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会場:ハドソン本社
日本においては、株式会社ハドソンがiPhone用ゲームアプリの先駆者的存在になっている。同社はiPhone 3Gの発売前から「Do the Hudson!!(β)」というiPhone/iPod touch向けサイトを開設し、ゲームやジョークアプリを世界に向けて、しかも無料で配信してきた。もちろんAppStoreでも、iPhone 3G発売と同時に「BOMBERMAN TOUCH -The Legend of Mystic Bomb-」など3タイトルを展開。日本国内では圧倒的な人気を集め、ランキング上位を独占した。 そのiPhoneも、意外と沈静化するのが早く、当初のような勢いは感じられない。特に、iPhoneに参入している日本のゲーム会社が少なく、ゲーマーにとってもやや寂しい状態だ。iPhoneはゲーム機としてどうなのか? これからも可能性はあるのか? その疑問を、日本で最も成功しているハドソンにぶつけてみることにした。
インタビューを受けていただいたのは、ハドソン執行役員 NC本部 本部長の柴田真人氏。iPhoneを含め、同社のモバイルゲームを統括している人物である。
■ 全てのゲームがiPhoneに合うわけではない
柴田真人氏 : 思った以上に開発しやすいですね。今まで見てきたモバイルやコンシューマーと比べても、開発は順調に進められていると思います。 ――モバイルに比べてもですか? モバイルゲームと特別大きくは変わらないと思うのですが、その理由は何でしょうか? 柴田氏 : 1つは端末が1種類なので、端末ごとの差異を気にしなくていいことです。これはものすごく大きいですね。かなりの作業量を軽減していると思います。もう1つは、画面が比較的大きい割には、PS3のようにやたら描き込むような意識で作るほどでもないことです。基本的にはモバイルで、ダウンロードでアプリを提供し、空き時間に遊ぶということを考えると、ゲームのジャンル的にもカジュアルなものが中心になります。重厚長大なゲームが中心というわけではなく、お客様が望んでいらっしゃるのもライトなゲームが多いので、全般的にやりやすい気がしていますね。 ――端末のハードウェアとしては、DSやPSPといった携帯ゲーム機や、一般的な携帯電話と比較するとどう思われますか? 柴田氏 : 携帯電話というカテゴリで見る場合と、ゲーム機というカテゴリで見る場合とで、ちょっと見方が変わると思っています。ゲーム機として見ると、iPhoneはとても新しいインターフェイスなので、その都度よく考えないと逆に使いにくくなってしまいます。PSPやDSは十字キーとボタンがあって、基本的な操作は決まってきますので、コンシューマゲーム機の方が断然やりやすいだろうと思います。 携帯電話と比較していうと、インターフェイスについては本当によく考えなければいけません。「お客様のより使いやすいのは何?」とか、「このゲームは本当にこのインターフェイスで合っているの?」ということを考えて作ってあげる必要はあると思いますね。iPhoneのゲームを色々と作ってみて、決して全てのゲームがiPhoneに合う訳じゃないな、というのは凄く感じますね。 ――最初に「ボンバーマン」を出されましたが、伝統的なタイトルを持ってくる時には、やはりそういうところも意識してやるわけですね。
柴田氏 : そうですね。全部のタイトルを、完全に単なる移植にするという訳にはいかないので、本当によく考えないといけないと思います。タイトル選定もそうですし、改変の仕方もですね。
■ ハードウェアの特徴を生かしたアプリ開発のポイントは? ――次にインターフェイスについてお伺いします。まずはマルチタッチスクリーンですね。DSだとシングルタッチのみですが、iPhoneは同時に5カ所までタッチできると聞いています。開発においても、マルチタッチから何かインスピレーションを受けるものはあったのではないですか? 柴田氏 : それはあると思いますね。実際に、マルチタッチを活用したゲームを作りましょうということで今も動いています。マルチタッチはゲームの可能性を広げると思います。ただ、先程も話しましたようにゲームの種類にもよるので、何とも言えないですけども。
――加速度センサーはいかがでしょうか。これとマルチタッチを合わせて、直感的なゲームができるのではないかと想像していますが。
