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会場:昭和女子大学
ガマニアは他のオンラインゲームパブリッシャー以上にコンテンツ開発に積極的に関わり、ゲーム展開を行なっている。サイバーステップは「ゲットアンプド」を東アジア中心に展開し、今年シンガポールで現地パブリッシャーと共同で世界大会を開催した。共に独自の姿勢でゲーム業界に取り組んでいるメーカーである。セッションではそれぞれのアプローチが語られた。
2つのセッションに共通しているのは、両社共に積極的に自社の展開を開陳していることだ。講演の姿勢には、他社との競合を恐れて内容を控えめにしようといったことはなく、自社の経験を語ることで業界全体を発展させようという意気込みが感じられる。2つのセッションが今後、オンラインゲーム業界にどのような影響を与えていくかも注目したい。
■ 「ルーセントハート」の取り組みを中心に語られる、オンラインゲーム開発の留意点
日本のガマニアは「ルーセントハート」、「ブライトシャドウ」といった台湾Gamaniaが開発するタイトルに、パブリッシャーの枠を越えた積極的な協力体制で臨んでいる。その成果か「ルーセントハート」はプレーヤーがサーバーの制限で入れないほどのヒットになった。今回のセッションでは、自社の経験からフィードバックされたオンラインゲームへのアプローチが語られた。 最初に中島氏は、日本のオンラインゲームの現状を語った。JOGAオンラインゲーム市場調査レポートからの出典として、国内で運営されているオンラインゲームタイトルのうち、57%が基本プレイ無料アイテム課金型のビジネスモデルを展開している。アイテム課金の平均売り上げ額は1ユーザー当たり月額4,676円。2004年から400円近く上昇している。さらに中島氏は運営側のコストを紹介した。ゲーム1タイトル当たりの月額平均運営サービスコストが664万円、サービス、カスタマーサポート、サーバー技術者等の運営スタッフの平均人数が6.7人。大きいタイトルならば、月額コストは1,200万円~1,500万円となり、スタッフの数も増えていく。 市場としてはタイトル全体の数は上昇しているものの、2007年には新規タイトル数が減り、終了タイトルは前年の倍となる73タイトルに増えた。ジャンルとしてはカジュアルゲームが減少している。これは日本ではコンシューマゲームが定着しており、韓国や中国のカジュアルゲームをPCで展開するのが難しいためと考えられるという。 市場の傾向から、中島氏はガマニアが行なっているアプローチを中心にユーザーの傾向を紹介した。オンラインゲームの特徴はアップデートを繰り返し、サービスが続く限り開発が続くことだ。開発を続ける理由は「ユーザーのモチベーションの維持」にある。頻繁なアップデートを行ない、ユーザーの興味をゲームに引き付ける事が必要で、コンシューマゲームの開発とは全く違ったサービスの提供方法が必要だ。アップデートがコストに見合った効果をもたらすことも考えて行かなくてはいけない。 オンラインゲームの大きな魅力は「コミュニケーション」である。しかし、最近のゲームではゲームを始めてもユーザーが友達を作りにくい。「ゲーム内で人に話しかけても無視されることも多い。新規ユーザーを邪慳にしてしまう傾向は特に低年齢ユーザーに顕著だ」と中島氏は語る。 「ルーセントハート」ではプレーヤーキャラクタは12星座のどれかを最初から選択する。同じ星座のみのチャットである「星座チャット」という機能を持たせ、ゲームを始めたときに他のプレーヤーと会話できるようにした。ユーザーからは「血液型チャット」も欲しいという要望が来ているという。「ルーセントハート」はさらにプレーヤー達をマッチングさせる「キューピッドシステム」を実装し、プレーヤー達がふれ合うことができる機会を増やしている。 「ログインするユニークユーザー」、「継続率」、「同時接続者数」はオンラインゲームの指標となる数字だ。そして「課金ユーザー数」と「客単価」もアイテム課金型のゲームで重要となる。この数字を考えて開発は進めなくてはならない。開発は作りたい物を作っていく傾向になりがちだ。数字を上げるための開発の方向性を求めなくてはならない。 ユーザーの心をつかむシステム開発はもちろんだが、企画で新しいユーザーを取り込むことも可能だ。