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会場:昭和女子大学
このカンファレンスは、CEDEC10周年を記念したパネルディスカッションである。司会に“高橋名人”こと、株式会社ハドソン宣伝部名人の高橋利幸氏、パネリストとして「スペースインベーダー」を生みだした株式会社ドリームス代表取締役の西角友宏氏、「パックマン」を作った東京工芸大学芸術学部ゲームコース教授の岩谷徹氏、そしてGDCイベントの企画を取り仕切るThink Services Game GroupのJamil Moledina氏が登壇した。オールドゲームファン注目のセッションだった。
■ ゲーム有名人が集う記念セッション
最初に語られたのは、「スペースインベーダー」と「パックマン」の開発秘話。西角氏はタイトーでエレメカの開発からテレビゲームの開発へ移行し、1979年に「スペースインベーダー」を生みだした。この当時の状況はアメリカで生まれたテレビゲームという文化を日本が追いかけ、拮抗している状況だったが、使用される部品がアメリカのものが多いため、わずかにアメリカが有利だったという。西角氏はが大きな衝撃を受けたのが「ブロック崩し」だ。シンプルな中に奥深いゲーム性があり、「ゲームの本質」を考えさせられたという。 そこで西角氏はこの「ブロック崩し」にビジュアル要素を加える方向で進化させ、「スペースインベーダー」を生みだした。ボールが返ってくる代わりに敵が弾を撃ってきて、これを避けるというゲーム性を追加した。西角氏は「ブロック崩し」と「スペースインベーダー」を似ている、と語ったが、高橋名人は「敵が攻撃してくる」という要素はそれまでのゲームにはなく、革新的なアイデアだったと指摘した。 高橋名人がギリギリの最終防衛ラインでインベーダーを倒すテクニック、「名古屋打ち」を話題に出すと、西角氏は「アレはバグなんですよ」と答えた。あのインベーダーの倒し方は予想していなかったもので、運良くゲームが暴走しなかったから良かったものの、あれでゲームが止まったら全て回収しなくてはいけないため、最初は非常に焦ったという。 高橋名人は、実はハドソンも似たような経験があり、「ロードランナー」の主人公が右手を上にしてはしごで止まると敵をすり抜けると言うことが発見され、“裏技”となったことがあると語った。 一方、岩谷氏はナムコに開発として入社したが、新人研修としてデパート屋上の小さな遊園地でスタッフとして働いたときの経験が、物作りの姿勢に大きく役立ったという。お金を入れて動く木馬があり、片方はアニメキャラクタの形をした木馬、もう一方が普通の木馬だが、普通の木馬の方が圧倒的にユーザーを獲得している。これは、「子供が乗って怪我をしそうな構造に見える木馬に母親は乗せない」といわれ、自分だけでなく、母親や子供の姿勢での物作りを考えさせられた。 また、木馬に乗る楽しそうな親子の笑みを見て、笑顔が生み出せるようなゲームを作りたいと強く思ったという。岩谷氏は「ユーザーが自分のゲームをプレイしてどんな顔をしてくれるか、その顔が見える環境がゲーム開発には必要だ」と語った。 「パックマン」は女性もゲームセンターに来てくれるゲームを考えて作った。パワーエサの駆け引きや、オバケのアルゴリズム、様々な要素をデザイナー、プログラマーなどが協力して考えた作品だという。 Moledina氏は北米での「スペースインベーダー」、「パックマン」のヒットを語った。Moledina氏は学生の時、ATARIに移植された「スペースインベーダー」をプレイしたくて、持っている人と友人になったという。「パックマン」をプレイできるピザレストランは、ゲームがあるから好きになったし、女の子と話をするときにもゲームが役にたったという。
「パックマン」のルートによって展開が全く異なり、何度でもプレイできるゲーム性。「スペースインベーダー」はゲームに“侵略してくる宇宙人と戦う”というストーリー性を取り入れたところが革新的で、当時のユーザーに衝撃を与えた。革新性に加え、「楽しさ」があったからこそ、この2つのゲームは北米でもヒットし、その後のゲーム開発だけでなく、文化にも影響を与えたのだと、Moledina氏は語った。
■ パイオニアが模索するゲーム業界の現状とこれから