――おお、落ちてきた卵をつかめました! なるほど。 柴田氏 : シンプルなゲームですね(笑)。これはiPhoneを上に向けて見ないと、卵が落ちてこないのです。端末の上方向の加速度を見て、画面をそれに合わせて移動させて、バーチャル空間のように見せています。まさに加速度センサーからインスパイアされた、象徴的なゲームですね。 ――まさか新作を触らせてもらえるとは思いませんでした。ちなみにこれは卵をつかむだけのゲームなのですか? 柴田氏 : そうです。ただし、卵がどんどん高くなっていきます。最後は200mくらい。 ――全然落ちてこない(笑)。 柴田氏 : 最初は凄く小さく見えていて、ドーンと落ちてきます。その絵を見るのが楽しいですね。リプレイも見られるので、結構笑えます。リプレイはどの視点で見るか選べまして、横から、また落ちてくる卵からの視点もあります。
――これは楽しいですね。しかもiPhoneでないとできない。Wiiでやろうにも、画面ごと動かさないと駄目ですし。
――ほかにiPhoneの特徴的なところとして、携帯電話に比べると容量が大きいというのもあると思います。大容量のダウンロードについても、PC経由でアプリケーションを持ってこられるiPhoneに強みがあると感じています。 柴田氏 : それは感じますね。弊社の「着☆あぷ♪ボンバーマン」などで大容量のゲーム作っても、頻繁にネットワークで通信が入ったりして、切ないんですよ。それはちょっともったいないと思います。例えばアドベンチャーゲームを作っても、画面を綺麗にすればするほど、「もう通信なの?」とか、「もう第1章終わりなの?」といったことがよくあります。同じモバイルで、容量を食うようなゲームを作ったとしても、iPhoneだとすごくスムーズじゃないかなと思いますね。 ――そういう大容量タイトルの開発はされているのでしょうか?。 柴田氏 : もちろん、そういう方向も考えています。 ――iPhoneの端末として、他にキーとなりそうな機能はありますか? 柴田氏 : いま考えているのは、写真ですね。カメラはアプリから呼び出せるので、カメラを使ったゲームや、地図と連携したアプリケーションを考えています。ほかには、常にネットワークと繋がっているという特徴がありますので、コミュニティを上手く活用したゲームですね。そこは是非とも強化していきたいと思っています。 あとiPhoneの特徴として、ハードウェアもさることながら、ワールドワイドであることがすごく重要だと思うのです。いま日本の市場だけを見ると、もう負けじゃないかとか、もう駄目じゃないかといった話をされていますが、実は元々、私は国内はそんなには見ていません。iPhoneはグローバル展開できるところが魅力的だと思っているので、日本のデベロッパーが世界に対していろんなチャレンジをするには、すごくいい端末だと本当に思います。
我々もそうですが、中小の会社は海外でビジネスできていないじゃないですか。コンシューマでも、みんながみんな海外で大成功できているわけではありません。そう考えると、日本の優秀なコンテンツを海外に出すプラットフォームとしては、今は最適じゃないかと思いますね。そういった意味で我々はチャレンジを続けますし、「日本のコンテンツここにあり」ではないですが、日本発のコンテンツをどんどん出していきたいと思います。
■ ローンチタイトル「BOMBERMAN TOUCH -The Legend of Mystic Bomb-」の開発裏話
柴田氏 : 実は最初にローンチ用として用意していたのは、全く別のゲームだったのです。しかしそのゲームがいまひとつで。当時はまだローンチで出せるかどうかもわかりませんでしたが、ただそこで看板タイトルを出すことで、Appleさんもお客様にも注目してもらえるだろうと思いました。米国でも「ボンバーマン」はそれなりの知名度があるので、「そう考えると『ボンバーマン』しかないんじゃないの?」と、ほとんど期間がないときになって言いました(笑)。 研究段階のソフトを急遽「ボンバーマン」に差し替えてやっています。開発スタッフも企画の人間も、非常にアグレッシブに取り組んでくれて、全く新しいインターフェイスなどにチャレンジしてくれました。グラフィックスもいいものができたと思います。そういった意味では、やってよかったなと思いますね。 ――ちなみに開発期間とスタッフの人数はどのくらいですか? 