ガマニアではPCゲーム「CLANNAD」とタイアップし、ゲーム内に「CLANNAD」の登場人物と同じアバターアイテムを登場させたり、ニコニコ動画で人気の「ウマウマ」を取り入れることで、従来のオンラインゲームユーザーとは違う層のユーザーを取り込むことができたという。 課金アイテムで注意しなくてはいけないのは、課金による制限を付けるとユーザーの反感を買いやすいことだという。最低限、課金をしなくてもゲームが遊べる状態にし、課金アイテムは+αにしていく。現在の課金ユーザー数の割合は、ログインユーザーの10~20%。ユーザーがアイテムを買いたくなる仕掛けをどうしていくかは大きなテーマだ。 ユーザーは課金アイテムを購入できるアイテムモールを使うことに抵抗を感じる場合がある。「ルーセントハート」では、アイテムモールに0円のアイテムを用意し、クエストの中でこのアイテムを買わせることで、アイテムモールの存在をアピールしている。また、無料の移動速度アップアイテムを使わせてお使いクエストを体験させ、帰りには速度が通常に戻るくらいにしておくことで、課金アイテムの効果を実感させるといった仕掛けも入れている。 価格においては「手頃さ」をアピールしている。「ルーセントハート」はパーティーでのダンジョン内でのプレイが多いが、倒された場合、課金アイテムを使わないと、ダンジョンの外に出されてしまう。この復活アイテムを倒れたときに購入できるように出している。また値段も30円という値頃感を出している。アイテムの価格は値段を上げるとユーザーからの批判が出る。「ルーセントハート」は他のタイトルに比べても価格設定を安くしたところ、売り上げが好調になったという。 「がちゃがちゃ」と呼ばれる、“当たり”のあるランダム販売は最も収益が大きく、ユーザーが数万円を使ってしまうという状況もある。しかしやりすぎるとユーザーは急速に離れてしまう。どのアイテムをどれだけの量提供するか、という視点が大事だ。このためどれだけアイテムが流通しているか、露店販売でユーザーがどれだけの値段をつけているか、そういったデータを管理する「バックエンドツール」をオンラインゲームの開発初期から考え、実装してシビアに管理していかなくてはいけない。 質疑応答では、バックエンドツールの設計に取りかかる時期や、運営スタッフの24時間の運営体制、ゲーム内広告の実用性、といった質問が出た。「バックエンドツールは開発初期から計画し、開発に組み込まれている。運営に関しては2交代制で行なっている」と、中島氏は答えた。ゲーム内広告に関しては、現在タイアップをすると逆にメーカーが企業にお金を払う、といった状況もあって日本ではビジネスの難しさが語られた。 「ルーセントハート」に関してコアタイムにログインできなくなってしまう問題が続いており、これに関する質問も出た。中島氏は現在サーバーの強化をしていくと共に、ユーザーがゲームを多重起動して1つのPCで複数アカウントでログインしている点や、ログインしたままプレイをせずに他のプレーヤーに加護をもたらす「祈り」の機能を今後見直していきたいとも考えているという。サーバーは1度増やすと減らせなくなる、というのも問題だという。
最後に中島氏は「オンラインゲームは日本ではまだ開発している会社は少なく、運営してもすぐやめてしまうと言う状況があります。オンラインゲームは長いスパンでサービスを考える根気のあるビジネスだと思っています。ある時期から収益が大きくなるところもあります。日本のみなさんが今以上にオンラインゲームを開発していただければ、私達としては競合が増えるという状況もありますが、オンラインゲームというジャンルの未来が明るくなるのではないかと思っています」と、言葉を結んだ。
■ 日本のゲームを世界に! 現地と協力して展開するオンラインゲームならではのアプローチ
