくれている人が非常に多くて、ゲームの方をてこ入れしていかなければならないのです。キャラクタ性が1つの魅力だと思うので、キャラクタをうまく利用したゲームシステムの導入はどんどん進めていきたいです。 編: NHN Japanさんの「Hangame」もアバターキャラクタに対して、いかにゲームさせるかというものをすごく苦労されていました。ジークレストさんはどのように結び付けていくのでしょうか。 長沢氏: 「大富豪」や「ババ抜き」を複数人で遊べるようになっているのですが、その中に対戦している人のセルフィが大写しでテーブルを囲んでいるような形になっているのです。中に入ってみてみると、ゲームをしながらセルフィの衣装に関するチャットが同時に行なわれていたりします。「そのアイテムどこで手に入れたの?」、「昔のガチャで手に入れたのだよ、今は手に入らないかもね」といった話が普通にされている。キャラクタとゲームの融合という1つの例ではそういったことがあります。他社さんのアバターを表示してゲームができるタイプのものというのは色々あると思うのですが、ゲームをしながら相手のアバターに対してコメントがついているゲームはそれほどないのではないかと思っていまして、ある程度の融合はできつつあるのではないかと思います。もっともっと強化したいですね。 編: アバターの活動空間についてはどのように考えていますか? 長沢氏: 「セルフィエリア」というのが我々として出させていただいた答えです。あそこですれ違えるというのがお客様コミュニティの広がりとして大事な意味を持っていると思います。1つのバーチャルワールドとして捉えていて、あそこの中に色々な機能を投入することでよりお客様が楽しく遊べるようなフィールドにはしていきたいです。 編: フィールドの拡張などは今後も行なっていくのでしょうか? 長沢氏: 色々と行なってきていますね。これからも必要に応じて増やしていきたいと思いますし、逆にエリアを潰していくこともすると思います。エリアが広がっていけばよいのかもしれませんが、逆に分かりにくくなるケースもあると思います。意外と中に関してはブラッシュアップをして良いサイズに落ち着くような工夫をしたいです。そのときにお客様が望むものが手の届く範囲に存在しているような世界にしたいですね。 編: 「アットゲームズ」は、アバターを使ってバーチャルワールドで楽しむ事もできるし、仲間とゲームも楽しむ事ができる。それ以外にオンラインゲームも楽しむ事ができる。その3つの軸になるのでしょうか。 長沢氏: 現状でいうとそうですね。仲間との楽しみ方では必ずしもセルフィエリアというエリアのところだけではなく、中で日記を書いたり日記にコメントを残したりということができますので、テキストベースでのコミュニケーションを楽しんでいる方も非常に多くいらっしゃいます。いわゆるSNSコミュニティ的な楽しみ方もできればバーチャルワールド的な楽しみ方もできれば、ゲームとして楽しんでいただくこともできるというパッケージなっていると良いなと思います。 編: 「アットゲームズ」のライバルは「Hangame」ですか? 長沢氏: あまりにも大きすぎてライバルと呼んで良いのか分かりませんが、大枠の事業形態は同じです。ただ、「Hangame」さんには先行者メリットがあり、ガチンコで勝負しにいっても中々難しいと思います。一方で僕らも我々なりのプライドを持っていて、新しい軸を打ち出してきたからこそ、オンラインゲームポータルがわっと増えてわっとなくなった現状においても生き残っていられたと自負しています。サービスの特徴を出しながら他社さんでは味わえないようなエンターテインメントを提供していきたいと思います。 編: 来年は「紡がれた運命」のアップデートは当然ですが、「アットゲームズ」に関しても力を入れていくわけですね。 長沢氏: 徹底的に力を入れていきます。今は言える部分としては2つが柱になります。5月6月といった当社の今期後半に新しいコンテンツが出てくると思います。春先くらいにおいでいただければ色々とお話できると思います。
■ ジークレストの今期事業戦略を聞く。その2。モバイルゲームはどうなる?