柴田氏 : あまり言いたくないのですが、想像を絶する短さと、想像を絶する人数の少なさです。 ――モバイルゲームとして見てもですか? 柴田氏 : あり得ないくらい短いですね。これだけの内容で、バグもほぼ完全にフィックスしたものを、よく完成させたなと思います。「ボンバーマン」のノウハウがそれなりに蓄積されてるというのもあるのでしょうが、それでもすごく早かったですね。 ――その「BOMBERMAN TOUCH -The Legend of Mystic Bomb-」で何よりも驚かされたのは、両方の親指で操作させるインターフェイスです(詳細はレポート記事を参照)。あのインターフェイスが出てくる発想のきっかけのようなものはあったのですか? 柴田氏 : 元々、ここが絶対に重要だというのは議論されていました。実は昔、タッチパネルの「ボンバーマン」を作ったことがあるのです。ご存じないかもしれませんが、レストランのガストなどに置いてあったタッチパネル式のゲームに、弊社も3タイトルほど提供しています。その中に「ボンバーマン」も入っていました。そのときはキャラクタの前を指でなぞってボンバーマンを進めるというものでした。あれは画面が大きいので、それでもよかったのです。 でもiPhoneでそれをやろうとすると、明らかに指が邪魔になるのです。キャラクタを指で押すようにするのか、キャラクタの行く場所をポイントで示して行かせるのか。いろんな議論がされた中で、札幌の開発から提案があった中の1個がこれだったのです。それを実装してテストしてみたところ、「これは画期的だ」ということで、これで行くことになりました。 ただ、最後の最後はものすごく苦労しました。やっぱりどうしてもみんな、キャラクタをなぞるように引っ張ってしまうのです。どうしてもキャラクタを引っ張るイメージになるので、なかなか十字キーとして捉えてもらえませんでした。ですから、いかに気持ちよく操作できるかというのは、相当チューニングしています。 ――私はずっとコンシューマゲームを遊んできたので、あの画面を見た瞬間に何も考えずに両手で持ってしまって、おかげで操作方法に気づきました。 柴田氏 : わかっていただけるとすごく早いのですが、ゲームに慣れてない方は戸惑うようですね。 ――普通は片手でつかんで、反対の手の指で動かしますから。 柴田氏 : そういった意味では賛否両論あるのですが、インターフェイスとしては、我々としてはアグレッシブだったし、ものとしての調整は極限までやれたのではないかと思っています。 ――他に「BOMBERMAN TOUCH -The Legend of Mystic Bomb-」の中に込められたユニークな要素は何がありますか? 柴田氏 : 加速度センサーをどう使おうかと考えて、今回は傾きで操作できる「ミスティックボム」という名前のスペシャルボムを入れました。置いてある爆弾が全部転がったら面白いね、というアイデアは出ていましたが、そこまでやるとゲーム性が変わり、短期間でやるのは危険だということで、リスクなく加速度センサーを利用したのが伝わるような表現にしようということになりました。あとはボリュームの点で、ステージが16面と若干少なく感じるので、3周できるように遊び方を工夫しています。 ――「BOMBERMAN TOUCH -The Legend of Mystic Bomb-」以外のタイトルについては、以前、アップルストアで行なわれた、高橋名人が出てこられたイベントで、文字だけで数十タイトル出されていました。当時から色々な企画は上がっていたようですね。 柴田氏 : アイデアとしては相当な数があがっていますし、年内一杯のローンチ分はほとんど動いています。 ――年内は何タイトルくらい出される予定ですか?
柴田氏 : 今期は20タイトル、来年の3月末までに20タイトルという話をしていましたが、できれば30タイトルくらいまでと思っています。どこまでできるかはわからないですが、かなりの数、大中小取りそろえていきたいと思います。
■ iPhoneで日本向けのコアタイトルは作れるか
――最近、色々なモバイルゲーム会社さんに、「iPhoneはどうですか」と聞いてみています。答えは大抵、「よくわからないから様子見」といった感じです。皆さんが何より聞きたいのは、ビジネスとしてどうかだと思うのですが、ハドソンさんとしてはiPhoneのビジネスは、儲かっていると言えるところまで来ているのですか?