サイバーステップは「ゲットアンプド」を、韓国、中国、台湾など11カ国でサービス。収益の7割が海外というオンラインゲーム開発会社であり、日本国内ではタイトルの運営も行なっている。北米には子会社を設立した。今後自社タイトルだけでなく、パブリッシングも行なっていくというメーカーである。 佐藤氏はまず、海外展開するオンラインゲームのメリットを語った。その国の状況を考えてのビジネスモデルの提案、特にアバターアイテムなどアイテム課金の場合は、ユーザーの所得などを考えてフレキシブルに設定できるようにしている。中国ならカンフー胴着、タイならムエタイの衣装など、各国のユーザーの好みを反映した商品ラインナップを揃えていける。オンラインゲームは季節や様々な機会に合わせてキャンペーンを仕掛けていくことができ、失敗しても次の機会がある、というのも利点だという。 「日本国内では人口は1億3千万人ですが、世界中に目を向ければユーザーはもっといるはずです。そしてゲームをプレイする人口は確実に増大している。そして日本のゲームのクオリティは高い」と佐藤氏は語った。パンチの時に拳が大きくなったり、殴られると目が飛び出るといった演出は日本のゲームでは良く取られる手法だが、中国や韓国では驚かれ、米国人も「キュートだ」と言ってくれた。日本の開発者が生み出すゲームは他国と比べて独自の魅力がある。 しかし、それだけで駄目な場合もある。サイバーステップは韓国での成功を期に他の国にも展開した。最初は韓国のコピーを中国や台湾で展開したが、一時期は受けたものの、落ち込んでしまった。それは各国の運営から寄せられる要望に対し、費用を徴収してアップデートしていたからだという。そのために各国のアップデートが鈍化してしまった。望んだサービスが得られないとユーザーは離れていく。サイバーステップは考えを変え、各国の声を取り入れた方向にシフトすることで、サービスする国を増やしていくことに成功しているという。 次に、佐藤氏は自社で展開しているタイトルを紹介した。最初は現在クローズドβテスト中の「ゲットアンプド2」。この作品は「ゲットアンプド」の続編となるタイトルで、キャラクタの表現やフィールドの演出を強化し、より楽しく格闘できる作品を目指している。また、ただ対戦するだけでなく、ユーザーが戦いを録画し、それを公開して他のプレーヤーが見ることができるモードや、終始プレーヤーがフィールドに出入りし、ひたすら殴り合う「ストリートファイトモード」といった新しい要素も加えている。この作品も他国への展開を予定している。 もう1本はMMORPG「ロボ世紀C21」だ。こちらは現在正式サービス中の作品で、2006年3月からサービスを開始し、1年半で黒字になったという。この他、WEBページから操作できるロボットの研究を行なっている。ロボットにはカメラが搭載されていて、ブラウザから操作できる。色を判定する機能を持っていて、ユーザーがカメラを操作し、壁に貼られた赤い紙を中心に合わせる、といったゲーム要素を取り入れている。 このロボットシステムはさらに仕掛けをしてあり、赤い紙をカーソルに合わせるとRPGの様にモンスターがブラウザに表示される。このモンスターを倒すためにタイピングゲームがスタートする。実際にロボットを制御するシステムから、色彩判定、ゲームのアプローチなどアイデアを詰め込んだシステムだ。以前はユーザーが社内を動かせるようにしていたが、社内の情報が中継されてしまうため現在は停止している。将来的に様々な施設を動き回るようなシステムにするため、研究を継続しており、今後商用への企画も考えているという。 質疑応答では「他国へどのように営業するのか」というものが上がった。佐藤氏は直接営業していたときの経験として、「韓国、台湾、中国の場合は日本語で電話をすると3社に2社くらいは日本語が通じる人が出てくれました」と自身の経験を語った。現在は、韓国のG☆でBtoBコーナーに出展するなど、イベントを利用した活動を積極的に行なっているという。 「私達は、国内と海外で事業を展開しています。海外の成功で新しい試みもできるようになり、『ゲットアンプド2』と『コズミックブレイク』というタイトルもスタートできるようになりました。現地の会社が頑張ったくれた、というのはもちろんですが、それ以前に国外でちゃんとコンテンツを認めてくれる人と出会ったというのが大きいです」
「楽しいものを作る、というのはみなさんの方が先輩かもしれないです。しかしインドネシアやフィリピンのようにみなさんのコンテンツが届いていない国はたくさんある。日本のゲームを日本や欧米だけでなく他の国に展開して欲しい。他の国の方も、そのためのお金はきちんと払ってくれます。複数の国を含めればユーザー数も増えていきます。ぜひゲームを作り、他国へ展開してください」と佐藤氏は言葉を結んだ。
□ガマニアのホームページ (2008年9月12日) [Reported by 勝田哲也]
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