長沢氏: モバイルはやります(笑)。リリース自体は先になると思うのですが、検討を進めている案件がありまして、それはモバイルのプラットフォームでいくことになると思うのです。元々我々はオンラインエンターテインメントの部分を軸にしていますので、モバイルの部分もオンラインゲームでありたいと思うのです。「ドリーム★ダービー」というタイトルがありますが、競走馬育成ゲームであり、オンラインで育成ができる。オンラインで人と人とをうまく結びつけながらゲームの面白さのところもより高みを目指せるタイプのゲームになると思います。 編: ゲームジャンルとしてはどのようなものを想定していますか? 長沢氏: 実際モバイルでもオンラインゲームのジャンルはまだ確立されていないと思うのです。市場としてもまだまだ大きくない。今後の伸びという意味ではポテンシャルの高い市場だと思うのです。我々の得意な部分を延ばしていくという点ではRPGもしくはシミュレーションというのはイメージがしやすいと思います。 編: 短絡的かもしれませんが「トリックスター モバイル」ですとか、そういった展開もありえると? 長沢氏: 基本的にはPCサイドの展開に引きずられるような展開はしたくありません。デバイスとしての特徴が違いますし、お客様層が違う中で制約がかかっていると上手くいかないと思います。モバイルはモバイルの市場を考えながらやっていったほうが健全だと考えていて、既存のゲームのモバイル版という形よりもゼロベースで考えてみてこれだったらキャラクタとして「トリックスター」は乗るということであれば乗せるかもしれませんが、世界観的に合わないようであれば別物として使うと思います。 編: モバイルに関して気にしているタイトルやテクノロジーはありますか。 長沢氏: モバイルのテクノロジーに関して、開発のノウハウやゲームの有り様については常に気にしてみています。PCでは常時接続で快適に遊ぶ事が可能ですが、モバイルでは使われるシチュエーションが必ずしも自宅ではない。電車かもしれないし屋外かもしれない。モバイルとして快適に遊ぶためにPCサイドとはまったく異なると思うのです。通信が切れてもゲームとして成立していないとダメですし、電車の中では5分から10分程度で終われなければいけない。過去モバイルを戦場としてやってこられたメーカーさんはそのあたりのノウハウを高いものをお持ちだと思います。我々はその点を注視しています。 後は今やろうとしているところとは離れますが、モバイルのFlashには注目しています。やれることはいろいろでてくると思います。我々がやるならばもちろんゲーム内コミュニティという事になると思います。元々「アットゲームズ」自体にもFlashがかなり多用されていまして、セルフィもそうですし、新しい対戦型のゲームもFlashをベースに作られています。Flashというテクノロジーの部分にかなり注目していて、モバイルはキャリアさんによって仕様が異なり、統一化が難しいところではあったのですが、最近や今後は確実にバージョンがあがってきてやれることそのものが増えてきています。 編: iPhoneに対する興味はいかがですか? 長沢氏: 興味は持っています。より多くのお客様に遊んでいただくことを考えた場合、iPhone単体で考えるのか、もしくはそれ以外のハードウェアに向けた形でいくのかと考えた場合、弊社は後者を選択しがちだと思います。比較的王道な取り組みはしていくと思います。 編: オンラインゲームの話に戻りますが、今年もサービスを終了してしまうタイトルが増えました。冬の時代は依然として続いているなと感じます。それはJOGAの理事として、メーカートップとして感じていることだと思いますが、オンラインゲーム市場はどのようになるとお考えですか。 長沢氏: 去年はオンラインゲームの撤退が顕著だったと思いました。1つポイントとしては1~2年前くらいのタイミングで、新しくオンラインゲームのマーケットに入ってこられた事業社さんがそれ以前に比べて増えたなと感じていました。いわゆる株式市場のオンラインゲームに対する注目度が非常に高かったタイミングがそこだったと思います。元々インターネットのマーケットで勝負している事業者さんが、次の一手として考えられていて注目を集めていたので、かなり前向きに考えられていたタイミングだったと思います。 しかし一度入っては見たものの思ったより大変だぞということで、結果的に整理が始まったのが昨年あたりなのではないでしょうか。まだその整理はついていないと思っていまして、今年も撤退されるタイトルはありますし、まだ増えると思います。いったん整理がついたタイミングで市場の混乱そのものも比較的収まっていくのではないでしょうか。一方で、全体の市場として継続的に伸びていくのは事実だと思います。お客様数が増えて、売り上げの規模感も増えてきている。今では需要に対して供給が過多になっている印象はありますが、しかし、お客様数を伸ばせている会社は引き続き伸ばせている。ですから真剣にオンラインゲームと向き合っている会社に関しては、まだまだ成長する余地が残っていると思っていますし、結果的に市場そのものが拡大しているだろうとも思います。 オンラインゲームというキーワードが一般化してきて、普通に遊んでくれる方が多くなってきていると思いますが、日本国内においてジャンルという捉え方をすると限定的です。いわゆるMMORPGが中心になってきて、若干カジュアル、若干FPSという感じです。本来であればお客様が増えてくれば多様性はもっとあっていいのかなと思います。たとえば全体に対して数%だったとしても人数規模が大きければ十分ビジネスにもゲームにも成り立ちうる土壌が今後出てくると思います。