――ただでさえiPhoneという新しいプラットフォームなのに、北米向けが必須となるとビジネスも違いますから、難しいところですね。 柴田氏 : でも非常に楽しいですよ。緊張感がありますから。本当にグローバルにビジネスをしているな、という感覚はありますね。その緊張感は、日本のキャリアとは全然違います。外国の人はこういうことを気にするんだとか、これでいいの? とか、これでも市場的には回っていくのかとか。非常に面白いですね。 ――海外のユーザーもも含めた上で、iPhoneのゲームユーザー層とはどういう方々だと考えられていますか? 柴田氏 : 日本と海外ではかなり違うみたいですね。日本では、非常にとんがった人たちが多いので、目も厳しいです。逆に言うと、ゲームに対しては比較的アクティブですね。海外の方はライトなお客様も結構多いので、人気が出るものも、いかにもゲームというものだけではないなという気はしますね。 ――どこに向かって売ればいいのかというのが、日本のメーカーさんにもわからないところだと思います。少なくとも、日本向けに作っていては辛いということでしょうか? 柴田氏 : どのくらいコストをかけたかにもよるので、そこは何とも言えないです。日本は市場が小さい割には、ダウンロード数はすごいので。ですから、決してビジネスにならないわけではないです。いいものを出せば採算ラインに乗ってきますし、全くダメなんてことはないですね。 ――我々は日本のゲーム媒体なので、日本のゲームの情報を載せるのが一番重要なのですが、そういう意味ではiPhoneは物足りない状態です。もうちょっと日本人向けのコアなタイトルは出てこないのかと、ずっと思っています。例えば日本のゲームユーザーは大作RPGが好きですよね。そういうタイトルが出てくる可能性はないのでしょうか? 柴田氏 : いやもう、うちは作っていますよ。ずっと儲からないまま10年も20年もやるつもりはないですが、我々としては十分な売り上げがあるので、もっとアグレッシブに行きます。そのラインナップの1つとして、今おっしゃられたような大作RPGのようなものも、もちろん意識しています。 ――逆に、米国などにそういったタイトル持っていっても、かなり辛いとは思います。 柴田氏 : そうですね。だから単純に、日本のままというイメージではありません。海外でも受け入れられるような仕立てにはするつもりです。やはりコストをかけるゲームなりコンテンツは、海外でも売れることも考えないと、ちょっと厳しいと思います。だから個人の方や、会社規模によっては、全世界向けに各国語対応というのは、本当に大変だと思いますね。 ――そういう状況もあるわけですが、日本のゲーム業界の中には、まだiPhoneがゲームプラットフォームとして認知されているところまで来ていない印象があります。今後、iPhoneをゲームプラットフォームとして成功させるためには、何が課題になると思いますか? 柴田氏 : もちろん普及台数が伸びないといけないので、単純に普及台数を伸ばすには、日本の携帯ユーザーをもう少し意識したことはすべきだと感じています。それは我々がやるべきなのかどうかわからないのですが。メール回りで絵文字が使えませんとか、コピー・貼り付けができませんとか、不満が出ていますよね。小さい話ですが、細かい不満としてお客様に貯まりつつある感じがするので、その辺りは対応してもらいたいですね。それによって裾野が広がり、各コンテンツメーカーさんも参入しやすくなるでしょうから、日本向けのコアなゲームも出てくると思います。
私としては、ハドソンがリスクを負って、ライセンスを買ってどんどんアプリを出して、それによって需要が広がるというのも意識しています。これでうちが全く出さなくなると、結構寂しいのではないかなと思うので、これからもバンバン行きます。お客様には、いいゲームがいっぱいあるなと思ってもらいたいので、カジュアルも揃えつつ、本格的なものも揃えて、全方位的に展開します。
■ AppStoreのレビューでiPhoneゲームが成長する! ――ちょっと余談なのですが、iPhoneのゲームをやりたいと思ったとき、iPhoneを買うか、iPod touchを買うか悩むところだと思います。柴田さんとしてはどちらがオススメですか? 柴田氏 : 常にネットワークに繋がっていることを考えると、やはりiPhoneですね。iPod touchはどこでもネットワークに繋げられるわけではないですから、ネットワーク系のゲームはできなくなってしまいます。我々も近々に対戦ゲームを用意していまして、iPod touchだとWi-Fiを探さなきゃ対戦できないことになります。あと、弊社のゲームはほとんど全部、WEBでハイスコア登録ができるようにしていますので、WEBに繋がる環境であってほしいなとは思いますね。
――では最後に、この記事の読者、またiPhoneのユーザーに向けて、一言メッセージをお願いします。
私個人としては、日本のコンテンツがこんなにいいんだよということを、世界にもっと強くアピールしたいと思っています。だからこそ日本のお客様が、厳しい目と優しい目でハドソンのコンテンツをよりたくさん遊んでもらえればなと思います。そうしたら我々ももっともっと強くなって、海外でもがんばれると思います。
――ありがとうございました。
□ハドソンのホームページ (2008年10月6日) [Reported by 石田賀津男]
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