岩谷氏は現在は開発チームが増え、ゲーム制作は分業となり、個人の制作者が評価されず、「本質の面白さ」が見えなくなっている点も指摘する。さらに、パックマンのころからゲームは一貫して悪者という評価を覆せないのは、規制という問題ではなく、制作者一人一人の倫理観ではないかと語った。 ゲームは悪者、というところに高橋名人は自身の経験を語る。キャラクタが自分の操作で動く、ということだけでも子供を夢中にさせすぎてしまうゲーム。子供達のヒーローとなっている当時から高橋名人は、「子供は外で遊び、余った時間でゲームをすべきではないか」と考え続け、自分の中の結論として「ゲームは1日1時間」という言葉を願いを込めて当時の子供達に語りかけたという。 しかし、生まれたときからゲームがある現代の子供達は、名人をヒーローとしていた子供達に比べゲームを醒めた目で見ている。「対戦ゲームで絶対勝つんだ!」という情熱を持った子供達がいない。それはそれでやはり寂しい。高橋名人は、これから子供を夢中にさせるコンテンツが出て欲しい、と語った。 Moledina氏は欧米や世界に評価された日本の最新のゲームとして「METAL GEAR SOLID 4 GUNS OF THE PATRIOTS」を挙げる。「METAL GEAR SOLID 4 」はビジュアル、ゲーム性としては挑戦的なものを出しながら、ストーリーは明確でシンプルな、伝わりやすいテーマを出しているのが欧米にも受け入れられたのではないかと語った。 日本のゲームは1つの作品で言いたいことが多すぎ、たくさんのテーマを表現したいと思ってしまう傾向があるのではないかとMoledina氏は言葉を続ける。シンプルなテーマに絞り込めない作品は、少人数に熱狂的に受け入れられることはあるが、多くのユーザーにとっては魅力的なものにはならない。これは、アメリカ市場に日本のゲームを持って行くときに継続的に行なわれている議論だという。 話題はそのままこれからのゲームにシフトしていく。岩谷氏は30年以上ゲームを開発していく自分の中には、「ゲームが好き」ではなく、ゲームに愛情を持ち、使命感を持って、一生守り続けるように気持ちが育ってくる。それは男女間と同じようなもので、好きなだけでは続かず、不満やすれ違いを乗り越えるために、添い遂げることを覚悟するような「愛情」を持って欲しい、と語った。 岩谷氏は更に、「人が面白いと感じるところには、シンプルで普遍的なものがあると思う。それは過去の作品の中にも流れている。現在の開発者は、当時のゲームを研究し、時代背景も考え、そこから普遍的な楽しさを抽出して、現在のゲームにフィードバックをして欲しい」と語った。 Moledina氏はこの話の流れの中で、技術やテーマを誰でも関心の持てる形でユーザーに提供できる可能性が、ゲームにはあり、その可能性の中に託すべき夢があるのではないか、と語る。さらにMoledina氏は、「GDCの使命の1つはゲームにプラスのメッセージが持てるようにすることだ。年寄りから子供まで誰もが関心を持ち、普遍的に受け入れられる、幅広く伝播していく魅力を、ゲームは獲得できる。それこそが目指すべき理想の形ではないか」と語った。 質疑応答では、「ここ1~2年でみなさんが感心したゲームはありますか」という質問に、Moledina氏はPS3の「リトルビッグプラネット」を挙げた。コントローラを触り、自分の中でゲームのプレイはこれだ、と強く感じた。それは「スペースインベーダー」や「パックマン」を初めてプレイしたときと同じ衝撃を感じたという。「ゲームの本質を捉えた作品は現代でもあり、そしてゲーム本来が持つ楽しさは、現在でも再生可能だと思う」というMoledina氏の言葉でセッションは終了した。 残念だったのは、西角氏、岩谷氏から具体的な最新のゲームタイトルがセッションで一度も出なかったことだ。両氏の言葉はパイオニアとしての重みがあり、頷かされること、学ぶことも多いが、Moledina氏が分析する現状と対比すると、両氏の現在のゲームへの視点の違いがはっきりわかる。 両氏が共に、本質への模索を現代の開発者に求めながら、一方で現代の開発者の作品の中に本質があるかどうかのリサーチをしていない姿勢は疑問を感じる。開発者がゲーム制作を続けることの難しさかもしれないし、世代の“ズレ”であるかもしれないが、やはり寂しい。
今回を皮切りに、過去に傑作を生み出した多くの開発者が、現役の開発者に語りかける機会を増やして欲しいと感じた。そしてゲームに憧れて開発に携わり、そして生み出した作品を、過去のパイオニア達はどう評価するか、という話は、ぜひ聞いてみたいところだ。
□CESAのホームページ (2008年9月9日) [Reported by 勝田哲也]
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