今後コンテンツのジャンルの多様化はしていくと思いますし、なってほしいと思います。 編: ジャンルの多様化についてもう少し噛み砕いて教えてください。 長沢氏: 今はマスとしてMMORPGが全体の市場を取っていて、後の部分はそれほどパイとして大きくありません。健全な状態はそれぞれがちゃんとビジネスとして成り立っている事だと思うのです。コンシューマのマーケットでもある意味そうだと思っていまして、普通にアクションゲームは市場に出せばちゃんと売れますし、シミュレーションが好きな人はいろいろなゲームを継続的に遊んでいますし、RPGの好きな層やパズルもビジネスとして成立していると。ジャンルの多様化とそれぞれのジャンルにおけるビジネスが成立して、お客様の選択肢が増えていく事が望ましいなと思います。 編: ジークレストさんの場合で考えると事業ポートフォリオとしてオンラインゲームとモバイル、ポータルとどれくらいの割合で考えていますか。 長沢氏: 我々は、そういう考え方ではなく、ターゲット層でポートフォリオを考えているところがあります。「トリックスター」は10代から20代の比較的女性比率の高いRPGです。「バルビレッジ」に関しては女性比率が80%で過去オンラインゲームを触れた事のない人がほとんどなのです。高性能チャットツールのような使われ方をしていまして、これに関しては過去のオンラインゲームお客様とはまったく違う層です。 一方で「競馬伝説Live!」に関しては圧倒的に男性で30代から40代が多い。こちらに関しても今までのオンラインゲームの層とはまったく異なる層に遊んでいただいています。育成シミュレーションとしては、オンラインゲーム市場においてある程度のポジションが確立できていると思います。もう4年くらいやっていますけれども相変わらずコンスタントに遊んでいただいていますし、収益的にも許容できる範囲です。「アットゲームズ」に関してはそこをさらに噛み砕いて広い層をターゲットとしていこうと。今は比較的年齢層が下のほうにひろがっています。キャラクタ性から見て10代から20代がもっとも多く、その中でも10代の比率が高いですね。もちろん上は40代以上の方にも遊んでいただいています。 編: 顧客層では「競馬伝説Live!」をやられている層が興味ありますね。どういう客層なのですか? 長沢氏: 社会人の方がとにかく多いです。馬の調教をコンスタントに1日に10分でも良いのでやっていってレースに登録して他の方が育てた馬と競争することになります。MMORPGをがっつり遊びこむほどに時間はないなという方にとって見れば遊びやすいゲームではないかと思います。 編: 有名な競馬ゲームはたくさんありますが、そうしたタイトルのオンライン版が足踏みを続ける中で、「競馬伝説Live!」の人気が高いと聞いて、そうなのかと驚かされるところがあります。というのは、メディアからはブラックボックスになっていて状況が良くわからないんですね。 長沢氏: 過去3年半ほどやっているのですが過去最高売り上げを先月出しましたし、ずっと継続的に伸びています。ユーザー数も好調と言っていいレベルです。客単価自体は一定水準で留まっている状況です。 編: 国内大手さんの競馬ゲームに比べると、ブランド的にはそこまで強いわけではないと思います。成功要因は何だと思いますか? 長沢氏: 面と向かっていわれるとアレですが(笑)、確かにブランド的にはあまり強いとはいえないです。おそらく他社さんも考えていらっしゃるところなので私が言うのはおこがましいのですが、競馬ゲームはゲームバランスがカギだと思っています。ゲームの内容は、馬を調教して他人と直接競争するというもので、G1というレースを競い合って行くわけですが、たとえば直接お客様同士が戦うゲームでお金を使うことが強さに影響を与えすぎてしまうと、お金使わないと勝てなくなってしまい、そのゲームはつまらないですよね。その人なりの遊びかたを選んでいただくためにも、ポイントはお金を使えばより楽しく遊べるが、必ずしも強くならないゲームバランスで、お金を使わなくても楽しくレースに参加できるようなゲームバランスを実現したいねとずっと言っています。今の状況ではお客様の方にかなり受け入れていただいていまして、「お金を使ったのに強くなれないのはおかしい」といったクレームはほとんど受けません。このバランスは対戦型のゲームではすごく大事だと考えていますので、そこがある程度お客様に満足いただく形で実現できてきたことというのはこのゲームにとってすごくプラスでした。 編: 今後力を入れていく対象としてはPCオンラインゲームということで良いですか? 長沢氏: デバイスにはこだわっていないですね。モバイルもぜひ力を入れていきたいジャンルですし、取り組みとしてはスタートしています。我々が軸足としておいて置きたいのはオンラインエンターテインメントです。デバイスは極端な話コンシューマ機もありえると思いますし、そこにこだわりはないです。 編: 最後にユーザーさんにメッセージをお願いします。 長沢氏: 今からやろうとしている「紡がれた運命」はお客様の声をいかに反映させていけるか、我々としてものすごく気合が入っているところです。遠慮せずに色々なご意見をいただきたい。オンラインゲームが出来上がる過程を一緒に共有できるとすごく良いなと思います。「アットゲームズ」も今後スピードを上げて進化していくと思いますので、継続的に見守っていただけるとすごくありがたいなと思います。
編: ありがとうございました。
□ジークレストのホームページ (2008年10月29日) [Reported by 中村聖司]
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